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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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新たなる力へ
  Trick60_私と本気で模擬戦をして!

御坂妹から改め、西折美玲は僅か4日で退院した。

怪我が重症だったため、美雪が投薬した新陳代謝を強制活性させる薬を使ったため、
怪我の治りが早かった。副作用として数日間の重度の意識混濁状態が続いていたが、
美玲は文句ひとつ言わずに乗り切った。

ただ、副作用の後遺症として成長が一時的に進み、身長など体格は美琴より大きくなり、
髪も腰に届くほど長くなった。

退院後は家が無いということで信乃の家に住む事になった。
本来はクローン体である美玲だが、健康状態への調整は美雪が行うので
病院に居続ける必要もない。

信乃の家は元々広い部屋を押し掛け妻(笑)美雪を含めて2人だけで使っていたので
一人増えた所で問題ない。

しばらくは信乃も含めて安静に過ごすつもりだったが、常盤台中学の理事長から
緊急の電話を受けた。

『お久しぶりです、西折さん』

「お久しぶりです。

 連絡があったと言う事は何か緊急じたいですか?
 以前はプールの塗装の為にお電話いただいてましたが?」

『ええ、緊急にお願いしたい事が。
 実は2学期に予定していた授業兼寮参観についてなんですが・・』

「常盤台中学に在籍している生徒の親御さんを、学校や寮にお呼びする
 イベントと私は記憶しています。

 大覇星祭の前日に行われるんですよね。
 私の塗装修理は、その日までの完了と言う話ですね」

『はい。ただ、その予定が変更になりまして』

「どのように?」

「大覇星祭の前日ですと、親御さんの宿泊先を調達できないんですよ。
 それで授業兼寮参観を、新学期の初日に変更しました』

「・・・・つまり、私の塗装修理の期限を早めてほしいと?」

『はい。幸いにも、全体の8割を完了していると前回の報告していましたよね?
 あと数日でどうにか出来ないでしょうか?』

「・・他の予定も入ってまして、厳しいかと・・」

『お願いします!』

「・・・分かりました』

『ありがとうござ「ただしッ!」』

「塗装をしたマリオ親方の流儀にのらせてもらいます」

『流儀、とは?』

「特急料金として通常料金の2.5倍をいただきます」

『そ、それは多い気が・・・いえ、無理を言っているのでしょうがありません。
 私のポケットマネーから出しましょう!』

「では、この依頼、西折信乃が請け負います」

『よろしくお願いします』

このようなやりとりで、信乃は残りの夏休みを≪予定≫と塗装修理に費やすことが決まった。



数日後、常盤台中学

「よし、後は下の部分だけだ。

 美雪、今から降りるから、そこから離れてくれ」

「はーい♪」

校舎の屋上からロープを垂らし、そこで降りながら壁際の塗装をしていた。

「美雪お姉さま、信乃にーさまの本職は、本当に塗装とは関係ないのでしょうか、
 とミレイは金具なしロープで昇り降りするサルを見て真実を知りたくなりました」

ロープには金具などは無く、特殊な紐結びをして固定している。
一見して危ないように見えるが、軽快に昇り降りをする姿は安心して見れた。

「本職じゃないって聞いているよ♪

 でも≪何でも屋≫をしていたって聞いたから、ロープの使い方ぐらい知っていると思うよ♪」

「無駄に廃スペックですね、とミレイはモンキーを見上げます」

「誰がサルだって、誰が」

「信乃が♪」「信乃にーさまが」

「そこはちょっと誤魔化すとか否定してくれ。美雪も同意するな」

真正面から馬鹿(サル)認定された事で、逆に怒りを感じずに呆れた。

校舎の修理は信乃がいれば十分だが、まだ歩くのが精いっぱいの美玲と、
時宮が原因で爆弾(フラッシュバック)を持っている美雪

どちらも放ってはおけない。

ということで一緒に常盤台中学の修理に来ていた。
理事長に急ぐために人員を増やしたと言ったら、喜んで学校へ入るための許可証を2つ追加発行してくれた。

美玲は車から指示された道具を捜し、取り出して美雪に渡す。
美雪は信乃の近くまで運ぶ。という作業を行っている。

2日後から信乃は≪小烏丸≫の活動で用事が入っているので、塗装修理は明日までに
終わらせないといけない。今までの速度と比べるのが馬鹿らしくなるくらい
修理作業の速度を上げた。

また、作業時間を日の出から日入りまで伸ばしており、
その甲斐あって残りは下の一部だけとなった。本日で完了できるペースだ。

「信乃、もう少しで終わるなら一度休憩しない♪?
 ちょうど3時でおやつ時間にしようよ♪」

「そーだな。あと1時間あれば全部終わるし。
 美玲さん! 休憩にしましょう! 車からお菓子を持ってきてください!」

「了解です、とミレイは『この時を待っていた!』とばかりにお菓子を持って走ります」

サイドポニーテイルにした長髪を揺らしながら、バスケットを持って車から走ってきた。
その格好は美雪のコーディネイトの私服。
もう少しで外してもいい頭の包帯をニット帽で、左腕が無いのをサイズの大きい服で誤魔化していた。

学生と何人か挨拶をしたが、服と髪の雰囲気の違いにより、
美玲が『常盤台の超電磁砲』のクローンだと気付く人は一人もいなかった。

「美玲さん、食べるのが本当に好きですね」

「でも太らないよね、玲ちゃん♪」

「成長期なので、あと甘いものは別腹です、とミレイは早く食べようという催促を
 言わずに少しだけ我慢します。ほんの少しだけ」

美玲は完全に腹ペコキャラになっていた。
さらに本人が言うとおり、成長期に入ったかのように体格が少し大きくなった。
ぼかして言えば、身長とか、胸囲とか、胸囲とか・・。

「「「いただきます」」」

シュパッ!

一方通行と戦っていたよりも素早い気がする動きでドーナツを食べ始めた。

「モグモグうまうま、とミレイは効果音と感想を自分で言ってみます」

「このドーナツ、美雪と美玲さんが昨晩つくったものですよね? 美味しいです」

「片手ですけど頑張りました、と御坂は自分の努力をアピールします」

「私も作った事のないレシピだけど、成功みたいだね♪」

校舎の日影にレジャーシートを敷き、その上でバスケットの中身を広げ食べる。
信乃や美雪は割とゆっくり食べていたが、その2倍のペースで美玲は手と口を動かしていた。

適当に雑談を交えて、楽しいおやつ時間をすごした。



「信乃にーちゃん、本当に来てたんだ」

「おや、御坂さん。夏休みに学校にいるなんて珍しいですね。
 あと信乃にーちゃんって言わないでください」

おやつで腹を満たし、バスケットとレジャーシートを片付けている時、
現れたのは御坂美琴だった。

「ちょっと信乃にーちゃんに用があって。湾内さんが昨日見かけたって言ったから。
 良かった。信乃にーちゃんとあの子、美玲も元気そうで良かった」

水泳部の練習で学校に来ていた湾内とは昨日会った。
湾内と美琴は同じ学生寮にいるので、

「そうですか。立ったままなのもなんですし、お茶を淹れますから座ってください」

「いいよ、片付けているってことは休憩が終わったってことでしょ?
 あまり邪魔したくないし、作業しながら話を聞いてくれればいいからさ・・・」

「? まぁ、作業は進めたいですし、それでもいいですけど」

妙に落ち込んでいる美琴だった。顔色も若干悪い気がする。
その様子に自分から話しかけずに、自分から話すのを待つ事にして塗装修理を続けた。

「・・・・」

「車に乗っている黄色の箱を取ってきてもらえますか?」

「信乃にーさま、レモン色の黄色とオレンジに近い黄色がありますが?
 とミレイは適格ではない指示に詳細を求めます」

「あぁ、ごめんなさい。レモン色の方をお願いします」

「了解です、とミレイはてきぱきと行動します。どうぞ雪姉さま」

「ありがと♪」

「あの、信乃にーちゃん」

「なんですか? 美雪、ありがと」

「ん♪」

「私ね、お願いが・・あってきたの・・」

いつもの勝ち気な美琴としては珍しく、今にも消えそうな声だ。

「私ね・・あの子を、美玲を助けるために≪実験≫の場所に行った」

「うん」

「でも・・・何もできなかった。結局、アイツに助けられて」

「アイツとは、上条さんですか?」

「うん。私は何も助けられないで、美玲が大怪我を負った。

 信乃にーちゃんが助けに来なかったら、私達は死んでいた。
 助けに行ったはずなのに、何もできずに逆に助けられただけ。

 ほんと、私って何の為に行ったのかな」

「・・・・」

「それは違います、とミレイは即刻否定します。

 お姉さまが出した色取り取りの電撃、あれが無ければ一方通行の一撃で
 私は死んでいました。

 ・・・不思議です。昨晩の実験で、御坂は死んでいるはずです。
 それは一万回以上繰り返されてきた、当たり前のことでした。

 それなのに今この瞬間も活動を続けています。
 ミサカ達は殺されるために造り出されました。
 ただそれのみが存在意義であり、生み出された理由でした。

 しかしお姉さまとあの少年、信乃にーさまによって、その目的が失われました。
 リストラです。無色です。絶賛路頭に迷い中です。

 だから、ミサカにも生きるという事の意味を見いだしたいと思っています」

「ミレイ・・・」

「実際は働いたら負けかな、とミレイは心の内を晒します」

「変な自我芽生えた!?」

「冗談です。

 これからも一緒に探すを付き合ってください。
 とミレイは精一杯のワガママを言います」

「・・・本当にダメなお姉ちゃんね、私ってぱ。
 妹にも慰められてさ」

「お姉さまがダメダメなのは前から知っていました、とミレイは毒を吐きます。
 ダメダメですが、それでもミレイは御坂美琴をお姉さまだと思っています」

「・・・ありがとう。
 でも、それだけじゃ私が納得できない」

美玲に向けていた体を、信乃の真正面に回り込み、そして堂々と言い放った。

「お願い、西折信乃さん。私と本気で模擬戦をして! 誇りを賭けて!!」

「――誇りを、ね」

誇り(プライド)を、族章(プライド)を賭ける。

奇しくも、美琴の挑戦状は暴風族(ストームライダー)の開戦と同じワードだった。

「いいぜ、賭けてやるよ。俺の誇りを」



つづく
 
 

 
後書き
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