ソードアート・オンラインの二次創作、第三話となります。 このあたりから少しづつシリアスも混じってきます。 スキルについては独自解釈、オリジナル要素が多いので注意をお願いします。
正直壁掛けカレンダーがほしくなってきた今日この頃。
日付の感覚がよくわからん。
年取ると時間の感覚がマジでマッハだからな……。
ああ、そういえばどっかでこう聞いたことがある。
年取って日付の感覚が早くなるのは、分母が大きくなるからだって。
16年生きてるとしたら1年は16分の1、26年生きてれば26分の1。
なるほどな、と思ったよ。
まぁ、だからどうしたって話でもあるんだが……時間は待ってはくれねぇんだよ!
で、たぶん俺はここに入った時は26だったと思うんだが。
たぶんもう少しで27になっちまう。
確か、この前はハッピーニューイヤーとか騒いでるやつらがいたし。
クリスマスとかもあった気がする。
もちろん、ゲーム内でな。
俺は初めてだぜ、年末ゲームにINしたまま過ごすってのは……。
しかも初詣にも行かねぇと来たもんだ。
さらにさらに、正月だってのに餅も御節も食ってねぇ。
もっと言えば、年末年始家族と過ごさないのもこれが初だぜ。
よく言うだろ、一人暮らししても、せめて盆休みと年末年始は帰って来いって。
いやあれね、若いうちはマジで気づかないし面倒だと思うけど。
ちょっとこの歳になるとわかってくるんだよな……。
実家の安心感っていうか、いつも通り感が。
で、今年はそれがない。
正直現実味が全く沸かない。 まぁ、ゲームだから当然と言えば当然なんだけどさ。
さて、今は一月。
イベントとかもあるみたいだが、俺はあんまり興味がない。
まぁ、どこのネトゲでも一緒だな、こういう時期にイベントあるってのは。
因みに階層攻略は結構進んでるみたいで、16層あたりって言ってたかな?
一度だけボス戦に参戦したことがあるが、クソめんどくさかったのを覚えてる。
まるで社会の縮小図だね、あれは。
レベルが高いプレイヤーが指示しまくって、働きアリみたいにこっちは指示に従うだけ。
まぁ正しい、効率的に考えて正しい。
けどゲームなんだから、もうちょっとラフにやってもいいんじゃねーかな、とも思う。
まぁ死んだらそれでおしまいだけどさ。
年上に指示されるのはまだいいけど、年下に支持されるのはどうも慣れねーよなぁ……。
これも生存率を考慮したもんだから、そのあたりは切り捨てるけどさ。
因みにレベルは今20。
一応これでも最前線で戦っていけるレベル。
どうもレベルの上がりが最近遅くて、多少だるかったりする。
とりあえず、今はINした年の次の年の1月なのかな。
俺は昼間から11層あたりででゴロゴロしていた。
とりあえずここは美味い飯が食えるからな。
現時点で体力回復にはもってこいの場所だ。
敵もそんなに強くないし、まったりするには十分だ。
最近色々単語というか専門用語も覚えたが、まぁトリビア程度だ。
アスナって子は可愛いとか、ファンが多いだとかー。
あと攻略組とか呼ばれてる連中は強いとかー。
まぁ、どうでもいい。
俺はそんなことより今解決しなければいけない問題が、目の前にある。
「アルス、ギルドを立ち上げるべきだよ。 寧ろ立てなきゃいけないと思うよ」
そう口にするのは、一層からずっとくっついて来てる、桜花だ。
というか今、俺はコイツとしかPTを組んでない。
フレンドリストは増えたが、ずっと着いてきてるのはコイツだけだ。
因みにサニーさんとホイミさんは二人で攻略組とかいうのに行った。
なんだっけ、軍?とかいうのにサニーさんは入ったみたいだ。
ホイミがどうなったかは知らないが、連絡が無い以上、二人の関係に水を差すつもりはない。
で、目の前のコイツ。
最近やたらギルドが増えたせいで、ギルドを立ち上げることに固執してる。
自分で立ち上げなくても、他人のギルドに入ればいいものを……。
「お前なぁ。 ギルドって結構大変らしいんだぞ。 人の管理とか、そういうの。
中間管理職の忙しさを知ってるか? 上から下から愚痴ばっか聞かされて……」
「知らないしどうでもいいよ、ウチは立ち上げたい。 そういう年頃」
どういう年頃だよ、とか思ったが、要するに思春期ってことなんだろう……。
まぁでもギルド、ね。 考えてはおくか。
事実、ギルドに入ればステータス類のアップはするらしい。
故に、何の理由もなくギルドを作っている連中もいる。
「まぁー、そうだなー。 いずれ考えるわー」
あくびをしながら適当にあしらうと、桜花は不機嫌そうな顔をして、こちらを睨んだ。
あー、やめてくれ、機嫌損ねるとコイツくそめんどくせぇから。
そう思ってる時、丁度よく知人が近くに来た。
ダッカーとかいう、黄色いシーフっぽい服装のイケメン兄ちゃんだ。
確かコイツは月夜の黒猫団とかいうギルドに入ってたはず……!
「よう、調子どうよ?」
「こっちはそれなりー。 ていうか昼間から何やってんの?」
痛いところをついてきたダッカーを無言で座らせ、適当な飲み物を渡す。
「まぁ飲め。 いやな。 お前らギルド組んでるだろ? 目の前のこの馬鹿にギルドの厳しさを教えてほしいんだよ」
俺がそう言うと、ダッカーは出された飲み物を飲んだ後、一息ついて。
「何言ってんだよ! ギルドおもしれぇよ! ギルド! なんならアルスも俺らのギルド入る!?」
なんてことを、ほざきやがった。
コイツに聞いた俺が馬鹿だったか……。
「いやいや、遠慮するわ。 お前らはリアルの仲良し集団なんだから、俺みたいなオッサンが入っちゃマズいって。
それよりも桜花どうよ? こいつらのギルドに入らねぇ?」
「ヤだ」
そしてこの返答だ……。
イヤになっちまうぜ、こっちが折角紹介してやったっていうのに。
そう思っていると、ダッカーが口を尖らせて愚痴を言った。
「なんだよー。 みんなで狩りしたり飲み食いしたり、喋ったり、いいことだらけだぜ?」
「そりゃあ、お前らが超絶仲良し集団だからだろ。 つか、ギルドにいた女の子はどうなの? 取り合いとかになんねーの?」
俺がそう言うと、ダッカーは声を荒げて、ハァ!?と叫んだ後、俺が渡した飲み物を一気に飲み干し、音を立てながらその場に置いた。
「な、何言ってんだよ! サチはそういうのとは違ぇし! あれだ! 言うなら、妹みたいなもん、そういうの抜きのマジな仲間だから!
アイツにもし好きなやつが出来ても俺はマジで影から見守ることに徹するから、マジで!」
コイツもコイツでわかりやすいヤツだな……。
そんなことを思いながら、いやらしく笑ってやると、ダッカーはその場から立ち上がり、素早く俺に背を向けた。
「んじゃ! 俺もう行くから! この後みんなで狩る予定があるからな!」
それだけ言って、ダッカーはその場から去っていく。
いやぁ、面白いやつだ。 流石ギルドのムードメーカー、と言われてるだけはあるな。
そんなことを思っていると、桜花から、厳しい視線を感じる。
ああ……こっちの問題が解決してなかったな。
勝手に自己完結しちまってたよ。
「まぁしかし、ギルドギルドとは言っても、人はどうするんだよ。 俺と桜花だけじゃ流石にギルドもクソもねーぜ」
俺がそう言うと、桜花は少しだけ考えた仕草をした後。
「ウチのフリーのフレンドと、アルスのフリーのフレンド足したらいけるんじゃない?」
そんな、計画性の無いことを口にした。
いや、いけねぇよ……つか俺のフレンドでフリーのやつあんま多くないんだが……。
まぁ、数えて2,3人くらいだな……。
「こっちの方は厳しいな。 いてもあんまり信用できるやつじゃねーし」
「じゃ、ウチの方ならいい? 4人くらいフリーの子いるけど」
「俺が知らないやつじゃ気まずいだろうが!」
地味に人見知りの俺に、女の子の友達は荷が重過ぎる。
マジで中間管理職みたいに胃がやられて会社に出てこなくなっちまうよ……。
「じゃあ今から知り合おうか? 呼ぶよ」
「そういう問題じゃねぇって……」
マジで勘弁してくれ、会うって思っただけで胃が痛い。
ゲロ吐きそうな気分だぜ……。
そんなことを思っているうちに、着々と準備をし始める桜花。
勘弁しろよ……。
しかし、そんな俺の思いは届かず、桜花の知り合い、四人が集められることとなった。
もちろん、俺も助っ人としてフレンドのうちの一人を呼んではおいたのだが……。
十一層の飲み屋に集められた知らない顔四人と、俺のツレ一人。
因みに俺のツレは、普通に人見知りである。
なんでコイツをチョイスしたのかというと、同族がほしかったからだ。
俺の苦労をわかってくれるやつがほしかった、それだけの理由だ。
だから、別にコイツが今、死ぬほど冷や汗かきながらこっちに助けを求めてくるのは。
正直、予想外だった。
「おい、何だよ、ふざけんなよ……奢るって聞いたから来たのに、なんだよこれ、合コンかよ?
俺何も準備してねーよ、つかなんだよ、男二人に女四人って、バランス悪すぎだよ、どうすんだよ?」
質問攻めしてくるのは、俺のツレのAmenoこと天乃とかいう盾役だ。
戦闘では頼りになるコイツが、こういう場面じゃ役に立たない、というかうざい、盾役の意味がねぇ!
で、目の前に並んでいる知らない子らは……。
「はじめまして、レイカです」
「どうも、ガンマです」
「えっと、シリカです」
「こんにちは、ゲッカです」
いやいや、ちょっとちょっと、全員知らねぇよ! 何だこれ……。
無駄に可愛い子混じってるのが逆に困るな……。
どうすりゃいんだよ……ていうか何、ガンマって、女の名前でそんなの許されるの? バイクかよ。
服装も紺ベースに赤いライン、それと並ぶように金色のライン。 ウォルターウルフカラーかよ。 意識でもしてんのか……?
「さてアルス、人は集まったよ」
そして飄々とそんなことを口にする桜花。
いやいや何考えてんの……。
「ちょ、解散! 解散だ! ごめんなさい皆さん、ウチの馬鹿がご迷惑おかけしました! いや、ホントすみません! 貴重な時間を!」
そして必死に頭を下げる俺。
もうマジで胃が痛い。 痛覚は無いけど胃が痛い。
きっと俺は、第三者から見れば、途方もなく情けなく見えるのだろう。
「ごめんなさい! 俺からも謝ります! 本当にごめんなさい! 生きていてごめんなさい!」
そして一緒に頭を下げてくれる俺のツレ。
持つべきものはツレだな……。
ツレにこんな思いをさせる俺は、最低だ……。
そんな俺の願いが通じたのか、四人の女神達はそれぞれに思うことを口にしながら解散してくれた。
た、助かった……。
そんなことを思って顔を上げると。
怒りに染まった桜花という名の大悪魔が、俺を見下していた。
……まぁ、こうなるわな……。
その後、ツレと共に一時間ほど、桜花の愚痴に付き合いながら、飯を奢るハメになったのは言うまでも無いことだ。
――――――
ホイミは逃げていた。
ただ、己の身を守るために。
サニーは戦っていた。
ただ、彼女を守るために。
だが、目の前の『敵』は、酷く強大で、酷く戦いづらい相手だった。
サニーは攻略組に属しているだけあって、並大抵の敵は敵でないほどにレベルが高かったし、何より、攻略方を知っていた。
しかし、目の前の敵は、そんな常識は、一切通用しない相手だった。
何しろ、眼前の敵はPK。
天国に最も近い、最速の殺人鬼。
「くそ……あの時の借りを返しに来たっていうのか……!?」
サニーはそう言って、スキルエフェクトを振りまきながら手に持った槍を振り回す。
彼の槍のスキルは、棍スキルと複合したエクストラスキルになっており、『突く』、だけでなく、『振り回す』ことも可能だった。
実際、これは非常に有効で、飛んでくるナイフを叩き落すのには最良の手だった。
しかし問題がある。
まず、天国の扉の姿が見えないことである。
最速と自称するだけあって、超高速で動き続けるその姿は、既に肉眼では捉えられないレベルまで行っていた。
つまり飛んでくるナイフの軌道が一切読めない、絶望的な状況。
さらに、ネットゲームと言えど、ここはSAO。
視界はあくまでも、『キャラクターの視界』で、前を向いている方向しか見えない。
あくまでも、キャラクターの背中を見ている視点ではない。
つまり背後に飛んできたナイフに関しては対応が非常に難しいのだ。
さらに、死角は背中だけではない。
空間、立体的な攻撃が可能なSAOだからこそ、上から攻撃が飛んでくることもある。
木々の隙間を縫いながら、冷く光る銀色の死が飛び交っているのだ。
ナイフに気配はない。
ただ、風切り音だけは聞こえる。
だからこそ、サニーは音だけを頼りに槍を振るっている。
見えない相手、四方八方から襲い掛かるナイフ。
これほどやりにくいものは、かつてないほどなかった。
逃げたホイミの心配をしながら、サニーはどうにかして策を考える。
仲間を呼べば助かる可能性はある。
実際、ナイフの一撃一撃の攻撃は高くない。
攻略組であるサニーにとって、10発程度攻撃を食らったところで死ぬわけではない。
だからその間に、連絡を取る、という手段もある。
だが問題はその後だ。
来るまでの時間がかかるし、何より……。
SAOで厄介なシステム、刺さったナイフは継続ダメージとなってサニーのHPを蝕むのだ。
通常、SAOには4つのダメージタイプがあり、それぞれ、刺突、打撃、斬撃、貫通である。
その中で継続ダメージが発生するのは、通常貫通武器のみ。
今回のナイフは斬撃に該当し、通常ならば継続ダメージが発生しない。
しかし、それは通常の場合の話である。
天国の扉の投擲スキルの一つにより、投げた武器に全て貫通ダメージの付与の効果が与えられていた。
よって、投げられているナイフは全て貫通効果が付与されているのだ。
それを踏まえて考えると、連絡している間にも恐らく銀色の雨は絶え間なく降り続けるだろう。
その間ならば耐えれる自信はあるが、その後、ナイフを抜いている時間で生き残れるかどうかは怪しい。
回復ポーションを使うという選択肢もある。
最悪、移動結晶で逃げる手段もある。
だが、それを相手が許してくれるとは思えない。
アイテムを出している間すら、死は絶え間なく迫ってくるのだから。
サニーはそこで始めて痛感した。
これが決闘ならば、どれだけよかっただろう、と。
ルール無用のフィールドでのPK。
それが、ここまでハードなものだとは、思わなかったからだ。
ホイミを逃がしたのは失敗だったかもしれない。
けど、下手に彼女が狙われるよりはまだ自分が耐えたほうが最善、等と考えたかっこつけが裏目に出ていた。
「くそ……何処だ……何処にいる!? 姿さえ、確認できれば、まだ手の打ちようが……!」
苛立ちを口にしながら、終わらぬナイフを弾き続ける。
ここで彼に残されているのは、ただ、ナイフの雨がやむのを待つだけだ。
一度投擲されたナイフは、回収しない限り、手元に戻ることはない。
サニーが弾いているナイフは耐久値が0になり、消失しているため、二度とPKの手に戻ることはないのだ。
これがSAOで投擲をメインとした投げ使いが極端に少ない理由でもある。
運用が酷くマゾく、動かすだけで大量の金と武器を必要とする。
だからこそ、既に弾いたナイフの数が100を超えていることに、サニーは驚きと、素直に恐怖を感じていた。
いくらナイフと言えど、買えばそれなりの値段はする。
それが100本、単純計算で100k以上はくだらない。
それだけの金を、捨てるような使い方をして、平気でいられるPKの頭は、狂っているのだろう、と考える。
しかしそれは間違いだった。
実は天国に一番近いそれには、考えがあってナイフ『なんか』を投げていたからだ。
(中々やるな……流石攻略組。 在庫処分のナイフだけではいかない、か)
心の中でそう思う天国の扉の言う通り、ただの在庫処分である。
天国の扉は、脅し、詐欺、命乞い等からの投資により、既に大金を得ていた。
その額は既に10Mオーバーに及び、100k程度、どうとでもなかったのだ。
だからこそ、小手調べも、もう終わりに近かった。
在庫がもう終わるその瞬間に。
天国の扉は、すぐに武器を切り替える。
そして、投擲したナイフと共に。
――――単身でサニーに斬りかかった!
「………ッッッ!??」
突如として現れた人影。
さらに槍から伝わる重い感触に、一瞬サニーは戸惑いを覚える。
しかし、その一瞬は。天国の扉にとって、十分すぎる隙だった。
持っていた武器をすぐにサニーに投擲。
当然、サニーはそれを弾くが。
飛んできた武器に対して反応したサニーは。
一緒に上空を通り過ぎた天国の扉に対しては反応できず。
すれ違い様に投擲されたその武器は、サニーの背中に、深々と刺さった。
「な……に……!?」
自身のステータスに状態異常が表示されるのを確認すると同時に、サニーはその場に倒れこむ。
状態異常、麻痺である。
もちろん、麻痺を使ってくる敵がいた故に、それを解毒する結晶は持ち合わせていたが……。
それを取る前に、サニーの両手首は、なくなっていた。
状態異常、部位欠損。
通常なら、3分もすれば治る状態異常ではある。
しかし、この瞬間において、3分というのは、あまりにも、長すぎた。
「悪く思うな、私の存在を確認した者は、例外なく、殺している」
凛として響くその声に、サニーはようやく、己を襲っていたPKの姿を確認した。
二層の時と変わらない、顔が見えないローブを着たその人物。
しかし、幸か不幸か、倒れていた故に、見上げて、ようやくわかった。
ローブの下に隠れていた、その素顔。
「……わから……ない……な。 なんで……PKなんか……」
サニーがそれを言い終わる前に。
その体に数十本の『ククリ』と呼ばれる短剣が突き刺さる。
ただ、それだけで、サニーのHPはゴリゴリと減っていき、0になるのは、そんなに遅くなかった。
「ごめん……ホイミ……」
ただ、その言葉だけを残して消えるサニーをただ見下し、次の獲物をどうやって仕留めるか考え。
天国の扉は、ククリと、麻痺に使ったアサシンナイフを回収し。
サニーが消える前に回収した、槍を見ながら、口元を歪ませた。
その後、ホイミがSAO内から永遠にロストしたのは、たった10分後のことだった。
――――――
夜、宿屋で何気なく開いたフレンドリストを見て、サニーさんとホイミが消えていることに気づいたのは、特に驚きは覚えなかった。
SAOというデスゲームにおいて、友人がいつ死んでもおかしくはない。
だから、覚悟なんかは出来ていた。
フレンドする人間が多ければ多いほど、その死の確率は跳ね上がるし、最悪、目の前で死なれることもある。
事実、視界の中で死んだやつを見たことだってある。
だから、驚きなんかはなかった。
だけど……ショックだった。
一ヶ月と少しという期間でも一緒にいた仲間が、永遠にこの世からいなくなってしまったという事実が。
死因を調べるならば一層に行けば、本来リスボーンすべき場所に立っている石碑を見れば死因が書いてある。
しかし、俺は、それを見る気にはならなかった。
真実を受け止めたくないのか、真実から目を逸らしたいのか。
ただ、俺は何度も、フレンドリストを開いたり、閉じたりを繰り返している。
「……馬鹿野郎」
ただ、口から出た言葉は、その一言だけだった。
二人に向けてかける言葉がそれというのは、あまりにも、おかしい話ではあった。
だが、それしか、出てこなかったのだ。
死んだら、何にもならない。
死んだら、二度と戻ることはない。
永遠の喪失とはそういうものだ。
ここが少年漫画の世界で、愛と勇気でどうにかなるシナリオだったなら。
ここがアニメやドラマの世界で、希望と可能性が溢れる世界だったら。
どれだけよかっただろう。
サニーさんもホイミもいなくならなかっただろう。
きっと俺みたいなモブキャラは号泣していたのだろう。
だがどうだ? 涙一つすら出やしない。
それどころか、俺は今、こう思ってる。
『俺もこうならないように、生き延びなければ』、と。
二人の死を教訓にして、踏み台にして、生きる意味を再認識している。
わかっている、わかっていた。
だが目を逸らしていたんだ。
この世界では、生き残らなければ、死ぬ。
たったそれだけのシンプルな理由を、俺は日常という言葉で有耶無耶にしていた。
日常なんてものは、現実でも、ゲームでも、こんなに簡単に崩れ去る。
現実と非現実の狭間なんて、実はそんなにないんだ。
二十六年間生きてきて、それをわかっていたつもりになっていた。
でもそんなことは全くと言っていいほどなくて。
こんな場面に直面してから、ようやく実感できたんだ。
『戦わなければ生き残れない』『疾走する本能』『目覚めろ、その魂』
どこかで聞いたキャッチコピーが、頭の中でぐるぐる回る。
そうだ……俺は、死なないために、戦う。
今まで胡坐をかきすぎていた。
大人気ないと思って少しだけ、自重していた。
ダメな大人でも、本気にならなきゃダメだ。
だから、本気でやろう。
ゲームをやってる子供達に、見せてやらないといけない。
ダメな大人でも、本気でやれば、凄いってことをな……!
装備している大剣を眺め、少しだけ、己を奮い立たせる。
こんな大剣じゃもうダメだ。
本気でやるなら、本気の武器を。
幾ら苦労してでもいいから、大人の武器ってやつを、作らないとな……!
そう思いながら、立ち上がる。
まずは、素材を集めに行こう。
夜だろうと関係ない。 思い立ったらまずやる。
それがきっと最良で、最善で、俺の意思の強さを確認させてくれるだろうから。