ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第55話 向き合う刻
そして、リュウキはキリトに言った通り、一応拠点としているこの層の宿の方へと向かっていった。
握った手を、そしてリュウキのその背中を見ていたキリトは思う。
「……これ以上は聞けないよな。オレじゃ」
そう、自分には強引に聞くような真似出来無い。性格にもよるだろうけれど、安易に立ち入っていい場所か、どうか、それも判らない。
そして、入り込んだからこそ、より深く彼を傷つけてしまう可能性だってあるからだ。
だからこそ、リュウキの事を強引ながらも、救える者がいたとしたら。
正直に言えば、これまでだって 色々とあったからか、軽くプレイヤー不信になりかけてるリュウキ。そんな彼からすれば、 信頼できるプレイヤーだけだと思える。
そんな中で、助けられる人。……キリトが思い浮かべるのは1人だけ、1人しか居なかった。
「アイツ……、しかいないな。アイツしか……」
キリトはそう呟くと、指を振って メインウインドウを呼び出し、フレンド登録一覧を確認した。そしてあるプレイヤーのカーソルをクリックし、メッセージを打ち込んで、送信した。
その内容は、現在のリュウキの事、今現在の全て。
それらを自身が見た事、そして訊いた事、寸分違わずメッセージにし、送信をした。
返信は、本当に直ぐに返ってきた。
『それ、どう言う事!!』
本文は物凄く短い。多分、焦って打ち込んだのだろう事は判った。
文面の通りなのだが、キリトは自分の考えを打ち込んだ。
『……原因はアイツの過去にあるんだと思う。……間違いなくな。だが、現実世界の事を聞くのはマナー違反。それでも……オレはアイツを救ってやりたい。手伝ってもらえないか?』
キリトも、メッセージを送る。
返信も即座に返って来る。
『うん……。……でも、さっきまでそんな感じじゃなかったのに。……ひょっとして、私のせいじゃないのかな……?』
『それは、絶対にない。アイツは楽しかったと言っていた。《あんた》と会って楽しかった……とな。リュウキは嘘を言う男ではないのは互いに知っているだろう?』
キリトは直ぐにそう返した。
そして、最終的には、キリトはその相手と会う約束をしたのだった。
いや、約束をする前から、キリトの位置情報を見て キリトの元へと向かってた様で、かなり早くに合流したのだった。
~第51層 アルスレイド・愚者の森~
リュウキは、再びあの森の入り口に立っていた。今回は、勿論周囲に注意している。以前の様な事があっても、最低限度行動が出来る様に。
その間に、自分の手を見つめ、握りそして開く。自分の身体のステータス、データを確認する。
ステータスの数値には、まるで問題ない。宿で休んだから状態異常になっている訳でも、ダメージを負っている訳でもない。
武器を軽く使用し、ソードスキルも 何度か試したが特に問題ない。
「……それはそうだろう。……別に問題ない筈だよな」
リュウキはそう呟いた。元々今までのプレイの中で、身体に、精神に異常等は何処にもなかった。
それは、初めてからずっとだった。BOSS戦で多少傷ついたりはしていたが、それ以上のものは無かった。
「行くか……」
リュウキは森の奥を目指し、歩を進めた。
今後の攻略の糧にする為に、自分のある目的の為にも。足を森に更に一歩踏み出したその時だった。
「リュウキくんっっ!!!」
突然、背後から森の入り口側から声が聞こえたのだ。大きな声で、自分の名前を呼ぶ声が。
「……ん」
その声に誘われるがままに リュウキは、振り返った。
その先には、誰かがいた。
「はぁーはぁー……」
息を切らせた少女が立っていたのだ。両手をぎゅっと握り締めている少女が。
肩で息をしているところを見ると余程飛ばしてきたのだろう。この世界においてもそう言った身体的なものも現れるのだ。必要以上運動を行うと起こってしまうのだ。
ただ、リュウキには、何故彼女がここにいるのかが判らなかった。
「……レイナ。どうかしたのか?」
そう、此処に来ていたのはレイナだった。その表情は心配しているかのようだ。キリトと同じ表情をしていたから、リュウキにも直ぐに判っていた。
「『どうかしたのか?』じゃないよっ!!」
レイナは、その表情をそのままに、リュウキの傍にまで、走って駆けつけた。
「き、キリト君に聞いたんだよっ! どう言う事! 一体どうしたのっ!?」
リュウキの手を両手で握りしめそう問いただした。レイナの言葉を聞いて、リュウキは完全に悟った。何故、彼女がここに来たのかも全て。
「ああ……、なるほど。……レイナ、キリトに聞いたのか」
『おせっかいな男』 と内心リュウキは、キリトの事を思ってしまっていた。
だが、決して言葉にはしない。自分はあの男に、それ程までに心配をかけたと言う事は事実なのだから。
「お願い、答えてっ! なんでなの……? わ、私と……一緒だった……から? ……リュウキ君が調子を崩しちゃったの……私のせいなの……?」
問いただしている内に、レイナは次第に泣き顔の様な表情でそう聞いていた。
今回のリュウキの事。どうして そうなったのか、普段と一体何が違ったのか。……何故なのか。
レイナはそれを、ずっと移動中も頭の片隅で考えていたんだ。……考えれば、考える程、自分と出かけた事が切っ掛けとしか思えなかったのだ。
だから、 断腸の思いで聞いた。
リュウキは、レイナに掴まれている手を握り返し答えた。
「いや違う。……それは誤解だ。レイナのせいなんかじゃない。……誰のせいでもない」
リュウキは、真っ直ぐな瞳で答えた。
「……ほ、ほんと?」
レイナの目からは涙が零れ落ちた。その雫は、四散し硝子片となって宙を舞う。
「……ああ、オレは嘘は言わない。だろう? ……うん。嘘を言った覚えはない」
リュウキがそう返すとレイナは涙を拭った。
「ほんと、良かった……。キリト君にも、そう聞いたけれど、私は……リュウキ君本人から聞きたかったから」
レイナはまだ心配の表情をしていたが、何処か、ほっとしたように胸をなで下ろしていた。その姿を見て、リュウキは首を傾げた。
「……それで、レイナは それだけの為に、此処まで来たのか?」
リュウキは、少し呆れるかの様に訊いていた。確かに心配をかけたのは事実かも知れないけれど、それなら、メッセージを送れば良いだろう。レイナは態々直接此処まで駆けつけてきたのだ。……大袈裟、そう思ったのだろう。
そのリュウキの言葉を訊いたレイナは、再び火がついたようだ。
「……そ、それだけっ!!?」
レイナは凄く怒った表情に変えたのだ。喜怒哀楽激しいものだと思えてしまうリュウキ。まるで烈花の如く勢いで捲し立てる。
「それだけっ!? じゃないよっ! すごく、すーーーーっごく心配したんだからっ! リュウキ君にもしもの事があったらって! だ、だって……折角、仲良……く……。なれたのに、そんな事があったらっ、わたしは……っ」
レイナは、リュウキに顔を近づけながらそう言った。
「………」
リュウキは、その表情を見て、レイナの目を見て、考えた。
――……なぜ、目の前の少女は自分にここまで構うのか?
そう考えたのだ。確かに、レイナとは 知らない間柄ではないのだけれど、付き合いが長いか? と問われればそうでもない。BOSS攻略の時は基本的に同じレイドではいるのだが、最近では彼女はギルドの事もあり、同じパーティという訳ではない。
付き合いの長さで言えば、キリト、クライン、エギル……と言った男性陣の方が圧倒的に多い。
これは、勿論リュウキから見た視線だが。
「……レイナ」
「っ!?」
レイナは、自分がリュウキの顔を至近距離で見ているのに、今更ながら気がついた。
リュウキが冷静な表情で、自分の名前を返されて我に返ったのだ。次の瞬間には顔が ボンッ! っと本当に爆発しかねない程まで紅潮してしまう。
そんな表情に気づいていないリュウキは、ただ疑問を口にしていた。
「……教えてくれないか。レイナは、どうしてオレにそこまでしてくれる? ……なぜ、オレに構うんだ?」
それはリュウキの純粋な疑問だった。
確かに顔見知りだ。だが、それだけなのにそこまでしてくれている本当の理由がよく判らなかった。自分のことの様にしてくれているのも、判らなかった。
キリトにしてもそうだが、同性であるし、何よりレイナのそれはキリト以上に感じていたのだ。
それに、これまで、アルゴのせいで沢山の異性のプレイヤーに色々と迫られた事だってある。だけど、時間にしたら一瞬。花火の様なもので殆ど直ぐ別れるのだが、レイナは違った。それが何度考えても彼には判らない事だったのだ。
「そ……それは………っ」
レイナは、リュウキの言葉を訊いて、後退りそうなのを、必死に踏みとどまった。
「………レイナ、教えてくれ」
リュウキは真っ直ぐレイナの瞳を視た。まるで、嘘を視抜くかの様に。
「そのっ、私はっ………あなたの事………が……」
レイナは、リュウキの視線、自分の目を真っ直ぐに見ているその目の意味を直ぐに理解した。自分の真意を探ろうとしている事にだ。
確かに、今まで色んな事があったから、それを考えれば仕方が無いのかもしれない。
レイナは、そんな目を見て意を決した。
元々、嘘をつくなんてこと、思ってもいなかったからだ。だからこの場で!今すぐに!!自分自身の想いを伝えよう、と。
「わたし……わたしはあなたのこと……あなたのこと……が。」
何度も何度も頑張って言葉に出そうとする。頭の中では、はっきりと言っているのに、頭の中のデジタル信号を、この仮想世界で声として発する事が中々出来ない。
でも、 ついに、レイナは口に出す事が出来た。
「あなたの事が……あなたの事がっ!《ほっとけないのよっ!!!!!》」
そう言った途端、彼女の背景には、某国民的漫画でよく使われている効果音?“どど~~~~~ん!!!”が、まるで この世界にも現れたか、と錯覚してしまった。
レイナは息の続く限り、語尾を伸ばして、そう力説をしていた。
そして、それを真正面から受け止めたリュウキはと言うと。
「……え? ほっ……とけない?」
受け止めると同時に、リュウキは、ぽかーんとした、所謂呆けた表情をしていたのだ。彼にしては珍しい表情だろう。
レイナは、もうそう言ってしまったから、その勢いのままに続けた。
「そ、そうなのっ! わたし、リュウキ君の事、何だか、ほっとけないのっ! すっごく心配なのっ!! だからここまで駆けつけてきたのーーっ!!」
レイナは、顔を真っ赤にさせながら力説を続ける。勿論だが、内心では凄く後悔も同時にしているのだった。
本心を、心の底の本心を、言っちゃいたかったのに、言えなかった自分が腹立たしい、と。
(うぅぅ……私……また、ちゃんす逃しちゃったのかも……)
リュウキはそんなレイナの顔を見ていたら、嘘だなんて思えるはずもない。真剣に、嘘を見抜こうとして集中していた自分がまるで間抜けの様に思えた。そもそも、レイナ自身も嘘を言うような人間じゃないって言う事は重々承知だったんだ。だから リュウキは………。
「は………ははははは……」
リュウキは笑顔になった。呆けた表情から一変、顔をふにゃりと和らげて。
「あはははははっ!」
遂には大声で、笑い声が森の中に響き渡った。
その笑顔は、正に歳相応のもので、いつもの感じが全くしない。言うならば、格好いいリュウキが、急に幼く可愛くなった。と言うイメージだろうか。
この生死を分かつ場所で、場違いだと思える笑い声。
「……えっ? ええっ?? な、何か、おかしかったっ??」
レイナは、見た事のない彼に、ただただ動揺するだけだった。
「あはは……、ゴメンゴメン……」
笑いが止まらない様子だったリュウキだが、レイナが困惑しているのを見て、笑いから出た涙を拭った。
「久しぶりに笑ったよ。……多分、心の底から。……この世界にきて初めてかもしれないよ」
リュウキは今の自分の変わりように驚きつつも、今の自分の事を冷静に見れている自分もいた様だった。
「……へ?」
レイナは、そう聞いても只々キョトンとするしかなかった。
そして、暫くして 今回の事をレイナから詳細を細かく訊いた。
「そう……か。オレはキリトにもレイナにも本当に心配をかけたんだったんだな。本当にゴメンな」
リュウキはレイナに謝ってた。レイナは、キリトとのメッセージの取り合い後2人で会っていた様なのだ。自分の予想は外れていなかったけれど、そこまで深く心配されていたとは思ってなかった様なのだ。
……誰かに心配をされる事など、殆ど無かったから。
『リュウキは、何か背負っている。以前にレイナが言っていた通りだ。アイツは……、辛いその何かを。多分レイナと会ってそれを思い出したんだと思う』
レイナは、そうキリトに言われた。だから、リュウキの力になってあげたかった。私と会って、思い出したって言うのなら、自分のせいでもあるんだからと強く思っていたから。
「いや、でも…… 私のせいじゃないって言ってくれたけど、……私といたせいで、その、思い出しちゃったんだよね? 謝るんなら……私にだってそうだよ」
レイナは、そう言うと顔を暗めた。切欠が自分なのなら、と。
だけど……、リュウキは首を振った。
「違う。さっきも言ったけどレイナは悪くない。オレに……その楽しさを教えてくれたんだから。……これはオレの問題。オレが乗り越えなければならないもの……だから」
リュウキは、そう言い表情を強張らせてはいるが、精一杯の笑顔を見せた。
「リュウキ……君」
女の子だから、レイナは、リュウキが無理をしている事、直ぐに判った。そして、何より、レイナはリュウキの姿を見て我慢できなかった。
自分の方がずっと辛い筈なのに、それでも精一杯笑顔を見せて安心させようとするその姿を見たレイナ。
母性本能が彼女を動かした。
恥ずかしさとか、そんな気持ちは霧散し、レイナは 自然にリュウキの身体を包み込む様に抱きつき、抱きしめたのだ。
「リュウキ君……抱えこまないで……。苦しいなら……苦しいなら、はき出せば良いって思う」
「ッ………」
突然抱きしめられた事。
その事に驚いていたが、不思議と抵抗しようなどと思わなかった。
レイナは、温かった。
リュウキは心の底まで、温めてくれている。そんな感じがして、心が安らいだのだ。包みこんでくれている、ただ、それだけのことなのに心が落ち着く。温かさとその鼓動だけで、こんなに落ち着かせてくれるものなのだろうか。とも思えた。
これまで、現実ででも支えてくれていたのは爺やただ一人だったんだけれど。これもきっと、初めての経験だった。
「リュウキ君は……あの時。初めてあったあの時、私の話を聞いてくれた……。今度は私の番だから。私……リュウキ君の力になりたい……から」
レイナは抱きしめながら……そう言う。なぜか、レイナが涙を流している。
自分のことの様に。
「………あ、ありがとう。レイナ……」
リュウキは、そう言うと……訥々と始めた。
忘れてはいけない。だけど……、全てを闇の底に葬りたいと思えた過去の記憶を。
それは、彼女と自分の物語。
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