魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep16大事な日~Fate & Alf~
†††Sideフェイト†††
私たちが時空管理局本局に来てから結構な時間が経った。けどやることが多すぎて、時間はあっという間に過ぎ去ったと思う。たった今も私とアルフは聴取を終えて、ルシルと合流するためにアースラのあるドックへ続く廊下を歩いてる。
「お、ルシルを見つけたよ、フェイト」
「うん。ルシル!」
「あぁ、フェイト、アルフ、お疲れ様。聴取の方はどうだった? 俺の方としてはなかなかの好感触だったけど」
ルシルは廊下の端に置かれてるベンチから立ち上がって、私たちの元へと歩いてくる。
「うん、私たちの方も、いいかな?って思うよ」
事情聴取の手応えとかの話をしながら歩き出して、当面の生活空間であるアースラへと向かう。話が途切れたことで無言になってから少しして、アルフが私たちにある質問をしてきた。
「ねぇフェイト、ルシル。2人は裁判が終わったらどうするんだい? やっぱりリンディの誘いを受けて管理局に入るのかい?」
それは今後のこと。身寄りのない私とアルフは、生活するためにはそれも1つの選択肢として見てるけど、将来のことなんてまだ判らない。何と言うかその余裕がまだないかな。
「そうだね、私はまだ決めてない、かな。しばらくは自由なままでいたいと思うし。今は自由になったらなのは達に会いに行きたいな、とだけしか考えていないかも」
「俺もまだだな。けど、たぶん管理局へ正式に入ることはないと思う。ある程度は手伝うかもしれないが、組織に入るなんて完全には無理だろうな」
私は入るか入らないかはまだ決めてないと言ったけど、ルシルは正式な入局だけは無いって断言してしまった。それはつまり、いつか離れ離れになる可能性もあるということ。寂しいことだけど、いつまでもルシルに甘えるわけにはいかないから、無理に引き止めることは出来ない。でもやっぱり悲しい。辛い。だからその辺りの話はまだ考えないでおくことにした。
†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††
アルフの質問に答えてからは会話も無く、俺とフェイトとアルフはアースラへ帰ってきた。正式な管理局員になる、か。それはまずありないことだ。いつ契約を終えて消えるかもしれないこの身体で、行動が著しく制限されてしまう組織に入ることは無理だろう。
「お、フェイトちゃん、ルシル君、アルフ。帰ってきたね」
アースラの通路を歩いて食堂前を通りかかった時、食堂からエプロン姿のエイミィが声を掛けてきてくれた。俺たちは「ただいま」と挨拶を返し、エイミィも「はい、おかえりー♪」と返してくれる。エイミィの様子からして、どうやらこれから夕食の準備に入るようだ。俺は「手伝おうか?」と言ってみたが、笑顔で休んでいるようにと返される。
「あ、そうそう。艦長がね、フェイトちゃんとルシル君にとっても大切なお話があるから、よかったら艦長室に来て、だってさ」
俺とフェイトに話? 今後のことについてだろうか? それならフェイトだけでも・・・とはいかないか。俺も身寄りのない身だから、その辺の話をされそうだ。
「本当? じゃあこれから向かうよ。お茶淹れて持っていった方がいいかな?」
「うん、ありがとう。給湯室にコーヒー淹れてあるから、持って行ってね」
「あぁそれなら俺が持って行くから、先に行っていてくれるか、フェイト」
「え、私も手伝うよ。だから一緒に行こう?」
そして俺たちは、エイミィと一緒に散歩に行くと言うアルフと別れて、リンディ艦長の待つ艦長室へと向かう。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
私とルシルはコーヒーを運びながら艦長室へと入る。そこには椅子に座って何らかのデータを処理しているリンディ提督が居た。
「リンディ提督、失礼します」
「失礼します。お待たせしてすいませんでした、リンディ艦長」
私たちはそう声を掛ける。私たちに気付いたリンディ提督は椅子から立ち上がって、私たちに来てくれたことやお茶を持ってきてくれたことへの感謝を言ってくれた。リンディ提督に座るように勧められたから、ルシルと2人で「失礼します」対面式のソファに先に、リンディ提督と向かい合うように座った。
「ありがとう、フェイトさん、ルシリオン君。これね、なのはさんの家のお店で出してるコーヒーなんですって。なのはさんのお母さんから貰ったのよ♪」
「そうなんですか」
私はそう相槌を打って、私たちが持ってきたコーヒーに目を向ける。そっか、なのはのお母さんが。私も今までに何度か飲んだことがあるけど、すごく美味しいものだとは思っていたし、ルシルもそれを初めて飲んだとき、うまっ!!って驚いていたし。
「それでリンディ艦長。俺たちに話とは何でしょうか?」
ルシルがそう切り出したことで、リンディ提督のお話が始まった。まずはこの頃きちんとリンディ提督が私たちと話が出来ないことへの謝罪。だけどそれは、あの事件の事後処理の所為だって解かっているから文句なんて全くない。
そしてなのは達とのビデオメールの件。それもまた仕方がないこと。私たちはあの事件の関係者だから、リアルタイムでの通信は出来ないことになっている。それなのにリンディ提督は、ビデオメールという形でなのは達とやり取りが出来るようにしてくれた。
(なのはの友達、アリサやすずかとも仲良くなれたし、だから不満なんて全然ない。不満どころか逆に感謝してもしきれない)
「フェイトさん。まずはあなたに聞きたいことがあるの。とは言ってもそれは、管理局の人間としての質問じゃないから、無理に答える必要はないから」
リンディ提督は神妙な顔をして、たぶん今回の本題を切り出してきた。リンディ提督は咳払いひとつと居住まいを正して、真っすぐ私を見て「お母さんのこと、今はどう思ってる?」そう聞いてきた。そのストレートな質問に戸惑うけど、今の自分の気持ちを正直に伝える。
「そうですね、少し時間が経って、ようやく気持ちも落ち着いてきました。裁判を受けている途中に、母さんの辛い過去のことなどいろいろと判ってきましたし。初めはやっぱり混乱しましたけど、今ではもう、自分でも不思議なくらいに恨む気持ちとか裏切られてたんだなって気持ちはないです。あの母にとっては、私はどこまで行っても単なる実験の失敗結果でしかなくて、使えないお人形だったんだなって」
「・・・っ! 待てフェイト! それは自虐――」
私のその言葉に、ルシルが怒鳴って止めてきた。けど「待ってルシル!」私はそれを遮る。
「フェイト・・・?」
「ううん。これは違うよ、ルシル。いま言ったことは自虐的な意味じゃないから」
私は本当に自虐的な意味じゃないと思ってる。
「リンディ提督、ルシル。今のはその厳然たる事実というか、言葉通りの意味としてのことだから」
ルシルは座り直して溜息を吐いた。ごめんね、嫌な思いさせちゃってるかも。だけど、今は聞いてほしいんだ。いま言っていること全てが、私が考えた末に導きだした思いなんだってことを。
「あの母は自分の大切な子に、アリシアに戻ってきてほしかっただけなんだと・・・。本当にただそれだけだった。だからこそ解かっていたんだと思います。作り物じゃ代わりにはならないって。アリシアにそっくりなのに、ちっともアリシアじゃない私。アリシアが失くしてしまった命を生きている私。母さんはきっと思っていたんです。どうしてアリシアが戻ってこなくて、失敗作の私が生きているのって」
リンディ提督は「酷い話ね」そう返してくれたけど、ルシルは全然喋らなくなってしまった。ずっと俯いたままで何かを考えているような、何かを耐えているようなそんな感じだった。
「私は母さんのことが本当に好きだったし尊敬もしてた。だけど、それはアリシアの記憶を頼りに私が思いこん――」
「違う」
「・・・ルシル?」
「違う、そうじゃない。確かにアリシアの記憶に因るかもしれないけど、その思いだけはフェイトの心だと俺は思っている。前にも言ったかもしれないけど、フェイトはアリシアの代替物じゃない。君は確かにプレシアの娘で、アリシアの妹だ。だからもうそんなことを考えないでくれ、頼む」
「ルシル、でも私は・・・」
「そうね、私もルシリオン君と同じ意見だわ。あなたは決して人形じゃなくて、今を生きる1人の女の子よ」
ルシルの意見にリンディ提督も賛同してきた。私は2人のその言葉をきちんと受け入れて、私の話をここで終わらせようとした。けどリンディ提督はもう1つお話があるみたいで、「ねぇフェイトさん、もう1つストレートな質問、いいかしら?」って私に話かけてきた。
「あ、はい、どうぞ」
「お母さんのこと今でもまだ少し好き? それとも、もう嫌い?」
母さんのことが好きか嫌いか、そんな質問。
「判りません。けど判らないからこそ判るその時までは、あの母の娘として、フェイト・テスタロッサとして生きていこうかと思っています。それに逃げたり捨てたりするにはまだ早いと思っていますから」
正直判らないとしか答えられない。でもいつかその答えが判ると思う。なのはは言っていた。私はまだ始まってもいないんだって。私を始めて、私として生きていく中でちゃんと答えを見つけようって思う。
「そう・・・。でもそれじゃあ私はフラれちゃったのかな」
フラれた? どういう意味か解からないからルシルを見てみるけど、ルシルも小首を傾けて、?と顔に出している。
「裁判が終わったらなんだけど、よかったら家の子供にならないかなって思ったんだけど」
「え・・・?」
「俺は良いと思うよ、フェイト。リンディ艦長は良い人だし、これからのことを考えれば悪くはない話だ。決めるのはフェイトだから、無理強いはしないけどな」
「あら、ルシリオン君にも同じことを言うわよ。あなたにも家族が居ないことは判っているのだから」
「はい?」
そうだった。ルシルにも家族が居ないってことは出会ってすぐに聞いていたんだ。だからこそ“ジュエルシード”の探索ではずっと一緒に居られたんだから。
「そんなに意外かしら? もちろんこれはあなた達を管理局へスカウトしているってことじゃないのよ。いくらルシリオン君は強くて家事が出来たとしても、あなたもフェイトもまだ子供なのよ。自由になった後でもちゃんとした大人がついていないと大変だと思うの。それに、私ならあなた達のこともよく知っているから、そのぉ、別世界の友達との上手くやっていけるようにするなら、私が割りと適任かな、って思っているんだけど・・・」
「えっと、その・・・」
「はぁ、そうなんですか・・・?」
2人して返事に窮する。だってどう答えれば良いかなんて急には出てこない。そんな様子の私とルシルを見て、リンディ提督が話を続ける。
「でも本当の・・・1番の理由としては、あなた達がとても良い子たちだから。これでも人を見る目は確かだと自負しているのよ」
「あの、あの、その、えっと」
「落ち着け、フェイト。リンディ艦長、返事は今すぐでなくても構いませんか?」
「ええ、急な話だったから。法的な後見人だとか、そういう部分だけで頼りにしてくれてもいいし、親子別姓になっても私は気にはしないわ。だから考えておいてほしいの、私たちの家族になるかどうか。本音をぶっちゃけて言うと、今すぐにでも迎え入れたいって思ってるわ」
リンディ提督のその真摯な態度に私とルシルは立ち上がって、頭を下げる。
「お心遣い感謝します。その、とっても嬉しいです」
「俺も感謝します。よく考えて返事をしますので少し時間をください」
それからすぐにブリッジにクロノが入ってきた。これで話は終わりとなって、私とルシル、クロノはブリッジを後にした。
†††Sideフェイト⇒クロノ†††
僕はフェイトが居ると聞いた艦長室へ行くと、母さんがフェイトとルシルと話をしていた。タイミングが少しまずかったと思ったけど、すでに話は済んでいたらしい。僕たちは艦長室を出て、フェイトに「バルディッシュを返しておこう」と、彼女を捜していた理由だった“バルディッシュ”を返す。フェイトは“バルディッシュ”を受け取り、「久しぶり」と声を掛けている。フェイトに応える“バルディッシュ”を見て、いいな、とか思ってしまった。
「しかし、インテリジェントデバイスも良いものだな」
「う、うん、相棒だから。・・・その、クロノも持てば?」
フェイトがそう言ってきてくれるけど、インテリジェントデバイスはちょっとな。
「暇を見つけて組んでみようとは思っているんだが、処理速度が心配でね。これ以上遅くなるとルシルに更に勝てなくなる」
正直これ以上ルシルには負けたくない。1対1でも負けて、フェイトと組んでも負けて、彼は本当になんなんだ? デバイスも持たず、その身ひとつで演算処理して魔術を使うと言うから驚きだ。彼は本当に人間なのか疑いたくなってくる。
「今失礼なことを考えなかったか? クロノ」
鋭いな。そういう直観的なものもまたすごいとしか言いようがない。
「いいや、特には何もない。そういえば君とシャルもデバイスを持つことになったと聞いているけど、どうなんだ?」
そう、それは母さんの計らい(正確には今回の事件の解決助力に対する報奨)みたいなもので、シャルとルシルにはデバイスが用意されることとなった。シャルはルシルのように非殺傷設定付の魔術は使えないらしいからとのことだが、ルシルはあまり必要ないと言っている。
すでにいくつかデバイスを使った訓練を行っているみたいだが、どれもすぐにルシルの演算処理と魔力に耐えられず壊れてしまうのが常となってきた感じだ。シャルの方は簡単に決まって、今ではデバイス使用の特訓をしているらしい。
「あぁ、そうだな。俺は複製で何とか出来たが、シャルは非殺傷設定をデバイスなしで使うなんて器用なことは無理だ。だからリンディ艦長は良い機会だとして、シャルに非殺傷設定の魔術を扱えるようにさせたいらしい」
ルシルの固有能力・“複製”の説明はすでに聞いている。正直半信半疑だったが、模擬戦を行って思い知ることになった。僕が使った魔法を次々と複製して、僕へと放ってくる。しかも威力、速度、制御もろもろ全て僕より上だったことに余計へこむ。
あれを自分の魔法に自信と誇りのある魔導師にすると、その相手は発狂するかもしれないな。僕も本音を言えば喚きたかったが、なんとか耐えた。だがあんな思いをするのは2度とごめんだ。
「そもそもデバイスの演算処理が俺より遅いから、どうしても力ずくで処理させようとしてしまう。こればかりはどうしようもないと言われたが」
全く。魔術師は本当にすごい存在だと思い知らされる。普段は魔力を感じないのに、いざとなると急激に上がり、デバイスなしでの魔術発動。発動に必要な術式の演算は全て頭の中だけで処理。そう容易に出来るものじゃないのは、魔導師であれば誰でも知っている常識だ。だがそんな魔導師の常識をことごとく覆すのが、魔術師であるシャルとルシルだった。
「じゃあデバイスを持つのはシャルだけになるということか?」
「そうなるかな。デバイスの代わりとして、形だけを似せた第四聖典を使うつもりだ。あれなら危なくないから、そっちの法にも引っ掛からないはずだ」
どうやらルシルのデバイス所持の話は白紙になるようだ。まぁ、それでいいなら僕も構わないが。とりあえずデバイスを持って弱くなってしまった、なんてことにならずに済んだ。
†††Sideクロノ⇒ルシリオン†††
俺は今、トレーニングルームでクロノとフェイトの模擬戦を見ている。それにしてもフェイトは本当にすごい。魔力がさらに上がってきているし、技術もまた上達している。クロノが抜かれるのも時間の問題だし、俺としてもこのまま制限が掛けられている状態では抜かれてしまうかもしれない。息もつかせぬ攻防。そしてフェイトが砲撃を放ち、トレーニングルームに張った結界を抜いて壁の一部を破壊してしまった。
「おお! これはすごいな。というかクロノ! しっかり相殺しろ!」
「うるさい! 近くに居るなら君が何とかすれば良かったじゃないか!」
手を出すなと言っておきながらそれか。クロノがしっかりしていれば防げたはずだ。
「あ、えっと、ごめんなさい。つい力が入っちゃって」
フェイトがクロノに謝っている。君が謝る必要はないぞ、フェイト。自信満々に模擬戦を申し込んでおきながら、フェイトの魔導を受け切れなかったクロノが悪い。
「気にすることはないよ、相殺しきれなかった僕も悪い。それに、自分たちで直す分には誰にも文句を言われる筋もない。というわけで手伝え、ルシル」
「は? ああ、まぁいいか。判った、あとでな」
世話になっている以上はそれくらいなんてことはない。
「よし、それじゃあ結界を張り直してもう一本。今度はルシル、君も入れ!」
どうやら前みたいに2対1で戦おうというわけらしい。正直あれはしんどかった。2人とも手加減がないため、苦戦したのを覚えている。クロノの誘いに応え、最近組んだ戦闘甲冑と同じデザインのバリアジャケットへと変身しようとしたところで、エイミィの声による艦内放送が入る。
『こちらセッティング担当エイミィ。リンディ艦長、クロノ執務官、それからフェイトちゃんとアルフとルシル君。状況Dが完了しました。至急、6番のレクリエーションルームに――』
「・・・っと食事みたいだな。戻ろうか」
「うん、続きは夜にね。ルシルもそれで良いかな?」
「ん? ああ、それで構わないぞ」
トレーニングルームを出、レクリエーションルームへ続く通路を3人で歩きながら、結界のことで話をする。クロノは結界のためだけにユーノを呼ぼうとしていた。ユーノも災難だな。クロノに目をつけられるなんて。近々再会することになるだろうユーノに、俺はどうしようもなく同情した。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
「おお、いらっしゃい!」
私たちがレクリエーションルームに入ると、そこには豪勢かつ大量の料理が並べられていた。私もクロノも、ルシルでさえもその豪勢さと量に驚いている。何でこんなにすごい料理が用意されているのか気になったから「エイミィ、これどうしたの?」って聞いてみた。
「えへへ、だって今日はフェイトちゃんとアルフの契約記念日なんでしょ? そういう日はやっぱ美味しいもの食べて、楽しくお話して、のんびり過ごすもんでしょ」
「そうなの?」
本当にそうなのか迷ってルシルを見てみると、「ああ。祝おう」笑って頷いてくれた。エイミィの話はまだ続いている。
「そ・れ・に、フェイトちゃん達には、最近うちのクロノ君がお世話になってるし、感謝の気持ちを籠めてね。ちょっとしたものだけど」
ちょっと? どうみてもそんなレベルじゃないのは一目瞭然だ。エイミィは、これは自分の趣味が入ってるって笑っている。そして主役らしい私たちは席に案内されて、いろいろと料理を薦められた。
「あ、その、ありがとう。嬉しいです」
用意されたケーキに刺さっている火の点いたローソクを消すように言われて、なんだか照れてしまって顔が赤くなってしまうのを自覚する。
「えっと、それじゃアルフ、一緒に」
「う、うん。それじゃあ」
「「せーの。ふぅ~~っ!」」
私とアルフがローソクに顔を近付けて火を消す。
「あ、ありがとう。ありがとう」
「あ~、あんまりフェイトを照れさせないで。なんだかあたしまで照れるんだからさ」
するとみんなが拍手してくれた。2人して照れてしまってどもってしまう。部屋に響き渡る笑い声。そこに私たちがさらに驚いてしまうことが起きた。
『おめでとう、フェイトちゃん、アルフさん。今日はそんな大切な記念日だったんだね。私からもお祝い言わせて♪』
『僕からも』
『ついでに私からもおめでとう、フェイト、アルフ』
モニターに映るのは、なのはとユーノとシャルの3人だった。
「えっ!? これって、リアルタイム通信じゃ・・・!?」
「リンディ艦長、これっていいんですか?」
私は決まりとして禁じられていたリアルタイム通信が行われている状況に驚いてしまい、ルシルはこのようなことをして大丈夫なのか、ってリンディ提督に確認してる。
「可愛い身内の特別な日だと、管理の注意力も散漫になるものらしいわね」
「厳密には0,05秒遅れで繋いでいるので、リアルタイムではないですしね」
「あはは、そうきますか。でも確かにリアルタイムじゃないですしね」
それを聞いたルシルは呆れているけど、私にとってこれはすごく嬉しいことだった。
「・・・なのは」
『うん、フェイトちゃん』
私はなのはの名前を呼んで、なのはも私の名前を呼び返してくれた。ただそれだけのやり取りで、心がぽかぽか温かくなって、優しい気持ちになる。
「こっちは、その、元気だよ。みんなすごく優しくて、なんだか上手く心がついてこない」
『にゃはは、大丈夫♪ すぐ追いついてくるようになるよ』
『ルシルもアルフも元気そうで何よりね』
「うん! 元気元気♪ シャルもユーノも元気そうで良かったよ!」
シャルの言葉にアルフが元気いっぱいに答える。そしてルシルも何か言うのかなと思ったけど、シャルを見たままで黙っている。少しの間そうして、シャルが笑顔で頷いた。なんか判らないけど悔しい気持ちになる。言葉を交わさなくても心が通じ合ってるみたい。だけど今は嬉しさの方が上まっているから、すぐに気にならなくなった。
『あ、そうだ。リンディ艦長。デバイス、ありがとうございます。今でも少し苦労していますが、ようやくまともに扱えるようになってきました』
「そう。それは良かったわね、シャルロッテさん♪」
シャルはリンディ提督にデバイスのことで感謝をして、すぐになのはの後ろへと下がっていった。そこで私はさっきから気になっている、なのは達の居る場所について聞いてみた。
「なのは達は今は外なの? そこは、森の中・・・?」
『うん、裏山に来てるの。今はあんまり長く話せないし、贈り物もすぐには送れないから、だから私とユーノ君とシャルちゃんからのお祝いをやろうって。フェイトちゃん、アルフさん、見ててね』
そう言うとなのはは“レイジングハート”を夜空に掲げて、シャルは蒼い剣のデバイスを構える。そして・・・
『いくよ、レイジングハート。ユーノ君、シャルちゃん!』
『うん!』『ええ!』
『夜空に向けて砲撃魔法、平和利用編。スターライトブレイカー、打ち上げ花火バージョン』
『私たちもいくわよ、トロイメライ。夜空に煌いて、グランツ・フォーゲル』
『『ブレイズ・・・シュート!!』』
2人のデバイスから砲撃魔法が放たれて、ユーノも射撃魔法を空に打ち上げた。その砲撃や魔力弾は空中で爆発して、夜空を桜色、緑色、紅色に照らし染める。言葉に出来ないくらい綺麗だった。リンディ提督やみんなもそれに見惚れているし驚いている。
「すごいよなのは、シャル、ユーノも。夜空にキラキラ光が散って、すごく綺麗だよっ」
『うん! それじゃあ続けていくよ、ユーノ君、シャルちゃん』
『うんっ』『ええ!』
なのは達は続けて砲撃を放つ。しばらくみんなはそれを眺めて、なのは達のすごさに言葉も出なくなった。砲撃の連発を終えたなのは達は肩で息をしているから「えっと、なのは、ユーノ、シャル、大丈夫?」心配の言葉を掛ける。
『にゃはは、大丈夫だよ』
『うん、全然平気』
『・・・だい、大丈夫、と思う』
なのはとユーノは何とか大丈夫そうだけど、シャルはもう限界みたいだ。事件の時に見せていた余裕が全然なくて、それがまた驚いた。なんていうか丸くなった、って言うのかな。雰囲気が見た目相応に子供っぽくなったって感じがする。
『ちゃんとしたプレゼントは、ビデオメールの返事と一緒に送るね。今のは、どうしても今日のうちに贈りたかったお祝い』
「ありがとう・・・ありがとね、なのは」
私は何度も何度も感謝の言葉を告げる。いくら言っても足りないくらいだ。
『うん。フェイトちゃん。きっとすぐ、すぐにまた会えるから。だから今は普通にお別れ。またね、フェイトちゃん』
「うん。ありがとう、なのは」
そして通信は切れた。
†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††
シャルとなのはとユーノによる一夜限りの魔法花火は、フェイトの心に良き思い出として深く刻まれたようだ。フェイトはこのサプライズのことが相当嬉しかったのか泣き出してしまった。アルフ達がフェイトの周りに集まって何か言っている。
(それにしても、シャルのデバイス操作の技術がかなり高い位置にきていた。慣れない砲撃を連発したことでフラフラだったが。俺とシャルの演算能力はさほど違いはないと思ったんだけどな)
シャルが使えて俺に使えないことが少しショックだったが、そこは諦めるしかない。我ながら最悪な解決方法だ。ひとりみんなから離れて考え事をして気付かなかったが、いつの間にか人が増えていて、ここはもう宴会状態になっていた。
「お~いルシル! あんたも早くおいでよ!」
アルフが両手いっぱいに肉を持ちながら俺の名前を呼んできた。フェイト達もアルフに続いて俺を呼んでいるから、俺はゆっくりとあの輝かしい集まりの元へと歩み寄っていった。
(守って見せるさ、この幸せな時間を。どんな手を使ってでも、な)
フェイトとアルフ。そして目に映るクロノやエイミィ、リンディ艦長、アースラスタッフ。彼女たちの笑みが悲しみに変わらないように。もし変えるような奴が現れたら、俺が叩き潰す。それだけの情が生まれてしまっている。ふふ。俺もまだまだ甘いよな。
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