ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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マザーズ・ロザリオ編
終章・全ては大切な者たちのために
―《剣帝》―
前書き
MR最終回。
横浜港北総合病院にて螢と沙良が交戦を開始した頃、同時に日本各地で密かに――だが熾烈な戦端が開かれていた。
―東京千代田区、国会議事堂前―
「あぁもう!!、メンドくせぇなこいつら」
映画の特殊撮影という名目で半径100メートル以内を立ち入り禁止にし、一般人を排除したため閑散とした道路を疾走しながら蓮はぼやいた。
真っ昼間から黒ずくめの戦闘衣に身を包み、能面みたいなお面を被った怪しさ満点の武装集団が続々とこの立法機関に押し寄せていた。中には当然のごとくこの国の重鎮達がひしめいている。
今頃はガタガタ震えているか泰然と構えているかのどちらかだろう。
これらを襲撃する事は山東家による『革命』のアピールにもってこいだ。
黒ずくめ2人が蓮の側面に突進してくる―――得物はどちらも打刀。
「……そろそろ大将出てきてもいいんじゃね?」
右手で後頭部を掻きつつ左手をゆらりと持ち上げ―――るや否や、飛びかかってきた左右の黒ずくめが何かにぶつかったかのように後ろへ仰け反る。
「地味に鍛えられてるから時間喰うし」
吹っ飛ばす勢いで殴ったのにも関わらず、気勢を削いだだけに終わった結果にポツリと不満を溢した。
やむなくそれぞれの急所(どこかは自主規制)を蹴り上げ、沈黙させると後ろを振り返った。
「……やれやれ。やっと出てきたと思ったら何時抜けたんだ、清月?」
仮面の連中とは対極な白い羽織を帷子の上に着た若い優男――山東家の次期当主、山東清月。
「今だよ。気づかれない内に殺ろうと思ってたけど……残念」
「怖ぇ事言うなぁ……。でだ、止めね?お前は一番メンドくさいから」
「僕も君と正面からは嫌だなぁ。今回は消去法的に避けられなかったけど」
「って事はじーさんに明月のジジイ、螢に桜、沙良に本隊か?」
「まあそうかな?他のとこのから報告は来てないけど。雪螺さんの抹殺は無理筋な陣容だったから僕は反対したんだけどね……」
非合理だよ。と言わんばかりに首を振る清月。
だが、蓮は何となく嫌な予感に駆られて会話を続けた。
「無理なのに決行したのか?明月のジジイが?」
狡猾なあの妖怪は作戦の成功に異様に執着する。だから今回の襲撃は万が一を取ってこちらも迎撃ではなく、逃げるという手を打ったのだ。
「あ、流石に気付いたか。もちろん、お爺ちゃんは後発隊を組んだよ。僕を除く残りの七武神5人が率いる《処断者》達を横浜に送った」
「な……!?てめぇら……まさか!?」
「残念だけど桜は螢君に近すぎる。負けたら一緒に消えて貰う事になってる」
「……桜は?」
「まさか。知らないに決まってるじゃないか。それとも君なら『勝たなければ殺すよ?』と教えてやるのかい?」
「桜はおめぇの奥さんだろうが!!……お前、それでも……」
「候補だね。まだ籍は入れてな……!?」
清月が素早くその場から跳び退く。
数瞬前までは彼の首があった場所には蓮の手刀があった。
「死ね、外道」
「嫌だね。―――面倒だ。君にはここで死んで貰う」
怒りの光を両眼から迸らせる蓮に清月はあくまでも冷静に返す。
日本の中心で2体の魔神が動き出した。
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―京都府洛東の山中―
「ほほ、何時間やっとるんじゃい、ご当主殿」
「む。はな――いや、華宛院殿じゃないか。元気かね?」
「まあまあだの。んー?明月のやつが来てんのかい。貧乏クジ引いたの」
「……手を貸す気は……無さそうだの」
「当たり前だ馬鹿者。我等は『山東を追放、水城を迎える。両家の抗争に介入しない』で合意したしの。でなくとも儂の立場から介入するのはちとマズい」
山の谷を挟んで対峙する宗家と分家の両当主。互いに隙を見せないため、もう数時間に及ぶ睨み合いが続いていた。
そこに見物人のノリでやって来た老婆は珍しいものでも見るように辺りを見回していた。
「戦う気はないのかの?らしくない」
「ふ、今回は持久戦だ。やつらめ、そろそろ焦り出すぞ」
「ぬ?」
今の言い方からすると冬馬は何かを待っているようだ。だが、この膠着状態を動かす『何か』とは一体…………。
「まさか……あやつか?」
「は、は、は!」
心底愉快そうに笑う冬馬に向こうの明月は無表情のままだ。どうやらこの突発的な戦はすぐに終わるらしい。
(……だとすると、妙だのぉ?どれ、久々に世俗に戻ってみるかの……)
首都東京、文化都市京都、商業都市大阪……etcの日本中枢に山東が大小の規模で攻勢をかけるのをじりじりと退きながら防衛する水城。
その密かな戦は横浜にやって来たある人物によって終わりを告げた。
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ドサッ。
自分より二回りガタイのいい大男を下し、沙良は床に膝を突いた。
(脈を……)
首筋に血の気を失った指を当て、生存を確認。最後の力を振り絞って男を縛り上げると他の5人と離して放った。
「ぁ…………」
緊張の糸が切れ、仰向けに倒れる。
自分と同等以上の実力を持つ『殺人者』6人を全員無力化などという所業は無茶を通り越して無謀――というか奇跡だ。致死レベルの怪我こそ免れたものの、殺し切れなかった衝撃や防御を貫いた攻撃によって、内出血や骨折――事によると内臓に障害出ているかもしれない。
「……ぅ……っ!」
妙な鈍痛がすると思ったら脚の骨が外れていた。それすら気がつかない程アドレナリンに犯されていたのかと辟易しつつ、楽になった体を引き続き休める。
(……しかし、これは……)
速めに処置しないとマズいかもしれない。
体の体温が引いていくのを消えかけの意識で認識するも、どこから出血しているのかも分からない。
(……ごめんなさい、直葉)
そう心の中で呟いた時、温かく、優しい手が頬に触れるのを感じた。
「やれやれ、しょうがない娘だ。――神医を舐めてもらっては困る」
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脳天を狙って振り下ろされた刃を杖で受ける。樫の木の中に鉄心を仕込んだそれは見た目とは裏腹に重く、頑丈だ。
「はぁぁぁっ!!」
「くっ!?」
受けたはずの刃が霞むと視界から消える。
その時にはパーカーの脇腹辺りに二本の裂目が刻まれていた。
(50……いや、もっとか!?)
『冷静な闘争心』によって生み出された身体強化率はおおよそ普段の40倍。現在は燃費を考えてその半分、20倍程に抑えている。
というのは出し惜しみしている訳ではなく―――ぶっちゃけ40倍にした所で何も見えない。
音速一歩手前の殺意を紙一重でかわさなければならないのは変わらないのだ。
(だが、そろそろ終わらせないと姉さんが危ない……)
このままあしらい続ければ桜は体の隅々まで動けなくなる程に体力を失い、楽に無力化する事が出来る。
だが事によると、そのまま生命維持に必要な最低限のエネルギーまで食い潰しかねない。
そんな思考に集中力が削がれ、一瞬の隙を突かれる。
―ザシュッ!!
「――――――ッッッ!?」
腹部に強烈な痛み。鈍色の穂先が脇腹を貫通していた。
それでも咄嗟に体を捻ったお陰か、重要臓器にダメージは無い―――はずだ。
しかし、これは最初で最後のチャンスだ。体から力が抜けていくに任せ、地面に膝を付く。血が溢れ出て意識が飛びそうになる。
「―――眠りなさい、螢。あなたの腕を奪ったあの男は私が必ず殺す。『カタストロフ計画』も山東が潰す。何も心配する事は無いわ」
頭上で囁かれた言葉を咄嗟に理解することは出来なかった。桜から殺気が消えた、その刹那。
―ドスッ
「…………っ!?」
「油断、したな」
左手で腹を押さえ、右手で杖をくるくると回しながら立ち上がる。多少はふらつくが、立てない程ではない。鳩尾を一突きされ、戦意を刈り取られた姉を見下ろしながら螢は言った。
「やっぱり姉さんに人殺しは向いてないよ。俺を本当に殺す気ならちゃんと急所を狙わないと」
「………………」
「姉さん、昔、たくさん守ってくれてありがとう。そこで待ってて。今度は俺達が守るから」
動けない姉を病院のエントランス前まで運び、杖を片手に振り返る。
そこには異質な雰囲気の4人と50人以上の仮面黒服集団が居た。
「流石は水城の元・天才児ですね。まさか本当に七武神の一角を討ち取るとは……」
「《大黒天》か?」
「ほぅ!情報通ですな。いかにも私は大黒天の称号を賜りし者。ちなみに左右の4人は右から《蛭子》、《福禄寿》、《寿老人》、《布袋》でございます」
なぜか嬉々とした様子でそれぞれの名を明かす大黒天に一同は不快感を示しているが、仮面の下に怒りを隠し、憮然としている。
「ご紹介どうも。……悪いが今は立て込んでいる。日を改めてまた来てくれないか?」
「無理ですねぇ~。私達の任務は貴方と桜さんの首を持って帰る事ですから。回りくどい事は無しですよ?貴方を殺して後ろの桜さんの命も頂く。これは決定事項です」
「いや、だめだ。―――悪い事は言わん、帰れ」
「はい?何を言って―――!?」
僅かに声を荒くした大黒天の声を掻き消すようなローター音が近づいてきた。型はごく普通のものだが、そこに描かれた図柄はソレが何なのかを雄弁に物語っていた。
まず目を引くのは底に描かれた国旗。ユニオンジャックと呼ばれるその国旗は歴史と伝統の国、イギリスのものだ。
そして側面に大きく黄色地に花のふち飾りと2重のトレスの中にライオンが後脚で立ち上がった図。すなわち、『女王旗』。これを賜った日本人は歴史上、ただ一人。
「―――剣帝、だと?ばかな……」
大黒天が作っていた口調を崩しているのも気がつかず、呟く。高度を落としつつあるヘリのドアが突然開き、人が1人飛び降りてきた。
何処にでも居そうな穏和そうな顔立ちだがその体躯は2メートルを誇り、極限まで鍛え上げられていることを彼は知っていた。
「―――相変わらず湿気が多いな、日本は」
低く迫力のある声。反射的にひれ伏してしまいそうになる圧倒的存在感。
一部で『最強生命体』と呼ばれる男――水城悠斗。
「さて、山東の子犬達。引くか?――それとも僕と戦うかい?」
同時刻。
日本各地の戦線で山東勢が撤退開始。捕虜は地元の警察に引き渡された。掃討戦を行わなかった水城勢も再び各地に散り、僅か2時間のテロは収拾した。
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2週間後。
「「本当に申し訳ありませんでした」」
「ダメ」
「許さん」
「ダメだね」
「うん、ダメ」
ボロボロの体を引きづりながら誠心誠意行った土下座が即答ではね除けられる。ちなみに木綿季、和人、明日奈、直葉の順だ。
「……理不尽だ」
俺は完全に私情だからともかく、ほぼ関係ない沙良はこの内3人を命懸けで守ったはずなのだが……。
「螢が悪いよ!」
「そうかもしれんが……。てか木綿季、お前もう動いていいのか?」
「私が連れてきたの」
そう宣う明日奈さん。
良いのか?良いならいいけど。車椅子とはいえ、外を動き回るのはいかがなものか。
あの短時間テロは報道こそされたものの、内容は『新興宗教が起こした愉快犯的な行動で事前にそれを突き止めた公安警察が鎮圧した』ということになったらしい。
関係者には当然箝口令が敷かれたが……特に和人と明日奈、お前らいったい幾つ敷かれてんだ?主に俺関係で。
と、そこへ
「なんだ元気じゃないか。不良息子に不良娘」
雪螺を伴った悠斗が病室に入ってきた。
「……参考までにどうやったらそんなに見えるか教えてくれ」
「生きてるじゃないか」
「…………」
この無茶苦茶理論を平然と言い放つ所が流石は蓮兄の親父……。
「……ま、皆も許してくれ。こいつらが居なかったらどうなってたから分からないからね」
雪螺が4人に向かってそう言うと不承不承といった様子で頷いた。
30分程談笑し、木綿季達が帰った後、悠斗は急に真面目な顔に豹変して告げた。
「例の件、調べがついたぞ。務所から拐われた――いや、脱獄させられた奴等で山東関係者以外は『須郷伸之』、『新川昌一』……後、死刑囚数名。行方は分かっていない」
「ちっ……。やっぱり奴等のバックには山東の影があったか」
「……これはだけ皆さんに知らせておいた方がいいですね」
「大方の話は母さんから聞いたよ。その事は爺さんから伝えて貰おう。水城の者をSSに付ければいい」
「ああ、お願いする。それで……姉さんは?」
すると悠斗はどう伝えたものかとしばし考える仕草をすると、おもむろに言った。
「爺さんは螢の判断に任せるそうだ。……思うところはあるだろうが―――」
「いや、いい。直ぐに保護してくれ」
「……分かった」
桜はまだ山東に命を狙われる可能性がある。それを考えると保護しないわけには行かなかった。
「螢、お前の腕を奪ったヤツとその組織は恐らく山東と結託している。狙いは――分かっているな?」「ああ……」
いづれ合間見える事になるだろう仇敵。左腕の接合部が疼く。
「■■■■■」
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6月。
『えー、こちらの紺野木綿季さんは皆さんと少し異なる事情で入院生活をしていました。そして退院につきまして、特例により本校に編入致します。皆さん、仲良くしてあげて下さ……「みんな、よろしくー!!」』
待ちきれなかったのか、校長の紹介を遮って木綿季が元気に手を振る。肉付きが戻ってきた木綿季はまだ痩せ型だが、紛うこと無き美少女。
そしてどこか庇護欲をそそる雰囲気をまとっている。必然、男女問わず歓声が上がった。
全校生徒数百人、一同が体育館に集まったとしても手狭ではない。進行を生徒に任せた校長がステージを降りると、質問コーナーが始まった。
とは言ってもほぼ全員が元はネットゲーマー。内容は当たり障りの無いベーシックなもの。―――が、それが災いすることもある。
そしてついにソレが飛び出した。
最前列近くの男子生徒数名がざわつき、やがて1人が手を挙げて訊ねる。
「彼氏はいますか!?」
瞬間、俺は
「ゴフッ!?」
吹いた。最後方で松葉杖を突いて立っていた俺はよろけさえした。これはかなりマズイ。色んな意味で。
「え……カレシ、ですか?」
木綿季も顔を赤らめ、困った様子でいる。
そしてあろうことか俺にチラチラと視線を向けてくる。
「おい、バカッ……!?」
仮にも全員が元SAOプレイヤー。視線を追う事には熟達している者が殆どだ。
生憎こっちは松葉杖。今からそのサーチを逃れる事は出来ない。
三々五々振り向いた生徒達が俺を見、木綿季を見、また俺を見る。―――南無三。
『『『何だとぉぉぉぉぉっ!?』』』
「はぁ……やれやれ」
松葉杖を前に出し、ゆっくりと進んでいく。その先の人だかりはモーゼが紅海を割るが如く割れていく。にやにや笑っているあのバカップル×3+4人は後でオシオキしておこう。
ご指名があったからには全校生徒に宣言しても良いだろう。
そして、後で彼女に伝えよう。俺の気持ちを、もう一度。
マザーズ・ロザリオ編―完―
後書き
ULLR「終わった……」
レイ「疲れた……」
ULLR「確かに今回は物凄く頑張ったねキミ」
レイ「何てメに合わせるんだ。泣いていいか?」
ULLR「却下☆。まだ泣くのは早い」
レイ「何させんの!?頼むからもうやめて!?」
ULLR「俺だって苦手な戦闘描写毎回書きたくないわ。ここのとこ毎回戦うから胃が痛くって……」
レイ「それはそれは……」
さて、MR編終了です。この後番外編2本。ネタ話数本やった後はしばらく『紅き死神』は更新停止します。
原作でアリシゼーションが終わった辺りでまた会いましょう。
極光の剣士の更新をひた待ち続けている読者の皆様。もう少しお待ち下さい。マジでごめんなさいm(__)m
番外編『ダンジョン・デート』、『クリスマス編(タイトル未定)』をお楽しみに!
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