ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
本編
第29話 母上が交渉?本当に大丈夫?
こんにちは。ギルバートです。やっと領地に帰って来ました。帰る途中にイネスからも、お説教を貰いました。心配してくれているのは分かるのですが、リッシュモンの様な外道を相手にするには、如何してもリスクは避けられないと思うのです。気が付いたら大切な人を失っているという結果だけは、絶対に容認出来ません。
要するに私は、心配かけた事は反省していましたが、自分が間違った事をしたと言う認識はありませんでした。私はこの考えを、変える心算は全くありません。何処かから親不孝者とか言われそうですが、こればかりは譲れません。
母上達を執務室に集め、私は王都であった事を全て話す事にしました。母上達のリアクションは、十分過ぎるほど予想できるので、私は立ったまま報告を始めます。正面奥側に母上が居て、左手にディーネとアナスタシアが居る位置取りです。
「精霊による脅しですが、予想より上手く行きました」
私の言葉に頷いたり「やった♪」と口にしたりと、それぞれ嬉しそうなリアクションを見せれくれました。しかしここで終わりではありません。と言うか、ここで終わりなら本当に良かったのに……。
「それから私は、リッシュモン邸に忍び込みました」
「なんですって?」「え?」「如何いう事?」
私がリッシュモン邸に忍び込んだ時の話を始めると、途端に3人が怖い顔をしました。と言うか、現在進行形で表情が険しくなって行きます。しかし、この反応は想定の範囲内なので、私は淡々と報告を続けました。
話が終わった時、母上のリアクションは予想通りでした。落ち着いて右にステップを踏みます。
「お馬鹿!!」
母上の怒鳴り声と共に、私が居た位置を風の塊が通り過ぎます。そのまま風の塊は、執務室の扉に命中し破壊しました。
(メンヌヴィルの炎から逃げ切れたのも、コレのおかげですね)
私はそんな事を考えながら、母上の次弾に備えようとした時、本能的にそのままバックステップをしていました。私の鼻先を、空気の塊が二つ通り過ぎます。それを放ったのは、当然ディーネとアナスタシアです。
「アレ? 君達も怒ってるのですか?」
「当然です」「ふうぅぅーー」
母上のこの反応は予想どおりでしたが、ディーネとアナスタシアまで参戦ですか? 流石に対応出来ません。ディーネは無表情で、アナスタシアは涙目で睨んで来ます。
(……母上の悪い所は似なくても良いのに)
「ギルバートちゃん。今後絶対に、こんな事しないって約束して」
「……分かりました。もう無茶はしません」(無理はするけど)
「……そう。良かったわ。ギルバートちゃんが聞き分けが良くって。……でも、お仕置きは必要よね」
母上の言葉は、怖いくらいに予想どおりでした。
「はい。必要です」
「ディーネ。そこは同意して欲しくないのだけど……」
「却下です」
次弾以降も上手くかわしながら、壊れた扉から逃げ出します。……と言っても、母上相手に逃げ切れる訳なんですけどね。ましてや、今回はディーネ&アナスタシア付きです。
結局、1時間持たずにボコボコにされました。何気に一番容赦が無かったのは、アナスタシアでした。子供って、こう言う時加減出来ないですよね。……涙が出そうです。
次の日の朝に、私はもう一度3人を集めました。
「……何かしら?」
母上が不機嫌な表情で私に聞いて来ました。
「コレについてです」
私は道具袋から“水の精霊の涙”を取り出して、執務室のテーブルの上に置きます。巨大な二つの瓶に入ったそれは、すべて売り払えば、どんなに安くても100万エキューは下らないでしょう。
「この“水の精霊の涙”は、売却すれば大金が手に入ります。しかし、信用のおける者にしか売り渡す事は出来ません。人の心を縛る秘薬が、裏市場に大量に流れる事になるからです」
母上が頷くのを確認してから、私は続きを言います。
「そこで、モンモランシ伯に“水の精霊の涙”を使った秘薬の製造販売を、お願いしようと思います。モンモランシ伯なら信用出来ますし、秘薬の調合も可能で販売ルートも既に持っています。ドリュアス家にとって、これ以上の相手は居ないでしょう」
「そうね。その意見には私も賛成だわ」
母上からは同意をとれました。ディーネとアナスタシアも、口こそはさみませんが頷いています。
「秘薬の儲けは“水の精霊の涙”の分を含め、半分ほどモンモランシ伯に渡そうと思います」
「えっ? そんなに?」
「流石に渡し過ぎではありませんか?」
ここでアナスタシアとディーネが、思わずと言った風に声を出しました。しかし母上は、私の狙いを正確に見抜いていた様です。
「モンモランシ家の早期復興と関係強化が狙いね」
「はい。モンモランシ家の復興と協力は、開拓に大きな助けとなります。それに、元々危険過ぎて廃棄も考えていた物です。信用出来るなら、只同然で渡してしまっても良いと考えていました」
「流石にそれは極論だけど、間違いじゃないわ」
母上はそう言いながら、ディーネの方に視線を移し続けます。
「でも、金銭だけの繋がりではいまいち不安ね」
母上の所作からすると、ディーネが拒否しなければ賛成の様です。
「はい。そこでモンモランシ伯に、ディーネの出自を話そうと思います」
「えっ!?」
ディーネが明らかに動揺しています。
「もちろん。ディーネが了承すればの話ですが……」
私の言葉に、ディーネは俯いてしまいました。ディーネなりに、複雑な思いがあるのでしょう。その気持ちを察する事は出来ましたが、何と声を駆れば良いか分かりませんでした。
「ディーネちゃん」
この状況で、ディーネに声をかけたのは母上でした。
「モンモランシ伯が何と言っても、ディーネちゃんは家の子よ。それはこれからも絶対に変わらないわ」
母上の言葉に、ディーネは顔を上げると母上、私、アナスタシアの順に視線を移します。私と母上は、視線が交わった時に大きく頷き、アナスタシアはニッコリと笑いました。
私達の態度を見て、ディーネも覚悟を決めたようです。ディーネはただ一言。
「分かりました」
と、口にしました。その顔には、不安の色は残っていませんでした。
(母上はディーネの不安を正確に把握していたのですね。人生経験の違いかな? ……私もあれくらい頼れる人間になりたいものです)
この後の話でモンモランシ伯の所には、母上とディーネで行く事になりました。母上が家を開けるのは危険と言う意見もありましたが、私では交渉を上手くまとめられない可能性があるとの事です。
……私は交渉事における信用って無いのかな?
考えないようにしよう。
---- SIDE リッシュモン ----
良くも悪くも、信用と言う物は厄介だ。築き上げるのは、時間と手間がかかるのに、崩れる時はほんの一瞬だ。特に金で繋がっていた者達は、その傾向が顕著だ。俗に言う、金の切れ目が縁の切れ目と言う奴だ。
今私は、それを酷く痛感させられている。
ドン!!
「やることなす事すべて裏目だ!!」
思わずテーブルを叩き、口から愚痴が漏れてしまう。しかし今リッシュモンが居る部屋には、その言葉を聞いてくれる相手は居なかった。まして当たり散らせる相手など、居るはずもない。それが苛立ちを増長させる。
いったい何がケチの付け初めだったか……。
体制強化の為、無能で忠実な部下を集めたからか? ドリュアス家排除計画からか? いや、国王陛下の暗殺計画からだ。その所為で、ラ・ヴァリエールに目を付けられたのが原因だ。
ギョームを処分してからは、ラ・ヴァリエールの人間に張り付かれ動き辛くなった。ドリュアス家を排除する為に、メンヌヴィルなど雇ったのも失敗だった。そもそも、病死に見せかけて国王陛下を毒殺しようとしなければ、こんな事にならなかったのかもしれない。
しかし、結果は結果だ。ギョームの処分により、無能な部下達は私に大きな不信を持った。大枚をはたいて雇った脱走兵のメンヌヴィルは、屋敷内で意味不明な暴走をし屋敷を燃やした。しかも無能な部下の失言で、水の精霊が怒り水が使用できなくし被害を増大させた。
これらすべての責任が、私にあると公になり王宮内での発言力を失った。
更に焼跡の金庫の中には、20万エキュー有る筈の金が綺麗サッパリ消えていた。この所為で早急な根回しが出来なくなり、事態をより悪化させた。しかも盗む事が出来たのは、状況から見て最も信頼していたペドロだけだ。もはやペドロは信用出来ない。ペドロもその事を自覚しているのか、雲隠れしてしまった。一部の隠し財産の無事は確認した。が、回収を任せられる信頼できる者が居ないのが現状だ。よって手元に金が無い。
この状況で一番不味いのが、護衛として雇っている傭兵達である。次々に辞めて出て行ってしまう。在りもしない噂話付きでだ。金が出せない状況と噂の所為で、傘下の者達もドンドン減っていくのは当然だ。お陰で私に成り変わろうとする愚か者が出てきて、私の地位も危ない状況だ。
「……だが」
目の前にある書類に、口元が歪むのが自覚できる。
「ドリュアス家の開拓を確実に失敗させ、私の元に大金を運んでくれる魔法の紙だ!! これさえ有れば、私はまだまだやり直せる!!」
リッシュモンが借りている部屋からは、不気味な笑い声が夜な夜な響いていたと言う。
---- SIDE リッシュモン END ----
---- SIDE シルフィア ----
竜籠が目の前に到着した。これで今から、モンモランシ領へ向かう事になる。竜籠に乗り込むのは、私とディーネそして……ファビオだ。他にも護衛の騎獣乗りが2人居るが、ギルバートとアナスタシアは今回はお留守番である。
「母上。大丈夫ですか?」
「何を心配しているの? 私に任せておけば大丈夫よ。それとも、ギルバートちゃんから借りた道具袋の心配でもしているの?」
話しかけて来たギルバートに、即答で返事を返す。しかしギルバートは、首を左右に振ってから口を開いた。
「母上。くれぐれも感情的にならない様お願いします」
「うん。カッとなったらダメだよ」
ギルバートだけでなく、アナスタシアまでそんな事を言ってきた。私は実の子供に、信頼されてないのだろうか? 正直に言って、かなり凹む事実だ。
「大丈夫よ。絶対にへましないわ。私の事信用できないの?」
「はい」「うん」
ギルバートとアナスタシアが即頷いた。ディーネだけは、関係無い振りをしている。
(教育の仕方間違えたかしら? 帰ったら、思いっきり鍛え直そう)
私が何か考えているか分かったのか、ギルバートとアナスタシアが抱き合い、青い顔をしながら震え上がっている。
(……うん。兄妹で仲が良いのは良い事かな。ついでに、後ろで苦笑いしているディーネちゃんも同罪かな? うふ……楽しみ♪)
私が向けた視線に気付いたのか、ディーネの顔色が変わった。その後3人で何か言い争っていたけど、私には関係なし。
私が護衛と行程について最終確認を終えると、1人の男が私を待っていた。金髪碧眼の優男で、その顔には柔和な笑みを湛えている。最近までディーネの母親を探していた、ファビオと言う男だ。歳はまだ17歳になっていないと言うから驚きである。
「奥様。今回は長年の胸の痞えを払っていただき、誠にありがとうございます」
「気にする事は無いわ。家族の事ですもの」
「いえ、やはりお礼を言わせていただきます。ミレーヌ様の事は残念ですが、ディーネ様が生きている事は伯爵様にとって、どれだけの救いになるか……」
ファビオの顔から柔和な笑みが消え、真剣な表情になった。
「ミレーヌ様のご実家には、今は亡き両親の店も世話になっていました。調査の名目で金目の物を奪って行った神官達には、今でも怒りを感じています。このご恩は、一生かけてもお返しする所存です」
この少年の言葉に嘘は無い。その調べは付いている。しかし、全てでは無い。
「……良く言うわ。ミレーヌの行方を調べる為に、故意にモンモランシ伯の秘密をバラしたくせに」
「ッ!! ……気付かれていましたか」
「もう少し慎重になる事ね。でも、あなたが捜索に携わったのは、年齢から見て長くとも1~2年位の話でしょう。そんな短時間で、ドリュアス家に辿り着いた事は評価しているわ。思い切りの良さも含めてね」
「ありがとうございます。そして改めて、御恩をお返しする為忠誠を誓います」
私はファビオの顔を真直ぐ見て、大きく頷いた。
「期待しているわ。貴方も早く竜籠に乗り込みなさい」
「はい」
ファビオの返事を確認すると、竜籠の側に居るギルバートとアナスタシアの所に移動した。
「ギルバートちゃん。アナスタシアちゃん。行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ」
「行ってらっしゃい」
「行って来ます」
私とディーネが軽く手を振ると、竜籠が浮かび上がった。
竜籠が浮かんでいた時間は、1時間と少しくらいだったろうか? モンモランシ邸に到着した。竜籠から降りると、いきなり声をかけられた。
「シルフィア!!」
声がした方を向くと、そこにはモンモランシ伯夫妻とモンモランシーが居た。モンモランシ夫人が、手を振っている。
「久しぶりねコレット」
「シルフィアも久しぶり」
モンモランシ夫人のコレットも、再会を喜んでくれているようだ。私に続いて降りて来たディーネを確認すると、モンモランシーも喜びの声を上げた。
「お姉さま」
「久しぶりですねモンモランシー」
私とコレット、ディーネとモンモランシーが、それぞれ再会を喜び合う形になったので、モンモランシ伯はあぶれた形になっている。これは対外的に良く無いだろう。
「ゴホン。あー、その、何だ」
「あなたは黙ってて!!」
「……はい」
コレットは一喝で、自分の夫を黙らせてしまった。そこには、当主や夫としての威厳など一欠片も無かった。いっそ清々しいほどである。恐らく水の精霊に言った、NGワードの所為だろう。以前のコレットなら、夫を立てて妻として一歩引く性格だったのに……。よほど腹にすえかねているのか?
「さぁ、行きましょう。シルフィア」
「ええ。ディーネ。行きますよ」「ほら、モンモランシーも」
「はい」「はーい」
コレットに引っ張られる私達の後を、肩をガックリと落としたモンモランシ伯がトボトボとついてきた。
私とディーネはコレットに誘われるまま、お茶とお菓子を楽しんでいた。モンモランシ伯はファビオと少し話した様だが、それ以外は肩身が狭そうにしていた。しかし、何時までもこのままと言う訳には行かないだろう。こちらにも要件と言う物が有る。
「コレット。私も今日ここへ来た要件があるの。聞き耳の無い部屋で話せないかしら? それからこの話は、モンモランシーにも聞いてほしいのだけど……」
「分かったわ。あなた。モンモランシー。行くわよ」
「はい」「はーい」
私はディーネとファビオに目で合図すると、立ち上がりコレットとモンモランシ伯の後を追った。余談だが、モンモランシ伯の背中には哀愁が漂っていた。
館の奥の部屋に案内されて、テーブルの奥側正面にモンモランシ伯が座り、右側にコレット、左側にモンモランシーが腰かけた。私は手前側正面に座り、ディーネに左手に座ってもらいファビオに右後ろに立ってもらった。
ここからは友人とその家族としてでなく、交渉相手として接しなければいけない。思考を切り替え、口を開いた。
「場を設けていただき、ありがとうございます」
「うむ。それで要件とは何だ?」
私が定型通りの挨拶をすると、モンモランシー伯が頷いた。ここまで来れば、後は用件を言うだけである。ディーネに向けて、視線を送ると頷いてくれた。
「先ずはこちらの品をご覧ください」
私の言葉を合図にして、ディーネがオルゴールと指輪をテーブルの上に置いた。それを見たモンモランシ伯は、目を見開き思わずと言った感じて立ち上がった。
「そ そのオルゴールと指輪は、何処で……」
「私の実の母の……形見です」
「…………カタ……ミ?」
モンモランシ伯は、あまりの事態に固まってしまう。コレットは一瞬だけ目を見開き、俯いてしまった。モンモランシーだけは、訳が分からないと言った様子だ。ディーネもこれ以上は言葉にしたく無いのだろう。黙ってしまった。この状況で、説明を引き継いだのはファビオだった。
「説明を引き継がせていただきます。ミレーヌ様は……」
ファビオが話し始めると、モンモランシ伯は黙って椅子に座った。
ファビオの大まかな説明に、モンモランシ伯は黙って聞いている。その表情は沈痛そのものだった。この場には、ファビオの淡々とした報告の声のみが響いている。
ミレーヌが逃げた先の村の話。
その村が森に呑まれた話。
次にドリュアス領に行く話。
途中で亜人に襲撃された話。
そして、ミレーヌの最後。
その後、ディーネがドリュアス家に迎え入れられた話。
そしてモンモランシ伯が、ミレーヌを探しているのを知ったのがつい最近である事。
そこまで話すと「以上です」と、締め括った。
次はドリュアス家としての見解を伝えなければならない。今回ギルバートではなく私が来たのも、この見解はディーネの親となった者……つまり、私かアズロックが言わなければならないと思ったからだ。
「ドリュアス家は、ディーネの出自を知っていて受け入れました。伯爵も知っての通り、私達夫婦は大貴族の私生児を親に持ちます。ディーネの立場に、感じるものがありました。だからディーネを娘として、ドリュアス家に受け入れました」
「では……」
モンモランシ伯が口を開いたが、私はその先を言わせるつもりはなかった。
「ディーネは私の娘です。今更誰かに渡す心算はありません」
「だが……しかし……」
モンモランシ伯は、ディーネを養子として引き取りたいと考えていたのだろう。伯爵の胸中が、複雑な思いで一杯になっているのが良く分かる。探し人は既に死んでいて、その娘は今幸せに暮らしているなら、今更出しゃばる事も出来ない。出来ないが……何かしてやりたい。と、そう思っているに違いない。
「そう……だな。私が何と言っても、今更だな。だが、時々で良いからディーネを連れて遊びに来るなり、私達がそちらにお邪魔するなりしても良いだろうか?」
「ええ。もちろんです」
「……ありがとう」
伯爵に礼を述べられた事により、ようやく次の話に移る事が出来る。先の話の伯爵の反応により、次の話は完全に無かった事にする心算だったのだ。少しだけ間を開け、私は口を開いた。
「次の話に入りましょう」
「次?」
伯爵の疑問の声を黙殺して、ギルバートから預かった魔法の道具袋から巨大な瓶を二つ取り出した。それをテーブルの上にデンッと置く。腰の道具袋から座ったまま出したので、テーブルが邪魔で何処から出したか分からないだろう。
(本当にこの道具袋は便利ね。ギルバートちゃんから没収しようかしら?)
「!! 何処から!?」「あれ?」「え?」
そんな思考を、驚きの声がさえぎった。既にこの道具袋の事を知っている、ディーネとファビオは苦笑いを浮かべているようだ。
「詮索は無用にお願いします」
「ム……分かった。しかし随分巨大な瓶だな。中身はただの水の……!? まさか!!」
「お察しの通りと思います」
「いや……あり得ないだろう」
「この瓶の中身は、全て“水の精霊の涙”です」
モンモランシ家の3人が、仲良くフリーズしている。少しだけ間をおいて、私は口を開いた。
「ドリュアス家ではラグドリアン湖の水の精霊に、分霊を2回ほどお願いした事があります。それに了承していただき、分霊を納めていた瓶がこれです。分霊を解除後、分霊は“水の精霊の涙”になります」
私の説明に、伯爵がなんとか頷いた。コレットとモンモランシーは、あまりに規模が大きい話に全くついて来れない様だ。
「この“水の精霊の涙”を材料に、秘薬の調合と販売をお願いしたいのです。その際の条件が有ります。
一つ、人の心を操作する御禁制の秘薬を絶対に作らない事。
二つ、“水の精霊の涙”をそのまま売りに出さない事。
三つ、この事は極秘とし絶対に口外しない事。
四つ、ドリュアス家の開拓に出来る限り協力する事。
以上の四つが条件です」
「その条件自体は問題ないが……」
恐らくモンモランシ伯は、取り分の話を聞きたいのだろう。
「こちらの取り分は、そちらが出した利益の半分です」
「それでは、こちらの利益が低すぎる!!」
モンモランシ伯が、間髪入れずに言って来た。一瞬何故? と思ったが、モンモランシ伯は“水の精霊の涙”の代金を、別に請求されると考えているのだろう。
「残念ながらこれ以上譲る事は出来ません。本来ならば、利益の9割をこちらの取り分としても、そちらの利益は十分出るはずです」
「そんな訳な……」
「利益の中に“水の精霊の涙”の金額が入っていてもですか?」
「なっ!! そんな……まさか」
モンモランシ伯が絶句するのも分かる。
「ドリュアス家の狙いは、モンモランシ家の早期復興と関係強化です。後は言わずとも、お分かり頂けると思いますが」
「しかしそれでも、あまりにこちらが貰いすぎだろう」
「人の心を操作する秘薬を作られ、ドリュアス家やそれに近い人間に使われるなら、このまま廃棄しようと考えていました。それを考えれば、こちらは金銭が入って来るだけマシです」
「そうかもしれんが……」
「中央に居る貴族達の中には、ドリュアス家を潰したいと考えている者達が多く居ます。金銭的問題も大きいですが、何より発言力が問題です。ドリュアス家とヴァリエール家だけでは、対抗しきれない可能性が高いのです。よって、モンモランシ家に早期復興していただき、味方をして欲しいのです」
「……分かった。この借りは必ず返すと誓おう」
「ありがとうございます」
私とモンモランシ伯は歩み寄り、固く握手をした。
(中央の発言力不足で、不利な取り決めを押し付けられ辛くなくなるわ。これでだいぶ楽になる筈ね)
私はこの時、難関を一つクリアした事にホッとしていた。
---- SIDE シルフィア END ----
竜籠がドリュアス領に帰って来ました。私とアナスタシアは、母上を出迎える為に外に出ます。
竜籠が着陸し、母上とファビオが出て来ました。
「「お帰りなさい」」
しかしディーネが出て来ません。
「ディーネは如何したのですか?」
「モンモランシ家の要望で、2~3日ほど預ける事にしたわ」
「大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。モンモランシ伯は、今更ディーネをどうこうしようとは思わないわ。交渉も上手く行ったし、何も問題なしよ」
私は母上の言葉に、胸をなでおろしました。アナスタシアは、面白くなさそうにしていましたが……。
「ほら。膨れない膨れない。折角上手く行ってるんだから……。な」
私は頬を膨らませるアナスタシアを、頭を撫でながら慰めました。
予想以上に上手く行っている事に、私は気を良くしていました。目の前に、大きな落とし穴が隠れているとも知らずに……。
後書き
ご意見ご感想お待ちしております。
ページ上へ戻る