木ノ葉の里の大食い少女
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
ルーキー
検査という名目のもと、呼ばれたユヅルが帰ってきたその翌日に、中忍試験は開催された。
「いいか、これは俺達の優しさだぜ?」
「ここが三○一であってる……よね」
長い間過ごしてきたアカデミーだ、わからないわけがない。ドアの前には大きな人垣が出来、ドアの前で二人の自分たちより年上らしき少年が通せんぼをしているのだった。
「え? 何? 何が起こってんの?」
因みに身長が低いマナには人垣に遮られて何も見えないという状況だ。はじめが状況を説明してやると、うわくそうっぜえと溜息をつき、ついで紅丸を頭の上から下ろすと、
「いいか紅丸、テメエあいつらの手にでも足にでもどこにでも喰らいついて来い」
「わん!」
紅丸は再度マナの頭の上に飛び乗り、ユヅル、はじめとそれぞれの頭の上にジャンプ、そして集う下忍達の頭から頭へと飛び移りつつ、二人の少年へと近づいていった。
「どっちにしろ受からない者を篩にかけて何がわる、っぐ!? な、なんなんだこの犬は!?」
言いかけた言葉は紅丸に思いっきり噛みつかれたことで発し終えなかった。痛みに顔を顰めながら噛まれた手をぶんぶんさせるそいつに、もう一人の少年が紅丸の顎を開けて友達の手を救おうとする。
「どっちにしろ受からない者を篩にかけて何が悪い、か。――正論だな」
「え?」
紅丸相手に悪戦苦闘していた二人の前に進み出てきたのは、アカデミーを首席で卒業した少年、うちはサスケだった。嘲るような笑みを浮かべている。
「だが、俺は通してもらおう。そしてこの幻術で出来た結界を、とっとと解いてもらおうか。――俺は三階に用があるんでな」
周りの反応は三種。
一つ目は何言ってんだあいつ、とサスケの言葉を理解できない反応だ。大多数がこれである。
二つ目は、こいつも気付いたのかと、気付いていながら気付いていないふりをしていた一部の下忍のサスケを吟味するような言葉や視線。また、立ち塞がる内一人は顔色を変えてサスケをじっとりと見ている(もう一人は未だ犬と悪戦苦闘中だ)。
そして、
「え? 幻術? マジ?」
「……そう言えば私達、ハッカ先生以外に幻術タイプがいないな」
「そのハッカ先生の幻術だって見たことないしねえ。あの人基本スピードと体力で忍者やってるから」
三つ目が九班のような反応だった。対して驚いていないというわけではないし、事態が呑みこめていないというわけでもないが、なんだかんだでマイペースな三人だった。
「サクラ、どうだ。お前なら一番に気付いているはずだ。――お前の分析力と幻術のノウハウは、俺達の班で一番伸びているからな……」
「サスケ君……」
サクラを振り返って不敵な表情を見せるサスケに、自信なげに俯いていたサクラは僅かに頬を赤くすると、さっきの表情からは一転、自信満々な顔つきになった。
「もちろん、とっくに気付いてるわよ。だってここは、二階じゃない」
ここは二階。
そう意識した途端に、ぐわんと世界が歪んだ。プレートが301から201に変わり、おおっと感嘆のどよめきがあがった。
「っ、なかなかやるな! っくそ、離せ!」
「紅丸!」
だだだっと素早く階段を駆け上っていきつつ紅丸に声をかけるのは言わずもがな九班である。にこにこ笑顔の彼等は相変らずのマイペースで、紅丸は少年の手を離すなり、とんとんとんと下忍達の頭を飛び移って階段へと走っていった。
「……見破っただけじゃあ足りねえんだよ!!」
さっきまで紅丸に噛まれていた少年が、腹いせのようにサスケに向かって蹴りを飛ばした。
+
「ポテチの匂いがするぞおおおお!」
志願書をぽーんと放り出して301に突入したマナが一直線に向かった先にいたのはチョウジだ。むしゃむしゃとポテチを頬張るチョウジのポテチをずばばばばと一気に口の中に押し込み、一応最後の一枚だけはフリスビーのように投擲してチョウジにパスした。
「うん、チョウジこれマジ美味しいよ」
「わん」
という紅丸も、マナの頭の上でかりかりとポテチを食べていた。マナの髪が食い滓だらけになるぞ、つーかお前食べていいのかと思わんでもなかったが、ユヅルはあえて突っ込まないことにした。
「……マナ、これはさすがに酷いよ……」
最後の一枚以外を全部一口で呑み込んだことに対して、ふるふると震えながらチョウジが言う。その傍で、あんたも相変らずよねえ、といのが肩を竦めた。
「んだよめんどくせーな、お前たちも参加すんのかよ」
「そうだな、中忍になったら任務料弾むし、食費も増えるし。そう考えりゃ悪くねーだろ、へへん」
相変らず脳内は食べ物一色のマナだった。
「……あんた本当に相変らずよねえ。あ、はじめ。この間はじめの妹って子にあったんだけど、それにしても凄くよく似てるわねー」
「…………!」
はじめの頬が引き攣った。何かにぐさっと刺されたような顔つきだ。それも仕方ない、いのの会ったはじめの妹、というのが化粧を落とし忘れたはじめ本人なのだ。マナが咄嗟にはじめの妹だと詐称したのだが、その後いのに絡まれ大変だったらしい。とりあえず喉仏を見られそうになってひやひやしていたところだったという。
一緒にいたシカマルかチョウジあたりは、案外もう気付いているのかもしれないが。
「サスケくぅん、おっそーい!」
ドアから入ってきたサスケに目をきらきらさせながらいのが飛び掛った。ぎゅーっとサスケに思い切り抱きつき、サクラに離れろと怒鳴られている。そんなサクラにいのはあっかんベーの一撃で、サクラの顔が更に引き攣った。
めんどくせえなあと呟きながら、シカマルと新しいポテチを開封したチョウジは七班の方へと歩いて行き、九班もそれに続いた。
「なんだよ……マナ達だけじゃなくナルトもかよ……」
「……男子と女子、双方のドベ兼ウスラトンカチが揃ったな」
やあれやれ、と溜息をつくシカマルに、いのに抱きつかれつつジト目のサスケがぼそっと呟いた。
「おいこらサスケェ!! どういう意味だァ!」
声を荒げてサスケに迫るナルトに、そういう意味だろ、とサスケが溜息をつく。そんなナルトを押しのけて、「聞き捨てならねーぞサスケ!」とマナが怒鳴りつつサスケに迫ってきた。
「アタシはウスラトンカチじゃなくってウシニクトンカツだ!! その方が美味しそうだろ!?」
空気がフリーズした。
「……あーもー俺この女の子知らないー」
「うしにく? ぎゅうにくの間違いではないか?」
「……勝手にしろ」
ユヅルがくらっとはじめに寄りかかり、はじめは真剣な顔つきで首を傾げ、ジト目のサスケはあきれ返った表情で真顔のマナを見ている。ウシニク豚カツってどんな豚カツだってばよ、とナルトですら呆れ顔だ。ほんっと、めんどくせえなあ、とシカマルが溜息をついた。
「わん!」
近づいてきた犬は赤丸だ。紅丸がマナの頭の上から飛び降りて、赤丸とじゃれつき始める。
「やっほー皆さんお揃いで!」
そしてその後ろから人垣を掻き分けてやってきたのはキバで、その背後にシノとヒナタがいた。よっ、とキバに向かっててを振ると、にやっとしながら彼も振りかえした。シノに笑顔を向けるとシノは途端に顔を青くしてキバの背後に隠れようとする。ヒナタの視線は既にナルトにロックオン、他の奴等なんてアウトオブ眼中といった風情だ。
「わーキバも出るんか」
「おうよ! 紅丸にだけにはぜってー負けねえ、そうだよな、赤丸!?」
「んだと、紅丸、赤丸の目にもの見してやれ!」
忍犬を持つ者同士、早くも「紅丸が勝つ!」「赤丸が勝つ!」等と賭け始め、サクラといのはサスケを間に挟んで睨みあい、ナルトはケラケラ笑いつつシカマルやユヅルと話しており、そんなナルトを穴が開くほどに見つめているのはヒナタだ。シノとチョウジは両者の足元を通った虫を見つめつつ沈黙に浸り、はじめはぽつーんと突っ立ち、何もすることがないのでどこからか取り出したオレンジの花を毟っていた。
「勝つのは赤丸だ!!」
「紅丸だっつってんだろ!!」
「どきなさいよイノブタ!」
「デコりんちゃんは大人しく引き下がってなさい!」
「……いい加減にしてくれ……」
「シカマルはてっきりめんどくせーって試験パスすると思ってたってばよ」
「うん、シカマルが来てるのは意外だ」
「めんどくせーけど、お袋が行けって言ったんだよ……」
「ナルト君……」
「ねえ、この虫って食べられるの?」
「…………」
「私は女装させられる、させられない、させられる、させられない……」
ギャーギャー騒ぎ出したルーキーどもにキレた奴がいたらしい。
「――キミたち、いい加減にしてくれると嬉しいんですけど……ねッ」
がっと飛び出た顔を包帯で覆った少年が、右腕を大きく振りかぶってルーキー達に殴りかかろうとする。その標的はその中でももっとも大声で騒ぎあっていたキバとマナだ。ルーキー達に苛々していた者は少なくないのだろう、多くの者がその音忍の少年――ドス・キヌタに「いいぞいいぞ! やっちまえ!」などと声援を送っている。
「――っぐ!」
キバとマナの両者が同時に地面に転がったのは、そのドスの攻撃を受けたからではなかった。隣同士に倒れたキバとマナを庇うようにして立っているのは、白い髪を一本結いにして、眼鏡をかけた若者だった。
「キミ達は本当に騒ぎすぎたと思うよ。これは遠足じゃない。彼等は試験前でピリピリしているんだ、うっかりすると今のように襲い掛かられることがあるんだ……わかったかい?」
「は、はい……」
倒れたキバとマナや、その他騒いでいたルーキー達が罰の悪そうな顔になる。そんな若者の登場に、ルーキー達が叩きのめされるのを心待ちにしていたギャラリーからはぶーぶー声があがった。
「邪魔しないで欲しいですねえ……」
ドスが呟くと同時に、その腕を大きく振った。若者がその腕をかわして余裕の笑みを浮かべる。誰もが若者は攻撃を見切ったものと思いこんでいたが、
「っ、ぐ、ぐぇええ……」
突然顔が血の気を失ったかと思うと、未消化の朝ご飯か昼ごはんだったであろうものを吐き出して、床にぶちまけた。嘔吐物から漂う異臭に紅丸と赤丸は退散し、鼻のよいキバは一瞬顔を顰めるも、驚きの方が大きかったらしい。マナも唖然としてそのような光景を見つめていた。
彼は確かにドスの一撃を見切ったはずだ。なのになんで吐いたんだろう。鼻元を衣服の袖で押さえつつも、キバがその背を摩ったり、叩いたりした。けほけほと軽く咳きこみながら口内に残っていたものを吐き出し、冷や汗と脂汗を滲ませた顔で僅かに微笑しながら彼は言った。
「ほら、僕の言った通りだろ? ……こうなるんだよ」
どこか冷たい、その微笑に、マナとキバの背筋が凍った。
+
「ちょっと、眼鏡の兄ちゃん! 大丈夫かってばよ!?」
駆け寄ってきたのはナルトだ。先ほどの冷たい微笑はどこへ行ったのか、弱弱しく微笑みながら彼は言う。
「眼鏡の兄ちゃん、じゃなくて、薬師カブトだ。……大丈夫、ちょっと気持ち悪いけど、胃の中のものは全部吐いてしまったからね、これ以上吐くことはないさ……そう、血を吐くのじゃない限り」
キバとマナを庇ってくれたその青年――カブトを襲った音忍に対して、ナルト達ルーキーは、どうもコイツのことだけは好きになれない、とでもいいそうな顔をした。
ナルトはキバとマナを庇ってくれたカブトの血の気を失った顔に唇を食いしばり、暫くふるふると震えていた。それを怯えととったのだろうか、サクラがナルトを励まそうとするも――
「――おれの名はっ、うずまきナルトだぁ!! てめーらには負けねえぞ、わかったか!?」
ばーん! と言わんばかりの大宣言に一瞬試験場が静まり、そしてその試験場はルーキー達に向けられる殺気と共にざわめきを取り戻した。
「……俺もうこの男の子知らないーもうこんなのわけがわからないよ」
「……めんどくせぇ」
ユヅルがガン、と頭をシカマルの肩にぶつけ、脱力したように声を発した。はあ、とシカマルは溜息をついて口癖を呟く。サクラとサスケがナルトをみてぽっかーんという顔をしている。一瞬で周囲の人間すべてを敵に回すとはさすがだ。
「おいマイナー音忍! 喧嘩なら買ってやるぞ、何の勝負だ!? 早食い? 大食い? それとも――っ?」
「うっさいんだよ女ァ!」
「おいなんだやる気かやってやらァ!」
「わん!」
ドスの名目上のチームメイト、キン・ツチが踝に届くくらいの長い黒髪をさっと翻してこちらに突進してくる。その手の中で、千本に結わえ付けられた鈴がしゃりんと鳴き声をあげる。更にユヅルが撃沈した。
「静まれどぐされヤローどもが!」
ばーんっ、と試験官らしき男性が登場したのは、キンとマナプラス紅丸が取っ組み合いを始めたその直後だった。青い顔のカブトと嘔吐物と、取っ組み合う女子二人を数秒間眺めていた彼はどうやら事情を悟ったらしい。呆れた顔でジロリと彼等を睨みつける。
「お、おっさん! 聞いてくれよこの女の子とあっちのミイラ男がヒステリックにアタシと先輩を襲撃したんだってばよ!」
「いや、俺の口癖真似すんじゃねえってばよきつねものい!」
試験官を平然とおっさん呼ばわりする彼女の勇気にその他下忍勢の顔が引き攣り、またネジもその顔を引き攣らせた。一方テンテンは頭を抱え、リーはぽかんという顔つきで取っ組み合う少女二人プラス犬一匹を眺めている。
「ああ!? ナルト、てめーの口癖には著作権でもあんのかぁ!?」
「あるってばよ! それは俺のアイデンティティだ――!」
「黙れナルトお前のアイデンティティはラーメンと金髪と猫髭模様とドベとウスラトンカチだろ!!」
「そんなこと言ったらお前のアイデンティティだって大食いとチビスケとドベとギューニクトンカツじゃねえか!!」
「うっせえアタシはウシニクトンカツだ!」
「「……両方ともうっさいんだよ!!」」
取っ組み合いしつつも騒ぐマナとナルトに、キンが切れて凄まじいビンタをマナの頬に食らわせた。そしてほぼ同時にキレた試験官の拳も、見事にマナの顔に命中した。
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