World of Destiny Crossed―魔法少女と剣士の物語―
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第一部
魔法少女と剣士
やって来た非日常
「不思議な雰囲気の人ですよね、暁美さん」
志筑さんがクラスの人達に囲まれている暁美さんを見ながらそう言った。
「ねぇあんた達、あの子、知り合い?」
「え……?」
「うん?」
「何か2人ともさとき思い切りガン飛ばされてなかった?」
確かに見られはしてたが、別に殺気は混もって無かったし……。と考える俺ってまだ《剣士》の意識が消えてないな……。
「俺は『どっちでも』知らんけど」
「……ふぅん?」
さやかが俺に無言で質問を追加してきたので答えておく。仮に生還者だったとして馴れ合う気は無いが。
―――と、その時。俺の席の横―――より正確に言うなら隣のまどかの前に人影が立った。
噂の渦中の人物。暁美ほむらさんだった。
「鹿目、まどかさん」
「!?……は、はいっ」
お、良い返事……じゃなくて
「あなたが、このクラスの保険係よね?」
そなの?
「え……えと、あの」
「連れて行ってもらえる?保健室」
ああ、そういや……心臓の病気で入院してたとかさっき言ってたな先生。―――そして。
「……で、拉致られたぞ?」
「……拉致では無いと思いますが?」
「な、何あの子?」
誰か着いてきて!というまどかの無言の訴えに反応する間も無く、連れ去った(?)暁美さん。ナニあれ。意味不明ェ……。
その時にさやかがポン、と手を打って俺にビシッ、と指を突きつける。
「悠よ、行け!我らが姫を救出するのだ!」
「……何キャラだよ、それ」
という事になった。
極力目立たないよう人の合間を抜け、校舎と校舎を繋ぐ廊下に差し掛かった時、何か会話をしている2人に追い付いた。
時々思うのは俺が今、何気なくやったこの忍び足《スニーキング》や柱の陰に隠れる《ハンティング》技術は全てSAO時代に習得したシステムスキルで、現実世界で使えるはずが無いのだが……不思議な事に通用してしまうことがあるのだ。体に染み込んだ体術スキル(流石にバック転とかは出来ないが)の型をなぞることは造作もないし、3ヶ月程前にとある事情により踏み込んだプレイヤースキル制の妖精郷ではシステムアシスト無しで剣技を再現できた。もしかしたらフルダイブ環境と言うのは能力はともかくとして技術を習得するにはうってつけなのではないか……。
などと考えながら耳を側立てると何やら真剣な声が聞こえてきた。
『鹿目まどか、あなたは―――自分の人生が貴いと思う?家族や友達を大切にしてる?』
人通りの無い渡り廊下。思わず聞き入ってしまいそうな美声が響く。
(……何が言いたいんだ?)
『わ、わたしは――大切、だよ。家族も、友達も、大好きで、とっても大事な人達だよ』
『本当に?』
『本当だよっ、ウソな訳無いよ!』
まどかが珍しく強い口調で返す。それもそうだ。今日出会ったばかりの転校生にそんな知ったような口調で意味不明の質問をされたら強く出てしまうのも仕方ない。
『もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうなんて絶対に思わないことね』
『……え』
『さもなければ―――全てを、失う事になるわ』
人が一人歩き出す気配。数歩進んで音が止む。
『あなたは、鹿目まどかのままでいればいい。今まで通りに、これからも』
後ろで茫然自失といった様子で立ち尽くすまどか。彼女は警告を受け入れてくれるだろうか。最近はまどかが直ぐに魔法少女になってしまうことは無くなった。
今回も何としてでも防がなければならない。
(直近の懸案事項は……あの男)
今までの世界で見たことが無い、初見の男。様子からしてまどかや美樹さやかと親しげであったが……。あの男はいったい何なのか。
無関係の存在なのか、敵なのか。それとも―――
「……っ!ばかばかしい」
信じられるのは自分だけ。もしあの男が邪魔をすると言うなら始末するだけだ。
(どちらにしろ、少し調べてみる必要があるわね)
今までとは違う些細な変化がどう関わってくるのか……今度こそ失敗は許されないのだ。
「必ず――あなたを、助ける」
さて、授業だ。
「む……」
数学、それは俺の天敵とも言っていい教科だ。数ヵ月前まで、ほーてーしき?何それおいしいの?だった俺はちょっと捻られた問題を出されるとたちまち脳がフリーズする。―――というか、理系教科は元々あまり得意じゃない。
今、目の前には数字とミミズが合わさったような数式が書いてある。
「何あれ、宇宙の真理でも書いてあんの?」
「んなわけないでしょ」
打てば響く気持ちの良いさやかのツッコミもどこか元気が無い。辺りを見回せば顔をしかめている生徒が殆どだ。(
なんだ、難しいのか。良かった……)
いや、良かないけど。高校受験……後1年半でこんな問題を解けるようにならないといけないんだよな……やれやれ。
「あー、では……暁美さん。前で解いてみてくれるかね?」
「はい」
教科書を睨みながら四苦八苦やっていると、例の摩訶不思議転校生の暁美さんが指名された。立ち上がり、前の黒板まで歩いていく姿1つ取っても洗練された『何か』を感じる。
(あー……。もやもやする)
洗練された―――言い方を変えれば、最適化されている。自分の動作1つを徹底的に繰返し、一切の無駄を省いたアクションで最大の結果を生み出す。俺にとっては特段珍しい事ではない。つい半年前までは俺も生存を賭けた戦いの中で同じような事をしていたのだから。
暁美さんは淀み無くチョークを黒板に滑らせ、やがて解答に至った。
「……すばらしい、正解だ。それでは解説に入る。まずは―――」
体育。言うまでもないだろう、大・不得意だ。日の光浴びると全身が灰になってしまうよ、HA、HA、HA……あー、クソ眩しい……。
「……物凄いダルそうな顔しながら何やってんのよ」
「平均台」
「『台』じゃなくて『棒』だね、それ……」
おお、まどかがツッコンだ!?しかし何故厭きれ顔なのか。理解し難いよ。鉄棒の上でバランス取って眩しさを紛らして(出来てないけど)いるだけなのに。
「お、次。暁美さんだぞ」
漆黒のロングヘアーを縛らずに綺麗なフォームで加速。軸足に体重を乗せきり、これも一切無駄の無い跳躍により170センチのバールを飛び越えた。
「わぉ。才色兼備?」
おまけに不思議ちゃん。あんぐりと口を開けているまどかとさやかの横に降り立つと、伸びをする。
(なーんか面倒事の匂いがするなぁ……)
理性ではなく直観による『嫌な感じ』。
少年の中で『何か』がざわめいた。
放課後。ショッピングモールのファストフード店に寄るとかで別の道に行ったまどか達を見送り、俺はその隣にある食料品店に行った。
「ふむ、今日は魚が安いな。……いや、昨日食ったばかりだしなぁ」
では次に安い野菜か。いや、特売日は明後日だ。ならば今日はやはり魚……。
「―――で、どっちがいいかね?暁美さん?」
「……っ!!」
唐揚げタイムセールが始まる間際とあって次々と主婦達が集い始めている後方。振り向けばそこに紛れ込むように黒髪の少女が立っていた。
「ストーカーはあまり趣味がよろしくないと思うなぁ……。目的がまどかじゃなくて俺だったのは予想外だったけど」
「……何時から、気付いていたの?」
「んー?学校出てからお粗末な尾行がいるのは感じてたけど、君だって分かったのはモールに入ってからだよ」
「あなた、何者?」
その言葉が発せられた時、燻り続けてきた《スイッチ》がカチリと音を立てて入った。
「何者?それはこっちが訊きたいセリフだなぁ…………事と次第によっちゃあ、ただじゃおかねぇぞ?」
暁美が俺の豹変ぶりに驚いて一歩たじろぐ。そりゃあ、驚きもするだろう。
まどかやさやかも知らない……《ユウヤ》と呼ばれていた頃の《俺》だからな。
「……時間が無いの。答えて」
「おいおい、自分の要求だけ叩きつけて自分は譲歩しないのかい。交渉のイロハから学び直して来い」
時間が無いのなら去ればいいと言うかのように手でやりながら背を向けた時、そこへ看過しがたい言葉が突き刺さった。
「鹿目まどかが死んでもいいの?」
「…………今、何て言った?」
「私に時間を取らせると鹿目まどかが死ぬわよ」
何を、言っているんだ?コイツは……。まどかは物理的距離で言えば数百メートルの所にいるはずだ。
「おい、冗談もいい加減に―――」
「冗談かどうか、その目で確かめてみるといいわ。そうね……5、6分私がここに居ればいいかしら。非常階段の所に行ってみなさい?」
「―――ちっ!!」
その声は余りに冷たく、美しく……そして悲しそうだった。言い様の無い不安感が込み上げ、俺の足は自然と非常口に向かって走り出していた。
「……私も、行かなくちゃ」
移動し、腕に時を操る盾を顕現。彼女に誰も目を向けていない瞬間を狙って魔法を発動する。次の瞬間、その場には誰も居なかった……。
硬く冷たい床であったはずのそこは弾力のある地面に変わり、壁も、天井もねじ曲がったような空間に私達は居た。
「さやかちゃん、ここ……」
「分からない……来た非常口はこっちの筈なんだけど……」
ファストフード店で仁美ちゃんと別れた私はさやかちゃんに付き合ってCDショップに行きました。さやかちゃんには上条君という幼馴染みがいて、交通事故にあって入院している彼にネットでは聞けないCDを買っていってあげるのがさやかちゃんの日課です。
さやかちゃんがCDを選んでいる間、私は好きなアーティストの新譜を聞いていました。そんな時、私の頭の中に「助けて」という言葉が響きました。その声に導かれるまま非常口を抜け、改装中のエリアに足を踏み入れた時、天井のエアダクトから今、私の腕の中にいる白い不思議な生物が血塗れの状態で降ってきたのです。
そして、それを追うようにあのちょっと怖い転校生、暁美ほむらちゃんが現れました。ほむらちゃんは私にこの不思議な生物から放れて、と冷たく言いました。私は……ほむらちゃんがこの子に何かをする
んじゃないかと怖くなり、途中で割って入ってきたさやかちゃんと一緒に逃げました。しかし、
「ひ、非常口は……?どこよ、ここ?」
世界が歪んでいるような奇妙で恐ろしい世界。誰かの笑い声も聞こえてくるような気もしました。
「ひ……!?」
そして、私は見てしまいました。黒い蝶が舞う中、そこらじゅうに立つ、顔の無い男の人。それらがカクカクと動き、私達を見てケラケラと笑います。
いつしか、その奇妙な怪物達は目の前に迫り、顔の無い頭を近づけ―――
「きゃあああああっ!!」
さやかちゃんが叫ぶのと、
「―――その子達に寄るな、怪物共」
怪物の胸元辺りから黄色く光った腕が突き出て来て怪物が霧消したのは同時でした。
「……なんだ、これ」
私の心は数秒前と違ってとても落ち着いていました。狭窄した視界が広がっていき、四肢に力が甦ってきます。
「ゆう、くん……」
「……大丈夫か、まどか?」
さっきまで閃光を放っていた。自分の腕を驚いたように見ていた朝宮悠君は私の肩に手を乗せて、心配そうに顔を覗いてきます。
「うん、大丈夫……悠君、これって……」
「……悪いがさっぱり。一応、確認しておくが、ここって『現実世界』?俺って生身?」
おかしな質問でしたが、悠君がさっきの腕の光を見ていたのを思いだし、言わんとする事が分かりました。
「何かよく分かんねぇけど…………もしかしたら、そうゆうことか?」
おもむろに悠君が右の拳を握り締め、腰の辺りで溜めるようなしぐさをします。すると―――
「やっぱりか」
拳を今度は緑色の光が包み、時間と共にその光度を増していきます。怪物が一匹、悠君に飛び掛かりました。
「悠、避けて!!」
さやかちゃんが叫びますが、もう間に合いません。悠君は怪物をかわす代わりに右の拳を素早く突き出しました。
「《閃打》」
怪物がまたもや霧散。辺りはもう笑い声も響いていません。
「どうした?終わりか、雑魚共」
彼のその冷酷な声が異様に響きます。
「ゆ、悠?」
「悠、君?」
いつものんびりとした口調の悠君の面影は全くありません。笑い声を納めた怪物達は今度はギチギチと怪音をたてながら増えていきます。
「ふ、物量で勝負か。単純な奴等だ」
悠君が右腕を頭上に、左腕を地面に向けて構え、それを淡い群青の光が包みます。
しかし、私達がその先を見ることはありませんでした。
「よく頑張ったわね。もういいわよ」
黄色い閃光が怪物を薙ぎ払い、スタッと人影が現れました。
後書き
個人的にマミさんは油断さえしなければ激強だと思う。
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