Geet Keeper ~天国と地獄の境~
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黒い手紙
前書き
まぁ普通は開かないものを開いてしまうのがファンタジーの定番
自宅に着いて郵便受けを開けると、黒い封筒が5通入っていた。
それぞれに宛名が書いてある。
差出人は… 『門番審査会』
首を傾げつつ5人は自宅に入り、手紙を受け取ってそれぞれの部屋に戻った。
希美はカバンをベッドの上に投げ捨て、手紙を開けてみた。
変なセールスの勧誘とかなら破り捨ててやろうと思っていた。
だが手紙の内容を読んで何やらただ事ではないような気配を感じた。
『拝啓 水野希美様
この手紙は門番審査会によって門番候補生となった方にお送りしております。
つきましては、この手紙を開封したと同時に送られます守護神から詳しい事情をお聞きください。
また、最終審査会は異世界時間1500年19月35日12時より行います。
遅れないように異世界城にお越し下さい。』
どう考えてもとち狂ってるとしか思えない内容だった。
でも何故だか嘘だとも思えなかった。
しかしながらわけがわからない。
門番?審査会?守護神?異世界時間?最終審査会?
脳内にクエスチョンマークが渦巻いた。
「なにこれ…手の込んだいたずらにしては妙に本物っぽいし…大体”守護神”って何?そんなものどこにもいな…」
「あぁそれ私のことだわ多分」
水野家に絶叫が木霊した。
「何!?何何何何何何何!?」
「まぁそうなるよねぇ~。うーん…なんて説明すれば信じる?」
「ななななななんて説明されても無理」
「だよねぇ~…とりあえず、その手紙に書かれてる”守護神”ってのは私のこと。そんで、門番候補生ってのはあんたのこと。んで私はー…」
守護神の言葉を遮るようにして扉が勢いよく開いた。
「おい希美変な手紙開いたらわけわかんない奴が現れて…って誰だてめぇ!!!」
「私が見えるってことは…あんたも門番候補生なんだ?ふーん…守護神は?誰?」
呆気にとられたように涼介は立ち尽くしていた。
”私が見える”?
ということは、この目の前に浮いている黒ずくめのものは少なくとも”私”という一人称を持ち、こちらの言葉を理解する”何か”ということか?
じゃあ自分のところに現れたこいつも…?
「オレだよオレ。」
「うわぁっ!…またなんか出た…。」
「あれぇ~?ジョンあんたやっぱりこっちに送られてきたんだ~意外なんだけど~?」
どうやらこの黒ずくめのやつと涼介の背後にいる男とは知り合いらしい。
それにしたって理解できない。
「…………ちょっと待った…あの手紙は5通来てた。うちの兄妹と涼介に。っていうことは…」
希美と涼介は顔を見合わせ、大急ぎで残り3人の部屋に向かった。
「お姉ちゃん!?入るよ!?」
いない。
「優花!?いるの!?」
こちらも。
「登さん開けますよ!?」
案の定。
「3人共いない…なによこれどういうこと!?」
バタバタとリビングへと降りた。
「…ここにいたの…?びっくりした…みんな消えたかと思っ…」
希美の言葉はそこで途切れた。
リビングのソファに3人はいた。
南と登は清ましているが、優花は明らかに怯えているようだった。
だが希美が言葉を切ったのはそれだけが理由ではない。
”6人いる”
直感、第六感のような感覚でそう思った。
目視できるのは3人。でも他に”目視できない3人”がいる気がしてならないのだ。
「まぁ座りなさいな。」
南が厭に静かに言った。
「お前の言いたいことはわかってるって。でもまぁとりあえず二人共座れよ。」
登がそう続ける。
「…………。」
優花は押し黙ったままだ。
言葉をぐっとこらえ、二人は空いていたソファに腰を下ろした。
暫しの静寂があった。
その間も希美は確かに気配を感じていた。
いつもなら5人のこのリビングに、今この瞬間は10人いる。
わかっているのは自分の元に現れたあの黒ずくめと、涼介の後ろにいた金髪の青年(と呼んでいいのかはわからないが)だけだ。
しかし謎の手紙はここにいる5人全員に来ていた。
開けたのなら、この3人にも同じようにわけのわからない何かが付いているのだろうか。
疑問形にするのは正しくないか、と希美は思った。
自分の感覚は自慢じゃないが鋭いほうだと自負している。
優花が中学の体育の授業で跳び箱の踏切に失敗して怪我をしたときはほぼ同時刻に希美の愛用していた鏡が割れたし、南がバイト先に向かう途中で車に跳ねられる直前に激しい耳鳴りが10分以上続いた。
時々、”本当に”何か付いているんじゃないかと思うことが多々あった。
「…あんたの絶叫も聞いたし、優花が本棚の物ひっくり返した音も聞いたからわかってはいるつもりだけど」
切り出したのは南だった。
「やっぱり出たの?お姉ちゃん達のところにも…そのー…妙な連中。」
「妙なとは失礼な!!!!」
5人の視界を遮るようにしてあの黒ずくめがいきなり姿を見せた。
まさしく黒ずくめ。
よく童話なんかに出てくる悪い魔女のような全身真っ黒の服に身を包み、頭巾のようなフードのようなものを被り、足元は漫画に出てくる幽霊のようにないので、実質確認できるのは顔のみ…ということになる。
さっきは驚きのあまりよく見ている暇がなかったが、顔は至って普通の人間と同じだ。
鮮血のような赤い眼を除いて。
「私たちはねぇ、厳しい選考を掻い潜って選ばれた列記とした”守護神”なんだからね!」
私”たち”?
「守護神だかなんだか知らないけどさぁ。”たち”ってことはお姉ちゃん達にもあんたみたいなのが付いてるってこと?」
「そりゃぁ付いてるんじゃないの?姿見せてないから誰が誰に付いてるんだか私は知らないけど。とりあえず、私はあんたの守護神の死神。」
「死神!?」
全員が声を揃えた。
「…なによ…そんなに死神が珍しい?」
「いや、ちょ、待った。あたしまだ若いんだけど!病気もないし、この通り元気なんですけど!なんで死神なんかに付かれないといけないのよ!お断り!帰れ!」
死神はキョトン顔だ。
「仕様がないと思われるけれど?だって人間の世界では死神は”死の象徴”だもの。”死ぬ間際の人間が見る最後の神の姿”なのだからその反応は至極当然ね。」
横を見ると、南の背後に箒に腰をかけた女性がいた。
まるで…魔女のように。
「ごめんなさいね自己紹介はしたいのだけれど、まだその時ではないの。」
魔女は続ける。
「なぜならばこういうことになっているのはこの家の住人だけじゃないから。もっとあなたの近しい人たちにも同じ手紙が届いてるはずよ。もっとも、彼らもしくは彼女らがこれと同じ状況をすぐ理解して快諾するというのならばあなたの元には集うことはないでしょうけれど…」
魔女の言葉を遮るようにしてインターホンが鳴った。
「どうやら快諾することはなかったようね。」
戸惑いと訝しげな表情の希美に魔女はニコリと微笑んだ。
「え…どうしたの揃いも揃って…。」
玄関の扉を開けると、吉原姉妹に加えて本原高子とその恋人の中澤優人の姿があった。
4人とも不安の色が顔ににじみ出ていた。
「希美、突然押しかけてごめんなさい。変なことを聞くけどこんな手紙来てないかしら?」
そう言って有菜が差し出したのは、まさしく水野家に届いた手紙と同じものだった。
「嘘…じゃあみんなの所にも?」
4人が頷く。
「開けたら変な奴が現れた?」
もう一度頷く。
「もう何がなんだかわかんなくてさー…そしたらその妙なやつが”希美の家に行けば全てわかる”っていうから…」
思考回路が今の状況に対応しきっていないことが痛いほどわかった。
ガチガチと音を立てて脳内の歯車が互いに逆向きに回ろうとしている。
落ち着かなければ。でもどうやって?
家に入れよう。とりあえず。でも入れたところでどうする?何を話す?
みんなこの状況を理解していないし、魔女の言葉を借りるなら快諾もしていない。
あぁそうか。自分が話すことじゃない。あの妙な連中が話してくれるに違いない。
「と、とりあえずみんな入りなよ。そのー…いつもより狭いけど。」
「で?お宅が言ってた快諾しないだの云々の結果がこれだって言いたいわけ?」
4人をリビングに通して早々に希美は魔女に言い放った。
「えぇ。そうね。少々の誤解を解かせてもらえるならば快諾”しない”とは言っていないわ。快諾”するのならば”とは言ったけれど。」
屁理屈な魔女だと思いながら元の場所に座った。
「さて、と。じゃあ役者が揃ったところでこの有能な死神である血梨様が説明してあげようじゃないの!多分…っていうかみんなわかってないでしょ?この状況。」
無言の圧力。
全員の眼が”さっさと言え”と言っている。
「…コホン。ではではこちらをご覧くださ~い!」
血梨が指を鳴らすと目の前のテレビが巨大スクリーンに変わり、そこに『Geet Keeper』の文字が現れた。
そして文字が消えたかと思うと女性の顔に切り替わった。
『門番候補生のみなさん初めまして。私は異世界テルネスの女王マリアです。まず初めに、私から多大なる謝罪をしなければなりません。なぜならこの映像は、できるなら見ないほうがいいものであるからです。見なくて済むならば一番だからです。けれど、その平穏は500年の眠りから覚めてしまいました。再び、戦乱の時が来たのです。』
ビデオレターのようだが、何を言っているのかまったくわからない。
”平穏が500年の眠りから覚めた”とは一体?
『このディスクレターを見ているあなた方は、厳正なる審査を通過し、門番つまり”ゲートキーパー”になる資格を得たみなさんです。門番は”鍵”を集める存在。そしてその”鍵”を”地獄の騎士団”から守り抜き、再び全宇宙を平定する存在です。あなた方の元に送られた守護神はあなた方の盾となり、手となり、足となり、またあなた方自身の何よりの強みとなるでしょう。少々癖の強い者もいますが、それぞれに強大な力をもつ優秀な守護神です。』
とりあえず、あの死神が言っていたことは本当だったようだ。
『私が語れるのはここまでです。残りの数日間で力を身に付け最終審査でお会いできることを心より願います。』
映像はここで終わった。
後書き
お決まりの『わけがわからないまま連れて行かれちゃうパターン』ですね。
さて、希美たちは勝手に門番候補生にされてしまいましたが…
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