Geet Keeper ~天国と地獄の境~
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最終審査会特訓・佳川涼介の場合
前書き
今回は希美の彼氏、涼介の特訓風景です。
【特訓・佳川涼介の場合】
「…………。」
「あー…えっと、もしかしなくてもムカついてる?」
「…ったりめぇだろーが。こんな馬鹿みたいにでけぇ剣振り回せるわけねぇだろ。」
涼介は引きずりそうな大剣を希美と同じく振り回せるようになれとジョンから手ほどきを受けていた。
もっとも、涼介の魔力も無いに等しいので持ち上がる訳もなく。
かれこれ小一時間、こんな状態なのだからただでさえ気の短い涼介はそろそろ本気でキレそうだった。
「まぁそう焦るなよ。そりゃオレだっていくらなんでも短時間で振り回せるなんて思っちゃいねーよ。まったりいこーぜまったり。」
「…まったりしてる暇なんかねぇんじゃねぇのかよ。」
「いやまぁ…それはそうだけどさ…」
こいつは参ったな、とジョンは思った。
気が短いらしいとは聞いていたが…これは小休止しなければ殴られそうだ。
まぁ、殴ったところで触れられるはずはないのだが。
「よしわかった!ちょっと休憩!」
休憩宣言に、心なしか涼介のキレそうな表情が少し緩んだ気がした。
「…お前なんで俺の所に来たんだよ。」
唐突且つ迷惑だとも取れそうな発言にジョンはぎょっとした。
「なんでって言われてもなぁ…行けって言われたら二つ返事で行くしかないからなぁ…。」
「…それって誰に命令されるんだよ。あの女王か?」
「いや、女王は守護神審査に一切関わってない。女王が関与してるのは”鍵”と門番に関してだけだから誰って言われると困るんだよなぁ…オレも顔見たわけじゃないし…なんつーか、守護神候補が一斉にひとつの場所に集められて、声だけで命令受けるんだよ。お前はどこ、お前はどこ、って。そんで俺が支持されたのがたまたまお前のところだったってだけ。」
なんとも不可思議なシステムだ。
顔も見えない『誰か』に呼び出されて『声だけ』で命令を受けるなんて。
それに関して何かしらの疑いを抱いていないというのも、これまた変な話だ。
「…お前って何?幽霊か何かの類か?」
「オレ?オレはー…まぁ幽霊なのかねぇ。なんせ1000年前に死んでるらしいからなぁオレ。多分。」
「…なんだよ”多分”って…てめぇの死に際くらい覚えてねぇのかよ。」
「うーん…それなんだよなぁ…オレさ、”なんで自分が死んだか”わかんねぇんだよ。気づいたらこんな体に…こう、透けちゃう体になってて、ふらふら彷徨ってたら守護神にならないかって声かけられて…って、あれ?オレ誰に声かけられたんだ…?」
「…おいおい勘弁してくれよ…」
ジョンには生前の記憶がない。
かろうじて自分の名前を覚えている程度だ。
そして1000年くらい前に死んだらしいという非常にアバウトなことしかわからない。
それも正体不明の『声』に教えてもらったこと。
1000年前になにがあったのか、自分は何をしていたのか、そういったことは一切合切知らない。
ただ時々思い出す、というよりは脳内を掠めるようにして感じるのは”悲しみ”や”絶望”といった負の感覚だ。
でもそれ以降は何の感情も沸かない。何も思い出せない。
だから何故自分が守護神になるよう勧められたのかも、何故自分に妙な力があるのかも、何故今涼介に握らせている巨大な大剣を自分が振り回せるのかも、わからない。
「…お前わからないことだらけなのか。」
「そうなんだよなぁ。だから守護神になったのも、二つ返事で行かなきゃならないっていう他にも、自分探しのためになった、ってのが一番正しいのかもしれない。だけど守護神になったからにはオレはお前の盾にもなるし力にもなるからな!」
丁度自分と同じ年くらいなのだろうか。
笑顔はとても爽やかな青年だ。
自分がわからない。名前だけで彷徨う。
それは一体どういう感覚なのだろう。
いつの間にか死んでいて、名前以外の情報もなく、漂って行き着いた先は守護神という重大な責務を負った仕事。
「…俺には無理だな…」
知らず知らずの内に涼介は呟いていた。
後書き
ジョンの過去の真相は追々明らかにしていきます!
現時点では結構残酷な過去にするつもりです…(笑)
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