ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
鬼vs鬼
『よーぉ、久しぶりだなぁ。我が弟よ』
唐突に言ったのは、《冥王》レンの姿をしている《鬼》だった。引き裂くような笑みを零さんばかりに浮かべながら、快楽の頂点とも聞こえる声を発する。
それに、《閃光》アスナの姿をした《鬼》は、全く同じ笑みを浮かべて言う。
『アハァッ。本当に久しぶりだねぇ、兄様』
ニィッ、と気持ち悪く、気色悪い笑みを浮かべながらも、《鬼》達は笑う。
笑って、嗤う。
『んでぇ?わざわざこの俺を呼び出しておいて、一体ぇ何のつもりだぁ?狂楽』
『………その答えはもう、兄様は分かってるんじゃないのかな?』
カクリ、と人形のように首を傾けながら、狂楽と呼ばれた《鬼》は口を開く。本当に、今更そんなことを訊くなよ、とでも言いたげに。
それに、少年の姿をした《鬼》はカッカッカとねっとりと絡みつくような大笑をした。
『そうだよなぁ。そうだそうだ。俺でもお前ぇでも、あのクソ兄貴でも、あの親父から産まれたんだ。持ってねぇとおかしいよなぁ』
そこで《鬼》は一拍置いて
『底知れぬ強欲さをよぉ』
言った。
ギラリ、と蒼く輝く瞳が、いっそうの剣呑な光を放つ。
『なぁるほどぉ。なら、話ぁ簡単だぁなぁ。お前ぇは自分の持つ力に満足できなくなった訳だ。んで、のこのこ近付いてきた俺と小僧に目を付けた。………俺の力をぶん盗るために』
『せぇ~いかぁ~い!』
アハッ、アハハハハハハァッ!!と何が面白かったのか、狂楽は狂ったように白濁した嗤いを撒き散らした。それだけでびりびりと空間が震え、間に入ろうと大太刀の柄に手を掛けていた一人の女の膝を地に埋没させる。
『ほぉ~んと、兄様がのこのこ平和ボケした顔でやってきてくれて助かったよぉ~。さすがに、どこにいるかなんて僕でも分かんないし、わざわざ探すのもメンドイしねぇ。アハァッ!ラッキーだっ────』
『舐めるなよ、クソガキが』
無言の圧力とともに挙げられた右手。
その上空の重力子がにわかに乱れ始め、空気の粒子が帯電したように身を震わせ始める。歪んだ空間は、殺気しかないこの場に場違いなほどに降り注いでくるうららかな陽光、太陽の光さえにも干渉しだす。
その結果、強引に捻じ曲げられた陽光は一点に集まり、局所的で小規模なブラックホールを創り出した。その中心点には、周囲の吸い込むような漆黒とは真逆の純白の光点が光り輝いている。
その光点が極限にまで圧縮された瞬間、狂怒は静かに右手を振り下ろした。
あたかもそれは、死刑宣告を下す処刑人のごとく。
『鬼法《天墜》』
カッ!!と真っ白な閃光が空間を薙いだ。
光点から迸った陽光の奔流は、おおよそ人間にできる出力の心意技ではなかった。
アスナの身体を乗っ取る狂楽の座標、その上にピンポイントで滝のような光線が降り注いだ。しゅあっ!という音とともに、純白の中に栗色の長髪を持つ少女の姿が掻き消えた。
声を上げる間もなかった。
いや、声を上げようとする前に、上げるノドその物が溶けているのだ。
皮膚が火傷し、炭化するとかの次元ではない。
肉塊全てを光が一瞬で舐め尽くし、骨格全てを閃光が蒸発させた。
光は、数十秒間もの間、一人の少女を────一人の《鬼》を殺し続けた。
しゅうしゅう、と辺りには形容しがたい臭気が漂い始める。
それは、タンパク質が蒸発した時のみ発せられる、普通に生存していれば絶対に嗅ぐことなどないもの。
ご、げぁ………ッッ!
咳き込むような、吐き出すような音が響いた。
しかしそれは、光の奔流に呑み込まれた少女のものではなかった。その上、折り重なるように、覆い被さるように少女を護った────
黒衣の剣士から漏れたものだった。
少年のトレードマークでもある漆黒のレザーコートは大本から跡形もなく焼き払われ、柔和だった顔のほとんどは炭化し、その奥には頭蓋骨と思われる白っぽい物が見え隠れしている。
胴体のあちこちからは、冗談みたいな量の血液が噴水のように噴出していて、その血液さえも、数千度に熱せられた大気が次々に蒸発させていく。
しかし、それらの生命に関わる肉体の損傷は、付けられる瞬間から治っていく。いや、直っていくというほうが正しいのか。
まるで時間を巻き戻すかのように、炭化して黒くなった皮膚の上には真新しい皮膚が現れ、千切れた血管は引き合わせたようにそれぞれの断面図を寄せ集める。
全ては、その剣士の胸に刺さった一本の片手直剣によって引き起こされたものだった。
白く輝く、エネルギーその物でできたような剣。
それを一瞥し、狂怒は地の底から響いてくるかのような唸り声を発する。
『………神装《潔白》。属性ぁ……強烈な癒しか。カッカ、吐き気がする』
『アッハッハァ!ホントにねぇ。でもぉ、これで兄様の心意技に対する盾が手に入ったよぉ』
『ハッ!随分と薄ぃ盾じゃねぇか?』
『わかってないなぁ!素体となるそのガキが弱ってたら、いくら兄様でもそのレベルの心意技なんて連発できるわきゃぁないでしょ』
チッ!と狂怒という《鬼》が舌打ちをした。
確かに先程から手足の痺れ、脳裏を這い回る鈍痛が目立つ。さらに先程の心意技を撃った後、明らかに身体に掛かる加重が増大した。
それは確実に、このコロシアイに確固たるタイムリミットが存在することを如実に証明していた。
そう思っている間にも、脚はどんどん鉛のように重くなっていく。
『ならこれぁどぉだぁッッ!!?』
狂熱に突き動かされるように、一人の《鬼》は両手を伸ばした。ビリビリ、と高周波の衝撃が空間を震わせ、時間軸すら乱れさせる。
閃光が迸ったのは、変わらず上空から。
『甘いねぇ!!』
操り人形を動かすように、狂楽の指が不気味な軌道を描きつつ蠢いた。途端に、重傷の痛みなどほとんど感じていないようにぼんやりと突っ立っていた剣士の目が、毒々しい黄色い眼光を放つ。
霞むほどの速度で黒衣を纏う身体が加速し、少女の前に己が肢体をさらした。
『まだまだぁああッ!!』
同時。
左手を、野球のサイドスローのように振りかぶる。その延直線状に発現したのは、これまでよりもさらに大きなブラックホール。
『なっ!!』
『だぁれが一度に二発撃てねぇなんて言ったかなァ!!!??』
キリトの神装の属性を使った防御行動の弱点は、それを行う者が一人しかいないという事だ。耐久力無限の盾でも、それは所詮、一方通行のもの。二方向からの同時攻撃は防ぎきれない。
『消し……飛ばせぇっっッッ!!!!』
叫び、咆哮し、絶叫し、限界まで溜め込まれたエネルギー全てを解き放とうとした時────
『ざぁ~んねん。やっぱりツメが甘いねぇ』
毒々しい言葉が放たれるとほぼ同時、いきなり目線が一気に下がった。
とうとうガタが膝まできたか、と咄嗟に思ったが、そうではなかった。鳥籠の底、たった今《鬼》達が立っている床が、いきなり液体になったかのように脚を呑み込んだのだ。
ドプン、と粘性の高い、濃い色の液体が身体を包んだように感じられた。
いや、そうではない。
呼吸はできるが、しかし空気が異常に重たくなったのだ。
身体を動かそうとすると、ねっとりとした粘液の中にいるような、凄まじい抵抗を感じる。
身体が重い。
磨り減らされた精神と身体のあちこちが堪りかねたように苦痛を上げる。
世界から、光が遠ざかっていく。
あれほど降り注いでいた紅い夕陽が、滲むように現れた深き闇にみるみる覆い尽くされていく。
隅にいる純白の少女と、それを護るように膝を折る巫女装束の女性が、いきなりのことに悲鳴を上げる。その声も、まるで深い海底で発せられたかのようなエコーがかかっている。
そうこうするうちに、世界は全くの暗闇に閉じ込められてしまった。いや、その言葉には少し語弊がある。
白いワンピース姿の《鬼》、黒いゴシック調のワンピースを着るマイと巫女装束のカグラ、その少し上を浮遊するユイの姿さえもはっきりと、明瞭に視認することができる。だが、視界のバックグラウンド全てが濃密な黒に塗り潰されてしまっているのだ。
放出させようとしていたエネルギー全てが強引に消去され、強制的に心意技を解除させられた狂怒は歯を食いしばりながらもしっかりと屹立し、一二度深呼吸をした後にゆっくりと口を開く。
『………まさか、お前ぇがGM権限まで手に入れてるとはなぁ。すっかり騙されたぜ』
それに、自らの手で空間を創り出した《鬼》は言う。言いながら、嗤う。
『アハァ、いつ僕がGM権限を手に入れてないなんて言ったのぉ?』
『…………その権限。どこで手に入れた?』
『もうその答えは知ってるんじゃないのかなぁ。兄様は』
ハッ、と少年の姿をした《鬼》は、吐き捨てるように嗤った。心の底から気色の悪い物でも見るかのような眼をして。
『《喰った》のか。そりゃぁまぁ………廃人確定だろぉなぁ』
『アハッ、何でそんなゴミのことを心配してるのぉ?人間なんて、僕達のエサなんだよ』
『そのエサに、逆に喰い殺されたのが我らが親父殿じゃぁなかったのかよ』
クフフ、と少女の姿をした《鬼》は嗤う。堪えきれずに漏れた、とでも言うような笑いを。
『アレは傑作だったねぇ。………でもぉ』
《鬼》は言う。笑みを消し、存在を変質させて、言う。
『僕は喰う側に君臨し続ける!兄様も喰って、次の段階へコマを進める!僕は────父様さえも超えるような存在になる!アハッ!アハハァッ!アハッアハハハハハッハハハハハハッハハハッハハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハッハハハハッハハハハッハハハハハッハハハッハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハッハハハッハハハハハハハハッハハハハハハハハハハッハハハハハハッハハハッハハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハッハハハハッハハハハッハハハハハッハハハッハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハッハハハッハハハハハハハハッハハハハハハハハハハッハハハハハハッハハハッハハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハッハハハハッハハハハッハハハハハッハハハッハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハッハハハッハハハハハハハハッハハハハハハハハハハッハハハハハハッハハハッハハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハッハハハハッハハハハッハハハハハッハハハッハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハッハハハッハハハハハハハハッハハハハハハハハハハッハハハハハハッハハハッハハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハハッハハハハッハハハハッハハハハッハハハハハッハハハッハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハッハハハッハハハハハハハハッハハハハハ──────────ッッ!!!!!!!』
耳障りな哄笑が、耳朶を震わせる。
しかし、それに相対する一人の《鬼》は静かに眼を瞑っていた。
やがて、確認するように一度頷き、口許から声が漏れた。
『────そぉか、わぁったわぁった。もう止めはしねぇよ』
それは、キリトも、カグラも、ユイも、狂楽でさえ、その言葉の意味は解らなかった。
だが、マイだけは血相を変えて叫んだ。
「ダメ!出てきちゃダメッ!!」
その言葉に、狂怒は一切の反応を返さない。しかしマイには分かった。
人の魂に干渉するという禁断のシステム、《ブレインバースト・システム》を司る彼女だからこそ、分かりえた。
紅衣の少年の身体の中で、何かが切り替わったような感覚。
スイッチを入れたような、そんな感覚。
瞬間。
ザアアァッッッッッッッッ!!!!!!
と。
身体に掛かっていた一切の外的要因を、その場にいた者達は認識できなくなった。
その原因は────気配。
殺気や注意ではない。ただそこに存在しているだけで、人々の心を、精神を磨り減らしていく。
そんな存在感。
もしそれらのものが自分達へ向けられるかと思うと、どこか心の奥にあるナニカが音を立ててブチ切れそうな恐怖。
全員がその場に思わず棒立ちになっても、一人の純白の少女は叫ぶ。
血の滲むような叫びを、叫ぶ。
「ダメ、ダメだよッ!レン!!そんなことしちゃ、人間じゃなくなっちゃうッッッ!!!!」
その叫び声に答えるかのように、レンの体に変化が起きた。
身体を包んでいた全装備がドプンと融けたように粘液状になり、それらが全身をくまなく覆い尽くしていく。そして、それらの一部が寄せ集まり、先端が槍のように尖ったモノを創り出した。
《尾》が、生えた。
人間として、本来ありえない部位。ゆらり、と揺れるその鋭利な先端に言い知れぬ恐怖感を掻き立たせられる。
こんな光景をどこかで見たことがある、とカグラはぼんやりと思考した。
そうだ。
あの鋼鉄の魔城、その最上階で彼はこのようなことを引き起こしたではないか。
だが、あの時あんな禍々しい《尾》が生えていたか?
その時、だまって事の成り行きを見ながら微動だにしなかった狂楽が始めて声を発し、カグラの思考を断ち切った。しかしその声も、どこか強張った口を無理やり動かしているように掠れていた。
『………アハハハハァ、まさか《融合》するとはねぇ。人間より上位の存在にまでなってまで、僕を殺したいかァッ??』
それに、レンは答えない。
《冥王》は口を開かない。
ただ、自身を見つめる少女を視認し────
優しく、微笑んだ。
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「いよいよコラボ募集を締め切ったか」
なべさん「うん、ぶっちゃけ忘れかけてたけどね。募集してること」
レン「忘れるなよ、そこは」
なべさん「後は選考かぁ…………うっ、頭が痛い」
レン「前みたいに全員出場なんて優柔不断は止めろよな」
なべさん「…………も、もちろんだとも」
レン「なんで返事の前に言い淀んだんだ……」
なべさん「は、はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
──To be continued──
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