フロンティア
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一部【スサノオ】
四章【始まりの地】
《生態データ解析中…》
《ユーザーデータ取得…》
《認証完了…》
《ナノマシン起動中…》
《プレイヤー素体構築開始…》
「ん…おぉ…」
再び目の前に広がったのは一面緑の草原。
すんだ空にそよぐ風眩しい日差しが零司の目をくらませる。
「なんか、すげぇ…」
それは、零司にとって初めて目にする光景だった。
それもそのはずである。
零司の住む地球では、彼が生まれるよりもっと昔にそんな光景は無くなってしまったのだから。
あまりの新鮮な風景に自然と足が動き出す。
心地よい風。
心地よい日差しに、それまでゲーム以外で心おどることのなかった零司の中でいつのまにか感動が生まれていた。
「…あれ?」
ふと、我にかえるとあることに気がついた。
「俺、今普通に歩いた…?」
そう、現実の自分は寝ている…そのはずなのに、今この時、ゲームの中にいる自分は確かに歩いたのだ。
自然に…まるで自分の体のように自由に動かせる。
「マジかよ…すげぇ!」
また、別の感動が沸き上がる。
ゲームであってゲームではない。
普通に現実を生きているかのような錯覚すら覚えるほどの違和感のなさ。
「失礼いたします」
「うわっ!?」
突如目の前に現れたメイド姿の女性。
草原にメイドというこの違和感…零司は思わず固まってしまう。
「私、案内係を勤めさせて頂いております『アイシャ』でございます。今後ともよろしくお願い致します」
ペコリと頭を下げるアイシャにつられ零司も頭をさげる。
「早速ですが、ユーザー様のハンドルネームを設定していただきます。なお、ハンドルネームは変更不可ですので、くれぐれもおふざけにならないようお願い致します」
そう言うと、アイシャは小脇にかかえていたタブレットを零司に渡す。
「えっと…まぁ、いつものでいいか…」
特に悩むこともなくハンドルネームを打ち込む。
『零』
「ありがとうございます。零様で登録完了いたしました。では、詳しい説明および、等世界での細かな説明がごさいますので初期拠点『フロンティア1』へとご案内させていただきます。…『ナビ』エリアフロンティア1『転送』」
アイシャが腕に着けていた腕輪に向かい、転送の一言を呟くと、零とアイシャの体が転送を始める。
《細胞分解開始…》
《再構築予定地『フロンティア1』》
「お、おぉ…」
頭から徐々に消えて行く。
その不思議な体験にたじろぐ零。
「では、着きましたらフロンティア1『訓練施設』へとお越しください」
…その言葉を最後に、零の視界は暗転した。
※
《ユーザー素体再構築開始…》
再構築される零の体。
その場所で映った光景は、先程とはうってかわり近未来的な施設だった。
「ここがフロンティア1…」
行き来する大量の人々…。
皆フロンティアのユーザーなのかと考えると、そのゲーム規模に驚かされる。
「えっと、まずは訓練施設か…」
近くにあった案内板を確認し、訓練施設へとむかう。
最初の施設をでると、そこには人々で賑わう街並みが広がっていた。
防具屋や道具屋などそれらしいものも幾つか見受けられる。
「なんだよこれ…地球の施設より力はいってんじゃないのか?」
あまりに作り込まれた街並みに驚く。
このフロンティアにかかわってからどれだけ驚かされただろうか?
次に来る驚きは何かと、零の胸は高鳴っていた。
街を見ながら歩いていると、ほどなくして訓練施設は見つかった。
同期のユーザーだろうか、施設には何人も人が出入りしている。
零もそれに混ざり、訓練施設へと足をふみいれた。
「うぉ、広いな…」
入るとすぐに大広間があり、正面には巨大な鉄扉の門。その前には大勢のユーザーが集まり談笑していた。
そんななか、一人の男が零に気がつき歩み寄ってきた。
にっこり笑うと、男は零へと話しかける。
「よう、アンタも今日から始めたのかい?」
「はい、ほんとついさっき始めたばかりで…」
頭にはゴーグルをかけ、ベストを着こなすその姿はスチームパンクを意識しているのだろうか?
屈託のない笑顔を浮かべる男はさらに話を続ける。
「そっかそっか!と、自己紹介がまだだったな。俺はジャック。よろしくなっ!」
「あ、俺はれい…零です。ジャックさん、宜しくお願いします」
思わず本名をいいかけ、焦りながらも差し出された手をとり握手をする。
「なんだよ、さっきからかしこまって。もっとフレンドリーにいこうぜ?オンゲとかあんまやったことない感じなんかな?」
「いや、そういうわけじゃ…なんていうか、こういうボイスチャットみたいなのって慣れてなくて…」
「なるほどねぇ…まぁ、このゲーム妙にリアルだし仕方ないのかねぇ…」
やれやれ、と苦笑いしながら首をふるジャック。
「むしろ、ジャックさんはすごいですね。そんな風に初めて会う人とでも普通に話せるなんて…」
「まぁ、俺はリアルでもこんな感じだからな…と、それにしても遅いな…」
と、ジャックは眉を歪めあたりを見渡す。
「何がです?」
「GM(ゲームマスター)だよ。かれこれ一時間くらいかな?ずっと待ちぼうけさ。さすがにもうチュートリアルの定員人数は満たしてるはずなんだけどな?」
「そうなんですか?」
「あぁ。チュートリアル定員は100人から…だが、ざっと見でもここには200人超ってとこだ。いい加減始まってくれねぇと困るんだけどな」
腕を組み苛立ちを隠せないジャック。
調度その時だった。フロアにアナウンスが流れる。
《これよりチュートリアルを開始いたします。フロア上部演説台をご注目ください》
室内の照明が落ち、照らされる演説台。
遠目でよく見えないが、そこにはGM(ゲームマスター)と思われる人物が立っていた。
「やれやれ、やっとか」
「ですね…」
待ちくたびれてか、愚痴や野次でざわめくフロア。
《うるせぇッ!!!!》
いきなりの怒号。
それにより一瞬にして静まるフロア。
その怒号の正体は、演説台にたつGMだった。
《俺が、これからお前らがこの惑星で生き抜く方法や金を稼げる方法を教えてやるゲームマスターの『G』だ。一言一句しっかり聞け!》
GMのあまりに高圧的な態度に再びざわめきだすフロア。
《本当にうるせぇ奴らだな。聞く気がないなら出て行ってもらっても構わないぞ。ただし、武器も持たず出てったところで『奴ら』の餌になるのが関の山だろうがな》
すると、「ありえねぇ」「クソゲー」とつぶやきながら何人もの人間が出ていく。
結局、フロアに残ったのは50人弱。開始の人数の4分の1程度だった。
《はっ、それでも今回はこれだけ残ったか》
鼻で笑い、Gは話を続ける。
《今ここに残ってるやつらは金目当てか、もしくはよっぽどの物好きってやつだな。…そんなお前らにひとこと言わせてもらう。これをただのオンラインゲームだと思うな》
すると、Gの後ろの壁に映像が映し出される。
天体…だろうか?そこにピックアップされていたのは自分たちの住む地球と、おそらく…この惑星。
《このフロンティアは現実に存在する。この惑星に在るもの生きるもの全て現実だ。そんな中、お前らのするべきことは単純明快。『開拓』『討伐』『調査』この三つだ!》
移り変わる画面。
その画面には、この惑星の地図らしきもの。
だが、その大半はまだ黒く塗りつぶされている。
《新米のお前らが、まず拠点とするのはこのフロンティア1だ。ちなみにフロンティア4まであるがお前らの今の実力でそこを拠点にするのはお勧めしない…死ぬぞ》
「死ぬって…大げさな…」
《お前らの頭でも理解できるように順を追って説明しよう。まずは『開拓』。はっきり言うとこれがお前らの最重要項目でもあり、一攫千金のチャンスでもある。この中には知ってて登録した奴もいると思うが、このゲームは下手すればその辺の公務員よりも稼げる。例を上げれば新開拓地に辿り着き『専用ビーコン』を打ち込めばその瞬間…まぁ時価と地質状況次第だが、現実の金額で最低でも500から1000もらえると思っていい。ちなみに単位は万だからな》
あまりの金額に周りがざわめきだす。
だが、ジャック含め数名は動揺するそぶりも見せずじっとGの言葉に耳を傾ける。
そんな中、一人の女性が挙手しGへと質問を投げかけた。
「その専用ビーコンはどうやって打ち込むんですの?…と、いうよりそれはどこで調達を?」
《それは三項目の説明が終わったらまた別に説明してやる。今は大人しく聞け》
Gに一蹴され、不満そうに女性は押し黙る。
《次に原生生物…通称『ネイティブエネミー』の『討伐』。俺個人としてはこれに一番力を入れてもらいたいが、こっちの稼げる金額はピンきりだ。最少最弱で一匹100円から、今確認されてる最大級のもので何千万って額だ。ちなみにそいつらを討伐するのにも専用の武器と方法があるんだが、その説明も後だ》
言い終わると、Gはポケットからタバコを取りだし火をつける。
《あと残るのは『調査』についてだな。ぶっちゃけ、これに関してはたいして稼げない上につまらない。内容としては新しく開拓された土地の地質や生態系を調査することだ。まぁ、これに関しては専用の機関があるからお前らのやることはその機関の護衛及び補助ってとこだ》
タバコを一吸いすると、Gはさらに言葉を続ける。
《これで3項目の説明が終わったが、これについて何か質問は?…ただし、専用ビーコン等の取り扱いはこのあとの『模擬戦闘エリア』で説明するからそのつもりで》
「やれやれ、やっとか」
ため息を一つ、ジャックは気だるそうに欠伸をする。
周りも早く外の世界へと赴きたいのか質問をしようとするものはいない。
その様子を見てGはニヤリと笑うと、
《では、お待ちかねの戦闘及び開拓の説明を始める》
Gの一言で、正面の門が重い音をたてながらゆっくりと開いた。
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