| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

炎髪灼眼の討ち手と錬鉄の魔術師

作者:BLADE
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

”狩人”フリアグネ編
  一章 「外れた世界」

衛宮士郎は突如訪れた事態に困惑した。
それは距離にして約10メートル先にある物である。
原因は簡単だ、巨大な三頭身人形とマネキンの首の集合体が目の前にあった。
首の集合体はいざ知らず、人形の方もデフォルメされたデザインが逆に不気味さを醸し出している。
お陰で新世界に降り立った士郎は、自分の状況を確認することも出来なかった。
「ここ――何処だ?」
人形にはを極力見ないようにして、周囲を見回す。
立ち尽くす士郎はようやく自分が繁華街の雑踏にいることに気付く。
――――何故、気付くのに時間が掛かったのか?

それは目の前の奇怪な物体だけが原因ではなかった。
人がピクリとも動いていない。
さながら映像の一時停止をしたかの様に、周囲の人々は静止している。
「どうなってんだ………」
とにかく、目の前の不気味な置物に視線を戻す。
すると、人形がいきなり口を大きく開いた。
「あいつ、動くのかよ!?」
まぁ、こんな通りの真ん中に首玉をぶら下げた人形があっても邪魔なだけだしな。
しかし、そんな事よりも遥かに驚愕の事態が起こる。


途端に周囲の人々が激しく燃え上がった。
――――おい。
燃え上がった人々はたちまち炎の塊となる。
――――どうなってんだ。
目の前の異常事態に、ただ呆然と立ち尽くす。

それは、衛宮士郎の原初の記憶。
あの大火災を思い起こす光景だった。

―――止めろ。

人々であった炎の先端が怪物の口に吸い込まれていく。
それは掃除機のスイッチを入れて、塵を吸い込んでいる様に似ていた。
だが、今、あの口が吸っているのは塵じゃない。

―――ヤメロ。

あれはさっきまで人間だった炎だ。
これは、食事じゃないか。
食べやすい形に変えて、体内に取り込む。
これのどこが食事じゃないのだろうか。
そして俺は理解した。

こいつらは―――敵だ。

「やめろ――――ッ!」
たまらず走り出す。
走りながら、魔術回路を起動。
冗談じゃない。
これ以上、俺の目の前で人を殺されてたまるか。
そんな士郎に気付いた怪物がこちらを向く。
驚いた事に、こいつらは二体とも生き物だったらしい。

先に人形が首を傾げた。
「ん~? なんだこいつ」
行いはともかく、声は見かけ通り子供のような声だ。
首玉が女の声でそれに続く。
「さあ? 御『徒』ではないみたいね」
「でも、封絶のなかで動いてるよ」
目の前に到達した所で停止。
殺気を込めて睨み付ける。
「『ミステス』…それも飛びきりの変わり種ということね。久しぶりの嬉しい手土産に、ご主人様もお喜びになられるわ」

戦闘体勢を整える。
それより、俺を見て何か言っていたな。
ミステス?
聞いた事もない単語だ。

だが、今はそんな事はどうでも良い

「やったぁ、僕達お手柄だ!」
人形が大足を一歩踏み出す。

―――さぁ、来い。
あの歩幅だ、もう二歩で俺の間合いに入る。


人形は士郎目掛けて走り寄ってきた。
二歩目が地面に着くまでが勝負。
奴に三歩目はない。
即座に士郎は『投影』の準備をする。
設計図は作成済みだ。

「―――投影」

後は魔力を流し込めば投影は完了。
数瞬後には、陰と陽の愛刀とご対面だ。

「―――開始」

―――ッ!?
魔力の潤滑が遅い。
投影が間に合わない―――。

「掴まえたぞぉ!」
視界を覆うような腕に、腹を掴まれる。
これで動きが封じられた。
それもあるが。

――なんて握力だ!?

人形の顔に似合わず、恐ろしい握力。
掴まえられたなんてもんじゃない、このままじゃ握り潰される。
「……ッ。―――投影―開…」

此処で死ぬわけにはいかない、まだこの世界に来たばかりなんだ。
それに、あんな事をする連中を生かして死ねる訳があるか!
人形は大きく口を開ける。
俺を丸々飲み込める程の大きな口だった。
「いただきまーす」

―――やられた!?
人形を睨み付けながら、己の無力さを呪う。
しかし、士郎が喰われる事はなかった。

何かが電光石火の如く人形の腕の間を通り抜ける。
次の瞬間―――。

士郎を喰らおうとした人形の腕は凄まじい勢いの剣閃に断ち切られた。

急な浮遊感。
「―――ッうギャあアぁ!」

片腕を失った人形は叫び声を上げる、その腕の切断面からは火花が飛び散っていた。
幸いにも自分を掴んでいた腕がクッションになったため、それ程の衝撃は無い。

「―――誰だ?」

起き上がる士郎の目の前には小さな背中が見えた。
しかし、内より溢れ出た力がそんな小ささを全く感じさせない、不思議な背中だった。
灼熱の赤の色の髪と黒いコートをなびかせ、袖先からは、美しい大太刀を提げた少女。
俺は昔、似たような出会いをした。
あれは、俺の人生を決める事となった、運命の夜だったな。

「どう? アラストール」
凛とした、しかし幼さを残す声に、どこからか重く低い響きの声が答えた。
「『徒』ではない、『燐子』だな」
「よくも―――、よくも僕の腕を!」
叫び声を上げて、巨大な腕が少女を叩き潰そうと振り落とされる。
この行動が人形の運命を決めたと言って良い。
全く気配を感じる事のなく初撃を入れられたのだ。
この場での撤退は英断であった筈だろう。
「潰れちゃえ――――ッ!」
しかし、人形は戦う道を選んだ。
振り落とされたその腕が少女を潰す事は叶わず、人形は足を大太刀で切り落とされる。
支えを失って倒れた人形の瞳が少女を捉えると、人形の口からは恐怖に震える声が漏れた。
「え……炎髪と………灼眼!?」
少女は大太刀を右手一本で振りかぶる。
「あ、あぁ…」
何かを言いかけていた人形の頭部を、片手切りで無造作に切断した。


人形が消滅すると、ようやく士郎は少女の顔を確認出来た。
背丈は140センチ前後、年齢は11~12才だろう。
だが、その顔にはあどけなさが微塵もなかった。
強い意志を感じさせる凛々しい表情だ。
灼熱の赤の色をした、瞳と髪をした少女には抜き身の大太刀が不思議と相応しく見える。

「助かった、お陰で命拾いをしたよ」
しかし、少女からの返事はない。
素直に礼を述べたが、聞く耳を持ってくれていない様だ。

「え~と、これ『ミステス』よ…ね?」
それは返答ではない言葉だった。
また、ミステス………か。
意味は分からないが、先ほど聞いたばかりの単語だ。
意味を聞こうとしたが、それを遮るように先程も聞こえた男の声が、少女に答える。
多分、ペンダントからの筈だ。
腹話術では……ないと思う。
と言うより、あんな声が出せる訳がない。
「うむ、姿形が変わった上、封絶の中でも動けるとは………な。よほど特異な物を蔵しているのだろう」
なに言ってんだ、と首を傾げる。
頭を整理しようとした動作だったが、結果として現状の客観視をさせる一因となった。
「―――不味い!」

首玉がこちらを目掛けて飛んでくる。
確か、人形の脇に浮いてた奴だ。

そういや、こいつの事を忘れてた。
人形が手からぶら下げてると思ってたんだが。
どうやら単独で浮いていたらしい。
その様はさながら砲弾のようだ。
だが不意打ちならいざ知らず、真っ直ぐに飛んでくる所を迎撃されない筈もないだろう。

案の定、少女の蹴りを受けた首玉は弾き飛ばされて、近くのレストランを粉砕する。

――――って、どんな威力の蹴りだよ。
まず、普通の人間の蹴りの威力ではない。
この子も俺と同じ側の人間なのか?
ともすれば、この威圧感も頷ける。

しかし呆気ないな。
これで終わり―――か。

少女はそのまま、土埃を舞い上げるレストランに歩き出す。
真っ二つに両断して、確実なる安全という形にするのだろう。

そうなると、ただ一人残されて非常に手持ちぶさたになる。
「止めを差した後にでも、なんとかして話を聞かないとな」

少女は何なのか。
あの人形の正体と狙い。
そして、静止しているこの空間。

訪ねなければならない事が山積みだ。

監禁生活、世界間移動、そして今の戦闘。
投影の不発原因も調べなければならない。
全く、人生で一番多忙な気がするよ。
ともかく、ようやく少しは落ち着けるか。


そこに、油断が生じた。



端から見ても呆然と立っているだけの士郎目掛けて、少女と真反対の方向から人影が飛んでくる。

無論、士郎はそれに気付かない。

人影は士郎の背中を狙い、それは完全に死角からの襲撃だった。
急な殺気に急いで振り向く―――が遅い。

あの少女の、何処か懐かしさを感じさせる戦いに安心しきったが故に生じた油断。
何やってんだ、衛宮士郎。
俺は自分で作った油断の負債を、自分の命で支払う事になるのか。

「―――――えっ?」
鋭利な刃が身体を切り裂く感触。
それは肩から腹にかけて一直線に走る。
何が起こったんだ?
直後に焼けるような痛みが身体を突き抜ける。
そこでようやく気付いた。
あ―――斬られたんだな、俺。
気を失ってしまえるなら、どれだけ楽だろう。
しかし、その度に断続的な痛みが意識を現実へ引き戻す。
後ろを向くと、少女が大太刀を握り締めていた。
斬撃の軌道の制止点、つまり俺の腹には太刀の切っ先が見える。

俺ごと切ったんだな、こいつ。
目の前では、まるで吹き出し花火の如く火花が上がっている。
火花の向こうには、腕を切り落とされた無機質な顔を苦痛に歪ませる金髪の女性がうずくまっていた。

「あんまり簡単に釣れたから、拍子抜けしちゃうわ」
少女は笑みを含ませながら言い放つ。
釣れた………ね。
そりゃ、油断していた俺が悪いんだけどさ。
それに女性は憎悪の声で答えた。

「炎髪と灼眼…アラストールの『フレイムヘイズ』……この、討滅の道具め…」

「そうよ、だからなに?」
「私のご主人様が黙ってはいないわ…」
どうでも良いことだが、使い古された文句だなぁ。
もう、痛みが色々と通り越したらしく、返って現状が面白く思えてくる。
身体を切り裂かれたのなんて、いつ以来だ?
いや、狂戦士から剣士を救った時しか経験はない筈。
と言うかそんな経験なんて、そうそう積めるものじゃない。
普通は即死ものだからな。

それが通常の人間だ。

なんだ―――これ。
いや、俺は何度も死んでいる。
死んだ経験がある。

―――考えるな。

―――カンガエルナ。

―――かんがえるな。

今は考えるな、後でゆっくり時間がある。
そうでもしないと、ここで頭が処理能力を越えてしまう。
強制終了してしまったコンピュータの様に、脳がシャットダウンされる。

「でも今は…お前のを先に聞かせて」

少女の声で現実に引き戻される。
いや、正確には刺さっていた刀が引き抜かれた感触に引き戻されたんだが。
言い終えると、少女は女性を左肩口から袈裟に切った。

女性は火花を上げて消えるが、その中から小さな人形が飛び出す。
人形の中に、人形……?
舌打ちをして人形を追撃しようとした少女に向けて、レストランで埋もれていた首玉が飛びかかる。
俺はと言うと、千切れかけた身体を支えきれずその場に倒れこんでいた。


少女は瞬時に体を返して、首玉を両断する。
首玉は真っ二つになって爆発した。
初めからそれが狙いだったのだろう、一際激しい爆風が全てを包み込む。

爆風を煙幕にし、この機に乗じて人形は何処かに逃げ去った。 
 

 
後書き
皆様、お久しぶりです。
今回は士郎とシャナの出会い、前編です。
相も変わらず、少しだけ内容に手直しを入れています。
それと元々あった話を分割して短くしてみました。

出来れば、このペースを維持して行きたい物なんですけどねー。
ストックが切れればどうなるかは分からないです、ハイ。

それでは、今回もこの辺りで。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧