美しい毒
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第二章
第二章
「母がいつも言っていました」
「その花を見てですね」
「はい」
そうだとだ。本郷の言葉にこくりと頷いて答える。
「ですからこうして花をいつも」
「特に紅い薔薇をですか」
「紅の薔薇は幸せの花だと」
「言っておられたんですね」
「そうです。そうしていつも庭にもお家の中にも」
見れば三人が今いる部屋の中にもだ。紅の薔薇がある。それは花瓶だけでなく壁にも飾られだ。麗しい香りさえ放っていた。
その香りの中でだ。早苗は二人に話すのだった。
「あと食べ物にも」
「そうですね。薔薇は食用花でもありますから」
役が早苗の言葉にすぐに述べた。
「それで、ですね」
「はい。母は料理も好きでした」
それもあるというのだ。
「ですから」
「花が好きな人に悪い人はいないっていいますけれどね」
ここでこんなことも言う本郷だった。
「若し他殺なら恨みは」
「母は特に誰からも恨みは買っていませんでした」
早苗は二人にこのことも話した。
「娘の私が言うのも何ですが心が奇麗で」
「だからですね」
「はい、嫌われる様な人間ではありませんでした」
そうだったというのだ。
「ですから殺されたにしても」
「他殺とは限りませんよ」
役は早苗の暗い考えを止めた。
「本当に急死かも知れませんし」
「そうですね。真相をはっきりさせる為にですから」
二人を雇った。早苗もそのことを思い出した。
「そうですね。では屋敷の中を案内します」
「はい」
「では御願いします」
「屋敷の中には今家の主治医の方がおられます。御会いになって下さい」
こんな話をしてだった。二人は屋敷の中を細かい場所まで見て回り早苗の説明も受けた。その結果だ。わかったことは。
「とりあえず花が好きで誰からも恨まれる人じゃなかった」
「そうだな。それはな」
「はい、間違いないですね」
「いい人だった」
そうだとだ。二人は今は白浜の海の家に入ってそこでラーメンとカレーを食べながら話をしていた。店の外から青い波の高い海が見える。そして店の中にも外にもだ。水着の面々が見える。
とりわけ若い女達がだ。露出も色も派手な水着を着てはしゃぎ回っている。しかし二人は今はそうした娘達に目をやらず全く季節感のない服でだ。彼等はそれぞれラーメンにカレーを食べている。
その中でだ。役が言った。
「しかしだ」
「ええ。いい人でもですね」
「何もない人はいない」
どんな人間でも生きているだけで何かしらのしがらみが内外から来る。そういうことだった。
「だからな」
「はい、じゃあ若し他殺なら」
「誰がどういった理由でしたか」
「それに死因ですよね」
「カルテを見れば確かに急死だった」
役はラーメンをすすりながら話す。
「間違いなくな」
「ですね。宮里家の主治医の」
「榊さんだったな」
「結構奇麗な人でしたね」
ここでだ。本堂はその宮里家の主治医について話した。
「早苗さんとはまた違って」
「知的な、な」
「はい。如何にも女医って感じの」
「若くて奇麗な人だったな」
「あの人は大学病院からスカウトされて宮里家の主治医になったんですね」
「宮里家の主、つまり早苗さんのお父上ででだ」
「死んだ奥さんの旦那さんですね」
その彼にだ。誘われてだというのだ。
「そうですね」
「そうだ。ここで気になるのは」
「愛人ですかね」
本郷は人間関係でよくある大人の事情を話に出した。
「それですかね」
「普通に考えられるな」
役もだ。本郷のその考えに頷いた。
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