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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第110話

ふう、と一息を吐いた上条は警戒しながらも自分の空けた大穴から通路へ戻る。

(くそ、インデックス達の方は無事だろうな。
 さっさと合流するなら、壁や床をぶっ壊して進むのが手っ取り早いけど。)

そういった破壊行為は敵側に伝わる危険がある。
先程の氷の鎧のタイミングがまさにそんな感じだった。
インデックス達の話では、この旗艦は再生速度が遅いし、艦隊全体の制御設備や儀式に使う施設などがあるため、下手に砲やシスター達を使って内部の上条達を排除できないらしい。
だが、本格的に旗艦が沈みそうになれば話は別だろう。

(建宮達もそう長くは持ちこたえれない。
 恭介がいるにせよ、限界はある筈だ。
 なりふり構っていられねぇ。)

そう決心した上条は目の前の氷の壁を右手で触れる。
触れた氷の壁は立方体に切り取られ、空いた穴を上条は進んでいく。

(インデックス達と合流したいけど、どこにいるんだ?)

適当に氷の壁を壊しながら進んでいく。
インデックス達が居れば、具体的な方向とか分かるのだが、上条は魔術に関してはさっぱりなので適当に進むしかない。
一度、携帯でインデックスに電話をしてみようとしたが、出る筈もないと考え結果的に適当に進むことに決まった。
数分くらい適当に移動している時だった。
突然、鈍い轟音と共に天井が崩れ落ちてきた。

「ッ!!」

上条は咄嗟に後ろへ下がる。
それだけでは降り注ぐ氷の建材からは逃げられない。
インパクトを一点を中心にして周囲の建材まで巻き込まれ、広範囲の天井が逆ピラミッドのような形の巨大な鈍器に変わる。

「くそ!!」

とっさに右手を真上に突き出す。
彼を押し潰そうとしていた天井が、立方体に大きくえぐれる。
そこを潜り抜けるように、上条の身体だけ逸れて天井が床へ激突した。
衝撃波が耳を打ち、細かい破片が背中を叩く。
上条はそこからさらに後ろへ二歩、三歩と下がっていく。
前方には、砂煙の代わりに霜のような微細な氷の粒が舞っていた。
その中心点、先程まで上条が立っていた場所に大槌を叩きつけるように、一人の男が佇んでいる。
豪奢な法衣に身を包んだ、四〇代の白人だ。
豪奢な衣服と言っても、インデックスのような清潔感は一切ない。
ひたすらべったりとこびりつく成金趣味の塊だった。
首には四本のネックレスが年齢のように重なっていて、それぞれに数十の十字架が取り付けられている。
男は神経質そうな仕草で、首元に下がった十字架の一つを指でなぞる。
視線は上条に向いているのだが、絶えず黒目が細かく動いていた。

「その右手。」

放たれたのは、意外にも日本語だ。

「ハッ、羨ましいか?」

上条が適当に吐き捨てると、男は顔の表面に皴を生んだ。
音もなく表現されたのは、うっすらとした嫌悪と苛立ちだ。

「承服できないな。
 主の恵みを拒絶するその性質もさる事ながら、それを武器として振り回すというのが何よりも。
 一度でも御言葉を耳にしたのなら、即座に腕を引き千切ってでも恵みを得ようと努力するのが筋だというのに。
 所詮は異教の猿に、人の言葉は通じないか。
 せっかくそちらの言葉に合わせたのに、返ってきた台詞がその程度の品性とはな。
 ならばこのビアージオ=ブゾーニが主の敵に引導を渡そう。
 猿が人のふりをするのは、見るに耐えないんでね。」

「テメェがビアージオ、か。
 なら、アニェーゼの居場所も知ってんだな。」

「知っているのと教えるのとは全く別物だがね。」

ビアージオと名乗った男の両腕が左右へ交差する。
キン、と小さな金属音が聞こえた。
それぞれの掌には、首にあった十字架が一つずつ握られていた。
それらは上条の腹の前へ軽く放り投げられる。

「十字架は悪性の拒絶を示す。」

ゴッ!!、と二つの十字架が膨張した。
膨張速度は砲弾に等しい。
一瞬で長さ三メートル、太さ四〇センチにまで巨大化した十字架が襲い掛かる。
まるで金属で構成された、鉄骨の爆風だ。

「おおォ!!」

上条は右手で壁と化した十字架を殴り飛ばす。
しかし潰せたのは片方だけだ。
その間に、もう片方の十字架の先端が、岩石のように彼の身を叩いて真後ろへ吹き飛ばした。
一気に床へ叩きつけられ、そのまま二、三メートルは滑った。
とっさに床へ手をつこうとしたら、その右手の動きに氷の床が反応した。
床は立方体にえぐられ、上条は下階の通路へ落下する。
全てが氷で作られた船体に、クッションとなる物はない。
上条は痛む全身に対して歯を食いしばり、今度は慎重に左手で床をついて起き上がる。
頭上の大穴から、ビアージオの声が飛んでくる。

「聖マルガリタは悪竜に飲み込まれた時も、十字架を巨大化させる事でその腹をうちが」

ビアージオは十字架の魔術について説明をしていた。
だが、最後までその説明を聞く事はできなかった。
なぜなら、旗艦が大きく揺れ、さらにビオージアがいた通路に何か大きな影が通り過ぎた。
上条は大穴から見ていたが、速すぎたので何が通過したのか分からなかった。
ただ分かったのは、そのナニかにビオージアは巻き込まれたという事だ。
再び、旗艦は大きく揺れる。

(何がどうなっているんだ!?
 恭介が何かしたのか!?)

困惑しながらも、上条は頭上にいたビオージアを気にしつつも通路を走る。





大穴から上条を見下ろしていたビオージアだったが、突然大きな揺れを感じた直後、後ろから何かに巻き込まれた。
そのナニかが身体に巻きつくと、旗艦の外に追いやられる。
ビオージアは自分の身体に巻きついているナニかを確認する。
それは言い例えるならタコのような足だった。
だが、それはあくまで言い例えるとしたらの話だ。
その足の内側は鋭い棘が生えており、表面は毒々しい色をしていた。
さらに、内側や表面には無数の目玉が見開いていた。

「な、なんだこれは!!!」

必死に身体を動かそうとするが、その足のせいで動かす事ができない。
そして、ふと周りに視線を移す。
その光景を見た、ビオージアは思わず息を呑んだ。
暗い海面でも分かるような巨大な影があった。
海面から自分の身体に巻きついているのと同じ足が何本もあった。
その足は『女王艦隊』に襲い掛かっている。
それは何かの神話生物との戦いを思わせるようだった。
ビオージアに巻きついていた足は海の中に引き込もる。
抵抗するが全く意味がなく、海の中に引きずり込まれる。
ビオージアはその影の正体を見た。
それは巨大な生物だった。
彼の頭にはある生物の名前が浮かんだ。
クラーケン。
海魔と呼ばれる、海の魔物だ。
だが、あれはビオージアが知っている文献のクラーケンとは、比べ物にならないくらいの狂気的な姿。
さらに、禍々しい魔力。
彼は直感した。

(勝てる訳がない。
 あんな生物相手に、人間程度の存在が勝てる訳がない。)

身体に巻き付いた足はクラーケンの身体に近づくと、大きな口が開かれ、ビオージアの身体は丸ごと食われてしまう。
ビオージア=ブゾーニの意識はそこで途絶えた。









数分前。
麻生は建宮が作った橋を渡りながら、何とか建宮達に合流する事ができた。
シスター達と乱戦になりながらも、誰も殺られてはいないようだ。
麻生は能力を使用せず、先程奪った剣を使いながらシスター達を倒していく。

「どうやら、無事だったみたいだな。」

フランベルジュを片手にそう言った。

「余計な心配だ。
 それより、当麻は?」

「ああ、オルソラ嬢と禁書目録と一緒に旗艦に向かったよな。」

「それなら、俺も向かう事にする。」

「駄目です。」

と、車輪を抱えたルチアが言い出した。

「貴方は敵側にとって一番の脅威です。
 それが旗艦に潜入したとなれば、ビオージアがどんな行動を取るか想像が尽きません。
 ですので、貴方は此処で敵の撹乱をお願いします。」

「ルチアの言う通りよな。
 お前さんがこっちにいてくれれば、防御に関してはまず問題ないよな。」

二人はそう言うが、麻生自身そう悠長にしてられない。
既に能力使用時間は一〇分まで迫っていた。
さらに、他の艦隊からこちらの艦隊に向かって砲撃してくる。
危ない砲弾は麻生の能力で防いでいるが、長くは続かない。
加えて、沈められた艦隊はすぐに再構成する。

(ちっ、どうする。
 このまま旗艦に潜入するか?)

そう考えていると、他の艦隊が麻生達のいる艦隊に向かって砲撃の準備を始める。
建宮は天草式のメンバーと協力して、シスターの壁を突破する。
ポケットから紙束を取り出し、放り投げ、橋を作る。
ルチアやアンジェレネ、麻生も続けて橋を渡る。
渡りきった瞬間、他の艦隊の砲撃が始まり、さっきまで隣にあった艦隊が海に沈む。
建宮は何枚かの紙を海に投げる。
これは気絶したシスター達を海に沈めさせない為の物だ。
紙は海に浸かると木のビート版になって、気絶したシスターを助ける。
その時だった。
海面から何か巨大なモノが勢いよく飛び出た。
それは言い例えるなら足だった。
タコなどの足に近いが、実際は違った。
内側には無数の鋭い棘と無数の目玉。
毒々しい色をして、禍々しい魔力を発していた。
それをシスター達や建宮達は動きを止め、その足を唖然と見つめていた。
すると、麻生に過去にないくらいの頭痛を感じた。

(まさか、あれは・・・)

海面から出てきた足は海に浮かんでいるシスターを捕える。
鋭い棘が身体に刺さり目が覚めたシスターは、自分の身体に巻きついている足を見て、大きく叫んだ。
足はゆっくりと海の中に戻っていく。

「ッ!!」

それに反応したのはアンジェレネだった。
訳が分からないが、あのままにしておくのはまずいと考えたのだろう。
四色の金貨袋はその足に向かって飛んでいく。
しかし、四つの金貨袋が直撃しても足はびくともしない。
アンジェレネはもう一度、金貨袋で攻撃しようとしたが、アンジェレネの横を何かが通り過ぎる。
その影は、麻生恭介だ。
手にはさっきの剣とは違い、身丈ほどの大剣が持たれていた。
大剣を勢い良く振りかぶり、足を切断する。
足の拘束が無くなったシスターは海に向かって落ちていくが、麻生が落下するシスターを受け止め、艦隊まで運ぶ。
それが合図なのか。
海面から次々と足が出現すると、近くの『女王艦隊』に襲い掛かる。

「一体、何がどうなっているのですか。」

ルチアはその光景を見て独り言のように呟いた。 
 

 
後書き
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