気まぐれな吹雪
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第二章 非平凡な非日常
49、フィリミオ
「さてと、次はどの辺をぶらつこうかな」
黒曜ヘルシーランドの敷地内をふらふらと歩く一人の美少女。
エメラルドグリーンのゆるふわカールの髪は肘までの長さを持ち、服装はVカットネックTシャツとキュロット、ニーハイの靴下にレザーブーツと言うなんともお洒落な格好をしている。
信じられないかもしれないが、要である。
「ん? なんだろ、このでっかい穴」
少し丘になったところで、謎の大きな穴を発見する。
中から微かに呻き声が聞こえ、誰かいることを気づいた。
覗いてみると、かなり下の方に人影が見える。
「そこの人ー生きてるー?」
「だ、誰だ!」
「おー生きてた。大丈夫? 上がってこれる?」
「…………」
「ちょっと待ってて」
無言の返事に小さく笑うと、彼女はスクールバックから短刀を取り出した。
ってあれ、スクールバック持ってたんだね。
そして、刀に死ぬ気の炎(未だに属性知らず)を流し込み、下に向かって氷を噴出した。
するとその氷は、彼のところまで届くと梯子の形へと変わった。
「冷たくないから上がっておいで」
そう言うと、彼はその梯子を登って姿を現した。
頭に岩でも落とされたのか、血を流している。
ついでに氷で軽く止血もしておくことにした。
「か、感謝するびょん。けど、お前誰だびょん!」
「バカっぽい喋り方だねぇ。そ・れ・に、レディに名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃない?」
「うぐ」
お前がレディとか言うな。
とか自分で突っ込んだ要である。
「オレは、城島犬ら。お前、骸さんの敵か!?」
「物騒な。私の名はフィリミオ。骸の古い友人だよ」
正確には、要が骸と知り合いで、フィリミオはその変装した姿。
なんて複雑なことを犬が知っているはずもない。
それはさておき。
「そうら、ボンゴレ!」
突然そう叫ぶと、犬はどこかへと走り去ってしまった。
このとき彼女が唖然としていたのは言うまでもなく。
「まいっか」
そしてまたふらふらと歩き始めるのだった。
と言うこともなく、散歩すら暇になってしまったので骸のところに帰ることにした。
「ただいまー」
「……誰ですか?」
部屋に入るなり出迎えたのは骸の冷たい視線。
そこで彼女は、踵を鳴らし、敬礼のポーズを取った。
「我が名はフィリミオと申す!」
「なるほど、要ですね」
「早っ!? てかノーリアクション!?」
いろんな意味でプライドに傷が付いたフィリミオだった。
せっかく考えた名前は一瞬で見破られるし、決死でやったおふざけはまさかのスルー。
て言うか、ホント早すぎですよ。
「フィリミオとは、霜月をイタリア語にしたフリマイオを捩ったもの。違いますか?」
「いいえ、仰る通り」
「それにしても、その格好も随分と似合ってるじゃないですか」
「ヘーソウデスカ」
なぜに片言。
そしてなぜにふて腐れている。
しかしまあよくよく考えてみれば、幼き日の彼女は髪と瞳の色を抜かせば可愛いと評判であったし、並中に入ったときもイケメンだと騒がれていた。
つまり、整った綺麗な顔つき、いわゆる美形なのだ。
似合って当然。
そんな彼女を見て、骸は少し笑うのだった。
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