戦国異伝
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第百四十三話 一乗谷攻めその十五
「思えば最澄と空海にもでした」
「我等はやられておりました」
「その前の行基等もでしたが」
「孝謙の女帝を襲った時は道鏡に退けられましたし」
「全く、高僧といい陰陽師といい神主といい」
「我等の邪魔をしてくれます」
「まつろう者達は」
まつろわぬ、それへの反語だった。明らかに。
そして老人の声はここで再び本願寺についてこう言ったのだった。
「本願寺は悪人正機、まつろわぬ者も取り込む」
「実際に多くの者が取り込まれております」
「親鸞により」
その親鸞の名前も再び出る。
「我等の同胞を迎えて」
「そして取り込んできましたな」
「まことに厄介な寺です」
「ではあの寺を第一にですな」
「滅ぼしますな」
「そうせよ」
絶対にだというのだ。
「その為の策を練ろうぞ」
「ではです」
若い男の声だった、その声がここで闇の中にいる老人の声の主に対してこんなことを言って来たのだった。
「織田家と争わせますが」
「その時にか」
「ただ争わせるのではなく」
ではどうするかというのだ、争わせるにしても。
「織田家が治めるあらゆる国で、です」
「戦をさせるか」
「これでどうでしょうか」
こう言うのだった。
「そして本願寺には将軍もつけましょうぞ」
「ふむ、公方もか」
「文は幾らでも書けます」
義昭が好きなそれは、だというのだ。
「ですから」
「あ奴に今度は本願寺へ書かせるか」
「そしてさらに」
「さらにか」
「武家に対しても」
やはり朝倉家以外にもだった、文を送らせるというのだ。
「そして織田家と争わせ」
「そうしてか」
「共倒れにさせましょうぞ」
「それがよいな、ではじゃ」
「幕府にですな」
「仕掛けよ」
本願寺に直接仕掛けると共にだというのだ。
「そうせよ、よいな」
「はい、それでは」
「ではじゃ」
老人の声は若い声に応えてから周りにさらに言った。
「これからはな」
「幕府を使いますか」
「織田家も他の家も滅ぼす為に」
「本願寺も」
「丁度よい、力がないのにせわしなく動く奴がおるわ」
義昭、彼を見ての言葉だ。
「ではそ奴を使ってな」
「そして、ですな」
「天下を乱に戻しますか」
「ここで」
「御主等、よいな」
声は闇の中にある二つの気配に告げた。
「幕府のことを頼むぞ」
「わかりました、それでは」
「我等が」
「そうせよ」
こう命じたのだった、そして。
老人の声は静かに、だが怒れる声でこうも言った。
「しかしあ奴は」
「松永ですか」
「あの者ですな」
「何をしておるのか」
ここで言うのは彼についてだった、
「訳がわからぬわ」
「今も織田家にいるどころか」
「朝倉攻めにも加わっていました」
「そして今もです」
「近江に戻ろうとしております」
「わからぬ」
その松永が、だというのだ。
「あ奴は何を考えておるのか」
「十二家の一つではないのか」
「それでいてここ数年ここにも滅多に姿を表さぬ」
「一体何を考えておるのか」
「どういうつもりか」
「何度か人をやっておるがな」
老人の声も言って来る。
「しかし従わぬ」
「まさか織田信長に寄っているのでは」
ここで一人がこの危惧を述べた。
「そうでは」
「まさか、それはあるまい」
「幾ら何でもな」
「それはないであろう」
「流石にな」
他の者達は松永が信長に忠誠を誓ったのではないかという言葉は否定した、それだけは流石にないだろうというのだ。
しかしだ、老人の声もここでこう言った。
「まさかと思うが目に余ればな」
「その時は、ですか」
「長老御自らですか」
「うむ、言う」
そお松永にだというのだ。
「わしからな」
「では御願いします」
「その時は」
「うむ、ではな」
こう話してだった、彼等は松永のことも考えていた。打つべき手は全て打っていこうという考えがそこにあった。
そして最後にだ、老人の声が周りに告げた。
「では浅井の次は本願寺じゃ」
「はい、それでは」
「仕掛けておきましょう」
周りもそう応える。闇の中でまたしても何かしらの会合があった、それは決して表には出るものではなかった、闇の中にいるからこそ。
第百四十三話 完
2013・7・2
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