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アマガミという現実を楽しもう!

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第9話:オリエンテーションキャンプ(2)





「ん~、楽チンだねぇ♪」
「……」


 俺の背中で上機嫌に笑って地図を見渡す女王様がそう仰る。そんな俺は女王を背負って目的地までお連れする従者。そして辺りは、青々とした木々に囲まれた平坦な山道に俺達4名。


「チェックポイントまであと少しだからね!そこまで頑張れよ!」
「分かった。けどお前、少しおm…」
「重いとか行ったら首締め上げるよ!」


 夕月のメガネが光って表情が読めなくなる。その光と口元に浮かぶ不敵な笑みが俺の精神を圧倒し、俺は言わなかったことにするため、閉口する。

(これが梨穂子にあって夕月にない「おしとやかさ」って奴か、なるほど男が逃げていく訳だ。高校生までにはその性格におしとやかとか、いじらしさという機能を実装しておけよ。納期を過ぎると、高校生活でも男に逃げられるぞ)


「いま、物凄い失礼なことを考えてた」
「遠野、今考えていたことを一字一句私に言ってごらん?」
「ハイ、私ハ従順ナ瑠璃子様ノ僕ニ御座イマス!ハイ、瑠璃子様!イエス、マイロード」


 飛羽に心を読まれ、夕月に内容の説明を求められた俺はマンガやアニメで知っている知識の中で絶対的な忠誠を表す言葉をひたすら繰り返した。飛羽や夕月の疑念は薄れたのか、再び先ほどの状態に戻る。
 横を見ると申し訳なさそうな顔をした同じ班の男子(中島くん)が歩いていた。


(申し訳ないと思っているなら変わってやろうか?感触は確かに役得かもしれないが、重さと足腰に半端無く負担がかかるぞ)


 何でこんなことになったんだ…。










 発端は、夕月の提案だった。
 チェックポイントも後わずかで全て回ってしまってこの先つまらないから、暇潰しにゲームをしようじゃないか、と。
 通り道の階段でジャンケンをして、グ○コ、チョコレイト、パイナッブルで進むあのゲームをやって、誰が一番先に階段を登ることができるかを競うことにした。勝者一名は敗者一名に次のチェックポイントまで罰ゲームを行うという条件がついてな。めんどくさいし、何かあると疑いパスと俺は言ったんだが、多数派により少数派の俺の意見は民主的に却下された。班のもう一人の男子(中島君)は、押しに対して弱い子で夕月と飛羽の圧迫に勝てなかったとようだ。勝負を行った結果、前述の状況のとおり、俺が負け、夕月が勝った。


















「たっくん…何を、しているの」


 最後のチェックポイント付近で、別の組の班と遭遇した。知子に響、他男子二名が先客としてスタンプを押している最中であった。知子が夕月を背負った俺に気がつき、ジト目に「へ」の字の口をしている。徐々に近づいてくる気がする。


「いや、これはだな」
「お、川田か。悪いけどダンナを少し借りてるわ。」


 背中の方を向くと、夕月がにかっと笑って手をひらひらさせていた。完全に知子をからかうポイントを抑えてきてやがる。


「だ、だから、た、たっくんはあたしのダンナじゃないってば!」
「じゃあ塚原か?すまないね、ダンナ借りててさ。」
「あら、貸した覚えはないわ。ま、貸すのは良いけど、きちんと返すのよ」


 知子は慌てて、響は微笑を保ったまま、夕月に答える。俺の意思を全く無視した上での賃借の契約がいつの間にか成立していた。俺という物権を対象として、な。俺の上での夕月と響がやりとりをしている間、知子は俺をじっとみていた。


(くりっとした可愛い目してんな~…じゃなくて、何でこいつ俺を見ているんだ?おいおい、この辺根っことか危ないんだから足元気をつけないと)

知子は、何か考え事をしていて足元に気が回っていないようだ。何度か、足を根っこに引っ掛けて転びそうになっている。


「おい知子、この辺危ないから足元を見ろ」
「たっくんに言われなくても分かって……きゃあ!」


 俺の方に顔だけ向けたとき、地面から露出していた木の根っこに右足のつま先を引っ掛けた。知子はバランスを崩して転び、右ヒザを強く打つ。


「あたたたた……」
「まったく…、すまん夕月、悪いが降りてくれないか?」


 俺は背中に乗っていた夕月を下ろし、転んだ知子の傍に歩いていく。夕月・飛羽ペアも俺の後ろに着いて来る。中島君も他の男子二人も駆け寄ってくる。


「知子、大丈夫?」
「これくらい、平気よ」


 知子の傍に近づいてくる響を安心させようとヒザを上げて立とうとするが、右足が踏ん張ることが出来ないようである。へんな転び方をして転んだ時に足を捻ってしまったようだ。


「全く、しっかり前を向いていないから」
「むう…」


知子は横目で俺を見て、再び地面に視線を落とす。


(このままじゃあ、知子が動けないし…仕方ないな、俺が運ぶか)


「ほれ」

 俺はかがんで腰を下ろし、背中を知子に向ける。


「へ?な、何?」
「何って、おんぶして先生のところまで運ぶから早く乗れよ」
「お、おんぶって…もう小学生じゃないんだし恥ずかしいわよ!」
「何言ってるんだよ、それじゃあ運べないじゃないか。」


 はぁ、と俺は溜息を一回つく。


「じゃあ大人らしくお姫様抱っこの方が良いのか」
「お姫様……、ッ何言ってるのよ!」


 知子は、顔を真っ赤にして首を振る。周りを見ると、夕月や飛羽、中島君含む男子生徒が俺と知子を面白そうに見ている。彼らの周囲の視線が気になるようだ。これじゃ埒が明かないな、と俺は思い強行策を取る事にした。
 強引に知子の腕を俺の首に回させ、しゃがんで下げた腰を立って持ち上げて知子の身体を持ち上げた。身体を持ち上げた時に、小さく「きゃっ」という声が聞こえる。
軽い、と思った。小学生の時も背負ったことがあるが、その時はもう少し重かった気がするが…、単純に俺の背がでかくなったのか。子どもの身体って成長早いな、と感心してしまう。


「夕月、飛羽、中島君、すまんが先生のところまで知子を運ぶから先にいってくれ」
「ああ、分かったよ。あとは任せな」
「任されよ」
「あ…ああ」


 後ろを振り向いて、響きと目が合う。響は目が合うと、そのまま頷いた。行ってらっしゃい、と言っているようだった。そのまま、知子を背負ってスタート地点へ戻ることにした。









 所々で歓声やら笑い道が聞こえる。チェックポイントを見つけたのだろうか、それとも話が弾んでいるのか。


「前を見ないで転ぶなんて、お前らしいよ」
「…うるさいわよ」


 女の子を背中に背負うなんてうらやましいシチュエーションではあっても、知子と俺の身体はそんなに接していなかった。俺と一緒にこんな風にしているところを他の奴に見られるのが恥ずかしいのだろうか。思春期で難しい年頃だしな。


「…そういえば、前にもこんな風に負ぶってもらったことがあったわね」
「ああ、お前が山の奥に入っていって迷子になった時だろ?」


 そう、あの時もこんな風に俺が知子を背負って帰った。帰る道が分からず泣いていた知子を俺が見つけたんだっけな。確か、スクールに入って一年目、小学三年の頃だった。俺があいつと同じ級に上がった時で色々話しかけてきた頃だった。入ってすぐバタフライまでマスターした俺をライバル視して何かと話しかけてきてたっけ。その分話す機会があったから次第に仲良くなったんだっけ。
 ある日、スクールが終わった後に近くの山に行ってみようという知子の提案で俺と響を連れて山に入ったんだよな。知子が無計画に山の中に入って、そのうち姿が何処にも見えなくなって。そういや、探し出した直後の俺を見た知子ときたら、ワンワン泣いて抱きついてきたな。俺よりも当時背が高く、俺もまだまだ非力だったから背負うのが大変だったな。今思い出しても、純粋に懐かしく心温まる出来事だったな。


「お前は普段しっかりものなのに、何かにムキになってこういう風にドジったりするところは変わらないよな」
「たっくんも女の子を見る目が、い・や・ら・し・いのは昔からずうっと変わってないわよ!」


 右頬を思いっきり抓られ、引っ張られる。ほっぺ、すごく…痛いです……。
 俺ってそんなに女の人に対してイヤらしかったか?確かにエロイことには興味心身だけど、そんなに今の歳と同じ代の子どもに対して恋愛対象に見たり性的な対象には見たことはないはずなんだけど…


「でも、変わったことも多くあるぞ」
「何よ」
「知子や響、それに逢も容姿や雰囲気が大人っぽくなった。」
「大人っぽくなったって…、いやらしい目で見てたんだ」
「何言ってるんだか、褒めてるんだよ」
「…」


無言


「…たっくんも背や背中が大きくなったよ」
「そうかい」
「…大人びたところは変わってないけど、…かっこ…よくなったね…」


 最後の方は聞こえなかった。いつの間にか肩にそっと置かれた手は肩になく、俺の首にぐるっと回されていた。力もぎゅっと入れられていて少しだけ息苦しいかも。俺は背中に当たるその微妙な膨らみに過敏に反応してしまったマイサンを鎮めさせることに集中することにした。
 知子の心臓の音が伝わってきた。ハートレート(心拍数:Heart Rate)を測ったら、それなりに厳しいメニューを消化した後くらいの様子だった。


(…緊張でもしてんのか?誰かに見つからないか、ヒヤヒヤしているのがこの脈につながっているのか?)


 俺のマイサンも未だにテントを作っているからヒヤヒヤしてるわ。多分、同じくらいのハートレートだろう。こんなジャージのピラミッドを他の奴に見られるわけにはいかん。同窓生を背負って男としての部分が出てしまいました、なんて評判広げられたくないしな。


「たっくん……あたし、…っと…た…くんと…いっしょに…」


 かすれて言葉が聞き取れない。寝言か?俺の後頭部に知子の頭に当たる。















「ねぇ、たっくん」
「なんだ、起きていたのか」

「たっくんは…恋したことある?」
「なんだよ、唐突に」

「たっくんはやっぱり、その、響ちゃんが好き…なの?」


 何を聞いているんだこいつは。エロゲーなら、これはフラグだってことは分かるんだけどな。前世では、同じようなことがあって勘違いして、そして失恋したからな。それで教室では気まずくなるわ…落ち込むわ…、はぁ。


「やっぱり響ちゃんのほうがいいわよね…あたしみたいな男勝りなんかより」
「何を意図して聞いているか知らないが、お前が女の子として魅力がないと思っているならばそれは間違いだぞ。」


 はっきり答える。


「お姉さん気質でしっかり者で頑張り屋さん、それなのに意地っ張りだったり料理が下手だったり…そんなお前だから俺はこうして仲良くやっていけてるんだよ。もし、お前がそうじゃなかったら、こうしてずっと一緒にいないさ。そういうお前が、俺は好きだからな。」


 勿論、Likeの意味でだぞ?一瞬背中の知子でピクッと大きく反応する。何だ、近場に誰かいるのか?まずいぞ、テントはまだ畳みきれてない!
 そんな俺の様子がおかしかったのか、クスクス後ろで笑い声が聞こえる。


「何だ、何かおかしなことがあったのか」
「なーにも♪さっ、たっくん行くわよ♪」


 首にさらに手が回る
 ぎゅむっという擬音が聞こえるようだ。密着度が半端無い。下げ始めたレバーが再び立ち上がってくるのが分かる。後ろで鼻歌が聞こえる。


(機嫌が直ったのか。ころころ表情が変化するやつだ、困ったものだ。それにしてもレバーが下がらない。もうすぐ着いてしまうぞ。俺のレバーよ、早く鎮まってくれ。)







 スタート地点に戻った俺たちは、その場で待機していた先生に事情を説明した。説明した後、俺は知子をそのまま背負って、施設近くの診療所に赴き診察を受けてもらうことにした。診察の結果、軽い捻挫であるとのことで、医師は、弾力のある包帯を右足首に巻いて患部を固定することにした。


「大丈夫そうだな、じゃあ俺はもう行くよ」
「あ…うん、ありがとう、たっくん」


 俺は知子の治療が順調に行われていることを見届けてから、診療所を後にして再び先生の待つスタート地点へ戻った。うん、これで大丈夫だ。早く元気になって戻ってこいよ。







 まだまだ、オリエンテーションは続くんだからな。























(次回へ続く)

 
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