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久遠の神話

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第六十話 嵐の前その十

「ですから」
「料亭で話をする時代ではないですか」
「政治の話も商談も」
 そうしたことに料亭は使われなくなった、それで赤坂でも料亭の経営が苦しくなっていると言われている。
「事務所や会議室でする様になりまして」
「だからですね」
「はい、ですから私もです」
「料亭というものはですか」
「あまり通っていません」
 そうしているというのだ。
「ですからあまりわかりませんが」
「そうなのですか」
「しかし。お店の雰囲気は」
 まずはそこから権藤に話す。
「非常に落ち着いていますね」
「そうですね」
「はい、それに」
 さらにだというのだ。
「素材も調理も」
「どちらもですね」
「切り方がいいですね」
 それがだというのだ。
「とても」
「そうですね、薄く」
「透ける様です」
「見事な包丁捌きですね」 
 魚介類だけではない、野菜や山菜、蒟蒻もだ。
 どれも見事なまでに薄く切られている、実際に透けてさえいる。
 その透けた平目の刺身を見て女はまた言った。
「素材もいいですが」
「明石からです」
「ああ、あの」
「はい、あそこから仕入れたものです」
「東京で言う築地ですね」
「そうですね、東京ではですね」
「私は地元は北海道でして」
 そこの出身であり選挙区もそこだというのだ。
「函館ですが」
「そうでしたね、函館となると」
「魚介類の街です」
 北海道の中でもとりわけだ。海の幸の街である。
「ですから海のものには五月蝿いつもりですが」
「その貴女から味あわれてもですね」
「見事です」
 今度は蛸を食べて言っていた。
「特に鱧ですが」
「それですか」
「今も東では鱧は食べません」
「あくまで関西だけですね」
「そうです。最初見た時は何と怖い顔の魚だと」
「それが美味しいのです」
 しかも明石から京都まで生きて連れられる。京都でも鱧料理が盛んなのはその為だ、京都は山の中にある為海のものは乏しいのだ。
 そして鱧は実際に顔は怖い、だがそれでもなのだ。
「味は」
「お吸い物にしましても」
「大阪では串カツにも入れます」
「その様ですね」
「それもまた美味です」
「ではそれもまた」
 女はやがてだと権藤に答える。
「主人と共に行って来ます」
「ご主人とですか」
「はい、そうします」
「それはいいですね。何でも幹事長は夫婦円満だとか」
「そうでなければ政治家は務まらないかと」
 帰るべき家がしっかりしていなくては休めない、政治家にも休息が必要だからだ。 
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