戦国異伝
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第百四十五話 安土築城その五
「確か」
「はい、本願寺です」
「あの寺を動かしましょう」
「あの寺に余の文を送るのじゃな」
「そうすればです」
「織田家といえど」
「それだけではあるまい」
朝倉と浅井が敗れたことを見てだ、義昭も慎重になっていた、それで二人の僧達にこう言ったのである。
「違うか」
「はい、今のうちの他の家もです」
「動かしましょう」
天海と崇伝は義昭に恭しく言った。
「それも今度は一つの家でなくです」
「多くの家に」
「では一度にじゃな」
「はい、武田に上杉に」
「毛利にです」
「それと北条もです」
「それぞれの家に」
文を送るというのだ、それでだというのだ。
「一度に複数の家を動かせば」
「さしもの織田家といえど」
「それに本願寺も動かします」
「これで、です」
「織田家を滅ぼすことが出来るな」
義昭の目が光った、だがその目の光は暗く剣呑なものだ。その目の光と共に二人に応えたのである。
「そうじゃな」
「そうです、ここは」
「そうしましょう」
「織田家の一人勝ちは多くの家が忌んでいます」
「そして公方様をないがしろにすることも」
「そう、それじゃ」
まさにだとだ、義昭は二人の言葉に我が意を得たという顔で応えた。自然と閉じた扇を持つ右手も前に出る。
「それこそが問題なのじゃ」
「公方様は武門の棟梁です」
ここぞとばかりにだ、天海は義昭に言ってきた。
「それを武門の織田家がないがしろにするなぞ」
「許せぬことじゃな」
「誰が許しましょう」
こう義明に忠義を装って囁く様に述べていく。
「ですから」
「ここはじゃな」
「はい、訴えましょう」
声を大にしてだというのだ。
「是非共」
「そうじゃな、それで本願寺と他の多くの家を動かしてな」
「織田家を倒しましょうぞ」
「今度こそ」
「よし、文はどんどん書く」
我が意を得たりという顔でだ、義昭は言った。
「どの家にもな」
「では文は御願いします」
「公方様が」
「わかっておる、書くことは得意じゃ」
義昭は生まれてから武芸では褒められたことがない、だが書を書く速さとその読みやすさでは褒められてきた。それでなのだ。
「今日から早速書こうぞ」
「それでは」
「その様に」
「さて、な」
また言う義昭だった、そうして。
彼はこの日から文を書きはじめた、そのうえでそれぞれの家に働きかけていった、彼はあくまで自分で動いているつもりだった。
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