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久遠の神話

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第六十話 嵐の前その二

「ザワークラフトとはまた別でね」
「いいでしょ」
「うん、違うね」
 上城は実際に食べながら言う。
「本当に」
「ザワークラフトとはまた別だから」
 樹里も食べながら答える。
「カレーにはこっちの方が合うと思うわ」
「そうだね、実際にね」
「だからカレーだけじゃなくてこれもね」
 そのキャベツの酢漬けもだというのだ。
「一杯あるし」
「そんなにあるんだ」
「日持ちもするから」
 酢漬けだからだ、野菜をそのままにしておくより遥かに長持ちするししかも栄養も分解されない優れたものなのだ。
「一杯作っておいたの」
「じゃあ実際にたっぷり食べさせてもらうね」
「そうしてね。それでね」
 ここからだった、樹里の顔は切実なものになった。
 そして声もそうさせてだ、上城にこう言ったのである。
「それでね」
「それでって?」
「一杯食べて力をつけてね」
 それでだと、上城の顔をじっと見て言うのだ。
「本当にね」
「戦いの為にだよね」
「ええ、カツカレーにしたのも」
 その理由も言うのだった。
「勝つ、だから」
「縁起だったんだ」
「力をつけてもらうことと一緒にね」
 それがあったというのだ。
「縁起もって思って」
「有り難う、そこまで考えてくれてたんだ」
「卵に林檎もあるから」 
 これは栄養のバランスを考えてだ、縁起とはまた違う。
「そっちも食べてね」
「それじゃあね」
「ステーキもって考えたけれど」
「ああ、テキだね」
「そう、敵ね」
 これも縁起だった、縁起というものは言葉のごろ合わせ、イメージから来るものが多いものなのだ。それであった。
「テキにカツっても考えたけれど」
「僕は敵と戦うんじゃなくて」
「戦いを止めるのよね」
「うん、剣士の人達は敵じゃないから」
 戦いを止めさせる、その考えではないからだった。
「それは違うからね」
「そのことに気付いたからね」
 それでだったというのだ。
「ステーキは止めたの」
「けれど勝つことはね」
「戦いを止める、目的を達成するね」
 樹里が話に出すのはこのことだった。
「そういうことだからね」
「カツはあるんだね」
「戦いを止めることも」
「うん、勝つことだよ」
 広い範囲での言葉だ、勝利とは何も相手に対して勝つことだけではない、自分自身の目的を達成することもまたなのだ。
 だからだ、今の上城にはというのだ。
「僕は勝つよ」
「そうしてね」
「絶対に戻って来るから」
 微笑んで樹里に話す。 
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