とある星の力を使いし者
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第123話
上条はユミナの手を引いて、走り続けた。
後ろを確認することなく、限界まで走り続けようと思っていた。
しかし、後ろから誰かが上条の手を引っ張る。
それは、上条が無理矢理連れてきたユミナだった。
「ちょっと待ってください。」
と、ユミナは言うが上条は何を言っているのか全く分からない。
それに気がついたユミナは困ったような顔をする。
すると、上条達の後ろからナタリアとインデックスがやってきた。
「と、とうま・・・・や、やっと・・追い、ついた・・」
激しき息を切らしながら、インデックスは言う。
普段から不良達から逃げている上条でも、今までの距離を走って結構息が切れている。
運動などあまりしないインデックスにとってはきつい物がある。
それに比べて、ナタリアとユミナは全く息を切らしていなかった。
「そう言えば、恭介は?」
「今のところはきょうすけは追って来てないよ。
でも、追いつくのにそう時間はかからないと思う。」
「だろうな。
追いつかれる前に、どこかに隠れる必要があるな。」
「あ、あの・・・・」
インデックスと上条が話し合っていると、ナタリアがおずおずと話しかけた。
「あの人は本当にお母さんを殺すつもりなのですか?」
「・・・・・・うん。
きょうすけは本当にユミナさんを殺すつもりだと思うよ。」
「そ、そんな・・・・やっと、お母さんの病気が治ったのに。」
ナタリアはようやく、状況を呑み込めたのか涙を流す。
それを見たユミナはナタリアに近づき、ゆっくりと抱きしめる。
「泣かないの、ナタリア。」
「嘘だよね?
お母さんは人間じゃないって嘘だよね?」
涙を溜めながら、ナタリアはユミナの顔を見つめる。
ユミナは力のない笑みを浮かべながら、答えた。
「残念だけど、あの人が言っていたのは本当の事みたい。
さっきまでずっと走っていたけど、全く疲れなかったわ。
それに、眼も良く見えるようになったし、本当にさっきまでの自分じゃないみたい。」
そう言って、ナタリアから離れるユミナ。
そして、上条とインデックスに近づいて、深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございます。」
言葉が分からない上条だが、インデックスが通訳する。
「な、何を言っているんですか?」
「私を助けて下さって、こんな化け物を助けてくれて。
あの子をどうか助けてあげて下さい。」
それだけ言って、ユミナは上条達の横を通り過ぎようとする。
「どこに行くつもりですか!?」
何処かへ立ち去ろうとするユミナを上条が呼び止める。
ユミナはゆっくりと振り返り、いつもの笑みを浮かべる。
「あの人の所へ。」
「行けば殺されてしまうかもしれませんよ!」
「構いません。
私一人のせいで、他の人が・・・・ナタリアが危険になるのなら、私は喜んで身を差し出します。」
そこには確かな覚悟があった。
その覚悟を目の当たりにした上条だが、彼も引き下がるわけにはいなかった。
「おかしいですよ!
助かる方法があるかもしれないのに、それを探す事なく死を選ぶなんて!」
「私も反対です。
きょうすけはああ言ったけど、きっと方法はある筈です。
何より、ナタリアさんを残して行くつもりですか?」
インデックスの言葉を聞いて、ユミナはナタリアに視線を向ける、
ナタリアは酷く悲しそうな顔をしていた。
それを見たユミナは、唇を噛み締める。
「貴女だって、本当は死にたくないんでしょう?」
「どうして、そんな事が貴方に分かるのですか?」
「だって・・・・震えているじゃないですか!」
「ッ!?」
そこでユミナは息を呑んだ。
彼女の身体は小刻みに震えていた。
彼女自身も覚悟はあった。
しかし、覚悟ができても恐怖が消えることはなかった。
「ナタリアさんと一緒に暮らして行きたいんでしょう!
なら、最後まで諦めないでください!
俺達も出来る限り、協力します。
だから!」
すると、ナタリアはユミナの身体に抱き着き、力強く抱きしめた。
まるでユミナをどこにも行かせないようにするかのように。
「嫌だよ・・・・せっかくお母さんとまた暮らせると思ったのに。
お母さんが人間じゃなくてもいい。
だから、どこにも行かないで。」
それがとどめだった。
ユミナは眼から涙を流し、ナタリアを抱きしめながら言った。
「私も貴女と一緒に生きていきたい。
まだ、死にたくない。」
今、上条達は街中を走っていた。
あの後、麻生が追ってくる気配は全くなかった。
その時間を無駄にしないためにも、少しでも遠くに逃げる。
「もしかして、諦めてくれたのかな?」
裏路地を走りながら、ナタリアは一向に追ってこない麻生を事について聞く。
それを、隣で走っているインデックスが答える。
「きょうすけが何をするのかは全く分からない。
けど、これだけは言える。
きょうすけは絶対に追いかけてくる。」
「そう言えば、今さらだけど二人はよく恭介の話を信じましたよね。」
走りながら、上条は二人に訪ねる。
ユミナはとても言いにくそうな顔をして告白する。
「普通なら信じないんだけど、自分の身体の変化にすぐに気がついてね。
それに、それほどじゃないけど血を飲みたいっていう衝動はあるわ。」
それを聞いた三人はギョッ、と眼を見開いた。
「とうま、くれぐれもその右手でユミナさんに触れないでね。
吸血鬼は存在そのものが異能だから、とうまの右手が触れたら何が起こるか全く分からないから。」
「ああ、分かっている。」
それについては上条も分かっていたみたいだ。
現に、ユミナを連れて行く際にも、ちゃんと左手を使っていた。
「これからどうするつもりですか?」
「インデックス、イギリス清教に預けるのは?」
吸血鬼とは魔術側の生き物だ。
ならば、知り合いが居るイギリス清教に預ける方が、まだ安心だと上条が考えたのだろう。
しかし、インデックスは何やら困ったような表情を浮かべる。
「とうま、その事なんだけど、魔術結社には預けるのは良くないかも。」
「どうしてだ?」
「吸血鬼っていうのはね、魔術側からすれば伝説的生き物の一つだからだよ。
それが死徒って言う別種類の吸血鬼でも変わりない。
おそらくだけど、魔術結社に預けたらユミナさんは一生、研究素材として使われるかもしれない。」
それを聞いた、上条は言葉を失う。
麻生から確実に逃がせる場所は限られてくる。
一番、最良だと思っていた策が逆に危険だと分かった今、完全に手詰まりに入った。
(学園都市も駄目だし・・・・・くっそ!!どうすればいいんだ!?)
中途半端な場所に逃がしても、すぐに追いつかれてしまう。
(今は考えても仕方がない。
とりあえず、この街から脱出してからだ。)
一応の目標を決め、上条は目の前の状況を切り抜けようと、考え改めた時だった。
カツン、と甲高い靴の音が聞こえた。
その音は不自然な音だった。
まるで、自分の居場所を教えるかのような、そんな感じの音だった。
自然と上条達の足が止まる。
前を見ると、そこには麻生恭介が立っていた。
「恭介。」
上条は麻生の名前を言うが、何も反応が返ってこない。
その時、麻生の腕がゆっくりと動く。
それを見た上条は咄嗟に、ユミナに飛びつく。
上条に押し倒されるような形になる。
すると、ユミナが立っていた頭の位置に何かが飛んでくる。
それは、あの時麻生が持っていた剣だった。
「ちっ、中々直感が働くな。」
面倒くさそうな顔をしながら、麻生はそう言った。
それを見て上条は憤りを感じる。
「お前ッ!!!」
「とうま、こっち!!」
殴りに行きそうになったが、横からインデックスの声が聞こえ、わずかに踏み止まる。
インデックスは横の路地からユミナ達を誘導している。
上条は一瞬、上条に怒りの視線を送り、その後をついて行く。
「とりあえず、今は逃げよう!
大通りに出れば、人もいる筈だからきょうすけも無闇に攻撃はできない筈だよ!」
インデックスの判断は正しい。
幾ら麻生でも、大勢の前で剣を投げてこないだろう。
そうなれば、とにかく捕まらなければ大丈夫だろう。
上条達は路地裏を出た時だった。
そこには信じられない光景が広がっていた。
「誰もいない?」
そう、誰もいないのだ。
周りの家や店の電気は一切ついてない。
街灯だけが、辺りを照らしていた。
大通りには人一人おろか、動物一匹の姿も見えない。
今の時間帯、この大通りでは人を見かけない事はないはずだ。
それなのに、人一人いない。
上条達がこの光景を見て、驚きの表情を浮かべている時だった。
「鬼ごっこはもう終わりか?」
絶望に等しい声が後ろから聞こえた。
上条達はゆっくりと振り返る。
そこに、剣を左手で持ちながら、こちらに向かって歩いて来ている麻生の姿が見えた。
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。
ページ上へ戻る