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フェアリーテイルの終わり方

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二幕 エルの妹
  1幕

 
前書き
 少女の知る 妹 

 
 アハルテケ号。アスコルドのテロがあってから臨時で運行している列車の一つである。ストリボルグ号に比べると旧型ではあるが、独特の駆動音にファンも多い。

 ルドガーたちはそのアハルテケ号に乗っていた。

 車内での座席割は、ルドガー、エル、ジュード、レイアで1組。エリーゼ、ローエン、アルヴィン、フェイで1組である。乗客率のおかげでボックス自体は分かれてしまったが、互いに互いの片側は見える位置だ。


「エル。気になるならあっちに座りに行ってもいいんだぞ?」

 しきりにもう一組を気にするエルに、ルドガーは言ってみた。

「き、気になってないし」
「ふーん。俺にはさっきから何度もフェイを見ようとしてるように見えるんだけど」
「ルドガー、いじわる」
「ナァ~」
「そのくせ、フェイがふり返ったら隠れるから、向こうも何だと思ってるんじゃないか?」

 エルは今度、反発しなかった。代わりにルルをぎゅうと抱いた。


「……うと、いたの」


 やがてエルは、ルルの毛並みに口元をうずめたまま呟いた。

「エル、妹いたの。……ちっちゃいころ、しんじゃったけど」
「そうか――」

 ルドガーは相槌だけ打って、エルの頭を帽子ごしに撫でた。

「コドモ扱いしないでー!」
「悪い悪い。で?」
「う、うん。エルの1コ下の妹だったの。ならぶとホントにそっくりねってよく言われたんだー。でもちょっとシャイだったかな」

 エル似の大人しい妹。容易に想像できた。
 きっとエルは頼りない妹を引っぱって遊び回っていたのだろう。妹はエルを必死で追いかけたのだろう。

(俺とユリウスは歳が離れすぎてて、一緒に遊ぶというより、遊んでもらうってほうが正しかったからなあ)

「こらルドガー、きーてるのっ?」
「聞いてる。エルに似て可愛かったんだろ」
「うっ…そ、そうだけど。あ、でも目の色はちがってたんだよ! エルはパパと同じ色だけど、あの子のはママの色だったの。うすーいムラサキ色」
「宝石のアメジスト色とか、そんな感じか?」
「エル、ホーセキわかんないー」
「じゃあ、スミレ……アジサイ、ライラック、クロッカス、ラズベリー、ヘリオトロープ……」
「そうそれ! ヘリオトロープ!」
「花は分かるんだね」

 よく似た毛色の、瞳の色は異なる小さな姉妹。並べればさぞ映える絵だっただろう。羨ましい限りだ。ルドガーは兄であるユリウスと似ているパーツがほとんどないから、よけいそう思う。

「でも意外。ルドガー、花にも詳しいんだね」
「学生時代にノヴァに付き合わされてな。ユリウスに渡す花束選び。女は好きだろ、花言葉とか」
「苦労したんだね…」

 ジュードには肩を竦めるだけで返しておいた。誰が好き好んで、昔好きだった女子が別の男に花を選ぶ話をしたいものか。

「あの子もね、お花をあげたかったんだよ。パパに。だから摘みに行ったのに……」

 せっかく元気になったエルがまた沈んだ声になり始める。

「妹がパパにあげたかった花、湖のギリギリのとこに咲いてたの。あの子じゃ届かなくて、だから『お姉ちゃんが取ってあげる』って……でもエル、すべって湖に落ちちゃったの。あの子があわててパパ呼びに行って、パパのおかげでエルは何ともなかったよ。でも……」

 エルはぼんやりと俯いていく。

「パパ、あの子とふたりきりになって、あの子をぶってた。何言ってたのかよく聞こえなかったけど、『お前のせいだ』とか、『またうばう気か』とか。あの子、パパに何言われても『ごめんなさい』しか言わないの。泣いてゴメンナサイしてるのに、パパゆるしてくれなかった。すごくかわいそうだった」

 ルドガーは横に座るエルの肩を引き寄せる。エルは今度、素直にルドガーにもたれかかった。

「後から聞いても『わるいのはぜんぶわたしだから』って言うばっかりで。そんなことないって、エル、あの子をだっこして言ったんだけど、あの子はずっとそう言うの。――次の日の朝には、あの子はいなくなってた」

 眠そうに瞬きをくり返しながら、それでもエルは語る。

「あの子が部屋にいなくて…湖からあの子のリボンが上がったの…きっと今度は自分でお花を摘もうとして落ちたんだってパパ言った。その日から妹のことしゃべると、パパ怖い顔したから、エルもあの子のこと忘れてってた……ヒドイお姉ちゃんだ」
「ヒドイわけないだろ。同じ名前を聞いただけで思い出せたんだ。エルがずーっと妹を忘れなかった証拠だよ。さすがお姉ちゃんだな」

 ルドガーはエルの帽子を外し、手の平で目隠しをする。

「少し休め。トリグラフまでまだ時間はある。着いたら起こすから」
「ん…おやすみ…」

 目隠しを外すとエルはしっかり瞼を閉じていた。
 ルルが座席に登り、エルの横で丸まる。湯たんぽ頼む、との意で撫でると、ルルは一声鳴いて寝る体勢に入った。

「すっかり保護者が板についたね」
「まあ何だかんだで付き合いも長くなってきたし。連れて来たの俺だから、責任は持つつもり」

 チカン扱いされた件と、懐中時計の妙な力で拒絶された件は、多少なりとエルへの心証に影響しているが、まだ8歳の女の子が「父親との約束だから」というだけで危地に飛び込むのを放っておけるほど、ルドガーはオトナになれていなかった。そして、徐々に心を開いてくれるエルを、かわいいと思わないこともなかった。
 
 

 
後書き
 今回のルドガーさんは何気にタラシです。エルみたいな幼女も思わず胸きゅんしちゃいました。

 あとこっそり呼び方を「兄さん」から「ユリウス」に変更しています。これゲームでも選択できるんですよね。なので拙宅では「兄さん」=ルドガーがユリウスに依存気味、「ユリウス」=普通の兄弟 というふうに分けることにしました。……できていますでしょうか?(-_-;)

 これを書いた頃はオリ主の母の目の色が菫色だと公式発表されていなかったので、作者の視覚的に一番近い花を選びました。この花と次回に出るもう一つの花がオリ主のイメージ花です(*^^*)◢✿ 
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