Element Magic Trinity
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女一匹、決意の装束
斬られたカードと共に、斬られた鎧が音を立てて床に落ちる。
キィン、と鈍く鋭い光を反射させる斑鳩の刀。
(ど・・・どんな速さの剣なんだよ・・・姉さんにも見えてなかった?)
(あのエルザが見れないほどのスピード・・・ククッ、いいねぇ。面白いじゃねぇか)
ショウは驚愕し、アルカは笑みを浮かべる。
「♪見つめるは~霧の向こうの~もののけか~。ジェラールはんを探すあまり今・・・自分が見えない剣閃の中にいる事に気づいていない」
斑鳩の言葉に、驚愕で見開かれていたエルザの目が一気に変わる。
敵を目の前にした時の、鋭い目に。
「そうそう、その眼」
それを見た斑鳩はうっすらと笑みを浮かべる。
(姉さんも本気になった)
後姿だが、エルザの後姿から発せられるオーラに、ショウも息を飲む。
「うちは路傍の人ではありませんよ」
キィン、と斑鳩が刀を鞘にしまう。
「そのようだな」
エルザは鎧の下に着ていたワンピースを換装し―――――
「敵だ」
天輪の鎧に換装した。
「参ります」
笑みと共に斑鳩が呟き、それを皮切りに斑鳩の刀とエルザの剣が金属同士がぶつかる音を立てる。
斬り合い、避け合い、エルザは飛んだ。
「天輪・循環の剣!!!!」
宙返りの途中―――頭を床の方に向けた状態から、綺麗に円を描く剣を放つ。
回転しながら向かってくる剣を見ても斑鳩の笑みは崩れず、抜いた刀を構えた。
「無月流」
呟き、一閃。
「夜叉閃空!!!!」
飛び上がり、刀を振るう。
すると、円を描いていた剣がバキバキと音を立てた。
「!」
「剣が全部・・・」
斬られた剣はバキバキと音を重ね、鎧同様地に落ちる。
「くっ!」
すると、突然エルザの顔が歪んだ。
斑鳩が刀を振るった瞬間―――バキィ、とエルザの天輪の鎧が頭の飾りからブーツまで、全て斬られる。
「かはっ!」
「姉さん!」
「エルザ!」
鎧が斬られたと同時に来る痛みにエルザは呻き、ショウとアルカは声を揃え叫ぶ。
「無月流、迦楼羅炎!!!!」
続いて斑鳩が刀を振るうと、そこから一気に炎が噴き出す。
「換装!!!炎帝の鎧!!!!」
それを確認したエルザは耐火能力を誇り、その能力はナツの竜殺しの炎をも半減させる鎧―――炎帝の鎧に換装する。
完全に換装した瞬間、斑鳩の刀から放たれた炎がエルザを襲った。
「!」
ドゴォ、とエルザの体は近くの壁を貫く。
「耐火能力の鎧どすか?よくあの一瞬で換装出来たものどす」
割れた壁からエルザは体を起こし、起こしたと同時に――――――
「うあっ!」
炎帝の鎧も天輪の鎧同様に、バキッと音を立て、崩れた。
「殿方の前でそんな格好では身もしまらないでしょう?どうです?そろそろ最強の鎧を纏ってみたら」
斑鳩の余裕は崩れない。
変わらず笑みを湛えているし、その表情に焦りや戸惑いは一切見られないままだ。
「バ・・・バケモノめ・・・」
「ギルドの女2大怪物の1人をここまで圧倒するたぁ・・・スゲェもんだな」
ショウが震えながら呟き、アルカは感心に似た言葉を発する。
言うまでもないだろうが、ギルドの女2大怪物のもう1人はティアだ。
・・・余談だが、上記の件はクロスに言ってはいけない。知られたらあのシスコンが黙っちゃいないからだ。
(にしても、かなりの余裕だな・・・絶対ティアと会わせちゃいけねぇ。アイツはこういうタイプ嫌いだし・・・マジギレすっぞ)
アルカが全く関係ない事を考えている中、エルザは自分の持つ鎧の中で最強クラスの物に換装する。
「この姿を見て立っていた者はいない。後悔するがいい。『煉獄の鎧』換装!!!!」
棘棘が肩をはじめとして鎧中についている鎧・・・煉獄の鎧。
それを見た斑鳩は厚底の下駄を1つ鳴らし――――――――
――――――――桜の花弁を宙に舞わせ、一閃。
刹那・・・煉獄の鎧は、舞い散る桜の花弁の如く、舞い落ちた。
呆然と驚愕するエルザの目は見開かれ、その口から血が零れる。
(勝てない・・・姉さんじゃ、勝てない・・・)
その姿を見たショウの目には涙が浮かび、ガタガタと震えだす。
「それが最強の鎧どすか?」
斑鳩が横顔を見せたとほぼ同時に、エルザはドサッと倒れ込む。
「お解りになったでしょう?どんな鎧を纏おうが、うちの剣には勝てませんよ」
キィン、と。
既に耳に馴染んでいる金属音を響かせ、斑鳩が刀をしまう。
「諦めなさい」
斑鳩の言葉が、静寂に響く。
ふとショウは隣に座るアルカに目を向け、その腕を掴んだ。
「お、お願いします!姉さんの代わりに、あの女を・・・!」
「断る」
「どうして!姉さんは仲間なんじゃ・・・」
「お前は」
ショウの言葉を遮り、アルカはショウに目を向ける。
その表情は面白いものを追っている時の歪んだ笑みでもなく、本人は至って真面目だがそう見えない表情でもなく、本当に真剣なものだった。
「お前は『8年前の』エルザしか知らねぇ。俺は『8年間の』エルザしか知らねぇ。お互いに知らないエルザがいる。だがな、アイツがギルドに入ってどれだけ頑張ってたか、お前は知らなくても俺は知ってる。俺の知ってるアイツは・・・あんなトコじゃ終わらねぇよ」
その強い感情が込められた声に。
エルザを信じる、という強い決意が込められた表情に。
面白いものしか映らない漆黒の瞳に映る、美しい緋色を見て。
ショウは言葉を失った。
「・・・」
息を切らして倒れていたエルザに、アルカの言葉が届いたのか否かは解らない。
が、エルザは歯を食いしばり、よろ・・・とよろけながらも立ち上がった。
それを見た斑鳩が笑みを崩さずエルザを見つめ、エルザは歯を食いしばったまま斑鳩を睨みつけ、
「!」
晒と袴に換装した。
赤い地に揺れる黄色い炎のような模様の袴。
両手には全く同じ刀が1本ずつ握られ、緋色の髪はポニーテールに結えられている。
(何だ?あの鎧・・・装束は・・・)
目に涙を浮かべ、身体を小刻みに震わせたまま、ショウはエルザを見つめる。
強い意志のこもったエルザの目は真っ直ぐに斑鳩を見ていた。
そして、斑鳩は衝撃の事実を放つ。
「何のマネどす?その装束からは何の魔力も感じない。ただの布きれどす」
「ただの布きれ!?」
斑鳩の言葉にショウの涙が引っ込み、代わりに目が見開かれる。
が、エルザは何も言わず、ただ沈黙し続けた。
「あれだけの剣閃を見せてあげたのに、うちも舐められたものどす」
今まで崩れる事のなかった斑鳩の笑みに、ピクッと怒りが表れる。
「姉さん!!!どうしたんだよ!!!まだ強い鎧はたくさんあるんだろ!!!姉さんはもっと強いんだろ!!!」
床に両手をつき、ショウが吼える。
アルカは何も言わず、強く佇むエルザを見つめるだけだ。
そしてゆっくりと、エルザの口が開かれる。
「私は強くなどない」
―強くなんか・・・-
「1人が好きなんだ。人といると逆に不安になる」
8年前、幼きエルザはグレイにそう言った。
「じゃあなんで1人で泣いてんだよ」
そう返され、エルザは少し目を見開いた。
―目の前で大勢の仲間が死んだ・・・-
―大切な人達を守れなかった―
―そして・・・-
自分を庇って死んだロブの姿が。
自分が魔法を使った事に歓喜するショウ達の姿が。
そして、自分を抱きしめアルカとは違う、歪みきった笑みを浮かべるジェラールの姿が。
エルザの脳裏に、浮かんで消える。
「泣いてなどいない」
エルザは必死に強がり、その場を立ち去る。
グレイはその後ろ姿を見つめていた。
エルザの眼帯をしていない左目には、涙が浮かんでいた。
―私はいつも泣いていたんだ―
―強く・・・より強く自分を見せようとー
―自分の心を鎧で閉じ込め―
―泣いていた―
「弱いから、いつも鎧を纏っていた。ずっと、脱げなかったんだ」
そう言い、エルザは刀を構える。
「たとえ相手が裸だろうと、うちは斬りますよ」
斑鳩の手が、鞘に収まった刀に向けられる。
「鎧は私を守ってくれると信じていた。だが、それは違った」
黙ってその言葉を聞くショウは驚愕に似た感情で顔を染めエルザを見つめ、アルカは面白いものを見つけた時とは違う、優しげな笑みを浮かべた。
「人と人との心が届く隙間を、私は鎧でせき止めていたんだ」
一旦区切り、ゆっくりと口を開く。
「妖精の尻尾が教えてくれた。人と人との距離はこんなにも近く、温かいものなのだと」
そう言うエルザの脳裏には、ギルドの仲間の姿が浮かんでいた。
ナツ、ルーシィ、グレイ、マスター・マカロフ、ミラ、カナ、ルー、アルカ、ティア、エルフマン、ナブ、レビィ、ロキ、ジェット、ドロイ、クロス、ライアー、サルディア、スバル、ヒルダ・・・。
「覚悟ォ!!!!」
笑みを完全に崩し、斑鳩が叫ぶ。
それに対し、エルザも強い意志のこもった強い声で、叫んだ。
「もう迷いはない!!!!私の全てを強さに変えて、討つ!!!!」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
「!」多いのは好きではないですが、今回みたく白熱するバトルの時はやっぱり必要ですね。
もう楽園の塔編も中盤が終わりかけ・・・次回はナツとティアも出ますから、お待ちください。
感想・批評、お待ちしてます。
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