ゲルググSEED DESTINY
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第七十六話 有為転変は世の習い
サーペントテールはイライジャが負傷したことによって一時的に活動を停止していたものの、MSのパイロットである劾とイライジャの二人が地上で、リードや風花、ロレッタの非戦闘要員とも言える三人は宇宙にいたこともあり、活動再開の為に劾は先に宇宙に上がるように準備していた。
「劾、本当に行くのか?」
イライジャはそう言葉を掛ける。イライジャは今自分が動けないことが情けなかった。デスティニーとの戦いでストライクルージュが大破した時にイライジャも自身も負傷していた。劾と一緒に宇宙に上がろうにも今の怪我の状態では戦力にならないどころか足を引っ張るだけとなってしまう。
劾とイライジャの機体も宇宙でいる三人が預かったままであり、自分だけが地上で休んでいる状況に悔しさが込み上げる。
「イライジャ――――お前は回復に専念しろ。大丈夫だ、俺も無理をするつもりはない」
そういった慰めの言葉がかえってイライジャを卑屈にさせる。自分は足手纏いでしかないのかと、また劾に負担をかけてしまうのかとそう思うのだ。
「劾……」
「――――治ったらお前にもすぐに仕事に戻ってもらう。それまでの休暇だと思っておけばいい」
劾はお前の事を信頼していると遠回しにそう言ってイライジャの自己嫌悪による劣等感を軽くさせる。
「先に行って待っている。遅れるなよ」
「ああ、わかった――――」
長い付き合いというのもあってか多少持ち直したイライジャは意志を強くして頷く。負傷していても、地上でいても出来ることはあるのだ。傭兵の繋がりを利用して自分なりに情報や資材を集めたり、知り合いや仕事仲間と顔を合わせたりといった裏方の仕事だ。
普段ならリードやロレッタがそういった仕事をするのだが彼らは先ほども言ったように今は宇宙にいる。なら地上で成すべきことを自分がやるべきだろう。
「体を休めろよ。そこまで仕事にこだわらなくてもいい」
「わかっているさ、劾の方も俺が言うのもなんだけど……気を付けてくれよ」
「フッ、了解した。無理はしないさ」
そう言ってイライジャが休んでいた部屋から出て劾は宇宙へと向かう船に乗る準備を整えていった。
◇
「ちょっと前まで地上に戻ってきたっていうのにもう宇宙の方に行くことになるなんてな」
最近まで地上で活動していたジャンク屋のロウ・ギュールはロンド・ミナ・サハクが管理し、現在のジャンク屋の拠点となっているアメノミハシラに来ていた。
「ま、俺達ジャンク屋として直すのも仕事だしな」
彼の過ごす時間軸としては本来ならば地上でマーシャンと共に行動している筈なのだが、様々な所で微妙なすれ違いが発生したこともありロウ達は現在宇宙で活動を行っていた。
「それにしてもすっげーな。極限まで装甲を軽くしてるのに柔くねえっていうのは――――」
「それでロウ・ギュールよ、そなたは結局どうする気なのだ?」
ロウがストライクフリーダムを修理しながらその構造に驚いている中、ミナが話しかけてくる。何をどうするのかといった言葉が一部抜けているのは試しているのか、それともどのことに対する答えが返って来るのかを期待しているからなのか。しかし、ロウはそんなことに対して気にすることもなく普段通りに応える。
「どうするってそりゃあ直すに決まってるだろ?それが俺の仕事で俺自身がやりたいことなんだからな。だから誰にも止められる筋合いはねえし、止める気もないさ」
「――――なるほど、それがそなたの答えか……」
ミナは彼の回答に納得する。ロウの言っていることは自分の道は自分で決めるというごく当たり前のことを行うという発言だ。そして、天空の宣言はそういった答えを寧ろ求めている。
「話を変えることになるが、そなたに一つ頼まれていることがある。そなたともかかわりの深い傭兵からの依頼だ」
「お、もしかして劾の奴からか?」
「フッ、その通りだ。機体の改修を任せるとの事らしい」
こうして今再び王道でない者の原点とも言える三機が集う事になる。
◇
「ダナ・スニップが裏切るとは……確かに彼はそういった事を行ってもおかしくはない者ではあったが……」
ネオの報告を聞いて一人の士官はそう呟く。ガーティ・ルーのブリーフィングルームでは意見を言えるような立場の人間は全員集まって話していたのだが厳しい現状に誰もが溜息をつきたくなる。帰還できなかった多くのパイロットとMS。アルザッヘルから出撃した連合部隊の敗北。ダナの裏切り――――そのどれもが自分たちファントムペインを追い詰めるものだ。
帰還できたのはエミリオとアウル、そしてネオだけ。機体に至ってはまともに稼働するのは最早ロッソイージスとG‐V、使われていなかったMAであるエグザスだけだ。アルザッヘルの連合部隊の壊滅によって自分たちが頼るべき母体も少なくとも宇宙ではほぼなくなったと言っていい。そして、何よりダナの裏切り。これが一番ファントムペインという組織として堪えた。
裏切りというの行為は組織に対して疑心暗鬼を生じさせるものだ。これまで信じてきた相手が突然的に寝返るというのだから当然だろう。ましてや裏切った先がプラントというファントムペインのメンバーにとっては憎しみすらある相手だ。
「まあ、今更焦ってもどうしようもないだろ?今俺らがすべきことは何だ――――反省か?必要かもしれんが、それは今すべきことじゃないだろ。諦める事か?馬鹿いえ、俺らがそんな殊勝な輩なのか?」
沈黙して暗くなった雰囲気を払拭しようとネオは努めて明るく振舞いながらそう問いかける。
「……戦力の補充と補給は必須だと俺は思う。少なくともたった二、三機の機体と消耗した艦一隻ではどうすることも出来ない」
エミリオの言うように補給と補充は必須だと言えた。ガーティ・ルーの物資は月基地アルザッヘルで補充して以来全く補充されていない。機体の方に関してもNダガーN、ダークダガー、スローターダガーといったダガー系は全滅。ロッソイージスとG‐V、MAのエグザスが唯一稼働する機体だ。
「しかし、どこで補充するというのですか?アルザッヘルは門前払いをうける事になるでしょうし、艦の修理とMSの補充となるとそれなりの施設でなくては……」
イアンがエミリオの提案に対して現実的な問題を上げる。どこへ向かった所で現在忌み嫌われているであろうファントムペインをあっさりと受け入れてくれる場所などそうそうない。中立都市は愚か、連合の施設であってもそうそう受け入れはしないだろう。
「だったら奪えばいいじゃんか?」
「確かに、現状を考慮すればそれが一番有効だろうが……」
強奪というアウルの提案は妥当なものではある。しかし、そのリスクは当然ながら非常に大きい。それに短時間で望みの物を手に入れられる可能性もあまりない。
「いっそアルテミスでも襲うか?」
「場所が遠いと思いますし、いくら艦自体がミラージュコロイドで発見されないと言っても気づかれずに接近するのは難しいはずです。無謀ではないですかね?」
「わかってるって……冗談だよ」
冗談交じりで言ったネオの提案も副官のイアンがはっきりと否定していく。
「手詰まりだな……」
コロニーレーザー攻撃の時よりも状況は厳しい。だが、ネオの思い浮かんだ意見によって僅かながらも解決策が浮かぶ。
「メンデルはどうだ?あそこからジャンク屋なりなんなりを通して物資を補給する。下策だろうがメンデルを直接あの馬鹿でかい要塞施設にぶつければ止められるかもしれない。何せ半分でブレイク・ザ・ワールドを巻き起こしたんだ……不可能じゃないはずだ」
限られた選択肢の中で選んだ彼らに自身の道。果たしてそれが正答なのかはわかりはしない。そうして彼らは生きていることを証明するための戦いを彼らは続ける。
◇
「いつまでこの七面倒な戦いを続けようっていう気だ、レイ!」
『無論、貴方が落とされるまでですよ!』
そう言ってレジェンドのドラグーンから一斉発射された七線のビームをバク転するかのようにRFゲルググを回転させることで回避する。もはやここまでくれば芸術的といっていい見事な回避だ。
「そうやって異を唱える輩は排除するってか?随分と懐が狭いんだな、お前も議長も!」
『平和を望むというのならばある程度の束縛は受け入れるべきだ!それが出来ないというのなら、貴方に平和を望む資格などありはしない!』
「平和云々の資格がどうとか一々他人に指図される言われがあってたまるか!」
放たれるドラグーンのビームを回避し続けるマーレ。一見、会話をするほど余裕を保っているかのように見えるが、実態は逆だ。会話をすることで少しでも相手の気を逸らそうとしている。議長の演説は全周波数によって言い放たれていた以上、マーレにもその内容は当然聞こえていた。
その演説内容から察するに、おそらく自分たちは昨日まで共にした隣人であり、かつての英雄ということだ。流石に今のザフトの部隊の中心にいる状況下でレイへの対応と同時にザフト軍を相手にすることになればマーレとしても厳しいものがある。
「時間があまりないか……」
未だにどちらにも周りのザフト軍からの援護がないのはどちらが敵でどちらが味方なのかが定まっていないからだ。しかし、デュランダル議長が演説を行った事と同様に、マーレが敵であると発言されてしまえばその時点で十中八九、周りからの攻撃を受けることになる。そうなればドラグーンを狙うのに進行方向先にいるザフトを構って撃つのを躊躇う必要もなくなるが、だからといって大量の敵に囲まれるのはよろしくない。
『投降すれば命だけは保証してあげます。私は此処で貴方を釘付けにするだけでもいいんですよ?』
そしてマーレにとって更に厄介なのはレイもそのことに気付いているという事。そのせいで無理な攻勢を仕掛けることもなく、ただ状況の問題解決を先送りにしていると言ってもいい。
「賭けるか?分は悪くないよな――――」
状況を打破するには自分の方から動かなくてはならない。マーレはRFゲルググのコンディションを確認し、位置情報を把握し、攻め手に出る準備を整える。戦闘時におけるマーレとクラウの最も顕著な違いと言われればそういった事前準備のタイミングだろう。
「エネルギー供給、各部充填率……各関節部干渉、損耗率共にオールグリーン――――フィードフォワード制御再起動……伝達関数、コリオリ偏差修正」
マーレは乗る前にも当然自分なりのチェックを行うが、技術者陣営の事を信頼しているため、そこでの確認は保険のようなものだ。そして、いざ戦闘時となった段階で大きく変化が起こる(あるいは起こす)直前に簡易ながらももう一度確認するのだ。そうすることで戦場においてもベストとは言わずとも常に機体のコンディションをベターな状態へともっていける。
一方でクラウは技術者としての自負もある為、戦闘時における機体の確認はそう多くない。勿論、最低限の確認や損傷時の確認は怠らないが、マーレのチェックと比べれば明らかに甘いチェックと言える。その為、彼は戦場に出て機体が落とされることが多いのだ。
しかしながらこれはマーレや戦場で調整を行えるような卓越した技量を持つ一部のパイロットが行っていることであり、本来なら殆どのパイロットはクラウと同様の行動しかしない。そして、マーレとクラウの技量を分かつとしたら、ある意味ここが分水嶺なのだろう。
『仕掛けてくる気か!』
レイの方もマーレのRFゲルググの反応の違和感に気付く。これを防げなければ自分が落とされるという事も同時に確信した。
『来るなら来い……』
銃身が焼けつくすまで撃ち尽くして蜂の巣にしてやると言わんばかりの意気込みでドラグーンを展開させる。ドラグーンの稼働時間を考慮している時ではないだろう。少なくともこの攻勢を凌げば一気に状況はレイの有利に変わる。レイとしても時間を稼ぐだけの戦いはつまらないと感じていた。
そして、RFゲルググは二本のビームサーベルを抜いて突撃し、レイはそれを狙い打たんとばかりにドラグーンとビームライフルを構えたその瞬間――――両者の間とお互いの機体付近をビームが通り過ぎ、両者がそれを回避したせいで一瞬の攻防の為の集中が途切れる。
『これで二人とも戦闘終了ね。空気読まずに介入したのは悪いと思ってるけど確実に止めないといけないわけだからさ』
三射のビームを放ったのは議長に後始末を任されたクラウ・ハーケンであった。
「何の真似だ?」
『全く同じ意見です。何のつもりですか?』
集中力や気勢をそがれたと言っても彼らは別に動けなくなったわけではない。良くも悪くも極限まで集中していた状態から普段通りの状態に戻っただけだ。
『今はまだ舞台が整っていないって事だよ。好き勝手やり合うのは良いけど時と場所を選んでほしいな』
言っていることは正論なのだがそういう状況ではない。彼らからしてみれば寧ろ時と場所を選べることなどそうそうないと言いたいだろう。
『まあともかくレイはメサイアに撤退。マーレもアスランを追ってミネルバに向かえばいいと思うよ』
「――――見逃すって事か?」
『そう捉えたならそういう事なんじゃないかな?』
あくまでも本音を言うつもりはないとばかりにクラウは通信越しでもわかる様な飄々とした様で対応する。
『ま、議長の命令だからね――――権限を与えられたからどう処理するかは俺の采配らしいし』
つまり、現時点でどちらが敵というわけでもない両者に対してクラウは両者の言い分を認めてやれば良いと判断しただけの事だ。
『……了解した。ギルの命令なら従おう』
先に銃口を下ろしたのはレイの方だった。こうなれば戦闘を継続する意味を持たないマーレの方も銃口を下ろす。互いに予期せぬ介入であったものの、一時的に戦闘は収まる事となった。
後書き
絶望した!元帥までミッションクリアしたあたりでガンダムブレイカーにゲルググがいないことに気付いて絶望した!C型バックパックとビームマシンガンだけはあった。そのせいで余計にもしかしたらいるんじゃないのかなって思ってたんだよ……。
久しぶりに働いたクラウ。果たして最終話のスタッフロールで何番目になれるくらいになるのか?そもそも物語の最終話前に死んでそれ以後も誰かに思い出される様な台詞が無かったらスタッフロールには載らないという悲劇が……起きないといいね(笑)
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