Element Magic Trinity
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その先の楽園
ここは魔法評議会会場、ERA。
「Rシステムがまだ残っているだと!?そんなバカな!」
魔法評議員二ノ席『オーグ』が怒鳴る。
「8年前・・・黒魔術を信仰する魔法教団が莫大な資金を投じて建設する予定だったRシステム。7つの塔だったか?あれは全部評議員が押さえ今では跡形も無いハズ」
「それが8つ目の塔があったんスよ」
10人が会議をする部屋に、多くの書類を抱えたクロノが入ってくる。
その丸いテーブルのジークレインとヤジマの間に書類を置き、1番上の書類に目を通した。
「えーっと・・・カ=エルムの近海らしいっスね」
「ま、まさか、既に完成している訳ではなかろうな」
「残念やけど、現地調査団の連中、ジョークが苦手でのう」
「完成・・・しているのね」
「うぬぬ・・・」
「なぜRシステムが今頃になって・・・」
評議員の1人『ベルノ』の言葉にウルティアが呟き、オーグとミケロが声を上げる。
「楽園の塔」
「!?」
「あ?どうしたジーク」
すると、ジークレインが塔の名を呟く。
「Rシステムじゃねぇ。楽園の塔・・・だろ」
「そんな呼び方もあったな・・・」
「黙れジーク!呼び方などどうでもいいわい!」
オーグが更に怒鳴り声をあげる。
「Rシステムは禁忌の魔法!民衆への影響が大きすぎる!大混乱を招くぞ!ただちに軍を送る手配だ!一刻も早く制圧するんじゃ!」
「しかし相手が解らぬ以上・・・」
「相手が・・・解らん・・・だと?」
評議員の1人『レイジ』の言葉に別の評議員が反応する。
クロノは書類を手に取り、群青色の髪をくしゃっと掴んだ。
「どうやら、Rシステムを占拠してるのは例の魔法教団じゃないらしいっスね」
「何!?」
「クロノヴァイス!その口調は何とか出来んのか!」
「あー・・・サーセン。これが俺なんでどうしようも出来ねぇっスわ」
へらぁっと笑うクロノに小言を呟きながらオーグが座る。
さすがティアの兄、と言ったところだろうか。
相手は魔法評議員の10人だと言うのに、全く遠慮がない。敬語もない。
「で・・・Rシステムを占拠しているのは誰なんです?」
ウルティアの発言で全員の目がクロノに向く。
「あーっと・・・ジェラールと名乗る謎の男」
「ジェラール!?」
「!?」
「聞かぬ名だのう」
「名前以外の素性は全て不明・・・怪しすぎんぜコノヤロウ」
ジークレインの目が鋭くなる。
丁度向かいの席辺りに座るウルティアの目も鋭くなる。
「・・・ヤジマの旦那」
「・・・」
そんな2人を、ヤジマとクロノは見つめていたのだった。
エルザが昔の仲間達に連れ去られてから一夜明け、明朝。
ナツ、ルーシィ、グレイ、ジュビア、ルー、アルカ、ティアはエルザを助ける為、楽園の塔へと向かっていた。
・・・まぁ、ティアの目標は『エルザを救う事』ではなく『シモンを一発殴る事』なのだが。
そして現在、ナツ達は―――――――――
「どこだよここはよォ!」
「ジュビア達、迷ってしまったんでしょうか?」
絶賛漂流中だった。
「ねぇナツ、本当にこっちであってるの?」
「お・・・おお・・・おお・・・」
「オメーの鼻を頼りに来たんだぞ!しっかりしやがれ!」
「グレイ様の期待を裏切るなんて信じられません」
「最初からコイツに頼ったのが間違いだったのよ」
「ごめんねー、ナツ。僕、乗り物酔いを治す魔法は使えないから・・・」
「つかよォ、ナツは乗り物苦手なんだからあんまり責めんなって」
船酔いをしているナツにルーシィが尋ね、グレイとジュビアとティアがナツを責め、ルーが申し訳なさそうに、でも聞いている方はあまり申し訳なさそうに聞こえないように呟き、アルカが宥める。
「くそっ!俺達がのされてる間にエルザとハッピーが連れてかれたなんてヨ」
「ったく・・・なっさけねー話だこりゃあ」
グレイが苛立つように口を開き、アルカが頬杖をつく。
「本当ですね・・・エルザさんほどの魔導士がやられてしまうなんて・・・」
「やられてねぇよ。エルザの事知りもしねぇくせに・・・」
悲しそうに呟くジュビアをグレイがギロッと睨みつける。
その目は怒りと苛立ちに満ちていて、そんな目で睨まれたジュビアはビクッと体を震わせた。
「ご・・・ごめんなさい」
「グレイ!落ち着いて!」
「ちっ」
ルーシィに宥められ、舌打ちをしながら船の床に座り込むグレイ。
すると、ルーが暗い表情で口を開く。
「エルザを連れ去ったあの4人・・・エルザの昔の仲間だって言ってた。僕達だってエルザの事、解ってるようで何にも解ってなかった・・・エルザの事何も知らないのは、僕達も同じだよ・・・」
ルーの言葉に全員が押し黙る。
そんな空気の中、ティアが相変わらずの無表情で口を開いた。
「『知らない』んじゃなくて・・・『知ろうと思わなかった』んでしょ」
「ティア?」
「自分達は相手の全てを知っていると『思っていた』から・・・エルザの過去を『知ろうと思わなかった』。相手の全てを知る事なんて、出来る訳ないのにね」
そう呟くティアの横顔はどこか寂しそうで儚げで、今にも消えてしまいそうだった。
思わずルーはティアの服の裾を掴む。
「結局、私達はここにいる自分以外の人間の事なんて知らないのよ。上辺を知っているようでも、中身は全く知らない・・・その人が背負ってきた過去も、辛さも、涙も、傷も、闇も・・・罪もね」
『罪』。
その言葉を呟いた時、そこだけ、過去や傷や闇等とは違う雰囲気を感じた。
その発言に再び全員が押し黙った時、ルーシィが何かに気づく。
「あ・・・塔だ」
小船が向かう先。
そこには空高く伸びる1つの塔の影。
「あれが・・・楽園の塔!?」
その塔の中にいたエルザは目を見開いた。
ウォーリーとミリアーナ、ハッピーはいない。今エルザの傍にいるのはショウとシモンの2人だ。
「本当に・・・完成していたのか・・・」
「あれから8年も経つからね。俺達が完成させたんだよ」
大きな扉の前に立つエルザにショウが答える。
「歩け」
「うっ」
エルザの顔程の大きさはあるであろう手で、シモンがエルザの背中を押す。
その衝撃にエルザは顔を歪めた。
「8年か・・・変わったな、お前等も」
そのエルザの呟きに、シモンは少し沈黙した。
楽園の塔の地下。
とある部屋に、エルザはミリアーナのチューブで両腕を上にあげる形で縛られていた。
「『儀式』は明日の正午。それまでそこにいろ」
(儀式!?Rシステムを作動させるのか!?)
エルザは目を見開く。
シモンが牢を出ていき、エルザとショウの2人が残った。
「しょうがないよね。裏切った姉さんが悪いんだ。ジェラールは怒っている。儀式の生け贄は姉さんに決まったんだよ」
ショウのその言葉に、エルザは沈黙する。
「もう姉さんには会えなくなるね。でも全ては『楽園』の為」
エルザの握られた拳が少し震える。
「震えてるの?」
それに気付いたショウが口を開いた。
「生け贄になるのが怖い?それともここがあの場所だから?」
「そう簡単に逃げだせると思ったか!ガキ共がぁ!」
鞭や槍を持った男達が、楽園の塔からの逃走を図ったエルザ達を囲む。
ジェラール、シモン、ウォーリーは悔しそうに顔を歪め、ミリアーナはウォーリーに寄り添い、エルザとショウは怯えていた。
「一刻も早くRシステムを完成させなきゃならねぇこの時に!」
「まあ待て・・・これ以上の建立の遅れはマズイ。本来なら全員懲罰房送りなんだがな。今回の限り1人だけとする」
「!」
ウォーリーが顔を上げる。
「脱走計画の立案者は誰だ。懲罰房へはそいつ1人に行ってもらう。優しいだろ?俺達は。ひひひ・・・」
その言葉にジェラールとシモンは男を睨みつけ、エルザは怯えた様に震える。
子供をこんな風に扱っている時点で優しくないと思うが、男にはナツ達とは違った意味で常識が無いらしい。
「さぁ、誰だ!?立案者は」
ショウの目から涙が溢れ、震えていく。
この脱走計画の立案者はショウだったのだ。
が、このメンバーの中でショウはミリアーナと並んで年齢が低い。
そんなショウを懲罰房送りには出来ない・・・。
「わ・・・」
泣きながら震えるショウを横目で見て、エルザが立案者は自分だという為に口を開きかける。
すると、それと同時にジェラールが立ち上がった。
「俺だ」
その言葉にショウが顔を上げ、ウォーリー、シモン、ミリアーナ、エルザは目を見開く。
「俺が計画を立案し、指揮した」
「ジェラ・・・るう・・・」
ショウが呟く。
「ほう」
男はそう呟き、ジェラールに目を向けた。
―――――――否、そのジェラールを見つめる、彼の後ろにいる・・・
「フン・・・」
緋色の髪の少女。
「この女だな」
「!」
エルザを見ていた。
突然の事にエルザは目を見開く。
「な!」
「・・・!」
ジェラールが声を上げ、シモンが驚愕の目で男を見る。
「連れてけ」
「俺だ!俺が立案者だ!エルザは違う!」
ぐい、と服の首辺りを掴まれ、連れていかれるエルザを見てジェラールが叫ぶ。
そんなジェラール達を安心させる為に、エルザは震えを堪えて必死に言葉を紡ぐ。
「わ・・・私は・・・大丈夫。全然平気」
「エルザーーー!」
ガクガクと震え、ビクビクと怯えながらも、必死に言葉を紡ぐ。
「ジェラール言ってくれたもん。全然怖くないんだよ」
恐怖に押しつぶされてしまいそうな心を押さえ、エルザは笑顔を浮かべる。
「エルザーーー!」
「大人しくしろォ!」
ジェラールが必死に手を伸ばすが、他の大人達に抱えられ後ろに強制的に下げられる。
「た、助けて・・・ジェラール・・・エルちゃんを助けて・・・」
涙をボロボロ零しながら、ミリアーナがジェラールに頼み込む。
エルザを懲罰房に連れて行こうとする大人達を、ジェラールは怒りの目で睨みつけた。
「貴様等は3日間メシ抜きだ。まぁ、懲罰房よりマシか・・・あはははっ!」
「あの時はごめんよ、姉さん・・・立案者は俺だった。でも・・・怖くて言い出せなかった。本当・・・ズルいよね・・・」
ショウが俯き、溜息をつく。
「そんな事はもういい。それより、お前達はRシステムで人を蘇らせる事の危険性を理解しているのか?」
「へぇ・・・Rシステムが何なのか知っていたのか。意外だね」
ショウを睨みつけながらエルザが言い、その言葉にショウが少し意外そうな表情を浮かべる。
「『リバイブシステム』。1人の生け贄の代わりに1人の使者を甦らす。人道を外れた禁忌の魔法」
「魔法に元々人道なんてないよ。全ての魔法はヒューマニズムを衰退させる」
そう言いながらショウは右人差し指で円を描く。
「黒魔術的な思考だな。まるで『奴等』と同じだ」
「『奴等』はRシステムをただの反魂の術、『生き返りの魔法』としか認識してなかったんだよ。だけどジェラールは違う」
そこまで言った時、ショウの笑顔が何者かに取り憑かれているかのような不気味さを纏った。
「その先の『楽園』へと、俺達を導いてくれる」
「楽園?」
「ジェラールが『あの方』を復活させる時、世界は生まれ変わるんだよ」
そう言い、ショウの顔がエルザに近づく。
その笑顔の不気味さが一気に増し、それこそ霊に取り憑かれている様に狂った笑みがショウの顔を支配する。
「俺達は支配者となる」
そして、ショウは狂ったように叫び始めた。
「自由を奪った『奴等』の残党に・・・俺達を裏切った姉さんの仲間達に・・・何も知らずにのうのうと生きてる愚民共に・・・評議院の能無し共に・・・全てのものに恐怖と悲しみを与えてやろう!そしてすべてのものの自由を奪ってやる!俺達が世界の支配者となるのだァァァああアァあァーーーーーー!」
そのショウの叫びを聞いたエルザはショウを睨みつけ・・・
「がっ!」
その顎に膝蹴りを決めた。
確実に油断していたショウはゆっくりと倒れていく。
エルザは自分の手首を縛るチューブを口で無理矢理引きちぎり地に着地し、ショウに目を向けた。
「何をすれば人はここまで変われる!?」
そう言うエルザの頭には「姉さん!」と無邪気にエルザを呼ぶ、幼き頃のショウが浮かんでいた。
「ジェラール・・・貴様のせいか・・・」
エルザはいつもの鎧に換装し、怒りの表情を浮かべたのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
楽園の塔の大人達を書いている時、凄いムカつきました。
同じ命を何だと思っているんだ・・・と。
あの場にティアがタイムスリップしたら、「愚者共が」って塔ごと破壊しそうな気がしないでもないのは私だけでしょうか・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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