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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第19話 秘密結社


――新帝都フェザーン――

宇宙暦808年/帝国暦499年 8月19日。
執務室へ報告に訪れたシュトライトに、アドルフは質問を投げかけた。

「シュトライト、卿はどう思う?」

「は? 何がですか?」

「久しぶりに地上に出たら、いつの間にか旧ロアキア領を完全制圧しちゃってたことについてだ」

「………どうコメントして良いか分かりませんが……陛下がどこぞの地下室に引き籠って『回想シーン強制流し装置』とやらの製作に勤しんでおられる時も世界は動いている、ということでしょう」

「なるほど、この世の真理だな」

シュトライトは頭が痛くなった。
一週間ぶりに、ようやく姿を現したと思ったらこれである。
彼ならずとも溜息をつきたくなるというものだ。

その様子を見たアドルフは何やら弁解めいたことを言い出す。

「仕方あるまい。せっかく製造に成功した『回想シーン強制流し装置』があの暴力冥土とその手下どもに壊されたのだ。私は銀河帝国の皇帝として、メイドごときの暴力に屈するわけにはいかんのだ!」

「それで、復元しようとして失敗した……と?」

「いや、復元には成功したさ。だが、完成した頃合いを見計らってまたもやあの冥土が突入してきたのだ。よもや同士の中にスパイが混じっていたとは……見事にしてやられたわ! これではいくら計画を水面下の更に下の下で秘密裏に進めようと無駄ではないか! しかし、私は諦めない。いつの日か、『回想シーン強制流し装置』を敵軍に向け使用して見せる!」

「それは結構ですが……陛下がサボッてる間に大量の書類が溜まっております。是非とも再度の復元の前にそちらを処理して頂きたいものですな」

「ま…まあ、いずれにせよ、作戦に関わった者たちに御苦労だったと伝えておいてくれ。……これで、ようやく枕を高くして寝れる」

「陛下のここ数年における1日の平均睡眠時間が、約12時間なのですが………」

「………これで、ようやく枕を高くして寝れる」

「いえ、ですから陛下の平均す――」

「これで、ようやく枕を高くして寝れる」

「……………」

もう何も言うまい。
シュトライトはそう思った。

「ま、まあそれは置いといてだ。ロアキア全土の制圧完了とオリアスの戦死についてはメルセリアとオルテシアに伝えねばなるまい。どう伝えれば……というのが…な」

「……なるほど。敵対関係にあるとはいえ、血の繋がったご兄妹ですからな」

流石のアドルフも、妻に肉親の死を能天気に伝えるほど空気が読めないわけではない。
だが、どう伝えたらいいか…良い案があるわけでもない。

そこで、困った時のシュトライト頼みであった。

「何か良い案はないか?」

「…………正直に伝えるしかないでしょうな」

「そうか……」

アドルフの心情としては顔を合わせては言いたくない報告であったが、これは全ての決定を下したアドルフ自身が直接伝えねばならない事であった。

・・・・・

メルセリアとオルテシア。
彼女たちは銀河帝国皇帝アドルフ1世の妃であると同時に、旧ロアキア統星帝国の皇女であった。

アドルフはその彼女たちに祖国ロアキアの完全滅亡と、オリアス・オクタヴィアヌスの戦死を告げる。

「ロアキアが滅んだのですか……それに兄も………」

「悲しいか? オルテシア」

「悲しく無い……と言えば嘘になりますが……ですが仕方無いという気持ちがあるのも確かです」

「そうなのか?」

「はい、兄オリアスは父を幽閉したり武力で以って辺境を支配下に置こうとしておりました。それが今、我が身に返っただけのこと……」

「耳の痛くなる話だな、俺も武力で以ってロアキアを制圧した。いずれはティオジアにルフェールも尽く滅ぼし、我が帝国の版図へ加えることになるだろう」

「…………」

「メルセリア、お前はどうだ?」

「……私もオルテシアと同様です。結局のところ、オリアスは……ロアキア統星帝国はこの銀河を統べるに相応しくなかったということでしょう」

メルセリアの言葉は辛辣であったが、それはある意味皇族として生まれて来た者たちにとっては常識であったのかもしれない。

「(いずれにせよ、2人とも理性・感情の両面で納得していてくれたのは幸いだな)」

アドルフは心の底からそう思った。


* * *


薄暗い地下室。
だが、そこは異常に広い空間であった。

ここは萌えを銀河中に広めることを信条とする秘密結社『銀河団』の本部である。

無論、結社の首領は我らがアドルフ・フォン・ゴールデンバウム。
銀河帝国の現皇帝でもある人物だった。

「諸君、私は遂にロアキア全土の制圧を成し遂げた!」

壇上に立ったアドルフがそう言うと、周囲から歓声が上がる。
声が静まるのを待って、アドルフは話を続けだす。

「これが何を意味するか……諸君等は気づいているだろうか?」

「…………」

「そう、ロアキアの全てに萌えを行き渡らせるのが可能であるということだ!」

「オオー!!」と、先程の数倍の歓声が上がった。

かつては、帝国全土に萌えを普及させるのが彼らの野望であったが、その野望は帝国本土のみならず自由惑星同盟、遂にはロアキアへと達したのだ。

「今現在、萌えは旧帝都オーディンや人類発祥の地である地球のあるオリオン腕のみならず、旧自由惑星同盟のあったサジタリウス腕にも広く布教され、遂には南十字・盾腕に達している。以前にも述べたと思うが、私の野望はこの銀河全体に萌えを行き渡らせることである。だが、その道はとてつもなく険しい。おそらく、私が生きている間にそれを達成することは叶うまいが、いずれ我らの子孫たちがこの野望を完遂してくれると私は信じている。………とはいえ、私は自分の代で可能な事は可能な限りやっておき、次世代の同志たちの活動を少しでも楽にしたいと考えている。そこで、先ず手始めに我が銀河帝国はオリオン腕の全てを制覇する。そして、私が生きている間にティオジアを、ルフェールを下し、帝国の全支配領域に萌えを広めてみせる。萌えで埋め尽くしてみせる!!」

そこでアドルフは声を切り、周囲を見渡す。
そして言い放った。

「萌えを銀河に!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「萌えを銀河に!!」」」」」」」」」」」」」」」」


1時間後、この会場に皇帝《アドルフ》捕縛隊が突入。
関係者は全員捕縛された。
 
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