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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
  カンクロウ

 【 つるぎ ミスミ
      VS
    カンクロウ  】

 ――やっと俺の番じゃん?
 余裕と嘲りの入り混じった笑顔を浮かべながら、カンクロウは下に下りる。ヨロイ、カブトと同マンセルだったつるぎミスミも、カンクロウと向かい合った。

「俺はヨロイと違って、ガキでも油断は一切しないぜ」

 そんなミスミの言葉を、カンクロウは鼻で笑った。しかしカンクロウのその小ばかにした笑い声にもミスミは苛立つ様子もなく、淡々と続けた。

「始めに言っておく。俺を技がかけたら最後だ。必ずギブアップしろ。速攻でケリをつける」

 ミスミがそう言うと、「なら俺も、」と言いながらカンクロウは、背負っている包帯でぐるぐる巻きにされた「それ」に手をかける。肩に通している包帯に手を入れ、するするとそれを肩から放した。

「速攻でケリつけてやるじゃん!」

 どしん、と包帯に巻かれたそれが音を立てる。ミスミが見極めようとするかのように頭の位置を低くすれば、カンクロウはぐいっと顎を持ち上げた。最高に挑発的な顔だ。

「それでは、第三回戦――始めてください」
「何もやらせはしない――先手必勝!」 

  叫んで、ミスミが飛び掛ってきた。自分の体に叩き込まれんとするその手刀を左腕でガードする。しかしその手を振り払う暇もなく、ミスミの左手がぐにゅっと伸びたかと思いきや、その左腕がカンクロウの左腕に絡み付いてきた。足も喉元も全てその、ぐにゃぐにゃした骨や関節の存在を感じさせない反則的な腕に締め付けられる。自分の手足によって雁字搦めにされたカンクロウが、酸素を求めて苦しむのを感じながらミスミはカンクロウに向かって説明する。

「おれはあらゆる関節を外し、ぐにゃぐにゃになった体を自在に操れるのさ……!」
「うっわあ、ドジョウみてーに捕まえにくそうな体だなあ。ドジョウほど美味しそうでもねえけど」

 その説明にマナがぽつっと呟く。あんたはなんでもかんでも食べ物と関連付けるのやめなさいよとテンテンが溜息をついた。そんなやり取りの聞えていないミスミは続ける。

「だから骨が折れるまで締め付けることも出来る。――ギブアップしない限りどんどん締め上げるぞ……!」
「うーむ、カンクロウとかって奴の顔のメイクの色、ラズベリーみたいで美味しそうな色だなー……うおうっ」

 マナが言えば、それ結構どうでもいい突っ込みだから、っていうか真剣勝負にそんなツッコミいれるのやめなさいよとテンテンがそんなマナに突っ込む。ネジの膝かっくんがマナに直撃した。

「どんな忍具を使うか知らないがな……、本体をこうしちまえばいいんだ……! このまま首をへし折ることも出来る。――早くギブアップしろ!」

 ミスミが言う。今の状況から見てカンクロウは圧倒的に不利だったが、それでも彼は余裕の笑みだった。

「やだね」

 ミスミの締め付ける力が強まる。死にたいのか! と脅す声に、カンクロウは苦しそうでありながら嘲るように言った。

「バーカ……死ぬのはてめーじゃん?」
「「――!!」」

 皆の驚いた視線がカンクロウに集中した。ミスミは終わったか、とでもいうような目付きでカンクロウを見下ろす。ぐにゃぐにゃになったミスミの腕の中、がくんと垂れたカンクロウの頭がふらふらと右に左に揺れている。

「――首の骨が、折れてる!?」

 呟いたリーに、ナルトとサクラが目を見開く。首の骨が折れる――それが現すのはカンクロウの死のみだ。くだらん、と我愛羅は呟いた。兄の生死など彼に知ったことではないし、それに我愛羅の兄たるカンクロウがこんなあっさり死ぬわけはないのだ。
 止めるのが間に合わなかったか――とハヤテは溜息をつき、ヒルマが「わー死体が出来ちゃったよ」的な顔つきをする。バカが、とミスミが呟いた。

「勢い余ってやっちまったじゃないか……ん?」

 カンクロウを雁字搦めにしていた手の力を緩めた瞬間、何かおかしな音が聞えたような気がした。視界の中でなにかがぼろぼろと崩れ落ちた。それは限りなく人肌に似せられた、肌色の樹脂だった。
 死んだはずのカンクロウが振り返る。その顔は人の顔ではなかった。剥がれた肌色の樹脂の下、木製の肌と偽物の眼球がこちらを見つめる。人のものとは到底思えない、いや、人のものではないおぞましい笑顔を浮かべて、そいつは言った。

「ジャア、今度ハ僕ノ番」

 その声質はカンクロウのものと余りに異なっていた。肌色の樹脂や元纏っていたカンクロウの衣装がはじけ飛び、その中から長い木製の腕が現れてミスミを縛り付ける。灰褐色の衣を纏い、ぼさぼさの茶髪を乱した傀儡がそこにあった。
 偽の目玉がみっつ取り付けられた顔に、下顎には「烏」の一文字。

「……傀儡人形!?」

 カンクロウが背に背負っていた「それ」を巻く包帯がもぞもぞと動いた。その隙間から突き出した本物のカンクロウの手がすっと動いて包帯を解く。それを見たミスミは目を見開いた。丁度戻ってきたらしいカカシとハッカは、「ああ、傀儡ね」「傀儡遣いか! 木ノ葉では珍しいからな」と一瞬で状況を悟ったらしかった。
 ――あっちが本体だと……!? こいつ、傀儡師……!
 カンクロウはずっと包帯の中、烏を本体と見せかけチャクラ糸で操り、自分の声を使っての演技をしながらミスミが腕を緩めて油断するその一瞬を待っていたのだ。
 烏がその両腕を以ってミスミを抱擁する。余りの痛みにミスミはギブアップしようとした。

「ギ、ギブッ……! うああああああ!!」

 しかしその言葉は最後まで発し得ない。一層強まった烏の抱きしめる力に、骨が折れた。嫌な音と共に稲妻のような痛みが体を襲う。余裕に満ちた笑みを浮かべたカンクロウは、残酷に言い放った。

「骨まで砕けば、もっとぐにゃぐにゃになれるじゃん」

 ――私としたことが、危うく試合を途中で止めてしまうところでしたね
 カンクロウがミスミが油断するその一瞬をずっと狙っていたことや、それが傀儡であることにも気付かなかったとは。
 ばたりとミスミが烏共々地面に倒れた。これだけ骨を砕かれればもう試合は無理だろう。治らないこともないかもしれないが、下手すれば忍者廃業だ。

「――試合続行不能につき、勝者カンクロウ」

 ヒルマがチャクラを纏った手をミスミの体に当てて、「この人も緊急治療室へ」と指示する。白眼で見た所、骨が折れまくってかなり悲惨だ。

「二対一ってのは卑怯だってばよぉ。あれ、いいなああれ。カカシセンセ?」
「……別に卑怯じゃないだろ? 人形なんだし」
「あれは、傀儡の術よ。チャクラで人形操ってんの! 手裏剣とかの忍具と一緒よ!」

 ナルトのそんな言葉に拍子抜けしたらしいカカシが返し、サクラが説明する。あれいいよなあ、とマナが羨ましげに溜息をついた。

「あの人形で人間のフリさせりゃあ、食べ放題の店とかで二人前注文できるし」
「いや待てマナ、お前は二人前とって一人で全部食べきるつもりか?」
「マナ、その費用を負担するのが誰かちょっと聞いてもいいかな?」

 勢いよくはじめとハッカが振り返る。いやいや二人とも突っ込むところなんか違うし、とテンテンがツッコミをいれ、とりあえず二人前全部食べて費用は全部他人もちでしょうねとサクラがぼやいた。

「では、これより第四回戦を始めます」

 掲示板がの名前が流れていく。ナルトがなんでどいつもこいつも変な奴なんだと言い、カカシが「お前が言うかよ」と突っ込む。サクラは言えてる、と笑い声を上げた。

「サクラ」

 ちょんちょんと肩を突かれる感触に振り返って、そしてそこに見えたものにサクラは目を見開いた。

 【 はるの サクラ
      VS
  やまなか いの  】
 
 反射的に振り返ると、いのの驚いた視線とかち合う。いのが強気な顔を見せた。サクラは数秒躊躇い、そして同じく強気な顔をしてみせる。こうと決まった以上もう後戻りは出来なかった。

「まさかサクラ、あんたと戦うことになるなんてね……! ――しかもこんな早く」

 成績表を見てみる限りいのはくノ一ルーキーでも抜きん出ている方だが、しかし彼女が自身の親友相手に本気になれるだろうか。彼女らが親友でありライバルであるということはいのがサクラのことを話す様子からも見て取れるし、いのは友達思いの少女だ。そんないのがサクラ相手に本気を出せるかと言ったら本気でキレない限り無理だろう。

「よりによってあの二人か……あーあ、鬱陶しいことになったなあ」
「いの……大丈夫かなあ」
「サぁああああクラちゃあああああん!! 頑張れぇええええ! 負けるなァあああああ!!」
「二人ともがんばれーファイトだー」

 シカマルがぼやき、チョウジが不安げな声を出す。もう一方ではナルトがあらん限りの大声を張り上げて応援し、マナがどこからか店で貰ったおこさまランチの旗を振って応援する。因みにその上には木ノ葉マークだ。

「――開始!」

 そしてくノ一二人の熾烈な戦いが始まった。
 
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