Angel Beats! the after story
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約束
目覚めたら、見知らぬ一室にいた。まだ目がぼやけながらも自分が今いる場所を確認する。周りにはゴミなどが散乱してありお世辞にも綺麗とは言えないところだった。
窓を見ると暗い中を月明かりが照らしている、外の景色を見ようとしたがなぜか体が縛られていた。だんだん感覚が戻ってきて口にタオルを入れられ喋らないようにされていた。
その状態から見える外の景色は家の屋根しか見えなかった、多分アパートとか何かの二階だろうかと思っていると、隣の部屋から人が歩いてくる足跡が聞こえて、とっさに私は目を瞑り気絶をしているフリをする。目の前に立たれ声が発せられた。
「まだ気絶しているのか、もうちょっと弱くしとけばよかったな」
どうやら男の声だった。その声はヌメッとしていて鳥肌が立つのを我慢するのが大変だった。そしてまた男は出てきた部屋に戻って行った。
男が消えたのを確認した後もう一度今の状況を確認する。
どうやらケータイは取られてなくポケットに入っている、早く誰かに伝えるべく縛られている手で懸命に操作をする、マナーモードにしてからメールを打つ、誰でもいいからと適当に送信先を決めて送信する、送信した後また部屋が開き男が出てきて私が起きたのを気づいたらしく、不気味な笑みを浮かべて近寄ってくる。
私は今すぐにでもここから出て行きたかったが体を縛られて自由が効かなくなっている。
「おはよう、ユイちゃん気分はどう?」
口が塞がれていなかったら罵倒の一つや二つ言いたかったが今は大人しく無視を続ける。
「こんな手荒なマネはしたくなかったんだよ、でもユイちゃんがいけないんだよ僕というものがありながらあんな男と買い物に行くなんて」
あの時、この男が後をつけていたと思うと背筋が凍りつくような感覚に襲われた。そんなことを知らず男は転々と続ける。
「覚えているよね、僕との出会いを…」
そこから男は饒舌に語り出した。その話を聞いていても男のことについて全く思い出せなかった。
私は男が夢中で話してるのを確認してケータイを操作する、一か八かで通話ボタンを押しここの居場所を知らせるために電話を掛ける。こんな危機的な状況を助けてくれる人は1人しか浮かばなかった、器用に指を動かし通話ボタンを押す。
何も反応がないけどそれだけで十分だった。あの人が来るのを信じて私は冷静でいた。
☆
外に出てから30分は経った。
その間ずっと休まずに走り続けたせいで疲労がピークに達していた。
それでも俺はあいつをユイを探し続けている。
ユイの行きそうなところは全て回った。ユイの友達の家に行き何か連絡があったかを聞いたがどれもユイの居場所の手掛かりにはならなかった。
また走りだそうとしたが疲労で足が動かなかった。それでも俺は足を動かすしかなかった、何かに集中していなければ責任で押し潰れそうだったからだ。
俺が家まで送って行けば、もう少し早く帰っていれば、とそんな後悔をしながら、走ってるとは言えないような足取りで走っているとポケットに入っているケータイが鳴った。
ユイのお母さんだろうと思い着信画面を見るとそこに表示されていた名前はユイと表示されていた、それを見た瞬間、安堵のため息をつき電話に出たが声を発してはいけないという、ユイの声が聞こえた気がして電話に耳を傾けてあっちの状況を詮索しするように集中する。
電話から聞こえて来たのは見知らぬ男の声だった。数分経っても聞こえてくるのは男の声ばかりで肝心のユイの声が聞こえない、たぶん口をなにかで塞がれているのだろうと思いながら、何かユイがいる場所のヒントを得るために男の声以外の音を拾おうと懸命に耳を澄ませる。
聞こえて来るのは…
電車が通る音
工事現場が近いのかコンクリートを削る音
この二つがよく聞こえて来た、だがこれだけではユイの場所を特定することができなく、他に聞こえないかと思っていると男の話に意識がいく。内容を聞いているとユイとの出会い?なのかよく分からないことを話していたが男は満足気に淡々と話を続けていると…
「ユイちゃんが〜〜丁目のコンビニに来ていた時は嬉しかったんだよ、僕に会いに来てくれたんでしょ?」
言っていることはただの自分がいいように仕立てた話だが男の言った〜のコンビニというワードを聞き取れた俺はさっき聞いた音と結びつける。
電車が近くで通っていて工事現場がある〜〜丁目のコンビニ…
必死に考えてユイがいる範囲を特定したが、まだ細かいところまでは分からないが俺は絞った範囲の場所に向けて足に鞭を打って走り出した。
☆
男が話だしてどのくらい経ったのか私には分からなく時間の感覚が少し狂い始めたのを知りもしないでまだ続けている。
この部屋には時計がなくあるのは生活必需品が最低限とゴミだけで、冷静でいようと思っていた心も段々、恐怖に蝕まれてきているのを少しずつだけど感じていると男は話がラストに近づいているのか声が最初と比べて興奮が抑えられないのか勢いが強くなっていった…
話が終わったのは自分の感覚で5分ぐらい経った頃だったがその時間が正しいかは今の私には自信がなかった。男はというと疲れたらしく口で息をしていた。
息を整えた男は引き出しを開け何かを探していると見つけたらしくまた私のところに近づいてくる。暗がりだからよく見えないが近づくにつれて男が持っているものが分かった。
男がその手に持っていたのはカメラで意外にもよく手入れされていた。
「これはこの日のために丁寧に掃除したんだよ」
男がやろうとしていることを薄々気付き始めた私はこれから始まることにこれまで以上に恐怖を感じてしまった。今すぐ叫びたい衝動に駆られているけどそれを抑えてくれていのは唯一の希望のケータイだった。
今、このケータイは先輩と私を結びつける物で、持っている手に力が自然に入る。
(早く助けて先輩)
目からは一筋の涙が零れる。
私はそれを男に悟られないように顔を下に向けていると、ふっと思う先輩のことについて…
私は小学校の頃は人見知りでウジウジしている女の子だったけどお母さんに心配をかけないように中学校からは明るい元気なグイグイと接するように心がけたがそれは高校から裏目に出てしまった。
あまりにも元気過ぎて空気を読まず高校2年生の最後からは孤立してしまい、必死に考えたけど何も浮かばなかった。
そして時間が経ち、私は大学は家の近くと決めてあったから今通っているこの福祉系の大学に入学した、本当の目的は大好きなお母さんをいつまでも支えられるように介護関連を習おうと思ったから。
春、先輩と出会った。高校時代のトラウマが少しあり、あまりグイグイいくのを抑えようとしたけど癖になっていたらしく高校の時と同じ風に声を掛けてしまう。
また迷惑な目で見られるかと思ったけど先輩は違った、ちゃんと私と向き合ってくれて嫌な顔ひとつしなくって、その時はとても嬉しいかった。
そして次第に先輩と一緒に過ごす時間が増えてきてからは心にモヤッとした感情が胸に込み上げてきていた。
その正体はすぐに気がついたけど先輩には伝えなかった。
必ず先輩から言ってくれることを信じて…
いきなりフラッシュがたかれた。
カメラで撮られているのがとても嫌でしょうがなかった。また泣きそうになる寸前に握っていたケータイから声が聞こえた。
「大丈夫かユイ?」
その声はちょっぴりバカだけど頼れる先輩、私の初恋の相手の声だった。
男は声に驚きすぐに私の手からケータイを取り
「お前は誰だ!」
自分の幸せの時間に水を刺された男は怒っていたがそれ以上に先輩は激怒していた。
「俺はユイの彼氏だ!!」
私はその答えに頭が真っ白になってしまった。好きな人にそんなことを言われたら誰だってこうなると思っていると、先輩の言葉を聞いてもっと怒った男は
「嘘をつくな、ユイちゃんの彼氏は僕だ!!」
先輩の声は聞こえてこなかった。だけど空気のピリつきがさっきよりも強くなっているのを感じていると…
「ふざけるな!お前にユイのなにが分かる、あいつは元気で明るい奴だ!声はデカイわ、関節技を決めるわ、幼児体型だわ!でも本当は誰よりも自分を明るく見せようと努力している女の子だ!」
「それがどうした!」
「そんなところを全部ひっくるめて俺はユイが大好きだ!!」
その言葉を残し、通話が切れた瞬間…
男の部屋のドアが吹っ飛ばされた。
そこから出てきたのはさっきまで電話をしていた先輩だった。
そして先輩が男に向けて言い放った。
「ユイは俺の女だ!!」
人生初の告白のされ方があんまりで呆れたけど…
私はその時思ってしまった。
(私…この人に恋して本当によかった)
☆
俺がユイのいる場所を見つけられたのは古くなった鉄の階段が軋む音が聞こえたからだ。
そこからは絞った範囲内にあるアパートに向かった幸いにもあの範囲内にあるアパートは一つしかなくすぐに分かった。アパートの2階で一人暮らしの男がいる部屋を見つけるのは簡単だった、一つの部屋だけ異様に汚かったからだ。
そこから俺は電話越しにユイに俺の気持ちを全て伝えた。こんな状況だが伝えるしかなかった、伝えなきゃいけなかった…
ドアを思いっきり蹴っ飛ばし、そこで縛られているユイとカメラを持っている男が立っていた。
俺は男を見た瞬間、怒りで頭が沸騰しそうになるが先にユイを縛っている縄を解きにいく。
「怪我はしてないか?」
「大丈夫です」
ユイの顔を見たら目が少し腫れている、それだけで十分だった。大切な人を泣かされて正気でいるほど俺は人間ができていなかった。すぐに男の方を向き、拳に力を入れる。
「ぼ、僕とユイちゃんの邪魔をよくも!」
男は持っていたカメラで襲いかかってくる、男が振り下ろしてくるカメラを避け俺は男の顔面を思いっきり殴り飛ばすと男は引き出しにぶつかり、気絶したらしく動かなくなった。まだ殴り足りないがユイを優先する。
縄と口を塞いでいる物を解いたと同時にユイが抱きついてきた。
「遅くなって悪かったな…ユイ」
俺はユイを優しく包み込む。
「信じてた…先輩が助けに来ることを…」
ユイの言葉は途中から涙声で聞き取りずらかったが言いたいことはちゃんと俺に伝わった。
泣くことが全く無いユイは俺の胸で今までに溜め込んだ分をまとめて出すかのように盛大に泣いた。
それから少し経ち警察のサイレンが聞こえてくる。殴り飛ばした音で誰かが不審に思って呼んだのだろうと思っていると早速、警察官が男の部屋に入ってくる。
それからは事情聴取などを署でされて、帰る頃にはもう日を跨いでいた。
警察署の気遣いで送っていくと言われたがお互いの家が近いからと断った。
人の気配すらしない夜道、俺はユイを送るために一緒に歩いていると、いきなりユイが聞いてくる。
「先輩ケータイ越しに言った告白ってほんとですか?」
ユイの質問を聞いて答える。
「ったりめ〜だろ」
「でもあんまりですよ先輩、幼児体型とか幼児体型とか」
気にしているらしくぶつぶつ言っている。
「じゃあどうすればいいんだよ?」
「もう一度告白してください」
言ってる意味がわかんなかった。気まぐれにも程があると思いながらも言わなきゃ終わらなさそうだったからさっさと済ませる。
「す、好きだよ…ユイ」
想像以上に恥ずかしくって頭から湯気がでそうで言わせた本人の方を見ようしたら、すぐ横にユイの顔があり頬に柔らかい感触を感じた。
ユイは少し離れ…
「私も好きですよ…先輩」
小悪魔めいた笑顔を浮かべながらユイは先に歩きだした。
まだ頬に残っている感触を手で確認しているとあいつらしくって笑みが漏れる。
「ユイ、ちょっと待てよ」
俺は先に歩いているユイを追いかけた。
その日、俺とユイは友達から恋人に変わった。
☆
それから俺とユイは音無と野球の試合をして記憶が戻った。
音無のおかげで俺とユイはあっちの世界で果たせなかった約束を少し違う形だが果たすことが出来るようになった。そう結婚という人生最大の儀式を…
ベンチにいる音無の前に立ち
「サンキューな音無」
「ありがと音無先輩」
音無はいきなりお礼を言われて戸惑っていたが
「試合のことは気にするなよ俺もいい経験になったしな」
少し勘違いしているらしくユイと俺はクスクスと笑いあう。ますます状況がわからなくなってきている音無にちゃんと伝える。
「久しぶりだな、音無」
「お久しぶりっす、音無先輩」
それを聞いた音無は疑問の表情から驚きの表情に変わる
「お前ら、記憶が…」
「おかげさまでな」
「そうっすよ」
そして俺たちはお互いの再会を立花とゆりっぺに気づかれないように小さく喜びあった。
お前と会えてよかったぜ、相棒
後書き
長くなってすみません。ですが日向とユイにゃんの記憶が戻りました。
さぁ〜て次に記憶を戻すのは誰なんでしょうかね。
では、次のお話も期待とまではいきませんが待っていてください。
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