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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
  シカマル

 【 なら シカマル
      VS
    キン・ツチ  】

「……あーあ、めんどくせ。しかも女が相手とか、やりづれえなあ」

 いののハイテンションな声援をBGMに、シカマルは目の前の少女――キン・ツチを眺めた。めんどくさくてたまらない、といった顔つきだ。そんなシカマルに、

「なら直ぐ終わらせてやるよ」

 静かに、呟くようにキンがそう告げた。
 ――てか、こいつらの実力は第二の試験で知ってるとは言え、こいつの術に関しては全くわからない……。その上、俺の術はこいつに見られてる。
 シカマルの脳内で音忍との戦闘が再生される。リーやはじめ等、何人もの味方を倒したドスの響鳴穿。先ほどシノに打ち負かされた、風圧と超音波を扱うザク。けれどキンの術だけは見たことがない、しかしシカマルはドスに対して使用した影真似を見られてしまっている。彼女は多分、影を警戒してくるはずだ。となると、やりにくくなる。めんどくさそうに、それでもシカマルは印を組んだ。
 ――とは言えおれにゃあ、

「これしかねえ」
「馬鹿の一つ覚えか」
「ッうるせえ!」

 言っていることはある意味図星なのでムカついたが、しかしここはやるしかないだろう。
 ――忍法・影真似の術!
 
「そんな術、お前の影の動きさえ見てれば怖くないんだよ!」

 ぐうん、と伸びてくる影を交わして、キンは千本を投擲する。しゃりん、と鈴の音がした。咄嗟にしゃがんで交わすと、背後の壁に鈴の縛り付けられた千本が二本、突き刺さった。鈴? と呟いて、そしてシカマルは直ぐにその意図を知った。

「へッ! 古い手使いやがって! お次は鈴をつけた千本と、つけてない千本を同時に投げんだろ……? 鈴の音に反応して、かわしたつもりでいたら、音のない千本に気づかず、グサリ。――へッ、そうだろ」
「お喋りな奴だ!」

 余裕の笑みを浮べながらキンが千本を投擲する。

「影千本に打たれないようにと、ネタがわかってよく見りゃ……!」

 さっさと千本をかわしていたシカマルの耳に、不意に鈴の音が聞こえた。

「何ッ!? 後ろ――!?」

 振り返れば壁に突き刺さった二つの千本に括り付けられた鈴がひとりでにゆれていた。よく見ればそこからは細い糸
が伸びている。瞬間、音のトラップに騙されたシカマルの一瞬の隙をついて、千本がその体に突き刺さった。咄嗟に右腕を動かして致命傷を外すが、バランスを崩して思わず床にしりもちをついた。シカマルは腹立たしげに立ち上がり、 

「今度はこっちの番だ!」

 とキンをねめつける。

「そうはいかないよ!」

 キンが指で掴んだ糸を操って、また千本の鈴を揺らした。
 ――リン、リン……

「……?」

 ――リリリン、リリリン……リリン……

「……な、なんだ……!?」

 体から力が抜けた。地面に跪いたシカマルの耳を、尚もその音はかき乱す。
 ――リリン、リン……リリリン……
 呆然として自分を見上げるシカマルに、キンはくすっと笑い声をこぼした。

「私の鈴の音を聞いたやつはね、皆そうなるのさ」

 ――リリリン、リリリン、リリリリリリリ……
 鈴の音はけたたましいまでに鳴り響いている。

「この特殊な鈴の音の振動が、鼓膜から直接脳へと働きかける。そしたらお前に、幻覚を見せるのさ」

 ――リリリン、リリン、リリリリリリリン

「――ッ!」
「無駄だ!」

 咄嗟に耳を押さえるも、しかしその鈴の音は頭のなかをガンガンと打ち付けるように反響している。シカマルが今までに聞いた一番うるさい鈴の音だった。
 ――リリン、リリリリ、リリリリリリリ
 幻覚にかかってしまったのだろう。何人ものキンが目の前に現れた。彼女は分身などは一切使っていないはずなのに。目の前がくらくらして、頭が痛かった。「そんなことじゃ私の鈴の音を防ぐことは出来ない」、一人のキンがそう言うと、残りのキンが「できない」「できない」「できない」と唱和した。反響する鈴の音に吐き気すら覚える。

「っくそお、どれだ? どれが本物だ……!?」
「「手も足もでないだろう? 一縷の望みだったお前の影も、どこへ伸ばせばいいのか、わからない始末じゃね」」
 
 ――リリン……
 キンの嘲る声が合唱する。何重にも重なって響いてくるその音に、シカマルは頭割れそうな思いだった。 

「「さあ、ゆっくり料理してやるよ」」
「げえ……なんかやばっ、って」

 咄嗟に片腕を持ち上げて体を庇った。その腕に千本が三本突き刺さる。身に纏った衣服に小さな血の染みが浮かんだ。
 ――リリン、リリリン、リリリリリ……
 相変わらず鳴り止まない鈴の音がする。

「「今度は五本。次は七本。お前がハリネズミになるまで、続けてやるよ」」
「嘘つき女め」

 シカマルは怪我した腕を庇いながら呟くように言った。

「最初に、直ぐ終わらせるって言ったじゃんか」
「「そうかい。痛みに耐えかねて楽になりたくなったかい。じゃあこれで終わりにしてやるよ、――とどめだ!」」

 シカマルの顔が緊張した。そのシカマルに向かって千本を投擲しようとキンが構えたその瞬間、キンは自分の体が思い通りに動かなくなっていることに気づいた。

「――な、何!? かッ、体が……!」

 キンの両腕がだらりと下がった。はあ、と溜息をつきながらシカマルが立ち上がる。先ほどまでの緊張した色はまったく見てとれない。

「ようやく影真似の術成功……」
「な、何を言ってるの。お前の影なんてどこにも」

 幻術は解け、今じゃキンは一人だけに戻っていた。けたたましい鈴の音は止んでいる。この影をキンの影につなげるのには全く苦労したものだ、とシカマルは一人心の中で笑った。

「まだ気づかねえのか?」
「――まっ、まさか!」
「そのまさかだバーカ。こんな高さにある糸に、影が出来るわけねーだろ」

 キンの手元から伸びていた細い二本の影がゆがみ、くねりながら形を変えてキンの影を完全に占拠する。

「俺は自分の影を伸ばしたり縮めたり出来るんだよ」

 影がどんどん太くなり、キンの体の自由は更に制限されていく。

「これは糸の影じゃなかったのか……!」
「そ。俺の影を細くして、糸のように見せかけ、お前の影にくっつける」

 言いながらシカマルはキンを指差した。キンの右腕もそれにつられて持ち上げられ、すっとシカマルを指差すことになる。それでもキンは強気に言い返した。

「だが、それでどうやって勝つというんだ? 同じ動きをするだけなのに!」
「うるせえなあ。黙ってみてろ!」

 シカマルは自らのホルスターに手を伸ばし、そしてそれをあけた。キンの手もまた、操り人形のようにぎこちない仕草で自らのホルスターをあける。シカマルは中から一枚、手裏剣を取った。キンもホルスターの中から一枚の手裏剣を取る。

「バカか? お前、そのまま攻撃したら、お前も傷つくんだぞ!?」
「んなのはわかってる」
「……っまさか、お前……!」
「手裏剣の刺しあい、どこまで持つかな?」
「バカ寄せ!」

 キンの叫ぶ声はほぼ掠れてしまっていた。一方シカマルは、キンが自分とシカマルのこの会場に於ける位置関係を悟られないように注意を配りながら、それを投擲する。二枚の手裏剣が交錯しあいながら、めいめいの目標へと突き進んでいく。シカマルが体を後方へと倒す形でそれを避け、さらに両手を床につけて体を支えた。手裏剣が壁に突き刺さる。キンの体も同じ動作を繰り返した。しかし彼女の直ぐ後ろには壁があり、彼女の頭は壁に激突した。

「へへッ! いっちょあがり! ――忍びならなあ、状況や地形を把握して戦いやがれ! お互い同じ動きをしても、俺とお前の後ろの壁との距離は、お互い違ったんだよ」

 もしキンが状況や地形をちゃんと把握できていたのならとっくに棄権していたはずだが。そういう意味で、戦う前から勝算がないと悟って棄権したはじめはキンよりも賢いだろう。自分にとって圧倒的不利な相手とは戦わないのに限る。

「手裏剣は後ろの壁に注意がいかないよう、気を逸らすのに利用しただけだ」
「……ンなの言っても聞こえてないと思うぞ」
「――勝者、奈良シカマル」

 ヒルマがキンに駆け寄って、「脳震盪を起こしていますね」と呟き、医療班を手配した。続いてヒルマはシカマルの腕から千本を抜き取って、チャクラでその治療を始める。掲示板の上の文字が再び流れた。 
 そしてそれは、うずまきナルトとドス・キヌタの名を指した。 
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