ひとりぼっちのナタリー
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第一章
第一章
ひとりぼっちのナタリー
「あのね」
彼女は最後に俺に対して語り掛けてきたのを今でも覚えている。
「今でも思うのよ」
「俺もだよ」
俺も言った。言う資格がないってわかっていたけれど。それでも言わずにはいられなかった。
「皆夢だったらいいのにねって」
「そうだね」
俺は俯いてそれに答えた。
「今のことが全部夢だったら。どんなにいいか」
「・・・・・・御免」
「・・・・・・いいのよ」
彼女、ナタリーはその言葉を聞いて優しく言ってくれた。
「私があの時いなかったから。仕方ないわ」
「いいんだね、それで」
「ええ」
最後に悲しい顔で笑ってくれた。その笑顔も今でも覚えている。
「いいわ。だって仕方ないから」
「・・・・・・そう」
そんな彼女の優しさが痛かった。けれど俺達はどうすることもできはしなかった。
「何処へ行くの?」
「シカゴさ」
俺は答えた。
「そこでやりなおすよ、一人でね」
「そう、シカゴね」
ナタリーはそれを聞いて少し考える目を見せてきた。それから俺に対して言ってくれた。
「夜が奇麗な街よ」
「そうなんだ」
「一度行ったことがあるけれど。本当に奇麗よ」
「シカゴの夜ってあまりいいイメージないけれどね」
俺はそう言った。やはりシカゴというとアル=カポネとかを思い出してしまう。
「夜は奇麗なんだ」
「そうよ。だからそこへ着いたら」
俺に囁いてくれる。
「きっと上手くやっていけるわ」
「その言葉、信じさせてもらうよ」
俺はそう返した。
「最後にね」
「ええ、本当にもうすぐ最後ね」
ナタリーはまた言ってきた。
「私達、もう」
「うん」
俺はその言葉に力なく返した。
「何もかもね。最後さ」
「どうしてこうなったのかしらね」
ナタリーはまた力ない笑みを俺に見せてくれた。
「ついこの前までね。二人一緒だったのに」
「何もかもさ」
俺はそれに応えて言った。本当に言っても仕方ないことだけれどだからこそ尚更言いたくて仕方のない気分だった。だから言った。
「まずかったね」
「まずかったの」
「俺が言ったら駄目だろうけれど」
自分でも言葉に苦いものがるのがわかる。
「そうだとしか言えないよね」
「そうね」
ナタリーもそれに頷いてくれた。
「本当に」
「うん」
俺達は最後の別れの駅でそう話をしていた。話をしているとつい今までのことを思い出してきた。
俺がナタリーとはじめて会ったのはハイスクールの時だった。一年の時クラスで一緒になったのが出会ったきっかけだった。最初はよくある出会いだった。
「そう、音楽やってるの」
九月の始業式が終わった後の歓迎コンパでナタリーは俺の自己紹介を聞いてそう言ってきた。
「ああ」
俺はそれに返した。
「ポップをな、やってるんだ」
「いいわね」
ナタリーはそれを聞いてその青い目を細めてくれたのを今でも覚えている。ブロンドとはっきりとした顔立ちが奇麗な女の子だった。
「ポップス好きなのよ、私」
「そうなんだ」
「ええ、とてもね」
そう言ってにこりと笑った。
「他にはロックとか」
「ロックもな」
俺は嫌いじゃなかった。
「やるせ。あとバラードも」
「意外と幅広いのね」
「歌なら何でもいいさ」
俺は彼女にそう言った。
「歌えればそれでいいんだ」
「そうなの」
「ああ」
俺は答えた。
「ガキの頃からそうだったんだ。ギターだって持ってるぜ」
ジュニアハイスクールの時にバイトで苦労してやっと買ったやつだ。俺の宝物だ。
「それでな。いつも練習しているんだ」
「じゃあさ」
ナタリーはそれを聞いて俺に声をかけてきた。
「今度そのギター聴かせて」
「いいのかい?」
俺はその言葉を聞いてまんざらでもなくなった。
「それで」
「ええ」
ナタリーはそれに答えた。
「是非。よかったら」
「ああ」
俺はその言葉に頷いた。
「じゃあ今度な。こっちに持って来ようか?」
「それだと重いでしょ」
けれどナタリーは俺の言葉にそう返してきた。
「だからね」
それでこう言ってきた。
「おうちで聞きたいわ」
「家っていうと」
俺はそれを聞いて考えた。家というとこの場合思いつくのは。
「俺の家で?」
「そうよ」
ナタリーはにこりと笑って俺に答えてきた。
「駄目かしら」
「いや」
何か話を聞いていて嘘のように思えた。
「俺は別にいいけれど」
「じゃあそれでいいじゃない」
何かやけにあけっぴろげだった。正直に言えばそのあけっぴろげなのが気に入った。けれどこの時はそれは言うことはなかった。
「今度の日曜日ね。それで」
「じゃあ日曜だな」
俺もその言葉に頷いた。
「その時」
「ええ。それでおうち何処なの?」
ナタリーは俺の家の住所を尋ねてきた。
「教えて。絶対に行くから」
「ああ、わかったよ」
俺はナタリーに住所を教えた。日曜日にナタリーを家に迎えた。それを聞いてお袋がくすくすと笑うのがやけに腹立たしかった。
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