“死なない”では無く“死ねない”男
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話数その19 歩まない
レイヴェルとの戦闘を終え当たりを見渡した晋は、自分以外の者達がくらくらと揺れているのに気付く。どうやら、先程レイヴェルを落とす為使った“強化型閃光弾”と“強化型音爆弾”の影響をもろに受けてしまい、こうなっているようだ。
しかし、晋はそんな彼等からすぐに視線を外すと、今だ戦っているらしいグレモリーとライザーいる校舎の方を見ていた。
(……さーて、どうしますかねぇ…)
見ているだけなのには幾つかの理由がある。
まず、グレモリーがしつこい追及を止める為に出した条件は“レーティング・ゲームに参加する事”であり、間違っても“レーティング・ゲームで勝つ事”ではない。それに、このゲームはグレモリーにとっては人生の分岐点なのだろうが、晋にとっては対岸の火事同然であり、助けに向かう理由が無いのだ。
それに晋自身、もういい加減ダルくなってきた為動きたくなくなってきている。晋の戦い方と性格上、一人の敵を何時間も相手するならまだ耐えられるが、連続戦闘するのには向いていないのだ。
(……終わりまで、寝っ転がってるか……)
少しの時間考えた晋は、もうこれ以上戦わないと決めたらしく、木の根元まで行って寝っ転がろうとした。
「ブーステッド・ギア・ギフトォオッ!!」
「はああぁぁっ!!」
しかしそれは、兵藤達の叫び声と、地面から生えてきた大量の剣により遮られてしまった。……ちなみに、晋の体にはいくつも剣が刺さり、止めと言わんばかりに巨大な剣で真っ二つになってしまっているが、晋自身はそんな事は気にしていない。
「……んなろ…まさか態とやったんじゃあるまいなぁ……?」
「あぁ!? す、すまん灰原!」
「灰原君じゃなかったら死んでたね……あの位置」
様子から見るに態とやった訳ではないようだが、晋にとっては寝っ転がろうと(サボろうと)していた時のいきなりだったので、不機嫌Maxの表情だった。
『ライザー様の“騎士”2名、“僧侶”1名、戦闘不能』
とにかくこれで、ライザーの眷属は『女王』一人となった。その『女王』は今、姫島と対峙している筈だ。
「兵藤君、灰原君、相手の『女王』は朱乃さんに任せて、僕達は部長達の所へいこう!」
「ああ! ライザーの奴をぶっ飛ばしに行こうぜ!!」
「……行ってらっしゃい…」
「お前も行くんだよ!! つーか行くぞ!!」
「……え~…?」
渋る晋を二人掛かりで引き摺っていく兵藤達。 このままライザーの元へ――――しかし、現実は甘く無かった。
『リアス様の“女王”1名、戦闘不能』
途轍もない爆音の後、グレイフィアの姫島のリタイアを告げる通達が入ったのだ。
「まさか……そんな、まさか…っ」
「嘘だろ…朱乃さんが負けたのかよ!?」
「……んな事如何でもいいから、早く放せ」
ダルそうな顔で言い放った晋の意見は、悲しくもスルーされてしまう。絶望的な顔をしている二人にさらなる凶事が襲いかかった。
彼等の居た地点が突如として爆発し、クレーターを作ったのだ。爆発を起こしたのは、何時の間にか上空に居た魔女姿の女であり、不敵な表情のまま兵藤達を見下ろしている。
爆発により晋、兵藤、木場は別々の方向に吹き飛ばされ、怪我を負っていた。尤も、怪我を負ったのは兵藤達だけであり、晋は何時の間にか別の服に着替えてスタコラサッサと遁走を始めていた。
「あ! コラ、逃げんな灰原ぁ!!」
「……俺にゃ関係無い話だろうが……! 第一、そこの年増は空飛んでんだぞ、俺じゃ役に立たねぇ…」
「と、年増ですって!!?」
「……あ? …如何見たって年齢以上に歳食ってる見た目だし、格好からして無理してる感が漂う―――」
もはや逃げたいのか挑発してるのか分からない晋を爆発が襲い、晋はあえなくそれに呑み込まれるが、すぐに再生し何事もなかったかのように復活した。
「お前はここで殺してやるわ! 人間!」
「……ご勝手に…」
晋が引きつけている(?)間に兵藤達はライザーの元へと急ぐ。
殺す気満々の魔女姿の女に対し、晋はもう既にやる気を無くしており、もう何処でもいいやと言わんばかりにグラウンドに寝っ転がった。
「はっ! 今更諦めてももう遅い!!」
(……あの番組、ちゃんと予約しといたよな……?)
この状況と全く関係ない趣味的な事を考えながら、晋は魔女姿の女を見やり、思う。
(……如何でもいいが、怯えたとか諦めたって……自分の中で答え出してそれが正解だと思い込むのが、化け物とか悪魔の間じゃはやってるのか…?)
面倒くさそうに欠伸をした晋を、爆発の連鎖が襲った。
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「はぁ……はぁ……ぐうっ―――はぁっ」
攻撃を当て続けているだけの筈なのに満身創痍な魔女姿の女性。じゃあ、攻撃を受けている晋はどうかいうと、爆撃開始からポーズをほとんど変えず、グラウンドに寝っ転がっているままだった。
「…はぁ…何故、死なないのよ……!?」
「……知らん」
「ふざ―――」
「けてねぇ、本気だ……」
「…っく、あぁ…」
「……もうちょっと、捻ったこと言えねぇのか……? その質問にはもう飽きてんだよ……」
よく見ると、女性の身体には所々傷があるのが分かる。どうやら晋も寝ていただけではないらしく、時々反撃はしたようだ。……おそらく、暇つぶしのような感覚でやったのだろうが……
『リアス様の“投了”を確認、このレーティング・ゲーム、ライザー・フェニックス様の勝ちといたします』
「は、はぁ~~…」
「……ん? ……ああ、お疲れさん…」
「うる……さい…わね」
それでも、この男とはもう合わなくて済むと、魔女姿の女は心底ほっとした。が、ふと気になった事があり、晋に質問をした。
「負けたというのに…はぁ…嬉しそうね? 何故?」
「……嬉しいに決まってるだろ。もうこれで、あいつ等からのしつこい追及は無くなるんだからよ……」
「それが…このレーティング・ゲームに参加した理由?」
「……ああ、“このゲームに出てくれれば、私達からのしつこい追及は止める”って言ってたからな……や~っと、自由だ…」
思いっきり伸びをした後、晋は意外と上手い鼻歌を歌いながら、両手を頭の後ろにやって歩いて行く。
(負けたのに悔しくないなんて……よっぽどの変わり者ね)
転送されるまでの間、魔女姿の女は晋の不気味さと不可解さに、顔をしかめるのだった。
「……そうだ。早いとこ結婚相手探せよ」
晋の余計なひと言に、罵声を浴びせた事も付け加えておく。
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