ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百三十一話:新たな思い出
『あ!ドーラちゃん!あれ!あれ、食べてみたい!』
「いい匂いだし、美味しそうだね!うん、食べようか!」
「なれば、拙者が買って参りましょう」
「うん、よろしく!」
町中に入って、お店を冷やかしながら歩き回って。
食べ歩きに向いた美味しそうなものをモモが見付ける度に、ヘンリーに捕まってる私と私から離れないヘンリーに代わって、ピエールが買ってきてくれます。
使い走りにしてしまっているようで、なんだか申し訳無い。
タマネギを含む色んな野菜と肉を交互に重ねた、香草の効いた串焼きという、今までなら念のためモモには与えてなかった品を人数分買ってきてもらって、受け取って。
「ありがとう、ピエール!はい、モモ!」
『ありがとう、ドーラちゃん!……うん、おいしい!タマネギも甘くて、すっごくおいしい!』
「そっか、良かった!……一口だったね。私の分も食べる?」
『ううん!おいしかったから、ドーラちゃんにも食べてほしい!ドーラちゃんとみんなと一緒に食べた、思い出にするの!』
「そっか。そうだね、じゃあ私も食べるね!……うん、美味しい!」
片手はしっかり私の腰に回したまま、隣でヘンリーも同じものを食べてますが。
「気に入ったのか?……うん、なかなか美味いな。これなら、作れそうだな」
「え、ほんと?」
なんか香草が複雑に組み合わせられて、美味しかったけど私には再現は難しそうなんですが。
次元が違うのは知ってたが、そこまでか。
『ヘンリーさん、ほんとに!?あたし、また食べたい!作って作って!』
「モモは、また食べたいって。作って欲しいって」
「わかった。なら、機会があったらな」
『わーい!ありがとう、ヘンリーさん!』
「ありがとうって」
……なんか、モモがヘンリーに胃袋を掴まれそうな雰囲気なんですが。
……そう言えばヘンリーが作る料理、しばらく食べてないなあ……。
旅先で珍しいもの食べるのもいいんだけど、十年で磨きあげられて最終的に奴隷労働の日々のご褒美的存在になっていたあの味を、脱出してから全く食べてないからなあ。
宿で料理なんかできないし、できたとしても旅で疲れてるのにそんなことさせたくないから、仕方ないけど。
……って、ハッ!
私が胃袋掴まれててどうする!!
一人で勝手に考えてはその考えを振り払う私に、ヘンリーが話を振ってきます。
「俺が作ってもいいんだが。俺は、ドーラの料理も久しぶりに食べたいな」
『ドーラちゃんも、お料理するの?うん、あたしもドーラちゃんが作ったごはん、食べてみたい!』
「……私のは、ヘンリーほど上手くないし。必要ならするけど、わざわざ出すほどのものじゃ……」
するのが嫌というわけでは無いけど、比べられるのはちょっと嫌っていうか。
「あの味がいいんだよ。温かいっていうか、懐かしいっていうか」
「……」
私の料理の基本は、こっちではサンチョの味ということになるから、宮廷料理と比べたら温かみという点では勝るかもしれないし。
その前に前世の土台があるから、その分もヘンリーに懐かしさを感じさせるのかもしれない。
ヘンリーの料理にそういう要素は全く無いから、そういう意味では私の料理にも価値はあるかもしれない。
特に、ヘンリーとモモにとっては。
「……うん。なら、私も機会があったら。何か、作るね」
「ああ。楽しみにしてる」
『わーい!あたしも、楽しみー!』
モモが嬉しそうに喉を鳴らしてるのはいいとして、ヘンリーもまたやたら嬉しそうに微笑んでるんですが。
……胃袋掴んでないか、これ?
……し、知らない、知らない!
必要に駆られてやってたことが、フラグだったとかそんなこと言われたって!
そんなの私のせいじゃないし、知りません!!
誤魔化しと本音とを合わせて、話を変えることにします。
「……お腹もいっぱいになってきたし!そろそろ本格的に、リボン探してみようか!」
『うん!お揃いのリボンだね!いろいろ見たけどあたし、やっぱり最初に見たお店のがいいな!』
「ピンクのヤツ?ずっと見てたよね、あれ」
『うん!ピンクはドーラちゃんが付けてくれた、あたしの名前の色だから。色違いの同じデザインのあったし、色違いでお揃いでも可愛いと思うし!』
「そうだね。私はピンクだと、合わせられる服が限られそうだし。違う色にしようかな」
「なら、戻るんだな。モモが見てたのなら、あの店か」
覚えてるのかよ!!
喋れないモモが気に入った品と、それがあった店まで記憶してるとはなんというイケメン!
やはり、外堀を埋める対象としてモモのことも認識しているとしか……!
単に保護対象として懐に入れただけの可能性もあるが、やはりコイツは油断ならない……!!
と、本気を出した(と思われる)ヘンリーのイケメンぶりに戦々恐々としながらも、少しでもヘンリーから意識を離そうものなら途端に声をかけてこようとする輩がいるので。
折角のモモとの楽しいひとときを邪魔されないためにも、これみよがしにヘンリーにくっついて甘えるような仕草を見せつつ、目的の店に戻ります。
『あ、これこれ!このリボン!あたし、やっぱりこれがいい!』
「うん、可愛いね。モモに似合ってるし、モモはそれがいいね。……私はどれにしようかな?」
思ったより、色違いの数が多かったんですけど。
選択肢が少なければ迷う余地は無いかと思ったが、これは……迷う。
「……やっぱり、紫系かな。私としては」
紫ターバンがトレードマークたる、主人公の私としては。
必ずしも巻いてるわけでは無いが、イメージカラーはそういうことになるだろう。
「あとは、色味が……赤味が強くなくて、あんまり濃くないのがいいかな……」
「……これは、どうだ?」
ぶつぶつ呟きながらリボンを眺める私に、ヘンリーが選んだ一本を差し出してきます。
「あ。いいかも」
藤色、と言ったらいいのか。
あんまり主張が強くなくて、どんな服と合わせても邪魔にならなそうだし、『藤色』と『桃色』で日本の花の色で対になってるのも、私とモモのお揃いにするのに相応しい気がする。
『あ、キレイな色!ドーラちゃんに似合ってるし、あたしもそれがいいと思う!』
「モモも、そう思う?じゃあ、やっぱりそれにしようかな」
「なら、モモがそれで、ドーラがこれだな。払っとくから、結んでやれよ」
「ありがとう!じゃあ、モモ。ビアンカちゃんのリボンと、付け替えるね」
『うん!せっかく買ったんだもんね!お願い、ドーラちゃん!』
会計を済ませてくれるヘンリーの横で、モモのリボンを取り替えて可愛く結び直します。
「うん、すっごく可愛い!似合うよ、モモ!」
『ありがとう、ドーラちゃん!ドーラちゃんも、結んでみて!』
「そうだね。鏡が無いけど、なんとかなるかな……」
と、自分の分のリボンを手にしたところで。
「あ、お嬢さん!リボン、結びたいの?オレが、結んであげようか?」
背後からかかる声に、振り向くと。
目の前に、にやけた若い男の顔が。
………って、近い!
何、いきなりこの至近距離!!
思わず一歩後退る私に、ナンパ男も一歩近付いて距離を保ちます。
「うわ、可愛い!!後ろ姿もキレイだと思ったけど、すげえ可愛い!!ね、結んであげるからさ、それ、貸して?」
「え、いえ結構です」
ていうか、嫌です。
ナンパしてきた知らない男にいきなり髪触らせるとか、大事な記念のリボンを触らせるとか。
絶対に、嫌です。
さらにじりじりと後ろに下がる私の背中が、何かにぶつかります。
「ドーラ、待たせたな。それ、結んでやるから貸せよ。俺が買ったんだから、俺が結んでやる」
ヘンリーです。
ヘンリーの胸にぶつかって、そのまま後ろから抱きすくめられます。
「ガルルルル……!グルルルル……!!」
『ちょっとー!あたしのドーラちゃんに、馴れ馴れしく近寄らないで!ドーラちゃんが嫌がってるの、わかんない!?』
さらに、ナンパ男を押し返すようにモモが割り込んできて、威嚇します。
怯むナンパ男を他所に、ヘンリーが項をそっと撫でてきます。
「ひゃっ!?」
「……髪、解れてきてるな。先に、まとめ直してやるよ」
甘く囁かれて、まとめた髪を解かれます。
……私の髪を切り揃えてるのはヘンリーだから、まとめるくらいそれは朝飯前でしょうけれども!
だからって、人前でそんなことしなくても……!!
手櫛で丁寧に髪を整えられてまとめあげられて、髪を梳く指の感触になんだか背筋がぞくぞくして。
「……!!」
……なんか、手つきが!!
妙に、やらしいっていうか!!
ちょっともう腰にきそうというか、割と立ってるのが辛いんですけど!!
顔が赤いどころじゃなく、耳とか首とかまで絶対赤い!!
そんな私の様子に気付いてないわけも無かろうに、何事も無かったかのようにヘンリーが声をかけてきます。
「出来たぞ」
髪をまとめ直してリボンも結び終え、私を正面に向き直らせてじっと見詰めてきます。
「……似合うな。可愛い」
「……!!」
もう、勘弁してください。
こんなあからさまに動揺してる私を優しく見詰めて微笑むとか、本当に勘弁してください。
さらにそのまま正面から抱き締められて、耳元で囁かれます。
「……あんな一瞬で、ナンパして来やがるとか……。本当に、油断も隙も無いな」
「……」
わざとですか。
わざと、ナンパ男に見せ付けてたんですか。
ナンパ男に背を向ける形になってしまったので、その後どうなったのか全くわかりませんが。
きっと、ピエールあたりが上手く処理してくれてるんでしょう。
そんなことより露店の店先で抱き合うとかかなりのバカップルなので、そろそろ解放して欲しいんですが。
離されたら離されたで、腰が砕けて倒れそうですけど。
「リボンも買ったし、もういいな。次の町に行くんだろ?もう出ようぜ」
「……」
動揺が収まらなくて私はまともに口もきけないんですが、返事も待たずに私を引っ張って、ヘンリーが歩き出します。
「……可愛すぎるのも考えもんだよな、やっぱり。俺は見たいけど、他の男には見せたくねえし。だからって、男装はなあ……」
「……」
なんか色々と、突っ込みどころの多いことを言われてる気がするが。
突っ込んで何か返されても困るだけなので、ここは口がきけなくて良かったかもしれない。
「……まあ次の町は、ここよりは田舎だろうし。ナンパも無くは無いだろうが、一通り相手すりゃ打ち止めになるな。なんとかなるか」
「……」
相手するって、何する気だ!
無暗に暴力的な展開は、やめて頂きたいんですけれども!
「……あの、ヘンリー」
あ、喋れた。
「何だ?」
「……暴力は、あんまり……」
「わかってる。出来るだけ、我慢する」
「……」
「そういう可愛い格好で、一人になるなよ。絶対」
「……うん」
こんな格好で一人で歩いて、トラブルが起こらないわけが無いし。
そもそもこんな格好する必要も特に無いので、そこは仕方ない。
「そうでなくても、出来れば離れたくは無いんだが」
「……」
それは、約束できない。
都合とか予定とか、色々あるし。
「……出来るだけ、離れないでくれ。離れてお前に何かあった時に、抑える自信が無い」
「……わかった」
前例がありますからね!
抑えの利かなかった、前例が!
一緒にいても差し支えない範囲であれば、やはり行動は共にするべきなんでしょうね!
少なからず不本意ではあるが!!
……と、それはともかく。
「ヘンリー、さっきのリボンの代金だけど。後で払うね」
パーティの財布とは別に、個人のお小遣い的なものがあるので。
食べ歩きでピエールに払ってもらった分も後で清算するし、リボン代はとりあえずヘンリーに払ってもらったけど、こっちもそのままというわけにはいかないだろう。
「いいよ、そんなの。あれは俺が買ったんだから」
「え、でも」
あれは、私がモモに買ってあげようと思ってたんですけど。
「いいから。俺が払ったんだから、あれは俺が買った。苦情は受け付けない」
「……」
……私とモモの思い出の品になるはずが、ヘンリーも含めた思い出の品になってしまうのか。
それは、どうなんだ……。
微妙な気分で悩む私に、いつのまにか追い付いていたモモが声をかけてきます。
『やっぱりドーラちゃんも似合ってるね!すっごく、可愛い!ありがとう、ヘンリーさん!リボン、大事にするね!』
「…………ヘンリー。モモが、ありがとうって。大事にするって。私も、ありがとう……」
「ああ」
モモが認めたことで、既成事実と化してしまった。
そこまで高いものでも無いし、固辞するほどでも無いというのが、なんとも……。
…………まあ、いいか。
お金を出したのが誰でも、そこにヘンリーもいた事実には変わり無いんだし。
うん、大した問題じゃないって。
……たぶん。
と、また自分に言い聞かせながら、町外れに停めた馬車を目指して、ヘンリーに引っ張られていく私なのでした。
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