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戦国異伝

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第百四十四話 久政の顔その二

「では我等はな」
「ここでおりましょうぞ」
 こう話してだった。
「兄上が戻られるまでは」
「そうじゃな」
 こう話してだった、彼等は実際に信長と主力の帰還を待っていた。
 数日後その信長と主力が近江に戻って来た、信長は虎御前山に入ると早速信行と信弘にこう言ったのだった。
「留守役ご苦労だったな」
「いえ、お気遣いなく」
 信行がその信長の言葉に応える。
「我等は務めを果たしただけです」
「まあそう言うな、わしの留守中よく守ってくれた」
「有り難きお言葉」
「それでじゃが」
 信長は己の座に就きつつ信行、信広と諸将に話していく。
「これより小谷城を攻めるが」
「はい」
「いよいよですな」
「この戦はこれで終わらせる」
 浅井家との戦もだというのだ。
「完全にな」
「ではまずは何処を攻められますか」
「京極丸じゃ」
 小谷城の丸の一つであるそこをだというのだ。
「本丸は十重二十重に囲んだうえで放っておく」
「まずは攻めさせぬというのですな」 
 羽柴が信長の言葉を聞いてすぐに述べた。
「左様ですな」
「猿夜叉は隙を見逃さぬ男じゃ」
 攻めにおいては、というのだ。
「だから竹千代」
「はい」
 場には家康もいた、彼は黄揃えの者達と共にそこにいる。その彼が信長の今の言葉に応えたのだ。
「御主に頼みたいが」
「本丸とその周りをですな」
「固めよ、三郎五郎と共にな」
 ここでも信広の名前を出す。
「蟻一匹通すでない」
「畏まりました」
「他の者はわしと共に京極丸を攻める、あの場所にじゃな」
「はい、久政殿がおられます」
 蜂須賀が答える。彼も滝川と同じく忍の者を使えるのでそのことを調べていたのだ。
「だからですな」
「まずは久政殿じゃ」
 小谷城攻めで最初から考えていた様にするというのだ。
「あの御仁を攻める」
「では」
 信行が応える。
「それがしもですな」
「うむ、御主も連れていく」
 今回は、というのだ。信行は戦下手だがここはあえてだというのだ。そしてその訳も話すのだった。
「どうやらそうした方がよい様じゃからな」
「それは何故でしょうか」
「勘じゃ」
 それに基づくというのだ、信長の生来のそれに依るというのだ。
「御主を連れて行く方がよいと思うからじゃ」
「だからですか」
「理はない」
 理屈抜きにしての考えだというのだ。
「御主も参れ、よいな」
「わかりました、それでは」
「無論他の者もじゃ」
 柴田や佐久間、滝川等主だった将帥達にも声をかける。常に信長と共に戦の場を駆け回っている者達もだというのだ。
「ついて参れ」
「それでは」
「そうさせてもらいます」
「ではな、行くぞ」
 信長が最初に立った、その時に彼の近くに控えていた彼によく似ているが何歳も年下の若武者に声をかけた、彼の弟の一人である信興だ。 
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