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ゲルググSEED DESTINY

作者:BK201
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第七十四話 獣の伝説

「クソッ!」

アスランは走っていた。後ろから時々放たれる銃弾は足を止めるためであり、こちらを直接狙ったものではないため、当りこそしないものの逃走するルートが限られ、相手の狙い通りそのまま走り抜けることが出来ずにいた。

「そろそろ大人しく捕まったらどうです!」

「誰が!撃ってきたのはレイの方が先だろうに!」

レイの言葉は最早問いかけですらない一方的な主張であり、当然それをアスランが受け入れることはない。そして、未だにアスラン自身は銃を抜いてはいなかった。銃を抜いてしまえば、その時点で議長の思う壺だろうとそう判断しての事だ。
最早手遅れかもしれないが、抜いてしまえば確実に言い訳(というのもおかしな話だが)はきかなくなる。向こうが先に取り出したのだとしてもこちらが反撃してしまえばその時点でどう言い繕う事も出来ないようになるに決まっている。そう判断してアスランは銃を抜かないまま、精々あちこちの方向に走って相手の攻撃から逃げる事ぐらいしか出来なかった。

「ともかく、格納庫にまで行けば……」

MSに乗り込めば少なくとも施設内からは逃れられる。問題はその後だが、セイバーが単独でプラントから大気圏突入まで移動できたことから逃げること自体は不可能ではないはずだと予測できた。

「どうしました?その先は行き止まりですよ」

後を追ってきているのはレイ一人だ。メサイア内部にいる他の人員も止めるために動くこと位はするものだと思っていたが、予想に反して警報すらならされていない。内々に始末を付けたいのか、それとも他に意図があるのか?少なくとも、アスランにとっては脱出のチャンスはまだ残されていると言っていい状態である。

「どこに向かえば格納庫に行ける……?」

小声で自身に確認する様に考え込むアスラン。メサイアで議長の所まで案内をしていたのはクラウであり、その時はおそらく最短ルートで連れてきたはずである。そしてアスランは攻撃から逃れるため必死に走って逃げたので、現在地がどこなのかが分からずにいた。
元の道をたどれば格納庫までの道はわかるが、その為にはアスランは正面からレイの銃撃を掻い潜らなければならない。

「クッ……!」

ひとまずレイの攻撃から難を逃れようと闇雲に走り、道中ですれ違った相手は敵意を向けてきたなら体術で捌く。流石に肉体的にもトップクラスの実力を持つアスランを、それも不意打ちじみた状況で止めれる相手はそうそういない。
そしてまた一つ曲がり角をまがった瞬間、人影が見えたので咄嗟に行動に移す。右手を伸ばし服を掴んで転ばそうとしたのだが、相手も相当の実力者であったのかその攻撃を左腕で防ぎ、そのまま右腕の方も伸ばしてアスランを逆に吹き飛ばそうと反撃する。アスランもそれを体をひねることで躱して、互いに立ち位置を反転させたところで、両者の動きは止まった。

「マーレ!何故ここに!?」

「テメエこそどういうつもりだ、アスラン!いきなり襲い掛かってくるなんざ、良い度胸してるじゃねえか?」

アスランが攻撃を仕掛けた人物はラー・カイラムにいるとばかり思っていたマーレだった。予想外の人物に動きが止まるが、追手であるレイがやって来る。

「あなたもそこにいたんですか――――マーレ・ストロード」

軍靴の足音を響かせて銃を構えながら近づいてきたレイ。その様子に訝しむような表情をしつつマーレは答える。

「ああ、機体をこっちで調整していた。いくら最新鋭艦って言った所でラー・カイラムがメサイアに設備で優っているなんてことはないしな」

そう言いつつマーレはレイに対して警戒を強める。逃げる様子でいたアスランと銃を持ってその彼を追いかけてきたレイ――――状況はつかめないが説明をされていない現状でどちらを警戒するかと言われれば、自ずと危険度の高い銃を持っているレイの方になる。
さらに言えばそれなりの付き合いがあるマーレからしてみればどっちもどっちではあるものの、アスランの方がまだ状況をまともに把握できる人間だと思ってもいた。議長崇拝のレイはこういった状況で信頼できるかと言われれば怪しい。尤も彼のナチュラルに対する差別思考はレイの事を言えた義理ではないだろうが、自覚しているあたりまだマシだと言えるだろう。

「マーレ・ストロード、彼を捕らえてください。彼――――アスラン・ザラは議長に対し謀反を行った疑いがあります」

「ぬけぬけとよくもそんな事が言えるな……」

レイが言った言葉にアスランが反論するがさして気にした様子も見せずにレイは言葉を続ける。

「事実でしょう?ギルの考えに賛同できないというのなら貴方の役割はここで終えるべきです」

突き付けられる銃口。しかし、マーレが間に立っているためレイとしても即座に撃つようなことはない。だが、目線が邪魔をするならばお前ごと撃つといった様子だ。

「チッ、穏やかじゃねえな。もうちょっとわかりやすく説明しろ。お前らだけで話が進んでも俺はどっちにつけばいいか分からないだろうが」

「別段、どちらかの味方に付く必要はありません。ただ、今立っているように邪魔はして欲しくないのですが――――ああ、貴方も裏切るというのなら構いませんよ?その時は貴方も同様に撃たせて頂くことになりますが」

マーレはその言葉でどちらに味方するべきかを決める。レイが銃を構えた状況に対して相手の呼吸に合わせて不意を突く様に間合いを詰める。銃を持っている状況で零距離にまで持ち込まれたレイは咄嗟に動きを合わすことが出来ず、銃を持つ手首を掴まれ、そのまま膝蹴りを腹に入れた。

「グッ……!?」

体格的にシンやレイよりも一回り程度大きいマーレは当然力もそれ相応に強く、不意打ちだったとはいえレイはその場に倒れこむ。

「とりあえず逃げるんならさっさとしろ。訳は聞いてやる」

「あ、ああ……分かった。とりあえず格納庫に……」

「MSのドックって事か?いくつかあるだろうが……お前の機体ならこっちだ」

アスランにとってもマーレがこの状況で味方をするとは思っていなかった為、驚いているがひとまず他に手立てもない事から彼についていく事にする。

「何故、レイではなく俺の方を?」

走りながらとはいっても基本的に身体能力が高く、先程とは違いすぐ後ろから銃を撃ってくる相手もいない為、多少の余裕をもって話しかけるアスラン。マーレは相変わらず不機嫌そうな顔をしたままアスランの問いかけに対して応えた。

「勘だ」

「は……?」

「だから勘だって言ってるだろ。まあ、詳しい説明もなしに銃を突き付けられただとか、言ってる内容が要領得ないってのもあるがこの状況ならお前の方がまだ信用できるって思っただけだ」

「それは……大丈夫なのか?」

アスランは少々呆れた様子でマーレを見るものの、マーレも自分は一体何をしているのだという自覚がある為それ以上応えない。

「ともかく、さっさと自分の機体に乗り込め。どこか行く当てはあるのか?」

「……一応はな。ザフト内ならジュール隊かミネルバだ。だが、彼らの所よりもコペルニクスの方が良いかもしれない」

『地上は?セイバーやコイツなら十分もつだろ?』

アスランもマーレも自分の機体に乗り込み、通信を開いてそのままマーレの方から話しかけてくる。

「いや、確かに地上に向かうのも手ではあるが……それでは議長のデスティニープランに対する対応が後手に回ることになる」

『デスティニープランに対する対応?ちょっと待て、アスラン――――やっぱりお前の方が裏切ったのか?』

「そんなことあるか!アレはレイの方が先に手を出してきたんだぞ。だが、デスティニープランへの疑念はある。すぐにでも対応できる場所にいなくては何もかも手遅れになってしまうかもしれない―――――」

そう発言したアスランの言葉の内容をマーレは自分なりに吟味し、どうするべきか提案する。

『――――ならミネルバの方に向かう方が良い。グラディス艦長なら話は通じる。あの人は軍規に厳しいが、その割にはいざというときにすぐさま対応する柔軟さも持ち合わせてるからな』

「しかし……」

アスランとしてはザフトに、いや正確にいえばレイやデュランダル議長に裏切られた現状で信用するのは難しい。

『お前が何をするにしてもザフトにも味方はいるはずだ。態々そいつらまで避けて行動すれば後々に自分の首を絞めることになるぞ。ジュール隊だったか?そいつらだってお前がザフトを裏切るなんて思っちゃいないんだろ?』

彼らザフトという組織はそれなりに独自の権限を与えられており、デュランダル議長はプラントのトップではあるが(名目上は)ザフトに所属している人間ではない。無論、規律を破れば相応の罪に問われることになるのは事実だが、アスランの罪は完全に冤罪だ。それを証明する証人や証拠がないとは限らない。寧ろ立場的には逆にアスランが有罪になる可能性は低いかもしれない。
ミネルバのクルーもアスランの人なりを知っているものは多い。そして、タリア・グラディスはマーレやアスランの目から見ても敏い人間だ。

「――――わかった、ミネルバに向かおう」

アスランも納得し、ミネルバへと向かう事を選択する。ミネルバは現在そう遠くない位置に配置されている筈だ。とはいっても距離はそこそこあるだろうからすぐにつくわけではない。最悪、辿り着く前に敵だと認識されればミネルバへの着艦は不可能だろう。
勿論、そうなった場合は諦めてコペルニクスに向かうつもりである。

『あなたも裏切るんですか?ギルを!』

追ってきたレイもレジェンドに乗って追撃しに来た。他の部隊にはまだ詳しく知らされていないのか、混乱した様子を見せるだけでどちらに味方するという事はない。流石にここまで情報が伝わっていないことを知り、アスランは訝しむ。

(どういうことだ?議長は今、俺を始末する気はない?それともレイが単独で暴走しているだけなのか……とにかく、今判断を下すには情報が少なすぎる)

レジェンドのドラグーンが襲い掛かる。レジェンドに搭載されているドラグーンの数は後部の円状となっているユニットに小型ドラグーンが八基、大型ドラグーンが二基搭載されている。それだけでも砲門としては三十四というこのシリーズ機の系譜にのみ許されていると言える数のドラグーンを保有している。
しかし、ドラグーンの数はレジェンドの大幅な改造によって他にも搭載されていた。大気圏内でも使用するために腰部にフリーダムのレールガンのように取り付けられた実体剣(ブレード)の展開と口径の大きいビーム一門を装備した二基のドラグーン。
背面中央に取り付けられた小型ミサイルを多数搭載した一基のドラグーン。そして、これまで使用されなかったドラグーンも起動させる。

『行け、シールドドラグーン!』

後付けで施された左肩から左手を覆うような大型サイズの実体シールドから多数のドラグーンが展開する。クラウ・ハーケンがレジェンドに対して最も強化を施した装備がこれであった。脚部のスラスターの強化によって得た推力を生かす為に、使用は宇宙空間に限定されるものの大型の実体シールドからドラグーンが展開されるのだ。
クラウはこのレジェンドの装備はクアンタの左肩のシールドとGNソードビットを模しており、その性能を十全に使いこなした時の汎用性の高さは製作者であるクラウ本人ですら把握しきれていない代物だ。

「クッ、数が多い!?」

シールドドラグーンの数はシールドの中央部を除いて計六基。砲門は左右対称になっている二対のドラグーンごとに分かれ、二門が二組、三門が一組となっている。それによってこの六基の砲門の示す数は十四。
つまり、全てのドラグーンが放つビームの数は計五十門にも及ぶ(プロヴィデンスですら十一基、四十三門である)。デストロイやミーティアと違い、普通のサイズを持つ一機の機体が装備している武装の数としては破格と言える代物だ。

『アスラン、先に行け!足止めは俺がしておいてやる』

「しかし、マーレ!」

『さっさと行け!寧ろ軌道を予測するのに邪魔だ!』

そう叫んだことでアスランも納得せざる得なかったのか、セイバーをMA形態へと変形させてミネルバへ向かう。

『これ以上邪魔をするというのなら貴方にも消えてもらう!』

『ドラグーンごときで俺を落とせると思うなよ、後輩風情が!』







「さて、話を戻すとしよう」

レイがアスランを追い、それを更に追いかけようとしたシンとハイネを止めたデュランダル議長はそう発言する。

「お言葉ですが議長、そういった話をする前に目の前で起こった問題を解決すべきでは?」

「いや、必要ないことだ。私はどちらも罰するつもりも捕縛するつもりもないのだからね」

その発言に眉を顰めるクラウ。これまで議長の近くで立っているだけだったが流石にその発言をそのまま捨て置くのはどうかと思い口を挟むことにする。

「では、どういう意図があるので?流石にそのまま放置するのは色々と不味いでしょう?下手すればMSでの戦闘になりますよ」

「ならクラウ、処理はそちらに任せる。後始末だけはしっかりしておいてくれたまえ」

また面倒な仕事を押し付けられたといった表情をしながらクラウは席をはずし、退出する。色々と後始末するための準備をするのだろう。

「あ、クラウ!?」

シンが呼び止めようとするが、クラウは軽く手を振り上げて対応するだけでそのまま話すことなく退出していった。

「ようやく話を戻すことが出来るが、世界を変えるこの戦い――――君たちはどのように思っているかね?」

「……俺は軍人です。命令とあらば――――まして戦争をこれで終わらせるというのなら従うまでです」

議長の問いかけに対して先に応えたのはハイネの方だった。ハイネはアスランやレイの事も気になってはいるが、まずは自分の事を決めなくてはならないと考えていた。彼はドライな性格とまでは言わなくとも線引きというものをハッキリとはさせている。
そして、議長の提唱したデスティニープランに対して彼は勿論疑念もあるし、先程目の前で起きた出来事も気にはしているが、アスランのように反発を起こすほど間違っているとは思えない。

「そうか、そう言ってくれるとありがたい。今ここで我々が政策を半ばで諦め、屈することになってしまえば世界は再び戦争と悲劇を繰り返すことになってしまうだろう。それだけは避けなくてはならない未来だ。それに賛同してくれたというのなら、嬉しい事だ。私の苦労も無駄ではなかったという事なのだからね。
シン……君はどうかな?君も同じ思いかね?」

「俺は――――」

少し、言葉を出すのを躊躇う。先程のアスランやレイ達の行動が頭に残っているのだ。ハイネもそのあたりは気にしているのだろうが割り切って判断した。しかし、シンはそこまで割り切れるほど大人でもなければ、ただ感情に身を委ねられるほど子供でもない。

――――――彼選んだ運命は――――――
 
 

 
後書き
レジェンド魔改造の成果ここに現る!まあ、この段階で説明されてる事からラスボスの立ち位置になれそうにない可能性が高いのだけど……そんなことはないと信じたい(作者はレジェンドがC.E.の中で三番目位に好きな機体)。

この話で会話したクラウの発言数――二回!
一方でこの物語の中心的な主人公と言われているマーレの発言数――十五回!
圧倒的じゃないか、我が軍は(笑) 
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