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気まぐれな吹雪

作者:パッセロ
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第二章 非平凡な非日常
  46、10年ぶりの再会

見知らない、しかし居るとなんだか落ち着く場所。

そこで出会った藍色の髪の少年。

「お久しぶりです」

「……誰?」

要がそう問いかけると、少年はクフフ、と笑った。

身長が高く、恐らく年上。

そして目がオッドアイである。

生憎様、そんな知り合いは記憶にない。

「名前を言ったところで、僕が誰かなんて君には分からないでしょう。その代わり、これを返しておきます」

彼が要に向かって何かを投げる。

反射的にそれを受け取ると、それは固い何かだった。

掴んだ手を開く。

そこにあったのは、無くしたはずのハートのペンダントだった。

「何故これを」

「あなたの落とし物です」

「まさかお前、リンゴのガキ……!?」

驚いてみやると、自分を見る彼と、あの少年が僅かに重なる。

もう一度ペンダントを見ると、よほど大切にしていたのか新品同様にきれいではあったが、長い月日を思わせる何かがあった。

「あなたを探すのに苦労しましたよ。あの日は突然幼い少女に変わってしまいましたし、マフィアの力をもってしてもあなたを見つけ出すことができなかった。10年バズーカを知るまではね」

10年バズーカ。

それで要はあの日の事をふと思い出した。

突然飛ばされた、10年前のイタリアでの5分間。

「しかしこうして、10年前と変わらぬあなたと会えて、僕は嬉しいですよ」

彼は、にこりと微笑んだ。

それは、恐ろしく気持ちが悪いほどにここの風景と同調していた。

「ペンダントを届けてくれたことは感謝するが、お前は誰で、ここはどこなんだ」

「そうですね、あの日は名乗りそびれてしまいましたから。僕は六道骸です。そしてここは、僕の精神世界」

「せいしん……?」

「肉体の影響のない、精神のみが来ることのできる世界です。尤も、今の君は肉体ですが」

そして、僕があなたをここへ招きました、と骸は言った。

一方の要は、訝しげな顔をしていた。

何せ、あのチビッ子と目の前にいる彼の雰囲気が、あまりにも違うのだ。

チビッ子と云えば、さんざん睨み付けて警戒しまくっていたのと裏腹に全く殺気がなかった。

しかし目の前にいる骸は、朗らかな表情で口調も柔らかいと言うのに、絶えず鋭い殺気を放っている。

いくら彼からペンダントを返されても、あのチビッ子の面影があっても、疑わざるを得なかった。

10年で何があったのか。

そう問おうとして、要は口を閉じた。

何でも起きる。

10年もあれば、何が起きてもおかしくはない。

現に自分は、大切な人を四人も亡くし、ここまで性格が歪んでしまったのだ。

目を閉じれば瞼に映る、幼き無垢な少女は、間違いなく10年前の自分なのだ。

「目的は、なんだ」

「目的ですか? そうですね、君はボンゴレを知っていますか?」

突然何を言い出すんだ。

そう思うが、確かに知っている。

寧ろ、よく知っている。

「沢田綱吉を次期ボス候補とする、巨大マフィア」

「ええ、そうです。そして彼は君のクラスメイト」

「何だ、知ってんのかよ」

「それではもう1つ。君は彼らの仲間ですか?」

その質問に、要の眉がピクリと動く。

「はぁ? ふざけんなよ、何でオレがあんな奴らの仲間になんざならなきゃなんねぇんだ」

「では違うと」

「たりめぇだ」

すると、骸は笑った。

口許に恐ろしく綺麗な弧を描いて。

「少し僕に協力してみませんか?」

「……は?」

「僕はボンゴレの、沢田綱吉の体を乗っとるために日本へやって来ました。その一過程として、僕と契約してください」

骸が右手を差し出す。

どこからか藍色の霧が集まり、彼の手の中で三叉槍を成した。

その切っ先が要に向けられる。

「おいおい待てよ。何だよ契約って。それと沢田がどう繋がる?」

「ボンゴレの体を乗っとるのに駒はいくつあっても余りませんから。言い換えるなら、僕の仲間になる気はありませんか、と」

微笑む骸に対し、要は苦笑していた。

その視線の先は、喉元に切っ先を向けた三叉槍。

「これを向けながら言う台詞か?」

「これは失敬」

スッと三叉槍が下げられる。

安堵の息をつく反面、要の頬を冷や汗が流れ落ちた。

「それで、仲間になったらどうなるんだ?」

「どうと言うことはないですよ。あなたを縛るわけでもない。メリットもデメリットもありませんが、強いて言うなら、身の安全は保証しますよ」

「デメリットがないなら言い。それに、てめぇの命はてめぇで守る」

「おや、女子の割りに格好いい台詞を吐くじゃないですか」

その言葉を、要は鼻で笑った。

分かりきっているだろう、そう言うように。

対する骸も、小さく笑った。

分かっていますよ、そう言うように。

「してやるよ、契約とやらを」

「ありがとうございます」

次の瞬間、要の腹部に、深々と三叉槍が突き刺さっていた。  
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