八条学園怪異譚
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第四十八話 薔薇園その十八
「本当に」
「だって精霊さん胸大きいし形がいいから」
「それで触るっていうのね」
「そうよ、その大きさだと凝るでしょ」
「凝らないわよ」
肩が、というのだ。
「別に」
「そうなのね」
「というか、その娘のことだけれど」
「凄いのよ」
そのキャラクターがだというのだ。
「本当にね」
「あんたが言う位なのね」
「つくづく引っ掛かる言い方ね」
「そうかしら」
「最近言葉に毒があるわね」
「毒?ないわよ」
精霊は毒の存在については否定した、しかしそれでもこうは言った。
「刺はあるけれどね」
「綺麗な薔薇には、っていうのね」
「ええ、そうよ
まさにその通りだというのだ。
「刺があるのよ」
「お決まりの言葉ね、けれどね」
「けれど?何かしら」
「こんな言葉知ってる?」
茉莉也は思わせぶりな笑みで精霊に返す。
「刺まで美くしってね」
「面白い言葉ね。誰の言葉?」
「武者小路実篤よ」
志賀直哉と並ぶ白樺派の巨頭だ、志賀直哉との終生の友情でも知られている。
「その人の小説の題名なのよ」
「いい題名ね」
「そうでしょ、だからあんたもね」
「刺まで、っていうのよ」
「そうよ、私あんたのこと好きだしね」
「とはいっても百合はお断りよ」
精霊も負けていない、こう茉莉也に返す。
「私そんな趣味ないから」
「あら、そうなの」
「スキンシップ位ならいいけれど」
まだ自分の胸を鷲掴みにして揉み続けている茉莉也に言う。
「それでもね」
「いいじゃない、別に減るものじゃないし」
「減らないけれど趣味じゃないから」
揉むのはいいが、というのだ。
「そうしたことはね」
「わかったわ、私も無理強いはしないから」
「全く、お酒が入るとっていうか最近はお酒が入らなくてもそうなんだから」
セクハラ三昧だというのだ、同性に対して。
「そんなのだとそのうち訴えられるわよ」
「女の子同士だったらいいのよ」
「それでもよ、洒落にならないことはしないでね」
「だから無理強いはしないから」
茉莉也は今は飽きたのか精霊の胸から手を離して述べた。
「そうしたことはね」
「だといいけれどね、とにかくね」
あらためて言う精霊だった、今度の話は茉莉也よりも愛実と聖花に主点を置いてそのうえで言った言葉だ。
「次もよね」
「ええ、今度は柳のところね」
「そこに行くわ」
こう言うのだった。
「それでその次は桜のところに行くから」
「順番は決めてるから」
「わかったわ、じゃあ行って来てね」
精霊は見送る言葉で二人の背を押した。その言葉を受けてだ。
二人のグラスが空いているのを見てだ、そこにワインを注ぎ込んだ。すぐに薔薇そのものを溶かした様な美酒が輝くグラスを満たした。
そしてだ、こう言うのだった。
「それで今日はね」
「飲むのね」
「そうすればいいのね」
「そうそう、薔薇を見て飲むのもお花見よ」
これもだというのだ。
「それは四季の何時でも出来るのよ」
「桜だけじゃないのね」
「だからなのね」
「そう、だから今もね」
飲めというのだ、そして薔薇を見ろというのだ。
「楽しんでね」
「そうそう、薔薇にはワインよ」
茉莉也は言いながらどんどん飲んでいる、そうした話をしてだった。
四人で飲んでいくのだった、そして今は酒と花を存分に楽しんだのだった。
第四十八話 完
2013・8・25
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