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遊戯王GX ~水と氷の交響曲~

作者:久本誠一
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ターンEX-2 鉄砲水ともう一つの『真紅』

 
前書き
慣れないことに手を出してみました回。人数が増えると表現も難しい。 

 
『………クソッ』

 保健室の一角、窓際に位置するベッドの一つ。さっきまでは見舞い客たちでにぎわっていたそこも、今では鮎川先生に消灯時間の関係で追い出されたため誰もいない。だが、それは精霊の見えない人間が見た時のこと。見るものが見れば見えただろう、シャーク・サッカーを肩に張り付かせてベッド際にたたずむ一人の少年の姿を。
 そんな彼の背に、どこからともなく言葉がかけられた。

『貴方のせいではない。私が、もっと強ければ!五千年前と何も変わらない!自分と契約した人間一人も勝たせることができなくて、何が神だ……!』
『………いやチャクチャル、気持ちはありがてえけどそうじゃない。あの手札じゃ他に発動できるカードもなかったし、あのデュエルにミスはどこにもなかった。ただ、勝てなかっただけだ』
『…………ああ、そうだな。すまないな、柄にもなく取り乱してしまって』

 その言葉を合図にしたかのように、再び部屋を沈黙が支配する。その空気を最初に破ったのは、今度はユーノだった。

『なあチャクチャル、こーゆーのはお前の専門だろうから聞いておくけどよ。………こいつの、清明の魂は今どうなってんだ?』

 清明が今昏睡状態なのは、闇のゲームによって魂を抜かれたから。このまま植物状態の寝顔を見ていても回復の見込みがないが、それは裏を返せば魂さえ戻ってきたらすぐに目を覚ます、ということでもある。そして、そんな方法があるんだとすればそれを知るのは闇のゲームを仕掛ける側でもある地縛神をおいてこの中にはいない。そう思っての質問をしかけたが、返ってきたユーノの予想の斜め上を行く答えに驚いて聞き直している。

『それができるようなら私が自力で地獄の底からでも引きずり出している。ただ、妙な点がある。私の心当たりのある世界すべてを回ってみたが、どこにも清明の魂がいない』
『魂がいない?』

 さっぱりわからない、といったユーノの顔を見かねてより詳しい説明に入っていた。

『そうだな、では最初から説明しよう。まず闇のゲームだが、これに負けて魂が抜けたからといって全てのパターンでそれがその場で消滅するわけではない。抜き取ったうえで一時保管し、その後は勝者の勝手というのが基本だ』
『何それ初耳』
『ふむ、少し性質は違うがあのアニメで未来の私が負けた時も私召喚のため生け贄になった魂が元に戻っていただろう。あれと似たようなものだ』
『なるほど納得。ってことは、まだ希望はあるってことか』

 そういうことになるな、と返すチャクチャルア。だがそのあとにただ、と暗い声で付け加えた。

『その肝心の魂がどこにいるのかがさっぱりわからない。どこを探っても痕跡すら見つからないのは初めてだ。………それが分からない限り、何もできることはない』
『難しい話は俺にはよくわからんが、とにかく何かが変なんだな?つまり、もう一人ぐらい黒幕がいると』
『その可能性は極めて高い。が、よほどうまく隠れているようだな』
『なるほど……どこからどうあたってけばいいのかもわからんが、とりあえず動いてから考えるかね。悪いチャクチャル、デュエルディスク持ってたいから俺も実体化させてくれ』

 ああ、と言って数秒後。そこには、久しぶりに肉の体を持ったユーノが立っていた。そしてベッドのわきの机に置いてあった清明のデュエルディスクとデッキを腕に装着し、精霊軍団を中にひっこめさせると最後にもう一度だけ清明の方をちらっと見て忍び足で部屋を出て行く。
 と思ったら、数秒もしないうちに部屋に戻ってきた。ただし今度の人数は一人ではなく、二人である。三人目の少年と寝かされている清明の間に立ちふさがるような位置をとったユーノが、警戒しながらもふてぶてしく笑ってみせた。

「随分とひっさしぶりじゃねえか、富野さん?」

 そこにいたのは富野……『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を軸とした所謂ジャックデッキの使い手であり、元転生者であり現転生者狩りの一員でもある。一度ユーノの前に敗れはしたが、ユーノ自身もあれがかなりギリギリの戦いだったことは承知している。この間は、自分の方がほんのちょっぴり運が良かっただけのこと。あと挑発、つまり心理フェイズがきれいにはまったというのも大きい。そしてそれが二度続く保証は、どこにもないのだ。もっとも、そう思っていることなどおくびにも出さないのだが。
 おそらくあの時のリターンマッチに来たのだろう、とユーノは踏んでいる。だとしたら、せめて清明だけでも守りきらねばなるまい。そう決意を固めたところで、ぽつりと富野が口を開いた。

「まず一つ言っとくが、俺はお前のことが大っ嫌いだ」
「じゃあ帰れよ。素敵かどうかは知らんけど、とりあえず出口はあっちだぜ?」

 お互いに敵意丸出しの、愛想なんて欠片もない会話。だが、少なくとも話をする余地はあるらしい。そう判断したユーノはベッドの端によっこらせと偉そうに腰掛け、それで?と言いたげに富野の顔を見て話の続きを促す。

「………今日は、お前と取引しに来た」
「そりゃまた随分な話だこって。ま、とりあえずはよ続き」
「俺とタッグを組んで、ある奴をデュエルでぶちのめしてほしい」
「はあ!?」

 これにはユーノも意表を突かれ、ずっこけてベッドからずり落ちそうになった。さっきのチャクチャルアとの会話といい今日は意表のつかれっぱなしだ、と心の中でぼやきながら尻もちをつく寸前にかろうじて体勢を立て直し、自分の耳がおかしくなったのかと割と本気で心配しながら聞き返す。

「おいちょーっと待て。つまりあれか、哀れな仔羊であるわたくしめにどうか力を貸してくださいユーノ様よろしくお願いしますなんでもしますからと、つまりお前はそう言いたいんだな?」
「言いたくない。そもそもお前に拒否権があるはずないからなバーカ」
「………何?」

 その含みのある言い方に、何か自分にとってよからぬものを感じ取るユーノ。その後彼が口にした取引の条件は、ユーノの顔色を一発で変えさせるに十分なものだった。

「この取引を受けた場合、今からぶちのめしに行くやつが持ってるお前の相方の魂はお前の好きにさせてやるよ」
「話は聞いてやるからさっさと全部吐け」

 悔しさのあまり歯を食いしばりながら声を絞り出す。清明の魂がかかるとあらば断わるなんて選択肢はない、ユーノがこの取引で完全敗北した瞬間であった。それから場所を移すからついて来いと言われ連れ立って歩きながらおおよその話を聞く。なんでも、そのぶちのめしたいデュエリストは元々彼と同じ転生者から転生者狩りになったクチらしいのだが、どうにも暴走気味なうえに仕事が雑で富野とは徹底的に気が合わなかったらしい。

「もちろん、俺はお前の方が嫌いだがな。目くそ鼻くそ程度の違いだが」
「うるせ」

 そしてあの日、富野がユーノとのデュエルに負けて帰った日に事件が起きたらしい。

「………あいつがケンカ売ってきてな。負けたんだよ、後攻ワンキルされて」
「ふんふん」

 いつものノリでざまーみろ、と言いかけていた自分を慌てて抑えるユーノ。何しろまだ情報が足りなすぎる、不用意な挑発はしないが吉だろう。その思いを知ってか知らずか、彼の話は続く。
 ………そこまではよかった。そいつの腕が立つことは彼だってわかっていたし、自分の方が弱いという自覚もあったからまだ割り切ることもできた。だが、その後の行動が問題なのだという。

「あの野郎、そこで調子に乗っちまって転生者狩りの仕事を辞めて逃げ出しやがったんだ。それも、かなり最悪な方向にな」
「最悪?俺にしてみりゃお前らは全員こっちが必死に毎日生きてんの邪魔してくる悪趣味野郎の集まりだけどな。あ、俺はもう死んでっけど」
「アホ。俺らは転生者を倒して世界を元に戻した後、そいつの魂はちゃんと元いた世界に返してやってるんだよ。だけどあいつの場合、何をとち狂ったのか仕留めた魂を片っ端から潰し始めてな?」

 魂を潰す。つまり、存在の完全な消滅だ。正直これまでが専門的な話しすぎて今一つついていけなかったユーノも、その物騒な響きには眉をピクリと動かした。それを知ってか知らずか、富野の言葉は続く。

「お前なんぞにあんまり詳しいことまでしゃべるつもりはねーから適当にはしょるけどよ、たまたまお前らがラビエルと相打ちになったとこに居合わせたんだろうな。お前の半分のやつの魂が体から抜ける寸前にそれをやつが回収して、その時の反応を見つけた俺が場所を特定してここまで追っかけて来たわけだ。正直あいつには俺一人じゃ勝てる気がしねえが、お前程度ならギリギリ俺の足を引っ張ることもなく肉壁ぐらいにはなってくれそうだからな。せいぜい時間稼げよ、その隙に俺が止めさすから」
「おいちょっと待てコラ!」
「お、見つけた。あれだ、あの金髪」

 認めてるんだか認めてないんだかわからない散々な言いように文句を言いかけた時、富野が不意に目の前の崖を指さした。

「なるほど確かに金髪だ」

 生前から英語は苦手なので金髪を見ただけでちょっと帰りたくなっていたりする。

「落ち着け、日本人だバカ。………おいてめぇ、よくも俺のレッド・デーモンズを侮辱しやがったな!あの時の借りを返しに来たから勝負しろ!」
「あらら、富野センパイってばもう追いかけてきちゃったの?で、そっちの男の人が助っ人?ふーん。あ、申し遅れたけど僕の名前は遊。遊戯王の遊って書いて(あそぶ)ね。ここで死んでもらうから短い付き合いにしかならないだろうけど、とりあえずよろしく」
「………なあ富野」
「なんだ」
「…………お前、ほんっとにあんなチャラそうな奴に負けたのか?」

 物騒なセリフはガン無視することにして、見た目の印象だけで聞くことにしたらしい。

「あの男は見た目で判断しない方がいいぞ。あんな人畜無害そうな顔でも中身はとんでもない化け物だし、腕だって立つ。そもそも、あいつがなんで転生者から転生者狩りになったかってーとだな。あいつ、転生した世界で闇のゲーム仕掛けまくって登場人物を原作主要キャラからモブに至るまで全滅させて世界ひとつぶち壊しちまったんだよ」
「はあ!?そんなことできるもんなのか!?だいたい……」

 いくらなんでもこれだけは嘘だろうと思って何か言おうとしたが、その声は当の本人に遮られた。

「ねえねえー、お二人さん。いいから早く始めようよー。バトルロワイヤルルールでいいからさ」
「ちっ、しょうがねえ!話は後だ、始めるぞ!」

「「「デュエル!!」」」

「あはは、先行は僕ねー。ドローして、神機王ウルを召喚!さらにカードをセットしてターンエンドっと」

 神機王ウル
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1600/守1500
このカードは相手フィールド上に存在する全てのモンスターに
1回ずつ攻撃をする事ができる。
このカードが戦闘を行う場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。

「ウル……何をたくらんでやがる?俺のターン、ここは様子見が無難か。手札断殺を発動、さらにオーロラ・ウィングを守備表示で召喚。これでターンエンド」

 オーロラ・ウィング 守1600 攻1200→800

「最後は俺のターン!最初から飛ばしていくぜ、融合を発動!手札のビッグ・ピース・ゴーレムとスモール・ピース・ゴーレムを融合して、融合召喚!来い、マルチ・ピース・ゴーレム!」

 マルチ・ピース・ゴーレム 攻2600→1900

 バトルロイヤルルール。タッグデュエルのようにチームを組んで戦うのではなく、1VS1VS1VS……の形で行われるデュエルの形式の一つである。主な特徴としてすべてのプレイヤーが最初のターン攻撃宣言を行えず、全フィールドに影響を与える大嵐などのカードはすべてのプレイヤーが効果を受ける、などがある。自分の身を守りながら相手が潰しあうのをやり過ごして満身創痍の勝者を倒す、全力で攻め込んで二人まとめて力押しで行く、事前にチームを組んで2対1の戦いに持っていく……かと思いきや同盟相手に裏切られて大ピンチになるなど、デュエリストの個性によってその戦法も様々な試合方法は、決してメジャーではないもののタッグデュエルと並び常に一定の人気がある。
 今回は、遊とユーノが手札を温存したのとは対照的に富野がいきなり全力で動く結果になったようだ。

「さらにレベル1のチューナーモンスター、ダーク・スプロケッター召喚!レベル7のマルチ・ピース・ゴーレムに、レベル1のダーク・スプロケッターをチューニング!赤き王者が立ち上がる時、熱き鼓動が天地に響く。防御に回る臆病者に、生きる価値など欠片もない!シンクロ召喚!叩き潰せ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」
「おいおい、また初手でそれかよ……」

 ダーク・スプロケッターが勢いよく伸ばした歯車のチェーンが岩石の巨人をギリギリと締め上げ、2つのモンスターが溶け合うように合体して赤黒い悪魔の竜がさっそうと登場する。

 ☆7+☆1=☆8
 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000

「この間の礼はたっぷりしてやるぜ、遊!」
「へぇー、すごいすごい」
「カードを伏せるぜ。俺は、これでターンエンドだ」

 遊 LP4000 手札:4
         モンスター:神機王ウル(攻)
          魔法・罠:1(伏せ)

 ユーノ LP4000 手札:4
           モンスター:オーロラ・ウィング(守)
           魔法・罠:なし

 富野 LP4000 手札:1
          モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン(攻)
          魔法・罠:1(伏せ)

「それじゃあー、僕のターン!さあ、攻撃始めるよー。金華猫を召喚して、効果発動!このスピリットモンスターは召喚に成功した時、レベル1モンスターを墓地から特殊召喚できるんだよねー。猫さんすごい!というわけで、レベル1チューナーのバリア・リゾネーターを召喚してそのままシンクロ召喚!レベル1の金華猫に、レベル1のバリア・リゾネーターをチューニング!怪しく揺らめく紫色が、世界に静かに火を放つ。シンクロ召喚、焔紫竜ピュラリス!」

 ☆1+☆1=☆2
 焔紫(ほむら)竜ピュラリス 攻800

「そしてレベル4のウルに、レベル2シンクロチューナーのピュラリスをチューニング!静かに輝く青色が、天の牙となり地を砕く。シンクロ召喚、天狼王 ブルー・セイリオス!」

 ☆4+☆2=☆6
 天狼王 ブルー・セイリオス 攻2400

「と、ここでピュラリスの効果発動~。このカードは墓地に送られた時、相手の場のモンスター全員の攻撃力を強制的に500ポイント下げまーす!」

 セイリオスがピュラリスと同じ紫色の火炎を吐き、その炎がフィールドのすべてを舐めつくすように広がっていく。モンスターを破壊するほどの熱さはないそれも、火傷を負わせ集中力を削ぐには十分な威力を持っていたようだ。

 オーロラ・ウィング 守1600 攻1200→700
 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→2500

「へっ、それでもお前のモンスターごときじゃ俺のレッド・デーモンズには勝てねえなあ!」
「そうだね、だからオーロラ・ウイングを攻撃!天狼蒼牙(ウルフズ・ファング)!」

 天狼王 ブルー・セイリオス 攻2400→オーロラ・ウイング 守1600(破壊)

 ブルー・セイリオスが青い閃光となってフィールドを走り抜け、オーロラ・ウィングの体を噛み千切る。だが、そのまま光になって消えていったかと思われたその体はまさに掴みどころのないオーロラのようにゆらゆらと揺れて、また元の鳥の姿に戻った。

「オーロラ・ウィングは戦闘破壊された時、1ターンに1度だけ自分を表側攻撃表示で蘇らせる………今の攻撃は無意味だぜ」

 オーロラ・ウィング 攻1200

「無意味?確かにそうかもねー。カードを2枚セットしてターン終了だね」
「否定しないことが余計不気味だな………ドロー、チューナーモンスター、竜宮の白タウナギを召喚!さらに水属性モンスターのオーロラ・ウィングをリリースすることで、シャークラーケンを手札から特殊召喚!レベル6魚族のシャークラーケンに、レベル4のウナギをチューニング!山をも砕くその牙で、海を蹴散らすその爪で!地鳴りとともに駆け抜けろ、シンクロ召喚!神樹の守護獣-牙王!」

 一瞬にして並んだ2体の魚族モンスター。そのうち片方が4つの緑色の輪になり大きいほうを包み、鎧を装備したライオンにも似た獣が一声吠える。牙王、攻撃力3100を誇る高レベル縛りなしシンクロの中でも抜群の安定感を誇るモンスターである。

 ☆6+☆4=☆10
 神樹の守護獣-牙王 攻3100

「牙王、行くぜ!ブルー・セイリオスに攻撃!」

 轟、と音がした。たったそれだけで、狼の王たるセイリオスは破壊された。あまりのスピードでの攻撃なため、いつの間に何発の爪を、牙を叩き込んだのかすら誰にもわからなかったのだ。もしかすると、当のセイリオスにもわからなかったのかもしれない。

 神樹の守護獣-牙王 攻3100→天狼王 ブルー・セイリオス 攻2400(破壊)
 遊 LP4000→3300

「うわわっ!だけど、セイリオスはただじゃあやられないんだよ。このモンスターは破壊されて墓地に送られた時、相手モンスター1体の攻撃力を2400下げる!僕はこの効果でねー」
「先に言っとくが、今はまだバトルフェイズ中だ。そして牙王は俺のメイン2にならない限り、あらゆる相手カードの効果の対象にならない効果もちだからな」
「わかってるよ、うっとうしい耐性だなあ。レッド・デーモンズにさらに弱ってもらおうかな、蒼天昇牙(ブルー・サブレイメイション)~」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻2500→100

「ああー!テメー、俺のレッド・デーモンズに何しやがる!攻撃力もう100しかないじゃねえか!」
「うるせバカヤロ、さっさとスカーレッドに進化させりゃいいだけの話じゃねえか!そうでなきゃこっちだってお前に押し付けたりはしねえよ!」
「それができるんなら苦労しねえわあぁぁぁっ!」
「事故ったんだな!?事故ってるんだな!?そんなことで威張るんじゃねえよ!」
「おもしろーい!もっとやってよ、待っててあげるからさ!あ、その前にトラップ発動ね。奇跡の残照!さあもっと働けセイリオス、ハリィ、ハリィ!」

 奇跡の残照
通常罠
このターン戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた
モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。

 天狼王 ブルー・セイリオス 攻2400

 ギャーギャーとみにくい罵り合いを始めた二人だが、その様子に腹を抱えてケラケラと子供のように笑いながらもちゃっかりセイリオスを復活させる遊を見ていっぺんに富野の怒りがマックスに達したらしい。もはや喋る余裕もないのか真っ赤な顔で無言のままカードをデッキから引き、乱暴に魔法・罠ゾーンに差し込んで発動する。どれどれとそのカードを見た清明が、げげぇ!と驚愕の声を上げた。

「ちょ、お前、ここでブラホとか牙王まで死んじまうだろうが!」

 だがもう遅い。ブラホ………本名ブラック・ホール。効果は単純明快な、フィールド上のモンスターをすべて破壊する。確かに自分の場のモンスターも巻き込む効果を持つこのカードならばセイリオスの効果を無駄打ちさせることはできるのだが、ユーノが召喚した牙王の効果はあくまで効果の対象にならないのみ。対象をとらない破壊にはとことん脆いのだ。フィールドの中心にぽっかりと真っ黒な穴が開き、その中心に向けてすべてのモンスターが引きずり込まれていく。セイリオスが、そして牙王が抵抗むなしく引きずられる様子を見て少し気分が落ち着いたらしく、今度は富野もきちんと伏せカードの発動を宣言した。

「これで少しはすっきりするぜ!さらにチェーンしてトラップ、バスター・モード!このカードは俺のシンクロモンスターをリリースすることで、そのカード名を含むバスターモンスターをデッキから特殊召喚する!そして対象は当然、俺のレッド・デーモンズだ!来い、レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター!!」

 一度はほかのモンスターともどもブラック・ホールの中に吸い込まれたかに見えたが、その一瞬前に真紅の鎧を装着して飛翔力が上がり、圧倒的な重力を振り切って飛び出したレッド・デーモンズ・ドラゴン。だがその鎧は、ブラック・ホールが消滅するのと同時にすうっと消えさった。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000

「ようやくダメージが消えたな、レッド・デーモンズ!バスターモンスターは破壊された時、墓地から素材になったシンクロモンスターを特殊召喚する効果があるんだよ!遊、お前はここで潰す!灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」

 レッド・デーモンズ・ドラゴンが大きく息を吸い込み、必殺のブレスを放つ。だがその炎は、突然地中から生えてきた巨大な岩石の腕によって遮られた。

「トラップ発動、ピンポイント・ガード~。戻っておいで、ピュラリスちゃーん」

 ピンポイント・ガード
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時、
自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはそのターン、
戦闘及びカードの効果では破壊されない。

 焔紫竜ピュラリス 守1400

「攻撃しても戦闘破壊できない、おまけに効果使ってもダメ。どうすりゃいいってんだよ!」
「とりあえず俺の牙王返せ馬鹿!」

 遊 LP3300 手札:2
         モンスター:焔紫竜ピュラリス(守)
          魔法・罠:1(伏せ)

 ユーノ LP4000 手札:3
           モンスター:なし
           魔法・罠:なし

 富野 LP4000 手札:0
          モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン(攻)
          魔法・罠:なし
 
「ふふふ、ドロー!手札の灰塵王アッシュ・ガッシュを召喚、そっちのおにーさんに攻撃!」

 灰塵王アッシュ・ガッシュ 攻1000→ユーノ(直接攻撃)
 ユーノ LP4000→3000

 ついに通ったユーノへの初ダメージ。ライフの4分の1を削る一撃に多少顔をしかめるが、まだまだ闘志は消えていない。とはいうものの、アッシュ・ガッシュには効果があるのだが。

「アッシュ・ガッシュが相手に戦闘ダメージを与えた時、このカードのレベルは1アップするよ~。メイン2、永続トラップのシェイプシスターを発動!」

 シェイプシスター
永続罠
このカードは発動後モンスターカード
(悪魔族・チューナー・地・星2・攻/守0)となり、
モンスターカードゾーンに特殊召喚する。
このカードは罠カードとしても扱う。
「シェイプシスター」は1ターンに1枚しか発動できない。

「レベル4から5になったアッシュ・ガッシュにレベル2チューナーのシェイプシスターをチューニング!天頂佇む白色が、穢れた地上に裁きを下す。シンクロ召喚、天刑王 ブラック・ハイランダー!」

 大鎌を手にした黒白の死神が、夜空のてっぺんで急に輝いた北斗七星から舞い降りてきた。その効果は、富野もユーノもよく知っている。ゆえに二人とも渋い顔だが、正直ユーノはエクシーズ召喚主体かメインデッキオンリーで戦う作戦に切り替えればいいだけであり富野も今いるレッド・デーモンズだけである程度やっていけるようなデッキ構築なのでダメージそのものはそこまでなかったりする。

 ☆5+☆2=☆7
 天刑王 ブラック・ハイランダー
シンクロ・効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻2800/守2300
悪魔族チューナー+チューナー以外の悪魔族モンスター1体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いにシンクロ召喚をする事ができない。
1ターンに1度、装備カードを装備した相手モンスター1体を選択して発動する事ができる。
選択したモンスターに装備された装備カードを全て破壊し、
破壊した数×400ポイントダメージを相手ライフに与える。

「カードを伏せてターンエンドだよ。さあ、せいぜいあがいて見せてよ!」
「上等だな、俺のターン!ドリル・バーニカルを召喚、手札のアクア・ジェットを発動!これが俺のマジックコンボだ!」

 ドリル・バーニカル 攻300→1300

「そしてドリル・バーニカルの攻撃!こいつは相手に直接攻撃することができ、さらにその攻撃が通るたびに攻撃力が1000ポイントアップする効果もちだ、ドリルアタック発射!」

 ドリル・バーニカル 攻1300→遊(直接攻撃)
 遊 LP3300→2000
 ドリル・バーニカル 攻1300→2300

「カードを伏せて、と。これでターンエンドだ」

 エクシーズ召喚も狙うことができる手札だったが、あえて直接攻撃できるドリル・バーニカルを強化してダメージ優先の戦法をとるユーノ。自分の判断が間違っていないことを祈りつつ、富野にターンを譲り渡した。さっきみたいな真似を勝手にされたらかなわないのでちょっと不安はあるが、まさか攻撃力が3000に戻ったレッド・デーモンズがいるのに無茶はしないだろうと踏む。どの道、今伏せたカードでは彼には見ていることしかできないのだが。

「まず魔法カード、紅蓮魔竜の壺を発動!俺の場にレッド・デーモンズがいる時、次の相手ターン終了までモンスターを出すことの禁止を条件にカードを2枚ドローする!さらにもう1枚発動して2枚ドロー、そのままバトルだ!ブラック・ハイランダーを焼き尽くせ、灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」
「攻撃するんだ。じゃあトラップ発動~、ラララ火霊術、紅~。炎属性モンスターのピュラリスをリリースして、その攻撃力800のダメージを、じゃあそっちのおにーさんに与えようかな~」

 半ば歌うように発動したカード。その効果を受けたピュラリスが、紫の火の球になってユーノに突っ込んできた。

 ユーノ KP3000→2200

「って俺かよ!熱っ」
「それでピュラリスの効果、相手のモンスターは全員弱体化ね~」

 またもや広がる紫色の炎が、ドリル・バーニカルとレッド・デーモンズを包み込んでバランスを崩させる。しまった、と力なく富野がつぶやいたが、もう遅い。今はバトルフェイズ中であり、攻撃宣言は既に済んでいる。威力の弱まったブレスをなんなく鎌で弾いたブラック・ハイランダーが、逆にレッド・デーモンズの首を跳ね飛ばした。

 ドリル・バーニカル 攻2300→1800
 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→2500(破壊)→天刑王 ブラック・ハイランダー 攻2800
 富野 LP4000→3700

「お、俺のレッド・デーモンズ・ドラゴンがまた………カードだけ伏せるぜ………」
「何ぼさっとしてやがる、次が来るぞ!」

 これで終わりではない。次は、遊のターンなのだ。だが、自分のエースがまたしても何もできなかったショックに呆然としている富野にその声は届かない。というところで全員の3ターン目が終了した。

 遊 LP2000 手札:1
         モンスター:天刑王 ブラック・ハイランダー(攻)
          魔法・罠:なし

 ユーノ LP2200 手札:1
           モンスター:ドリル・バーニカル(攻)
           魔法・罠:1(伏せ)

 富野 LP3700 手札:2
          モンスター:なし
          魔法・罠:1(伏せ)

「さあ、行っちゃえ~!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のバリア・リゾネーター、金華猫、神機王ウル、アッシュ・ガッシュ、セイリオスをデッキに戻して2枚引いて~、破天荒な風を発動してブラック・ハイランダーのパワーをさらにアーップ!」

 破天荒な風
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力・守備力は、
次の自分のスタンバイフェイズ時まで1000ポイントアップする。

 天刑王 ブラック・ハイランダー 攻2800→3800 守2300→3300

「直接攻撃、死兆星斬(デス・ポーラ・スレイ)~!」
「ったく、今回だけだぜ?トラップ発動、ポセイドン・ウェーブ!その攻撃は俺が無効にして、さらにダメージを受けてもらう」

 大上段に振りかぶった大鎌を叩き付けようとした死神の攻撃は、すんでのところで横から飛んできた大波によって阻まれる。水圧に吹き飛ばされたブラック・ハイランダーが、遊の場に落下したのを見て危なかったな、とひそかにほっと息を吐くユーノ。ドリル・バーニカルがいることでダメージも与えられたし、まあ悪い結果ではないだろう。

 遊 LP2000→1200

「ば、馬鹿かお前!たった1枚しかない伏せカードこんなとこで使ってんじゃねーよ!」
「はぁ!?このやろ、人がたまに助けてやったんだからそこは土下座して俺の慈悲深さに感謝するとこだろーが!態度がなってねえな態度が、親の顔が見てみたいぜ。そもそも別にお前のためじゃない、1対1より2対1のほうが楽だから生かしておいてやってんだよ!」

 どちらもわかりやすいツンデレだった。

「むー、いいよ、カードを伏せてターンエンドしても」
「俺のターン!通るとは思えんがやるしかないな、ドリルアタック第二波!」
「当然通さないよー。手札から効果発動、護封剣の剣士!」

 護封剣の剣士
効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻 0/守2400
相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
さらにこのカードの守備力がその攻撃モンスターの攻撃力より高い場合、
その攻撃モンスターを破壊する。
また、フィールド上のこのカードを素材として
エクシーズ召喚したモンスターは以下の効果を得る。
●このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

「バーニカルの攻撃力は1800……すまん、バーニカル!メイン2に手札のゼンマイシャークを召喚、さらに水属性モンスターのゼンマイシャークがいることで手札のサイレント・アングラーを特殊召喚!そしてレベル4のゼンマイシャークとサイレント・アングラーでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。魂揺さぶるオーケストラが、海を渡って世界に響く!エクシーズ召喚、交響魔人マエストローク!」

 ☆4+☆4=★4
 交響魔人マエストローク 守2300

 小さな悪魔の角が生えたデザインの帽子をかぶる指揮者、マエストロークが指揮棒を構える。一度だけユーノがエクストラデッキへの存在を言及したことこそあるが、この世界で実際に登場するのはこれが初である。その効果は、自分が攻めるよりむしろ仲間のサポートに向いた能力である。

「マエストロークは1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで相手モンスターを裏守備にできる!ディミニエンド・マーチ!」

 交響魔人マエストローク(2)→(1)
 天刑王 ブラック・ハイランダー(攻)→???(伏せ)

「俺はこれで、ターンエンドだ。次は任すぜ、富野!」
「………お、俺に命令すんな!ドロー、リビングデッドの呼び声を発動!不屈の王者よ蘇れ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!さらに、手札のダーク・リペアラーを通常召喚だ」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000
 ダーク・リペアラー 攻1000

「バトルだ、レッド・デーモンズ・ドラゴンで裏側になったブラック・ハイランダーを攻撃!今度こそ燃やし尽くせ、灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→??? 守2300(破壊)

「さらにこの瞬間、レッド・デーモンズの効果発動!守備表示のモンスターに攻撃したことで、守備表示になっている護封剣の剣士も破壊する、デモン・メテオ!」

 ブレス攻撃でセット状態のブラック・ハイランダーを今度こそ破壊したレッド・デーモンズ・ドラゴンが、間髪入れずに太い腕を振るって護封剣の剣士を力技で叩き潰す。そして一瞬で2体のモンスターが消し飛んでがら空きになったフィールドに、もぞもぞと這うように動く昆虫のような悪魔が後ろ足で持つ包丁で切りかかった。ちなみにその陰でレッド・デーモンズ・ドラゴンの吐くブレスの余波を受けたマエストロークは自身のもう一つの効果により、エクシーズ素材を使うことで破壊を無効にし、ちょっと焦げた服を気にしていた。

 交響魔人マエストローク(1)→(0)

「ダーク・リペアラーで、ダイレクトアタック………!」

 ダーク・リペアラー 攻1000→遊(直接攻撃)
 遊 LP1200→200

「よっしゃあ、どうだ!カードを伏せるぜ!ざまーみやがれってんだコノヤロー!」

 遊 LP200 手札:0
        モンスター:なし
        魔法・罠:1(伏せ)

 ユーノ LP2200 手札:0
           モンスター:交響魔人マエストローク(守・0)
           魔法・罠:なし

 富野 LP3700 手札:1
          モンスター:レッド・デーモンズ・ドラゴン(攻・リ)
                ダーク・リペアラー(攻)
          魔法・罠:リビングデッドの呼び()
               1(伏せ)

「へえ、少しはコンビプレーするようになってきたんだ………いいねいいねいいよいいよ、そうこなくっちゃ!本気を出してあげるよ、ドロー!まずは魔法カード、貪欲で~、無欲な壺をはっつどう~。墓地から戦士族の護封剣の剣士、悪魔族のブラック・ハイランダー、爬虫類族のピュラリスをデッキに戻して、またまた2枚ドロ~」

 貪欲で無欲な壺
通常魔法
メインフェイズ1の開始時に自分の墓地から
異なる種族のモンスター3体を選択して発動できる。
選択したモンスター3体をデッキに加えてシャッフルする。
その後、デッキからカードを2枚ドローする。
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

「相手の場に同じ属性のモンスターが2体以上いるとき、このカードは特殊召喚できるからね。今の富野、お前の場には闇属性モンスターが2体。来なよ神禽王アレクトール!」

 神禽王アレクトール
効果モンスター
星6/風属性/鳥獣族/攻2400/守2000
相手フィールド上に同じ属性のモンスターが表側表示で2体以上存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択する。
選択されたカードの効果はそのターン中無効になる。
「神禽王アレクトール」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

「そして忘れちゃならない通常召喚、金華猫さん再び参上~、効果を使って墓地のレベル1チューナー、チェンジ・シンクロンを特殊召喚だよー。シンクロ召喚、焔紫竜ピュラリスっ!」

 ☆1+☆1=☆2
 焔紫竜ピュラリス 攻800

「レベル合計8……まずい、奴のエースモンスターが出るぞ!」
「ごめいさーん!さすがに一回やられてるからわかるかな?レベル6のアレキトールに、レベル2のピュラリスをチューニング!圧倒的な黒色が、世界の色を塗りつぶす。シンクロ召喚、琰魔竜 レッド・デーモン!!」

 レッド・デーモンズによく似たシルエットのドラゴン。だがこちらは本家よりも筋肉質な体をしており、より黒の強いカラーリングも相まってさらに凶悪な印象を与える姿をしている。

 ☆6+☆2=☆8
 琰魔竜 レッド・デーモン 攻3000

「貪欲で無欲な壺のデメリット効果があるから、このターン俺らが攻撃されることはない。けど……」
「けど、このモンスターには効果がある!1ターンに1度、このカード以外の場に表側攻撃表示で存在するモンスターをすべて破壊する!真紅の地獄炎(クリムゾン・ヘル・バーン)!」

 大地に足をつけてしっかりと踏ん張り、地面に向かってブレスを浴びせかけるレッド・デーモン。その地獄の炎は瞬く間にフィールド全体を覆い尽くし、レッド・デーモンズ・ドラゴンとダーク・リペアラーを焼き尽くした。そしてその効果は、マエストロークにも及び始める。

「なんでマエストローク、お前まで……あ」
「ピュラリスの召喚に、チェンジ・シンクロン使ったでしょ~?あのカードの効果は、シンクロ素材になったとき相手モンスター1体の表示形式を変えること。守備表示じゃあレッド・デーモンの効果も届かないから、ちょーっと攻撃表示になってもらったんだ~。うん、これで全滅、さっぱりして気分がいいね」
「ダ、ダーク・リペアラーの効果発動……あのカードは墓地に送られた時自分のデッキの一番上を確認して、そのカードをデッキトップかデッキボトムに移動させられるからな、つーわけで俺はこのカードを確認するぜ、うん」

 震え声でそう言ってデッキの1番上のカードを引き抜いた富野が見せたカードは、血涙のオーガ。守備表示にすれば壁にはなるので決してどうしようもないほど悪いカードではないのだが、一発逆転のカードでもない。彼はそれを、一瞬悩んだ末にデッキボトムに戻した。次のドローカードで逆転することに全てを賭けたらしい。

「だけどまあ、俺がこのターンでこのデカブツを倒せばいいだけの話だな。ドロー!手札からアトランティスの戦士を捨てることで、アトランティスをデッキから手札に加える。さらにそのまま発動し、手札のレベル4になった深海の怒りを攻撃表示で召喚!」

 深海の怒り(レイジ・オブ・ディープシー)
効果モンスター
星5/水属性/魚族/攻 0/守 0
このカードの攻撃力・守備力は、自分の墓地の
魚族・海竜族・水族モンスターの数×500ポイントアップする。

 深海の怒り ☆5→4 攻0→3200 守0→3200

「これでジャストキルだ!深海の怒り、レッド・デーモンを攻撃!」

 これまでの戦いで墓地に落ちて行った魚たちの魂を秘めて力を上げた深海の怒りが、右手の銛を勢いよく投げつける。まっすぐ飛んで行ったそれはきれいに命中し、レッド・デーモンはどうと倒れた。……かに見えたのだが、その銛はなんとレッド・デーモンの腹に突き刺さる寸前のところでがっしりとキャッチされていた。それをゆっくりと構えるレッド・デーモンに、遊の得意げな声が重なった。

「最後のトラップ、魂の一撃を発動ー。ライフを100払って、レッド・デーモンの攻撃力を一時的に3900アップ~」

 魂の一撃
通常罠
自分のライフポイントが4000以下の場合、
自分フィールド上のモンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に
ライフポイントを半分払い、自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力は相手のエンドフェイズ時まで、
自分のライフポイントが4000より下回っている数値分アップする。
「魂の一撃」は1ターンに1枚しか発動できない。

 遊 LP200→100
 琰魔竜 レッド・デーモン 攻3000→6900

「おいおい、うそだろ……?」
「現実だよー。反撃、レッド・デーモン!極獄の絶対独断(アブソリュート・ヘルドグマ)!!」

 レッド・デーモンが深海の怒りの銛に火を吹きかけ、めらめらと燃え盛る炎の銛を投げ返した。だが、武器を持たない深海の怒りは避けきることができない。その銛が持ち主の体を貫く寸前、富野が動いた。

「さっきの借りはこれでチャラだかんな!トラップ発動、ハーフorストップ!相手のバトルフェイズ時、相手は全モンスターの攻撃力を半分にするかバトルフェイズを強制終了させるかのどちらかを選ぶことができる!さあユーノ、さっさと効果を選びやがれ!」
「へっ、味な真似してくれるじゃねえか。なら当然、バトルフェイズはこれで終了だ!」

 いきなり何の脈絡もなく地面を割って登場した………というより生えてきたジャッジ・マンが軽々と銛を掴み、一振りして火を消すと深海の怒りにそれを見せて何事か聞くそぶりを見せる。深海の怒りがこくこくと頷くと、満足げに微笑んでからそれを手渡して再び地面の中へ消えていった。

「そしてエンドフェイズ、魂の一撃の効果も消えるよなあ?」
「け、計算外だよ。まさかあの富野がこんなコンビプレーに自分から乗るようなマネをするなんてね」

 琰魔竜 レッド・デーモン 攻6900→3000

「勝手にほざいてやがれ、ドロー!手札の死者蘇生を発動、三度蘇れ、俺の相棒!」

 これでこのデュエル3度目の復活となるレッド・デーモンズ・ドラゴンが、これで終わりにしようといわんばかりに咆哮する。それに対してレッド・デーモンは、まるで面白いやってみろと言わんばかりの表情をしているかのように見えた。それを見たレッド・デーモンズの怒りは、富野にもきっちり伝わった。

「見せてやるぜ、俺の最後のモンスター!トップ・ランナー通常召喚!」

 カラフルな残像を引いて辺りを走り回る謎の走者。その姿はどこか珍妙なものだったが、あいにくと今の遊にそれを見て笑うほどの余裕はなかった。

「トップ・ランナー……その効果は確か」
「その通りだ。このカードが場にいる限り、俺の場にいるすべてのシンクロモンスターの攻撃力は600ポイントアップする!燃え上がれ、レッド・デーモンズ!!灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!!!」

 レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3600→琰魔竜 レッド・デーモン 攻3000(破壊)
 遊 LP100→0





「あ、あはは、そそそんな、あはははは…………」

 いまだに負けることが信じられない、といった様子で呆然としている遊。その様子はどこか哀れなものだったが、ユーノにとって譲れないものがかかっている以上同情するつもりはさらさらない。ソリッドビジョンが消えるのとほぼ同時に近づき、彼の胸ぐらをつかんで無言で締め上げる。と、その服の胸ポケットが不自然に膨らんでいるのが目についた。引っ張り出してみると、その中にはキャラメル箱ほどのサイズの用途不明なケース。

「富野、これ」

 いくら見てもわからないらしく、あっさり富野に渡している。だが、富野はそれを一瞥するとそのまま投げ返してきた。

「ほらよ、約束のブツだ。蓋あけるだけで中身は勝手に体に戻るぜ」
「そりゃどうも。じゃ、早速………ん?」

 蓋を開けようと手に力を込めると、富野が彼のことを見ているのに気が付いた。そのまま何か言いたそうにしているのを見て取ったユーノが、ため息を一つついて自分から適当に話を振ってみる。

「なんかまだ言いたいことでもあんのか?あ、そっちで廃人になってるのはちゃんと持って帰ってくれよ」
「そ、その……」
「なんだ違うのか。はよ言ってみろよ」
「今回は、なんだ、俺も世話になったな。だけどな、次はお前を倒す………転生者は、許さねえよ」

 そう言って遊の体を担ぎ上げるとくるりと後ろを向き、そのままどこかへ歩いて行った。おそらくシルクハットマンのいるところにでも帰るのだろう。

「ま、上等だけどな。返り討ちにしてやるぜ」

 その姿が見えなくなった辺りでぽつりと一言つぶやき、プシュッと箱の蓋を開けた。その後しばらくして植物人間状態だった清明が目を覚ましたことに鮎川先生が驚きのあまり椅子を蹴倒したり朝一番の登校前に見舞いに来ていた夢想や十代といった面々がどかどかと入ってきて保健室がカオスな状態になったりと色々あるのだが、それはまた別のお話。 
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