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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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マザーズ・ロザリオ編
挿話集
  ダンジョン・デート②



仮想世界。数年前から騒がれている桃源郷のような世界の事は知っていた。
彼が半年程前から入り浸って…………いや、仕切っている集団でも似たような研究はしていた。

まあ、作ろうとしているのは巷で騒がれている桃源郷ではなく純粋な『実用目的』のためだけに製作しているためそこに遊び心など皆無だ―――携わっている変人達の態度や素行は別の話としてだが。

時おり奇声を上げながら凄まじいスピードでパーツを組み上げていくのは複数の意味で恐ろしい。そんな中、俺が何をしているのかと言えば……

「……こんなもんか」
「ま、技術的な彼是を除けばの話だがな」

笠原達也。日本に3人、アメリカに1人、行方不明1人で構成される日本最高の天才集団《五賢人》の1人。集団と言っても連携している訳ではなく各々が好きにやっているだけなのだが。

「それはそうと隊長さん」
「……何だ?」
「お家から通達が。明日、株式会社アーガス・本社ビルに行くように、と」
「……他には?」
「無しです。それと、総帥から俺が同行するように言われているのでお供します」
「分かった」

命令だけで肝心の中身が無い。面倒事か、もしくは実家が関心の無い事なのか。

(どうでも良いがな)

契約上断る事は出来ない。今は従うのみだ。










「―――ようこそ水城螢君。そして、久しぶりだね笠原君」
「……テメェかよ、ったく。総帥(ジジイ)も人が悪い」

今の世の中、アーガス第三開発部長『茅場晶彦』の名を知らない者はモグリだ。ほんの数年前まで弱小三流メーカーだったアーガスを世界有数のトップメーカーに押し上げた天才(カリスマ)
その功績から《五賢人》に認定され、奇特な彼らの中でもかなり奇特な行動―――ゲーム開発に勤しんでいる。

「武田先生はご壮健かな?久しく音沙汰が無いのでどうしたかと……」
「フン。今や俺等のボスだよ。元教え子とは言え迂闊に連絡を取れんのだろ」
「そうか。では宜しくお伝えしてくれ。……すまない、水城君。本題に入ろうか」

俺としては相関図に新たな人物を加えていく作業は楽しくもあるので別に構わなかったのだが、向こうは一応依頼主なので逆らう理由は無い。

幾重もの厳重なセキュリティを抜け、たどり着いた先には無数の映像パネルや観測機器、コンソール等が設置された厳つい空間が拡がっていた。

「君にやってもらいたのは現在開発中のVRMMORPG、《ソードアート・オンライン》で使用する《ソードスキル》という、言わば《剣技》を作って貰う事だ」
「……それはいいが。何故俺を?不愉快な言い方だろうが、たかがゲームだろう?見栄えのいい動きぐらいなら素人でも作れるはずだ」
「……私はそれを実戦的なものにしたいのだ。私が作りたいのは『ゲームであって遊びではない』世界だ」

遊びではない……?単なるこの男の考え方か、それとも言葉通りの意味なのか。もしそうだとすれば……。

「……そうゆう事なら、分かった。それで、どうすればいい?」








疑問は取り合えず棚上げし、俺は与えられた作業に没頭した。茅場晶彦以下担当者達がデザインした技の数々を検証、改良し完成度を高めていった。

一方、水面下で俺は奴の行動の監視を始めた。だが、元々の慎重さに加えて幾重もの機密管理が施されている奴専用のラボや開発室には近づく事が出来ず、何をしているのか分かった事は少ない。

小さなピースから推測し、仮説を立て、何気無く疑問を投げ掛けてみる。茅場はSAOに関する事ならかなり饒舌に話した。彼自身の過去にまつわる様々な要素やゲーム内に組み込む世界の核心にせまるサブストーリーのあらすじ。それらを聞く中で俺はやがて立てた予想の1つが確信に変わっていった。

ソードスキルが完成し、何かと理由を付けてそれら全ての動きを自分の身に刻み付けた頃。今後の予測しえる事態に対する全ての準備は整っていた。








「―――と、こんなものか」
およそ一時間。本当はその半分近くの時間で終わらせるつもりだったが、ソードスキル開発辺りは懐かしさなども相まって熱が入ってしまった。ユウキもそこは嬉々として聴いていたので良かっが…………つくづく単純(戦闘バカ)な奴だな、俺は。
そろそろクエストに戻ろうと立ち上がる。一時間も硬い地面に座っていたのに体のどこも痛くならないのは流石仮想世界だ。

とは言え気分の問題で伸びをしたりしているが、ユウキがまだ立ち上がっていない。

「どうした、大丈夫か?」
「……うん。あのさ螢」
「何?」

「ありがとう」

ユウキは顔を上げると、どこか照れたような笑みを浮かべた。

「螢に会えて良かった。……本当に。螢が『助ける』って言ってくれなかったら、ボク……あ」

その先は言わせなかった。頭を優しく撫で、その手を差し出す。

「行こう」

ユウキの言葉は俺にとってその言葉以上の重みがある。そうさせているのは恐らく彼女に対して無責任な事を言った己の愚かさを後悔しているからだ。その事に目を背けるつもりは無い。

だが、俺には彼女に感謝される資格もまた無い。ユウキと話したあの小島での一件の日に2人の物語は『始まった』。

それまでの事は記憶の底に埋め、時によって消えていくのに任す。できることならそうしたい……いや、ユウキにはそうして貰いたい。




背負うのは俺だけで十分だ―――







螺旋階段は3フロア分あるため、結構長い。もし階段にもMobが出るとしたらかなり面倒だが幸いそんな事は無く、重厚そうな鉄門が目の前に現れた。

「……さて、これで最後だが。無理するなよ?2人しか居ないから、どっちかが倒れたらオシマイだ」
「はーい!」

……何時もの事だが、分かってるのか?本当に。


で、だ。



「離そうか、手」
「……むー」
「むー、じゃない。行くの?行かないの?」
「…………」


惜しむように手を離すユウキ。その様子はまるで他所に引き取られて行く犬のようだった。

(……しょうがない奴だな)

ずーん、と肩を落としているようにも見えるユウキの前に回り込むとその小さな頭を両手で固定し、顔を近付けていく。

「え…………う!?」

口を付けたのはその可憐な唇ではなく、額。そのまま耳許に顔をもっていき、小さく囁く。

一瞬、期待が外れたユウキはますます落ち込んだが、その直後、顔に最大級の羞恥を浮かべるとすっかり元の天真爛漫なユウキに戻った。

「……そうゆう訳でとっとと終わらせようぜ」
「うん!」

囁いたのはダンジョンに入る前にハンニャから仕入れた『ある情報』。それはユウキの機嫌を直すには結構効いたようだった。




なお、既にその情報を知っている(つまり、『ここ』に到達している)ハンニャに恐ろしさを感じたのは別の話。









どこか教会然としたボスの部屋に入ると俺は不思議な既視感を感じた。

カトリック様式とプロテスタント様式を併せ持つ中道的な様式はゲーム内という事もあって巧妙に隠されていたが、滲み出る雰囲気は俺の記憶野を盛んに刺激した。
かつて親父と訪れた『イングランド国教会』、別名アングリカン・チャーチ。政治的なしがらみによってカトリックやプロテスタントに揺られ、エリザベスⅠ世の中道政策によって一応の安泰。中道故に両宗派からの批判は免れず、結局17世紀のピューリタン革命の引き金の1つとなった教会―――の雰囲気にどこか似ているのだ、ここは。

そんな郷愁も目の前に座する四つ足の巨龍を見て霧散した。

「グルルルルル…………」

《Massacre emperor》――虐殺皇帝

(……定冠詞が無い?まさか……いや、違うか)

ダンジョン最上階に居るからにはこの塔のラスボスはコイツで間違いない。カーソルにもメインターゲットを示す王冠のマークが付いている。
コイツを倒すと真・ボスが出てくるなんて事は無いはずだ。少し気になる部分はあるが、今考える事ではない。


「行くぞ。序盤は様子見、今までで掴んだ事を忘れるなよ」
「うん!」









激怒の咆哮と共に吐かれた漆黒の炎と焔盾の紅蓮の焔が衝突する。

炎の奔流は盾を突き破ろうとするが《蓮華刀・紅桜》の焔はただの火では無い。壊劫の時に世界の万物を焼き尽くし、灰燼とする劫火だ。対象は炎といえ例外ではない。

「ふんっ!」

黒と紅の炎が消えるや否や、間合いを詰めて鋭い牙を連続して斬りつける。

「ギャア!?」

バキャ、という音と共に牙が砕け散り、マッサカー・エンペラーは大きく後退した。―――その位置には小さな影が示し合わせたように既に控えている。

「ッ!!……りゃあ!!」

跳躍して黒い流星となったユウキは龍の後頭部を斬りつけた後、壁を蹴ってターンし、同じ場所を斬りつける。退避した所を襲ってきたユウキに多くヘイトが堪ったのか、うなり声と共にそちらを向こうとが、それもまた叶わなかった。

「余所見はいかんぞ?」

大太刀単発重攻撃《轟山剣》

超威力の斬撃が龍の首筋を斬り付け、激しいダメージエフェクトが飛び散る。二段目のHPバーが消滅し、残りは一段だ。


「グオオオオォォォォッーーー!!」


途端、目がギンッと赤く光り、龍の体の周りを黒い障気が渦巻き始める。

(……っ!?マズイな)

「ユウキ、退避!」
「分かった!」

ユウキもその勘でマズイことは覚っていたのだろう。言葉を発した時には既に退避途中だった。

「さぁて、どうかな?」

小太刀を抜いて投擲、狙いはギラついている目。
だがそれはまとわれた障気に阻まれてダメージを与える事は無かった。

「……やっかいな」

この手の特殊防御は攻撃力の問題ではなく、一定時間内に複数回攻撃を当て、障壁を突破する他ない。

ユウキの片手剣や俺の大太刀では連撃数が心許ない。
ユウキもそれは分かっているので攻めあぐねている。現時点で考えられる突破口はユウキのプレイヤースキルによる連撃からの俺の重攻撃の繰り返し……もしくは俺が禁忌を破るかの二択。

(どうする……?)

ゆっくり考えている暇はなく、龍のより速くなった物理攻撃が襲いかかる。




「…………ったく」

どっち道こっちが不利だから……。などと姑息な言い訳を自分にしつつ、大太刀を鞘に納める。

「ユウキ、よく見てろ」
「え?」

龍が顎を大きく開け、飛びかかって来る。接触の刹那、その鋭い頭のラインをなぞるように体を運び、背中越しに巨体をいなす。


「まず、攻撃っていうのは自分からするものじゃない」


突如として敵の姿が消えた龍は訳が分からず硬直する。


「近づいて行くという行為は『攻撃』の為ではなく、相手の陣地―――つまり攻撃範囲を占領し、手出しを出来ないようにするものだ」


背中越しに感じるのは強固な防御力を誇る黒の障壁。
半歩引きながら大太刀を抜刀、まだ動かない巨龍を斬り付ける。龍はレイの存在に気が付き向き直ろうとするが、事前にそれを『観の目』によって察知したレイは既にその死角となる位置に移動していた。

「占領したなら次はそれを奪われ無いよう、攻め続けろ。既に陣地を盗られた相手は見え見えの反撃しか出来ないから難しい事は考えるな」

大太刀の一撃が障壁を突破する。素早く上位ソードスキルを発動し、龍に強烈な斬撃を叩き込む。

「グオオオオォォォォ!?」

一気にケージを5割も削ってユウキの元まで後退した。



「できるか?」
「……やってみる」





マッサカー・エンペラーが倒れたのはそれから10分後の事だった。
ユウキは俺の落とした小太刀を拾って《二刀流》ならぬ《双剣》を自ら生み出しあっという間に障壁を突破すると、ぶっつけ本番で《剣技連携(スキルコネクト)》まで成功させ、龍を翻弄した。

(………………)

地上や空中を軽やかに舞い、二刀を閃かせるユウキを眺めながら俺は感心し、同時に恐れた。


その昔、キリトを始めとする何人かの人物に抱いたのと同種の恐れ。


「茅場、あんたは……」


いったいどこまで見据えていたのだろうか?

気味が悪いくらい全てが噛み合っている今の現状。運命とでも言うしかない、数奇な『流れ』に俺は何か底知れぬモノを感じていた。
龍がポリゴン片に変わり、クエストのクリアを告げるウィンドウが目の前に現れる。


その先ではユウキが自分の手に収まった白銀の剣をしげしげと眺めていた。











~おまけ~





「あー……ユウキ、マジでやるの?」
「……ボクもちょっと恥ずかしくなってきた」

クエストのエピローグ(龍は再び封印され、云々……なオチ)が終わり、俺はボスの部屋に入る前にユウキと約束したとある『儀式』を往生際悪く渋っていた。

ここはボス部屋と言っても無駄に凝った造りの『教会』でもある。そして、教会で男女がやる儀式と言ったらアレしかない。

「……まあ、やるだけやるか。どうせ……」


―――『どうせいつか現実でやるし』

とは小心な俺は口に出来なかった。

「………………」

が、ユウキは何となくその続きを察したのか羞恥の感情エフェクトの段階を上げていた。



そうゆう訳で…………



「水城螢、汝は、ボクを妻とし。

良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も。

共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かとうとも、その魂が尽きる時まで。

愛を誓い、妻を想い、妻のみに添う事を誓いますか?」

ユウキが結婚式定番の文句(よく覚えてるな……)を言う。
本来は神父さんだか牧師さんが言ってくれるものだが、残念ながらその類いのNPCは結婚システムの無いアルヴヘイムには存在しない。

数分間の思考の末、この相手に自分で尋ねる形式を採ったのだが……ヘンテコこの上無い。

「はい、誓います」

お互い、武器こそ外しているものの防具は付けたままだ。


―――いつか……全てが片付いたら、この子に本物のドレスを送ってやろう。

そんなことを思いながら俺は言葉を返す。

「紺野木綿季、汝は、俺を夫とし。
良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も。
共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かとうとも、その魂が尽きる時まで。
愛を誓い、夫を想い、夫のみに添う事を。誓いますか?」

「……はい、誓います」

指環は偶々2つ持っていたレアアイテムのもので代用。お互いの左薬指に嵌め合って指環交換終了。


そして次が……


「「………………」」


『最後に、夫婦として初めての口付けを』→退場。


で大体は終了のはずだ。賛美歌とかは知らないから省略。


(やれやれ……)


「……木綿季」
「は、はい!?」


何故に敬語か。もう何回目だよ……




ユウキの小さな肩に手を置いて顔を近づける。

視線が交わり、自然と目を瞑って―――その柔らかい花弁に触れた。







俺は知っている。

この幸せが泡のように脆い物だと言うことを。

儚い夢、刹那の喜び。

どの道避けられない悲劇が待ち受けているならば―――この瞬間を永遠のものにしてしまえばいい。

記憶に、魂に。深く、深く刻み付ける。


俺は永遠にこの()()を忘れない。


易々と死ぬつもりもない。




―――Until death do us part.(死が二人を分かつまで)




そう、俺は誓ったのだから……

 
 

 
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