ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百二十八話:殺られる前に殺る
『ドーラちゃん、早く早くー!』
灯台に続く道を楽しそうに走って行ったモモが、こちらを振り返って呼びかけてきます。
「うん、いま行くー!」
追いかけて走り出そうとした私を、ヘンリーが腰を掴む手に力を込めて引き留めます。
「待てよ。一人で行くな。危ないから」
先程までの、考え方を変える前の私ならば、ここでなんだかんだ言いくるめられているところですが。
腰を掴む腕を無理に振りほどこうとせず、隣に並んだ状態からヘンリーと向かい合うように、正面に回ります。
「……ドーラ?どうした」
怪訝な表情を浮かべるヘンリーの顔を見上げて微笑み、おもむろに首に腕を回します。
そのままヘンリーの顔を引き寄せるようにして、耳元に顔を寄せて囁きます。
「……だったら。追いかけてきて?」
ビシリと石化した音が聴こえそうな勢いでヘンリーが硬直し、拘束が緩みます。
……今だ!
力の緩んだ腕から抜け出して走ってモモに追い付き、思いきり抱き付きます。
「お待たせ、モモ!」
『わーい、ドーラちゃん!』
じゃれつくモモを撫で回し、モフモフを思う存分に堪能します。
……ヤツが、恋人設定を利用するというのなら。
こちらも同じく、利用するまで!
モモと遊ぶのが今日の主な目的なのに、私の安全のためとか言われてそれを犠牲にするのでは本末転倒というもの!
恋人設定で拘束しようとするならば、その設定で逃げてみればいいじゃない!
うふふー、捕まえてご覧なさーい。的な。
「……ドーラ!待てよ!」
そうこうするうちに我に返ったヘンリーが、呼びかけながら追いかけてくるのに笑顔を向けて答えます。
「待たなーい!モモ!行こう!」
『うん!ドーラちゃん!』
モモを促し、並んで走って灯台の中に入り、そのまま階段を駆け上がります。
今回はヒールではない履き慣れたいつものブーツだから歩きにくいことは無いし、スカートの丈が短めとはいってもタイト気味だから故意に覗き込まない限り見えることも無いし!
全く、問題ありません!
「ドーラ!走るなって!その格好で!」
追いかけてくるヘンリーが、何か言ってますが。
見えないってわかってるからやってるんだよ、大丈夫!
展望台まで一気に駆け上がり、さてどこから眺めようかと見回したところで、追い付いてきたヘンリーに捕まります。
「……ドーラ。……何やってんだよ。危ないから、ほんとに。色んな意味で」
後ろから腰を抱き締めてくる腕の中で身をよじってまたヘンリーに向き直り、甘えるように見上げます。
「ごめんね?でも、見えなかったでしょ?」
「……見えなくても。危ないから。あんなの、他の男に見られたら」
「見てないでしょ?ヘンリーしか」
「……そうだが」
「なら、いいじゃない」
「……あのな、ドーラ」
真面目な顔で何かを言いかけるヘンリーの視線から逃れるように俯いて頬を赤らめ、恥じらうように視線を逸らしながら言ってみます。
「……ヘンリーだから、見せたんだから。だから、……大丈夫、でしょ?」
でしょ?の辺りで逸らしていた視線を戻し、上目遣いになります。
また、ビシリと硬直するヘンリー。
……今だ!
腰を捕まえていた手に自分の指を絡めるようにしながら外し、恋人繋ぎの形を取ります。
『ドーラちゃん!すごいすごい!キレイな景色!ドーラちゃんも、来てみて!』
「うん、いま行く!ヘンリー、行こう!」
繋いだ手を引っ張って、未だ硬直から回復しないヘンリーを引きずるようにしてモモに近付きます。
腰を抱かれた状態だと、移動の主導権が取りにくいんですよね!
言えば聞いてはもらえるが、身軽に動き回るモモを追いかけるには不適というか。
気軽に歩き回れないんですよ!
どうせ離してもらえないなら、身軽に動ける状況を自ら作り出していかないと!
楽しそうに跳ね回るモモを追いかけてヘンリーを引っ張り回して、景色を散々堪能して。
さすがにヘンリーを振り切って階段を駆け降りることはできそうも無かったので、そのまま手を繋いで階段を降りようとすると、すかさず腰を抱かれますが。
「あっ……」
ピクッと身を震わせて悩ましい声を上げ、戸惑ったようにヘンリーを見上げてみます。
「な、なんだよ。今さら、その反応」
ヘンリーが、素で戸惑っています。
構わず、こちらは演技を続けます。
「う、うん……。今さら、だよね……。うん、大丈夫、なんでもない……から……」
また頬を染めて、目を逸らします。
「……大丈夫だから。……行こう?」
「お、おう」
今度は目を逸らしたまま、あくまで恥じらった様子で呼びかける私につられたように赤面しつつ、やや挙動不審な様子でヘンリーが答え。
それでも、私の腰を掴んで歩き出します。
……ちっ、しぶといヤツめ!
照れてやめるかと思ったのに!
仕方ないので私もヘンリーの腰に片方の腕をそっと回し、ヘンリーの顔を見上げて問いかけます。
「……よろけちゃいそうだから、掴まっててもいい?」
「……また、抱いてってやろうか?」
「ううん。今日はスカート、短い、……から……」
また頬を赤らめて俯く私。
膝上の短めのスカートなので、お姫様抱っこなんかされた日には本当に際どい状態になりますね!
ヘンリーだけでなく、階段で男性とすれ違おうもんならその人にも見られる羽目になるわけでして。
「あ……そうか、悪い……」
ヘンリーも気付いて、また赤面しています。
「……掴まって、……いい……?」
「あ、ああ」
私の作り出す妙な雰囲気に、ヘンリーは完全に飲み込まれている模様。
これならば、あちらから口説いてくる余裕は無いでしょう!
この流れを逃さぬよう、恥じらう態度は崩さないまま、そっと身を寄り添わせてもう片方の腕も回し、横から抱き付くような形になります。
恥じらっておいてこんなにくっつくとか、我ながらとんだ小悪魔ですが。
もちろんわざとですけれども。
またビシリと固まったヘンリーを恥ずかしそうに見上げ、微笑んで促します。
「ヘンリー、行こう?」
「……!」
もはや言葉も無いながら、なんとか足を動かしてヘンリーが階段を降り始めます。
それでも転ばないのはさすがだが。
私たちがもたついている間に先に進み過ぎていたモモも、戻ってきて私の隣に並びます。
『ドーラちゃん、次はどこ行くのー?』
「モンスターじいさんのところだね。この町の人にはまだ会ってないから、会っておきたいし。イナッツさんにも連絡取りたいから」
『そっか!うん、あたしも会ってみたい!早く、行こ!』
モモに向けた私の言葉を聞いて、ヘンリーがハッと我に返ります。
「おい。その格好で行くのか?」
ちっ、かなり通常の状態に戻ってる!
なんだ、何がいけなかった。
モモに話す時は素だったからか?
ひとまず、また演技に入って上目遣いになってみます。
「うん。……ダメ、かな?」
今日はもう次の町に行く予定だし、オラクルベリーの師匠のところへは出入りを禁止されたから、絶対に会っておきたいんですけど。
ダメとか言われたら、本当にかなり困るんですけど。
演技の中に本物の困惑を滲ませて目で訴える私に、またヘンリーが動揺して目を逸らします。
「……ダメ、ってわけじゃ無いが!気を付けろよ、絶対に俺から離れるな!俺より前に出たり、じいさんに近付いたりするなよ!」
「……うん!わかった、気を付けるね!」
なんでそんなに警戒する必要があるのか、全く訳がわかりませんが。
ひとまず許可が出たことを喜んでおくことにして、笑顔でさらにぎゅっと抱き付きます。
ヘンリーが真っ赤になったので、戻ったのは一瞬だったのかもしれませんね!
また返事の無いヘンリーを促して階段を降りきり、気が付かれる前にそっと体を離してまた手を繋ぎます。
『ドーラちゃーん!早くー!』
「待って、モモー!ほら、ヘンリー!早く早く!」
先に走って行くモモを追いかけて、またヘンリーを引っ張って私も走ります。
「おい、ドーラ。ちょ、待て」
ヘンリーがなんか言ってますが、無視です!
主導権は、渡さんよ!
他の仲間たちもきちんと着いてきてくれてるようだし、このまま突っ走りましょう!
場所も教えてないのに何故か迷いなくモンスターじいさんのところへ向かうモモを追いかけて、モンスターじいさんの事務所の前に着いて。
「……モモ。場所、知ってたの?」
『ううん。看板があったから。それを見て、きたの!』
「……モモ。字、読めるの?」
『そうなの!読めるし、練習したから書けるよ!』
「そうなの!?すごいね!」
『うん!ドーラちゃんとお話ししたくて、練習したんだけど。ドーラちゃんがお話しできるようになってたから、いらなくなっちゃったけどね!』
「でも、それなら。私がいなくても、ヘンリーとも話せるんだね。時間はかかるだろうけど」
『あ、そっか!そうだね、ムダじゃなかったかも!』
訳すまでも無く、私の言葉だけで大体理解したのかヘンリーが口を挟んできます。
「……モモは、読み書きができるのか?」
「そうなんだって!練習したんだって!」
「そうか。すごいな、モモ。頑張ったんだな」
『そうなの!あたし結構頑張ったんだよ!いつか二人で、お話ししてみようね!』
「いつか二人でお話ししてみようって」
「そうだな。楽しみにしてる。……頭なら、撫でてもいいか?」
『うん!撫でて撫でてー!』
「いいって。撫でてほしいって」
元女子高生への気遣いとしてか、きちんと確認を取ってからモモの頭を優しく撫でて微笑みかけるヘンリーは、すっかり通常モードのようですが。
まあ、ひとまずいいか。
さっきのノリのままモンスターじいさんに会うのも、それはそれでキツいし。
モンスターじいさんのところでヘンリーに口説かれるなんてことも無かろうし、ここはもう普通で。
「じゃあ、入ろうか」
「待て。俺が先に入る。ピエールも、念のため警戒しててくれ」
「承知」
ピエールまで、心得たように応じてるんですが。
なんだ、そこも情報交換してあったのか。
何がそんなに問題なんだ、モンスターじいさんの。
……なんだかわからないが、とにかく入るのを止められるわけでは無いし、色々と確認しておきたいことはあるし。
わからないことをいつまでも考えてないで、さっさと用事を済ませてしまいましょう!
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