戦国異伝
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第百四十五話 安土築城その九
「本願寺の顕如殿とてな」
「揺れますか」
「織田家との戦に」
「多少でもな、そこでさらに織田家との間に悶着があれば」
「織田家と本願寺の戦ですか」
「それになりますか」
「なるやも知れぬ」
信玄は本願寺のことを話す。
「その時になれば動くとしよう」
「織田家と本願寺の戦になれば」
「まさにその時に」
「それまでは政じゃ」
これまで通りそうせよというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「今は」
武田の家臣達は信玄の言葉に頭を垂れた、赤い服が一斉に動いた。信玄は彼等と共に今は本願寺の動きを見るのだった。
義昭は文を送り続ける、それは謙信の下にも届いていた。彼もまたその文を家臣達上杉二十五将に見せてこう言うのだった。
「公方様は私に織田家を懲らしめよと仰っています」
「右大臣殿の専横に対してですな」
「そうせよと」
「はい」
その通りだとだ、謙信は家臣達に答えた。
「そこに書いてある通りです」
「ではすぐにでも」
「向かわれますか」
「いえ、そうしたいのですが」
だが、だとだ。謙信はここでこう言うのだった。
「今は能登のことがあります」
「能登の畠山ですか」
「あの家ですか」
「あの家もまた近頃幕府の威光に従っていません」
織田家、その彼等と結び幕府に貢ぎ物を要請されても全く応じていないのだ、そして何事も義昭ではなく信長に伺いを立てているのだ。
そしてこのことがだ、幕府の権威を今も尊ぶ謙信には許せないのだ。
「彼等もまた奸臣です」
「織田家や武田家と同じくですな」
謙信から見れば信玄も奸臣になる、やはり幕府に従わず勝手に信濃や上野、駿河に攻め入っているからだ。
それでだ、謙信は彼等も幕府の権威を背に攻めていたのだ。だが今の上杉家と武田家はというと。
「しかし武田家とは公方様の仲介がありました」
「それでは、です」
「攻めることが出来ませぬ」
「公方様が仰ることなら」
謙信も言うのだった。
「仕方のないことです」
「ですな、それでは」
「今はですな」
「まずは畠山氏です」
能登のその家をだというのだ。
「降しです」
「それからですな」
「織田家を」
「本願寺も気になりますが」
上杉家は一向一揆とも刃を交えている、謙信の軍略の前には一向一揆も敵ではないが揉めていることは事実だ。
「それでもです」
「織田信長征伐に出陣されますか」
「その時にこそ」
「そのつもりです、戦には順序がありますね」
「だからこそまずは能登ですか」
「あの国からですか」
「それでよいですね」
謙信はあらためて彼等に問うた。
「後ろを万全にしたうえで」
「そうです」
その通りだというのだ。
「だからここではです」
「殿、それでなのですが」
ここで兼続が言って来た。
「その能登の七尾城ですが」
「あの城ですね」
「相変わらずです」
こう謙信に言うのだ。
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