ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第63話 呼び方は正しく
建物の外へと出てみると、先ほどの光景を目の当たりにしたプレイヤー達は減っていないようだ。
どうやら、血盟騎士団であるアスナ・レイナの存在を知ったのだろうか。そして 調査していると思ったのだろう。それで その結果を待っていたようだ。
あるいは、誰もが 恐怖で動けていないのかもしれない。
「すまない。さっきの一件を最初から見ていた人。いたら話を聞かせて欲しい」
キリトが一歩前へでて聞いた。
これだけの人数だ、誰かが何かを目撃しているはずなのだ。女性とものと思しき悲鳴を聞いてから、自分たちが駆けつけるまで、ほんの数秒しかたっていないのだから。
その言葉を聞いて周囲はざわめいた。
――………自分は見ていないがキミはどうだ?
主にその手の会話しか流れていなかった。だが、流れる会話の中で出てくるのは
『誰も見ていない……』
『自分が来た時にはもう既に……』
それらが大半だった。
だが、その時 多数のプレイヤーの1人が歩み寄ってきた。その姿はアスナと同じ位のロングへヤーの紺色の髪の女性プレイヤーだ。
「ごめんね。怖い思いをしたばかりなのに」
アスナは申し訳なさそうにするが、女性プレイヤーは首を左右に振った。
「大丈夫だから……。きっと、私達が解決してみせるからね。あの……あなたお名前は?」
レイナは、彼女を元気付けようと、限りなく笑顔接し、名を聞いていた。……解決するには仕方がない。目撃証言が少なすぎる故に、情報が少なすぎるから。
「あっ……あの、私ヨルコって言います」
どうやら、 混乱しているようだ。彼女の不安も……声質からよく判る。そして、もう一つわかったことがあった。
「………。さっきの悲鳴の主は君か」
リュウキがそう聞いていた。悲鳴と会話声が同じだと判断したからだ。
「は……はい」
ヨルコは肯定した。あれは自分のものだと。
そして。
「私、さっき……その……殺された人と一緒にご飯を、食べに来ていたんです……。あの人、名前はカインズといって、昔 同じギルドにいたことがあって……。で……でもっ」
ヨルコは涙を流しながら、必死に思い出しながら続けた。
「広場で……逸れてしまって……、それで……周りを見渡したら……この教会の窓から……彼がっ……。うっ……ううっ……」
つい先ほどまで、共に過ごしていた知り合いが 槍をさされ、吊るされていた。そんな状況を目の当たりにしてしまったら、混乱し 不安、そして何よりも悲しみが襲って来るだろう。もう、……死んでしまったのだから。そんな彼女の背中をレイナは摩ってあげていた。
彼女を、震えているその身体を止めてあげたかったから。少しでも……、安心させてあげられるように。
「ゴメンね……。そんな事があったのに……こんな事を聞いちゃって……」
「うん……」
アスナは、手を握ってあげていた。優しく包み込むように。
「い……いえっ……。大丈夫、です」
ヨルコは、涙を拭いながら、毅然とした。泣いてばかりはいられないからだ。
この世界では、これまでにもう 2000人を超える死者が出ている。少しでも、これ以上誰かが死んでしまう様な事態は避けたいと思ったのだ。
「その、その時に、誰かを見なかった?」
彼は、槍で刺され、そして吊るされていたのだ。必ず実行した者がいる筈なのだ。
「……一瞬。本当に一瞬なんですが……カインズの後ろに………誰かいたような気がします……」
彼女が見たと言うその人物。恐らくは、その人物こそが今回の事件の鍵を握っていると思われる。そして十中八九、犯人だろう。
「その人あなたの知っている人だった……?」
アスナは、ヨルコにそう聞くが首を左右に振っていた。
「その……嫌な事を聞くけれど、心当たりはあるかな?カインズさんが誰かに狙われる理由に」
殺された以上、恨みを抱かれている確立が高いのだ。だが、それ以外にも 暗殺ギルドの様に快楽で殺生する連中の可能性もあるが。そう言う連中は、これまでからも、こんな回りくどいやり方などしない。睡眠PKも元々は彼らが編み出した卑劣な裏技だから。
「ッッ!!!」
ヨルコは、一瞬体を震わせた。だが、直ぐに。首を横に振った。
「……………」
リュウキはそのヨルコの表情に違和感を覚えた。どうやら、心当たりがない……訳じゃなさそうだと。
そして、ヨルコをこの層の宿にまで送ることにした。今は1人にするのは……危険だとも思えるのだ。今日、彼女の仲間であるカインズという人物が殺された。そしてその顔見知り……同じギルドのメンバーがその場にもいた。危険だろう、たとえ圏内だったとしても、最早安全エリアではないと思える
「すみません……こんなところまで、送ってもらっちゃって……」
ヨルコは4人に頭を下げていた。
「気にしないで、それよりも……また、明日、お話を聞かせてくださいね」
「………はい」
一行は、ヨルコに一礼をすると……宿の中へと入って言った。
「……とりあえず、尾行の類は無い……。一先ずは安心だ」
リュウキは、あたりを見渡しながらそう言う。ここに来る間にも、周囲を警戒していた。不審人物がいないかどうか、それをずっと警戒していたのだ。
「……ああ、そうだな。じゃあ これからどうする?」
キリトがそう聞いた。彼もリュウキ同様に周囲を索敵スキルで見ていたが、結論はリュウキと同じだった。だから、今後の事を話した。
「う……ん。とりあえず、手持ちの情報を検証してみましょう?」
「そうだね。あのスピアの出所を判明できれば、真相に近づけるかもしれないし」
レイナとアスナは、その方向で進む事を提案。今はそれしかないだろう。
「……となると、鑑定のスキルか」
リュウキがそう呟いた。その言葉を聞いたレイナは首を傾げた。
「……そうだね。って あれっ? リュウキ君判らないの? その、ほら。いつもの《視る》ってヤツでさ」
レイナが……不思議そうにそう言っている。それを訊いてリュウキは、軽く首を振った。
「……幾らなんでもそれは無理だ。システム外だと言うだけで、万能スキルという訳じゃないからな。あまり無茶を言うなよ」
リュウキの言うように、その《視る》と言うものも、勿論万能と言うわけでもない。
武器の構成や弱点を見抜く事は確かに出来る事だが、誰が作ったのか? どのモンスターが落としたのか? そんな事細かなシステム細部にまでは、流石にわからないのだ。
数値の波の最新部まで読み取り、様々なパターンを解析しなければならない。気の遠くなりそうな程の時間がかかる為、そんな事は試していない。……意味も無いからだ。
そして、何よりも、あの眼を乱用すると、自身に通常よりも遥かに負荷がかかってきて、かなりきついから。
「それで、キリトはどうだ? 心辺は?」
リュウキがキリトに聞くけど、首を左右に振った。
「お前はスキル上げて……。わけないか」
「ふむ……なら 方法は限られてくるか」
と結論したその時だ。アスナは、頬を膨らませていた。
「ちょっと……その 《お前》とか言うのやめてよ!」
アスナは頬を膨らませていて、どうやら怒っている様だ。直ぐ横にいたリュウキはそれに気づき。
「……? 何を怒っている?」
リュウキは首を傾げてそう聞いていた。『そこまで、怒る事なのか?』と。それに答えたのはアスナではなく。
「『何を?』って……そんなの、当然じゃないっ!」
レイナである。答えと同時に バシッ! と背中を叩かれてしまった。結構ノックバックが発生した為、かなり強めに叩かれた様だ。流石のリュウキも衝撃にかなり驚いてしまっていた。
「ッ……当然……なのか?」
驚いたが、リュウキは、レイナの当然、と言う言葉に、今ひとつピンときてないようだ。
「そうっ、とーぜんなのっ!」
レイナも、キリトがアスナに怒っているように……リュウキに怒ってると言うのがしっくりくる。なぜ、怒られているのかは判らない様だった。
「たはははは………」
キリトはそんな2人を見て笑っていた。自分のせいで 事態を招いてしまった筈だが、と思ったのだ。
「ちょっと! 聞いてるのっ!」
アスナはまだまだ、ご立腹の様だ。そのまま、見過ごされそうだったから、間髪入れずに聞いていた
「あっ……ああ、わかった。なら……《あなた》?」
その言葉を聞いたアスナ……まだ表情怖い。その2人を見てリュウキは呟く。
「……大変だな」
キリトを見ていると色々と大変そうだと思えたからだ。
「もうっちょっとっ! リュウキくんっ!」
レイナもアスナ同様に、何故か怒っている。これは本当に判らない。
「……なんだ? 何も言われてないと思うんだが、何故怒っている……?」
リュウキはこっちもか……と思い向き直した。そもそも、キリトがアスナの事を『お前』と呼んだ事が事の発端のはずだ。だから、自分は関係無いはずだが、と思ったのだ。
レイナは、リュウキの事をしっかりと見つめて答える。
「私も……っその……呼び方……。呼んでっ」
レイナは少し口篭りながらもそう言っていた。どうやら、名前の事を言っている様だ。
「……オレは呼んでなかったか? 名で普通に」
リュウキは首を傾げながら……そう聞くが。
「……貰ってないよっ! たまにキリト君みたいになってるっ!」
レイナからすれば、どうやらそうでもないらしい。リュウキ自身としては、彼女を呼ぶときは普通に名で呼んでいたつもりだが、そう言われると言う事は、レイナが言うとおり、ついそう呼ぶ事もあるのだろう。リュウキはそれを認めると。
「はぁ……以後気をつけるよ。……レイナ」
そう言っていた。
どうやら、自分は少し、顔が赤くなっているのがわかる。……名を呼んだこと、それを意識しながら呼んだこと、それが恥かしいかったようだ。
「っ……/// うんっ! リュウキ君っ!」
そして、レイナは、凄く嬉しそうに頷き、彼女もリュウキの名前を呼んでいた。恥ずかしいと思うが……、さっきの様に怒っているよりは随分とマシだと思えていた。そしてキリトたちはと言うと。
「もう、普通にアスナでいいわよっ!」
「了解………」
同じくお互い了承しあっていたようだ。リュウキはキリトの隣に行くと。
「……互いに大変だな。色々と」
ついついそう言ってしまった。同じ共通の境遇なのだから。
「や、まったくだ……」
キリトも否定せずに頷いた。共感できる仲間が出来ると言うのは良い事だ。だが、それを聞いていた女性陣からすれば、あまり面白いものではない。
「「何か言った!!」」
息を合わせるよーに!シンクロした2人。あまりの迫力のせいか………。
「「……何でもありません」」
キリトとリュウキの2人も息を合わせてそう言っていた。
それは、ある意味BOSS戦よりも……緊張した瞬間だった。
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