勇者番長ダイバンチョウ
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第8話 男の恋は命懸け! 惚れたなら掘り抜いて見せようドリル道!
前書き
意味ないと思うけどこの小説にでてくるメンバーのCVを個人的に書いてみました。
轟番
CV:小西克之
轟真
CV:植田佳奈
轟恵
CV:島本須美
バンチョウ
CV:小山力也
峰守
CV:神谷明
木戸茜
CV:水樹奈々
他のメンバーは次回辺りまでに考えておきます。
では本編をどうぞ!
番町からそう遠くない工事現場。其処はかつてバンチョウとドリル番長が始めて出会い、壮絶な喧嘩を繰り広げた現場でもある。
現在、其処では大掛かりな工事が行われており、終始作業員達が忙しく働いている光景が見受けられる。
そんな工事現場に何故か番とバンチョウの姿があった。
「来たぜぇ、木村さん」
「おぉっ! 来てくれたか、番」
番が手を振りながら近づいた男性の名前は【木村 優】と言い、今年で24歳になる作業員だ。そして、彼はドリル番長の操縦者でもあったのだ。
そう、普段ドリル番長はこの工事現場にて作業を行っているのである。
そして、その番とバンチョウは木村に呼ばれてこの工事現場に訪れてきたのであった。
「んで、何だって俺達を呼んだんだよ?」
「実はドリルがなぁ……最近様子がおかしいんだよ」
「ドリルが?」
心配そうな表情で語る木村。どうやら最近ドリル番長の様子がおかしいと言うそうだ。
それには番自身も一抹の不安を感じた。ドリル番長と言えば番のダチでもあり仲間でもある。
熱いハートを持ちどんな堅い岩盤ですら掘り抜いてしまう程の度胸を持っているのだ。そんなドリルの様子がおかしいと言うのは正直只事じゃないと思われる。
「それで、ドリルは今何所に?」
「こっちだ」
木村に連れられて訪れた場所。其処は開発途中の工事現場から少し離れた整地。其処には丁度腰掛位のサイズの岩盤があり、その上に丁度腰掛けるかの様にして座っているのは我等がドリル番長だったりする。
普段ならそれ位何ら問題ないと思えるのだが、今回はどうやら様子がおかしい。
普段から元気の塊でもあるドリル番長であるのだが、何故か目の前に居るドリル番長にはその元気が欠片も見受けられなかった。
岩盤の上に腰掛けて深い溜息を吐いている。一体どうしたと言うのだろうか?
「見ての通りなんだよ。最近ドリルの奴元気がなくてさぁ……何とかならないか?」
「つってもなぁ……こんなドリルは俺も始めて見るぜ。お前は何か分かるか? バンチョウ」
【嫌、さっぱり分からん】
番もバンチョウもお手上げ状態であった。
もしや謎のウィルスにでも侵されたのではないのだろうか?
それとも何所か異常が出来たのか?
疑問は尽きなかった。と、言うよりもこの二人ではドリル番長の異常が何なのか分からないだろうし。
「しょうがねぇ、俺達じゃ幾ら悩んでても解決しそうにねぇし」
【此処はあいつを呼ぶとすっか】
分からないのならば他の奴に聞けば良い。もっと簡潔に言えば他人に丸投げする訳なのだが。
そんな訳で番とバンチョウが揃ってそのバトンを渡す相手と言えば一人しか居なかったりする。
「まぁ、そんな訳でだ。木村さん、携帯とか持ってねぇか?」
「ん? あぁ、持ってはいるが……一体誰を呼ぶんだ?」
「消防車」
「しょ、消防車ぁぁ!」
いきなりな番の発言に大層驚きまくった木村優さん24歳であった。
***
そんな訳で木村さんの携帯電話を拝借して早速レッド番長を呼び出してみた。
丁度良い事に、現在レッド番長は非番だったらしく、メンテナンスも無事終了したと言うので早速こちらに来て貰う事となった。
【待たせたのぉ。ほんでどうしたんじゃぁ?】
「なぁレッド、ドリルの調子が悪いみたいなんだけど、お前なら何か分からないか?」
【ドリルの奴がぁ? ふむ、ちょいと見てみるかのぉ】
理由はどうあれ仲間が元気ナッシングでは流石に心配になってしまう。
それに此処は一番ある意味年長者でもあるレッド番長が先頭に立って物事の処理を行うのが筋道と言う。そう思いレッドに一任してみた。
【おう、ドリル! どうしたんじゃぁ、元気がないみたいじゃのぉ?】
【ん? あぁ……そうだな】
明らかに声に覇気が全く感じられない。それに、普段から元気印の筈のドリル番長があんな捨て台詞にも似た言葉を吐くなんて有り得ない話なのだ。
流石にそんなドリル番長を目の当たりにしてしまったレッド番長も溜まらず番達の元へと駆け戻って行ってしまった。
「どうだ? 何か分かったか?」
【ふぅむ、こりゃいよいよ以って重傷じゃぞぉ。流石に此処では治療が出来んのぉ】
レッド番長が難しい顔をしだす。そのせいか周囲に居た殆どの者達が不安の眼差しを向ける羽目となってしまったのは明白の事である。
「お、おいおい! 何とかならないのか?」
【うむ、こう言う時にはあそこに行くのが手っ取り早い事じゃ!】
「あそこ? あそこって―――」
【ま、今日一日ワシにドリルを任せてくれればええ。バッチリ直してやるから安心するんじゃ!】
自信満々にそう言い張るレッド番長。其処には年上の貫禄と言うか任せても大丈夫そうな安心感などが伺えて見えた。
そうと決まれば早速行動開始であった。レッド番長は早速項垂れているドリル番長を無理やり引っ張り挙げて何所かへと連れ去って行ってしまった。
流石にちょっと気になり出したので番とバンチョウもそれに便乗してついて行く事にした。
そうして、一同が辿り付いたのは、世界のどの場所にも乗っていない場所の分からない繁華街であった。
「此処は?」
【此処はわし等みたいな宇宙のはぐれ者が集う繁華街じゃ。無論、地球人にはまだ知られとらんわし等だけの憩いの場と言う奴じゃな】
実際問題地球へ出稼ぎに来る宇宙人は結構多い。だが、地球の風習や法律などに馴染めずストレスが溜まりまくる宇宙人もまた多い。
そんな宇宙人達の為に密かに作られたのがこの繁華街だったりするのだ。
確かに、見ればあちこちを歩いているのは皆見慣れない宇宙人ばかりだ。誰一人として地球人は存在していない。
【あ、それとなぁ番。此処に入る際には必ずバンチョウになってからにした方が良いぞ。でないと此処じゃ地球人には何も売ってはくれんからのぉ】
「勝手に人ん家に店構えておいて俺等には物を売らないなんざ、良い根性してるぜ宇宙人ってのはよぉ」
文句を言いつつも仕方なくその場でバンチョウへと合体を果たす。これならば誰が見ても列記としたバンチョウ星人と見て貰えるだろう。
そんな訳でレッド番長はドリル番長とバンチョウを連れてとある店へと立ち寄る。かなり古風な暖簾を掲げた俗に言う居酒屋の類の店であった。
【へい、らっしゃい!】
店へと入るといきなり元気なおやじの声が出迎えてくれた。更に、店の中にはそれこそ様々な宇宙人が達が席に座りそれぞれの飲みなれた品物を呑んだり食いなれた食い物を食べたりしている。
とりあえず三人は並んでカウンター席へと腰掛ける。レッドは慣れた手つきでカウンターに置かれていたお絞りで手を拭うと早速おやじに視線を向ける。
【おやじ、何時もの奴頼むわぃ】
【へい、何時もの奴ねぇ】
何時もの奴。
これは居酒屋然りスナック然りバー然り、とにかく飲み屋関係の場に置いて一度位は言いたくなる言語だったりする。
何か、こう言った響きの言葉を自分の口から言うと何となく大人になった気分になってしまうのは一種の錯覚だろうと思われるが別に錯覚でも良いのかも知れない。
【へぇ、レッド。お前此処の常連だったんだな】
【勿論じゃ。地上での激務に疲れた日とかは仲間達に内緒で此処に良く来てるんじゃぞぉ】
自慢げに語るレッド。この繁華街の場所は地球人には秘密だったりする。下手にばらしてしまうと出入禁止を食らってしまうからだ。
なので、少々後ろめたいが他の隊員達には内緒にしてあるのだ。
【へい、お待ちぃ!】
そうこうしているとおやじがレッドの元に何時もの奴を置いてくれた。
其処にあったのは黄金色に輝く液体に何故か茶色の液体がミックスした様な代物と巨大なボルトとナットを串で串刺しにした奴に変なタレを掛けた奴であった。
【な、何だこれ?】
【へい、家の名物で生ビールオイル割と焼きボルトオイルタレ掛けですよ!】
それを聞いた途端、盛大にぶっ倒れるバンチョウ。そんなバンチョウの事などお構いなしにジョッキに並々と注がれている生ビールオイル割りを美味しそうに喉を鳴らしながら半分近く飲み干す。
【くぁ~~! 美味い、この一杯の為に毎日必死に働いてるようなもんじゃからのぉ~!】
【ま、毎日そんなの食ってるのか、お前?】
【勿論じゃ、この店の奴は何でも美味いからのぉ、今日はワシが全部奢るけぇ好きな物頼むと良いぞぉ!】
【な、何でもって言ってもよぉ……】
改めてバンチョウはカウンターに置かれていたメニューに目を通してみた。其処に映っていたのは明らかに食欲を損なわせるような代物ばかりだったりした。
小型バッテリーのオイル漬け
ネジご飯
針金の酢の物
ect……
とにかく、生身では絶対に食べなさそうな代物ばかりがメニューに並べられていた。思わず固唾を飲み込んでしまった。流石の番でもこんな代物を食べる気にはなれなかったりする。
【えと、俺は食い物は良いから何か飲み物くれないか? ノンアルコールの奴でよぉ】
【へい、それじゃこいつですねぃ。オレンジジュースのオイル割りですぜぃ】
【な、何でもかんでもオイル割かよ……】
普通でなら何とか飲めたのだろうが、流石にオイルと混ぜられては飲めそうにない気がするのでは?
だが、頼んでしまった以上は飲むしかない。でなければ折角のレッド番長の気持ちを無駄にしてしまう羽目となってしまう。
ダチとしてそれは出来ない。となれば是が非にでも飲まねばならない。
意を決してオレンジジュースのオイル割りを一気に飲み干す。
すると、以外とすんなり飲む事が出来たのに番は驚いた。どうやらバンチョウと合体していたお陰で味覚は番のままだが体内組織はバンチョウになっているようだ。その為オイル割になってても普通のオレンジジュースと同じ感覚で飲めるようだ。
【ほれドリル! おまんも何か頼め! 好きなもん飲んでええぞぉ!】
【そうか? 悪いなぁ】
ちょっぴり申し訳なさそうな言い方をしつつも大ジョッキでの生ビールオイル割りを注文し、それを一気に飲み干してしまうドリル番長。
飲みきった時にはドリルの両頬はうっすらと赤く染まりだし、カウンターにもたれかかってしまった。
【どうだ? ちょっとは落ち着いたかのぉ?】
【おぅおう! 大分楽な気分になったぜ。しかし悪かったなぁ番、それにレッド。お前等に心配掛けちまったみたいでよぉ】
大分以前の様に戻って来たみたいだが、やはり何所か元気がなさげだ。一体どうしたのだろうか?
【水臭い奴じゃのぉ、ワシ等の仲じゃろうが、悩みがあるんじゃったら遠慮なく言うてみぃ!】
仲間同士、と言うよりダチ同士であるが故……そんな感じで男同士でこそ話せる悩みもあったりする。
特にレッドの予想では今のドリルはその類の悩みを抱えていると言うのだそうだ。
一応番もドリルがどんな悩みを抱えているのか気になったりしているので聞き耳を立ててみる。
そんなレッドとバンチョウに板挟みされた状態の中、ドリルが小さく口を開いた。
【じ、実はさぁ……俺、……しちまったみたいなんだ】
【あ? 良く聞こえなかったぞ?】
余りに小声なせいか良く聞き取れなかった。これでは何が悩みなのか把握が出来そうにない。
そんな訳でもう一度質問を要求すると、今度は少し大きな声で帰って来た。
【実はさぁ、俺……こ、恋しちまったみたいなんだ】
【あぁ、なる程ねぇ】
【ほぅほぅ、おまんが恋となぁ……】
両隣でそれを聞き、うんうんと頷く両者。しかし、数刻の後、物凄い形相へと変貌した両者がドリルを食い入るような目で睨みつけた。
【え、えええええええ! ま、マジかぁ?】
【お、おおおおまん! 一体誰に恋したんじゃあぁぁぁ!】
皆様は既にご承知の事と思われるが、ドリル番長は見てくれどおり巨大なドリル戦車が人型ロボットへと変形した状態だ。
従ってこの星の人間とはとても釣り合いそうにない。だが、一度火がついたら止められないのが若い男の恋の炎だったりする。
例え結ばれない運命だと分かっていながらも、どうにもならずに突き進んでしまうのもまた青春の1ページに相応しいと思う昨今だったりする。
【で、その相手ってのは……誰なんだ?】
【い、一応……写真はあるんだけどよぉ―――】
良く見ると、何時しかドリルの両頬はほのかに赤く染まっていた。目元もうっとりしている。そんな気持ち悪い形相のドリルが懐から取り出したのは一枚の写真。
其処に映っていたのはドリル戦車型になっているドリルともう一台片隅に映っている見慣れないドリル戦車。そして、その前でポーズを決めている操縦者の木村さん。更にその木村さんの隣でこれまたポーズを決めている若い女性の映った写真であった。
その写真を食い入るように見たバンチョウとレッドは揃って青ざめた顔をしつつドリルから少し離れた場所で互いに小声で届く距離に近づき小言を始めた。
【お、おいレッド……まさかドリルの奴―――】
【間違いないのぉ。あいつ、あの若い女子に恋しちょるぞぉ】
【マジかよ。よりにもよって人間の女に惚れちまったって奴かぁ!?】
前にも言ったと思われるが、ドリルは機械と融合した所謂ロボットの類だ。その為人間である地球人とはどう転がっても恋が実る可能性はゼロでしかない。
ましてや結婚などもっての外と言える。第一種族からして違い過ぎるのだ。
だが、やはり一度火が点いたら止まらないのが男の恋路。それを見届けてしまった以上後押ししてやるのが男の友情と呼ぶのではなかろうか?
【ど、どうするよ?】
【此処まで聞いてしまった以上わし等にゃぁあいつの恋を応援する義務があるっちゅうもんじゃ! こうなりゃわし等で出来る限りドリルを応援しちゃろうじゃないかのぉ!】
【そ、そうだな……そうだよな!】
半ば無理やり納得してみせるバンチョウとレッド。無理に人の恋路を邪魔するよりも出来る限り影ながら応援してやろう。それが男の優しさと呼べるのだろう。
【どうしたんだよ二人共、そんなに離れちまってよぉ】
【な、何でもねぇぜ! それよりドリル、男なら一度惚れたら命懸けだ! お前のそのドリルの通り惚れた以上掘り抜いて見せな! それがお前のドリル道だぜ!】
【その通りじゃ! ワシも影ながら応援しちゃるけぇのぉ! 頑張るんじゃぞぉ!】
バンチョウとレッドの応援が身に染みる思いに伝わったドリル。そのドリルの目元からうっすらと涙が零れ落ちそうになるのを強引に拭い取り、自信に満ちた笑顔を見せる。
【有り難う、番! それにレッド! 俺やるぜ! このドリルが示す通り、彼女を絶対振り向かせて見せる! それが俺のドリル道なんだ!】
すっかり何時ものドリル番長に戻っていた。が、それを見ているバンチョウとレッドは何所か複雑な思いになっていたりしていた。
本当にこれで良かったのだろうか? ドリルは良くても相手の女性が溜まった物じゃない筈では?
半ば罪悪感を覚えながらも今回の集まりは此処で無事に終了したのであった。
***
ドリルがすっかり元気になったので何時もより作業がスムーズに進んでいたのに工事現場の面々も一安心との事であった。
そんな訳で無事にドリル番長の悩みを解決した事を操縦者である木村に報告しに訪れた番とバンチョウ達。
だが……
「んなぁぁぁにぃぃぃぃ!!」
どうやらまだひと波乱起こるようだった。ドリル番長が写真の若い女性に惚れている。と、報告したら、今度は操縦者の木村が断末魔の悲鳴の如き声を挙げ始めたのだ。
「ど、どうしたんだよ? 木村さん」
「よりにもよって、何であいつが静流さんに惚れてるんだよぉ!」
「し、静流さん?」
どうやら写真に写っている女性の名前のようだ。木村の話によると、彼女の名は【天音 静流(あまね しずる)】と言い、つい最近この工事現場に配属された木村の後輩に当たる女性のようだ。
ドリル戦車の操縦をこなしている木村に憧れて入社したらしく、木村自身も最初は先輩として接していたのだが、一緒に仕事をしていく内に彼女にほれてしまったようだ。
だが、元々ちょっぴり押しが弱い木村な為に、未だに恋に踏み出せないで居たらしい。
そんな時に限ってドリル番長がよりにもよってその静流さんに惚れてしまったと言うのだから大事件であったりする。
「ま、まぁ……しょうがないんじゃねぇのぉ?」
「はぁ~、こうなるんだったらもっと早めに静流さんに声掛けて置くんだったなぁ~」
今更悔やんでも後の祭りである。こうなっては仕方がない。
ドリルに彼女を譲るしか道はない。下手に横取りして更に仕事に支障が出てしまっては本末転倒なのだから。
【元気出せよぉ、その内あんたにもいい出会いとかあるだろうしさぁ】
「ははは、有り難うよぉバンチョウ。慰めてくれてさぁ~~」
口ではそう言っているが、木村の目からは涙が流れ落ちてきていた。どうやらかなり悲しかったようだ。
まさにその時であった。突如激しい振動が辺りに響き渡る。
大地が唸りを上げているかの様な地響きが番達の元へと伝わってきたのだ。
「な、何だぁこの揺れはぁ?」
「この揺れ……まさか、落盤事故かぁ!?」
流石は現場人間。即座に判断が行った。木村の予想は当たっていた。
工事現場の入り口から蜘蛛の子を散らしたかの様に逃げ出してくる作業員達。聞いてみるとやはり落盤事故があったらしい。
まだ現場慣れしていなかった静流が単独でドリル戦車を操縦していた際に地盤に激突してしまい、その拍子に周囲の柔らかい地層が崩れ落ちてしまい落盤事故が発生してしまったのだ。
幸い地上付近での作業が殆どだった為に作業員達は全員避難出来た。
だが―――
「え? 静流さんが生き埋めに?」
ドリル戦車を操縦していた静流が一人生き埋めになってしまったのだそうだ。しかも落盤事故の衝撃でドリル戦車は故障し、静流自身も怪我をしてしまい身動きが取れないと言うそうだ。
「すぐに救助隊を要請するんだ!」
現場監督が救助隊の要請を指示する。だが、恐らくそれでは間に合わないだろう。
落盤が起こったと言う事はドリル戦車内は殆ど密室同然の状態となる。そうなればまず心配されるのが酸欠だ。
地底では酸素がほぼない状態なのだ。このままでは後数分足らずで静流は危険な状態へと陥ってしまう。
一刻の猶予もなかった。
「監督、俺が天音の救助に行きます!」
「き、木村君!」
突然の木村の申し出に現場の一同が驚きの声を挙げだす。
「危険だ! 君まで生き埋めになってしまうぞ!」
「此処の地層の事なら殆ど頭に入ってます! それに、救助隊なんて待ってたら手遅れになってしまいます。ドリル戦車で一気に行った方が格段に早い筈です!」
木村の言い分の方が一理あった。今から要請したとしても此処まで来るのに相当時間が掛かる。その後で救出作業を試みた所でやはり総じて時間が掛かってしまうのは目に見えている。
ならば、もう一台あるドリル戦車で地層をぶち抜き、直接助けに行く方が利口と言う物だ。
それに、この現場の知識は木村の方が格段に詳しい。彼ならば適任と言えた。
「し、しかし……」
「ウダウダ言ってる場合じゃねぇだろうが!」
中々決定できない監督に今度は番が名乗り出た。今此処で問答している時間すら惜しい状況だ。一刻も早く助けに行かねばならないのだから。
現場の空気が騒然となる。そんな中で、監督が難しい顔をしながら木村を見た。
「木村君、任せても大丈夫かね?」
「はい! 必ず天音さんを助け出して見せます!」
「分かった、我々も出来る限りサポートをする。頼むぞ!」
ようやく許可が下りた。後はドリル番長と共に地底に埋められた天音を救い出すだけだ。
「ドリル、お前が頼りの綱だ! 頼むぞ」
【おう! その言葉を待ってたぜ!】
何時になくドリルがやる気を見せていた。惚れた女を助ける為に男は命懸けになるのだ。
早速ドリル番長が地面を掘り始める。その後ろを軽トラック状態のバンチョウが続いて走る形で地底へと掘り進んで行く。どんな硬い岩盤でもドリル番長のドリルの前では柔らかい豆腐同然の如く砕いて掘り進んでいける。何よりも、今日のドリル番長のドリルは一味も二味も違った威力を見せてくれた。
ドリルの性能だけじゃない。それに宿っているドリル番長の熱い熱血パワーがドリルの威力を底上げしてくれているのだ。
そのお陰でグングンと掘り進んでいけている。
『聞こえるか木村君! 天音君は後地下20メートルの地点に居る筈だ!』
「了解しました! 急ぐぞ、ドリル」
【おうよ! 俺のドリルに砕けない岩盤はねぇんだぁ!】
怒号を張り上げて更にドリルの回転速度を上げる。先ほど以上に早い速度で掘り進んでいく。その後ろを必死に追い掛けるバンチョウ。やはり地底ではドリルの方が早く移動できた。
【流石はドリルだぜ。地底の移動速度だったらあいつにゃ流石に勝てねぇな】
「だな、今はそれが頼りだぜ!」
地上ではバンチョウ達の方が早い。だが、地底となればドリルの方が遥かに早く移動できる。誰しも得手不得手がある。それが今発揮されているのだ。
「もうすぐ合流地点だ!」
【おう、待っててくれぇ! 俺の初恋人よぉぉぉ!】
思いっきり恥ずかしい台詞を吐きながら、ドリル番長が最後の岩盤をぶち抜いた。ようやく合流地点に到達できた。だが、其処には何故か天音静流の姿ももう一台のドリル戦車の姿も見られなかった。
「い、居ない? 一体何で?」
「木村さん! あっちの壁を見ろ!」
番が指差す方。其処は人工的に掘られた空洞が見えた。大きさからして天音の操縦していたドリル戦車よりも遥かに大きい。
もしやこの穴は何者かが人工的に掘った代物なのでは?
「まさか、天音さんは何者かに連れ去られたってのか?」
「だとしたらこの落盤事故はそいつらの仕業ってか? 俺達に喧嘩を売るたぁ良い度胸してるぜそいつ等はよぉ!」
番の中で怒りのボルテージが上がった。何所の誰かは知らないが人の家の下で勝手な事をされるのは我慢の出来ない事だ。
【番、こうなりゃそいつ等纏めてぶっ飛ばしてやろうぜ!】
「おう! ついでにその天音さんも一緒に助け出してやらぁ!」
結論は出た。ドリルとバンチョウは揃ってその巨大な穴へと飛び込んだ。見れば見る程見事に大きく掘られた穴だ。大きさ的にバンチョウとドリルが横に並んで走っても充分過ぎる程のスペースがある。つまり、それ程までの巨大なドリルを持った奴等がこの先に居ると言うのだろう。
一体どんな奴等なのだろうか? 疑問と不安を胸に巨大な空洞を抜け切った番達が目にしたのは、巨大な地底基地であった。
「こ、こりゃぁ……」
【間違いねぇ、こいつはゴクアク星人の密輸基地だ! 奴等、此処で宇宙麻薬を精製して売りさばいていたって訳か】
宇宙麻薬とは、星により製法が異なる事で多種多様な種類が作れる一種の薬物の事だ。
近年広大な宇宙にて数多くの暴力組織が豊かな星の地下にて精製し、他の惑星に売り捌くと言うのが主流となっている。
そして、この地球では最上級の宇宙麻薬が精製出来ると言うそうだ。
それを聞いて極悪組が見逃す筈がない。早速この地底にて宇宙麻薬精製工場を作り、密かに宇宙麻薬を作っていたのだ。
だが、それを偶然天音静流が発見してしまったので極悪組に埒されてしまったのだろう。
【けっ、極悪組の考えそうな事だぜ!】
「上等だぜ! こうなりゃこの地底工場をぶっ壊してやる!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! その前に静流さんを見つけないと!」
確かに、木村の言う事も一理ある。が、どの道手拱いていたは手遅れになってしまう。先手必勝であった。
【だったら二手に分かれた方が良いな。俺と番でこの工場をぶっ壊す。お前等はその間に静流って奴を見つけ出せ!】
【おう! 頼むぜバンチョウ! 派手に大暴れしてくれよぉ】
【暴れ回るのは俺の十八番だ! 任せておきな!】
そう言うと、直ちにバンチョウは基地へと降下した。人型形態へと変形し、目の前に映る建物と言う建物を破壊しまくり始めたのだ。
「うわぁ! バンチョウ星人がやってきたぞぉ!」
「な、何でこの地底工場にバンチョウ星人が来るんだぁ!」
突然の奇襲に慌てふためくゴクアク星人達。直ちに迎撃用のロボット部隊が出撃してきた。地底工場と言えども、かなりの戦力を保有しているようだ。
「遠慮は要らねぇ、ドンドン出て来い! 皆纏めて相手してやる!」
不退転の態勢を見せ、バンチョウが前進した。目の前に迫るロボット軍団に対し敢然と戦いを挑んだのだ。
その間に、ドリル番長と木村は地底工場を走る。この工場の何所かに天音静流が捕まっているのは明白だからだ。
「何所に居るんだ? 静流さん……そうだ! ドリル、音声探知機を使ってみろ!」
【は? 何だよそれ?】
「地底で生き埋めになった際に捜索する時に使う装置だ! それを使えばもしかしたら……」
【なる程、分かったぜ!】
木村の言う通りにし、早速音声探知機を作動させてみた。これを使い、遭難者の心音や機械の音などを察知し、何所に居るかを探れるのだ。
すると、ビンゴと言えるかの如く、反応があった。
反応があったのは地底工場の中央にある巨大な建造物内であった。
恐らく其処に彼女は居るのだろう。
「ドリル! 壁をぶち抜け!」
【任せとけぇ! 俺に砕けない壁なんてねぇんだよぉ!】
怒涛の勢いで建造物の壁をぶち破るドリル。中は空洞状となっており、その中央には寝かされる形で拘束されている天音静流が、そしてその横には破損した状態のドリル戦車が置かれていた。
「見つけた!」
歓喜の声を挙げつつ彼女の元へと近づく。だが、そんなドリルと木村の進路を阻むかの如く巨大なドリルを持ったロボットが立ち塞がってきた。
【で、でけぇ……】
【何だチビ? 此処は俺達極悪組の宇宙麻薬精製工場だぞぉ? 勝手に入り込んで来て死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁオラァ?】
胸のドリルを高速で回転させながら啖呵を切ってくる巨大なドリルロボット。どうやら此処は本当に宇宙麻薬の精製工場で間違いなかったようだ。
【木村、こいつの相手は俺がする! お前はその間に彼女を助けてやってくれ!】
「分かった、やられるなよ。ドリル!」
【へっ、天下のドリル番長様がこんなデカブツにやられるかってんだよ!】
木村を降ろした後、即座に人型形態へと変形するドリル番長。
人型に変形したとしても大きさは歴然としていた。
【ほほぅ、チビの割りには度胸があるようだな。この俺様ドリル星人に喧嘩を挑んだその無謀な度胸だけは褒めてやる! その度胸に免じて、この俺様自らの手でスクラップにしてやる!】
【るせぇデカブツ! あべこべにスクラップにしてやらぁ!】
直ちにドリル番長とドリル星人がぶつかりあった。吹き飛ばされたのはドリル番長であった。
大きさが指し示す通りそのパワーはドリル番長を遥かに上回っているのだ。
壁に叩きつけられるドリル番長に更に追い討ちを掛けるかの様に猛烈なタックルを叩き込む。
壁が破壊され、建造物の外へと放り出されたドリル番長。その姿を見たバンチョウが即座に近くへと駆け寄ってきた。
【大丈夫か? ドリル】
【あ、あぁ……あの野郎、すげぇパワーだ!】
口元を拭いながら立ち上がるドリル。ドリルとバンチョウの前に巨大な姿を見せるドリル星人。確かに大きい。
バンチョウやドリルよりも2~3倍近くは大きい。そんな巨体が両者の目の前にあったのだ。
【なんだぁ? チビがもう一体居たのか? 纏めてスクラップにしてやろうかぁ?】
【上等だぜ、てめぇこそ逆に鉄くずに変えてやるぜぇ!】
ドリルに変わり、今度はバンチョウが向った。開始早々にバンチョウの跳び蹴りがドリル星人の顔面にヒットする。
だが、食らったドリル星人は涼しい顔をしている。パワーだけでなく防御面でも堅いようだ。
【効かん効かん、痒いぞぉ!】
笑うように言う。そのまま巨大な手でバンチョウを叩き落とし地面に叩き付ける。
地響きが辺りに木霊した。
【づっ、頑丈な体じゃねぇか! じゃぁこれならどうだ!】
即座に立ち上がり、今度はドリル星人の額に向かい猛烈なぱちぎをかました。
バンチョウの必殺技【超ぱちぎ】だ。
流石にそれを諸に食らったせいかドリル星人も頭がクラクラしだしてよろめいている。
【どうでぃ! さしもの堅い頭でも、俺の頭の方が数段堅いんだよぉ!】
【な、舐めやがってぇ! こうなりゃ……出番だぞぉ、弟達よぉぉ!】
不吉な事を叫ぶドリル星人。すると地面から同じ姿をしたドリル星人が更に二体姿を現したではないか。
どうやらこいつらは三つ子だったようだ。
【呼んだかぁ、兄者!】
【かちこみだぁ! 纏めてスクラップにしろぃ!】
【おう、やってやるぜぇ!】
腕を鳴らしてやる気満々なドリル星人達。たった一体でも苦戦していると言うのに更に二体現れたのだから始末が悪かったりする。
だが、其処へ突如上空から飛び出す影が見えた。
【生きとるかぁ? ダチ公!】
【あたいに黙ってくたばるなんて許さないからねぇ、番!】
【レッド! それに茜か?】
巨大な空洞から現れたのはレッド番長と茜の操るスケバンチョウであった。
何とも頼もしい増援が来てくれた。これぞ俗に言う形勢逆転である。
【番、茜、さっさと合体しちまうんじゃ! 時間稼ぎならわし等がしちゃるけぇのぉ!】
【頼むぜ、レッド、ドリル!】
一時三体のドリル星人をレッド番長とドリル番長に預け、バンチョウは番トラを呼び、スケバンチョウもまた紅燕を呼ぶ。
【根性合体!】
【紅合体!】
上空へとジャンプしたバンチョウとスケバンチョウ。それぞれがそれぞれのマシンと一体化し、巨大な勇者番長へと姿を変える。
【げぇぇっ! ま、まさかあいつが俺達を何度もやっつけてるって噂のぉ?】
【おぉっと、そっから先は俺が言わせて貰うぜ! 久々の名乗り口上だしなぁ!】
指を鳴らし、即座にポージングしつつ慣れ親しんだ名乗り口上を始めだしたダイバンチョウ。
”喧嘩一筋十数年!
女にゃ弱いが喧嘩は最強!
天下無敵の喧嘩番長! ダイバンチョウたぁ、俺の事でぃ!”
久しぶりの名乗り口上であった。それでも結構決まったと内心笑みがこぼれたりしている。
【にやついてないでさっさと片付けるよ、番!】
【わぁってらぁ!】
そんな番を戒めるように茜が叱りつける。それを受けて頭を掻くダイバンチョウ。
【行くぜテメェ等! 俺達に喧嘩を売った事をこいつらに後悔させてやれぇ!】
【舐めるんじゃねぇ! 天下無敵の極悪組に喧嘩を売った事を死ぬほど後悔させてやらぁ!】
互いに啖呵を切りあい激しい激突が行われた。
しかし、結果は自ずと見えていた。堅牢で三体揃ったドリル星人と言えども熱血パワーマックス状態のダイバンチョウ達の敵ではなかった。
堅い装甲も燃え滾る拳で打ち砕き、鋭い蹴りで叩き壊し、唸るドリルと極道殺法が粉砕していく。
【時間は掛けねぇ! これで仕舞ぇだぁ!】
この掛け声と共に、皆がそれぞれトドメへと移った。まず最初にレッド番長が自分より遥かに巨大なドリル星人を持ち上げて上空へと放り投げる。それよりも上にドリル番長が飛翔し、肩に頂いた巨大なドリルを高速で回転させて降下する。
その下ではレッドが白いはしごを手に装着し、ジャンプする。
【食らえ! 必殺のドリルアタックだぁぁ!】
【極道殺法! 一撃粉砕拳!】
上下からのコンビネーション攻撃により一体のドリル星人が粉砕された。凄まじいコンビネーション攻撃であった。
【今度はあたいから行くよぉ! 超必殺、紅蓮鳳凰脚!】
続いて紅バンチョウの燃える蹴りがドリル星人のドテッパラを貫通し、粉砕していく。蹴り技に特化した紅バンチョウに蹴り砕けない物など無かったのであった。
【最後は俺だぁ! 一意専心、木刀ブレード!】
ダイバンチョウの背中から一本の木刀が姿を現す。それを両手に持ち気合をこめる。
【一撃入魂! 超必殺、男の修正脳天叩き割りぃぃ!】
これまた久しぶりの超必殺技の炸裂であった。この技が出たら最後、防ぐ手段など無いに等しく、最後のドリル星人もまた粉々にされ、極悪星人の宇宙麻薬精製工場はダイバンチョウ達の手により粉々にされ埋め立てられてしまったと言う。
***
戦いは終わり、今日もまた日が暮れる。無事に終えて皆がホッとしている中、更にまた問題が起こったのであった。
【ウオオォォォォォン! 俺の、俺の初恋の人があああああああ!】
こんな感じで号泣しながらもう一台のドリル戦車を抱き抱えながら泣き喚くドリル番長。
どうやら、ドリル番長が惚れたのは天音静流ではなく、彼女が操縦するドリル戦車だったようだ。
しかし、先の落盤や極悪星人の襲撃により、ズタボロの状態になって帰って来てしまったのだ。
「つまり……俺って、まだワンチャンスあるって事?」
「そうなんじゃね?」
ホッとして良いのか一緒に悲しめば良いのか、どうにも微妙な気分だったりした。
まぁ、これで木村も一安心だったりする。
「有り難う御座います。木村先輩」
「天音さん?」
木村に肩で担がれている天音がふと、木村を見て礼を言ってきた。
「私、ずっと木村さんに憧れてて、一日でも早く追いつきたく無茶しちゃってたみたいなんです。そのせいで、木村先輩やドリル先輩だけじゃなく、現場の人たちにまで迷惑掛けちゃって……」
そう言って落ち込んでしまう天音。結構真面目な性格なようだ。
そんな天音に木村は笑顔を向けてこういってくれた。
「慌てる必要なんかないさ。君は君で立派に仕事をしたじゃないか」
「先輩……」
「ま、まぁ……困った事があったら気兼ねなく言ってくれよ。相談に乗るからさ」
「有り難う御座います」
何ともぎこちない二人だったりした。だが、見てて微笑ましい光景だったりする。
そんな二人を見て嬉しそうに微笑む番と茜。
「ま、めでたしめでたしって奴か」
「そうみたいだねぇ……でも、あれどうするんだい?」
「あ!」
茜が指差す方向。其処には未だに泣きまくるドリル番長が居た。結局、その後再び例の店に行き飲みに付き合わされる羽目になるのだが、それについてはまた何時かって事で。
つづく
後書き
次回予告
番
「なにぃ!? 政府からの要請で俺等がスカウトォ?
俺達ただ喧嘩してるだけなんだけどなぁ。でもま、頼まれた以上引き受けるのは男として当然の事って奴だな!
よっし、一丁此処は一肌脱いでやろうじゃねぇか!」
次回、勇者番長ダイバンチョウ
【結成! 地球防衛軍 番長組】
次回も、宜しくぅ!
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