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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  一章【オンラインゲーム】

「零司…」

「う…ん……?」

「零司!起きなさい、何時だと思ってるの!」

部屋中に響きわたる怒鳴り声で、まだ寝ぼけ眼の青年は気だるそうに上半身を起こす。

枕元のデジタル時計は午後一時半を指していた。

「ん…あ、おはよう母さん…」

「おはようじゃないわよ!まったく…職にもつかないで毎日ダラダラと…」

(また始まったよ…)

毎朝恒例の母の嫌味。
まぁ、25歳にもなって職にもつかず、大学にも専門学校にもいってないのだから嫌味の一つも言いたくなるだろう。

「はいはいはい…ちゃんといってくるから、職案」

無論、いく気など毛頭ない。
そもそも、人にこきつかわれて朝から晩まで働き、そのまま一生を終えるなんてまっぴらな話だ。
第一、職場で人付き合いだってできやしないのに。

俺のことは、俺自身が一番わかってる。

「本当に行くの?と、言うかアナタ本当に働く気があるの?」

「心外な。毎日一生懸命探してるよ」

「お母さん、アナタがネットカフェで仕事を探してるとは思えないんだけど?」

(知ってたのかよっ)

そう、働く気なんてないのだから、職案なんかにいくはずもなく、日がな1日ネットカフェでのオンラインゲーム三昧。
世の理である。

「何で知ってるのかって顔ね。ご近所さんからアナタの行動ぜんぶ筒抜けなのよ」

「じゃぁ、はじめから言えよ」

「なに、その態度っ!もう働いて自立だってしていい年なのに、恥ずかしくないの?」

「ガミガミうるさいなっ。人には向き不向きがあるんだって。たまたま俺は仕事するのが不向きだっただけだよ!」

零司の一言にガックリと肩を落とす母。
頭をかかえ、零司にとって最悪な一言が母から発せられた。

「もう何いっても無駄ね。私が甘やかせ過ぎてたのがいけないのよね……今日からお小遣い一切なしよ」

「はぁっ!?」

最悪だ。
今はまってるオンラインゲームは自分の持っているパソコンなどでは到底スペックは足りず、ネットカフェでやる他ないのだから。

「ちょ、おまっ…今日だってフレと約束してんのにっ!」

「自業自得よ。というか、さっきから親に向かってなんなのその態度は」

「最悪だ…よりによってイベの最終日に……追い込みしないと他のギルドに負けちまうんだってっ!」

母はほとほとに呆れ、首を左右に降る。

「追い込みなんて一人前なこといってるんじゃないわよ。そういう言葉は仕事で使いなさい。むしろ、そのやる気を仕事でつかったらどう?」

「…っっっ!」

何をいっても無駄。
母からは完全に突き放すようなオーラが発せられていた。

「わかったよ、職案行けばいいんだろ、いけばッ!」

零司はおもむろに立ち上がり、鞄を持つとズカズカと部屋をでる。

「着替えくらいしたらどうなのっ」

「これはパジャマ兼私服なんだよ!」

勢いよく自室のドアを閉めると荒々しく階段をかけおり、家をあとにした。

「まったく…」

相変わらずの態度に、再び肩を落とす母。

「これで、ちゃんと働いてくれたらいいんだけど…」







受付を終え、どかっと検索機のまえに座ると、気だるそうに零司は画面をスクロールさせていく。
なんの変化もなく、たんたんと連なる退屈そうな職業の数々。
もちろん、その中に零司の興味をひく職業などありはしなかった。

「んっ…ふぁぁ…」

あまりの退屈さに思わず出てしまう欠伸。

「つまんね…」

遊びながらお金をもらえる職業があればいいのに、と頭で思うとその考えの馬鹿馬鹿しさに思わず笑えてくる。

「まぁ、物は試しに…」

ふざけ半分。
零司は検索欄に『ゲーム』と打ち込むと検索をかける。

「……ふっ」

候補を見ながら、こぼれるあきれ笑い。

プログラマーやデザイナーなど、ゲーム関係の職業があっても、彼が思うような『遊んで稼げる』職業等あるはずもなく。

「何やってんだ俺…んな仕事あるわけ……ん?」

ふと目に飛び込んできた信じられない文字。

【急募:ゲーム好き遊び好き】

「なんだこれ?」

興味本意に開くと、そこにはさらに信じられない内容がつづられていた。

職務内容:オンラインゲームプレイ
就業時間:フリー
学歴・職歴:不問
給与:功績によりけり上限なし
休日・祝日:参加自由のため定めなし
定員:定めなし

「マジか…どんだけだよ」

常識的にあり得ない募集条件。
明らかに詐欺…いや、まさか職業案内所に、という葛藤に思わず固まる零司。
あまりの怪しさに、さらに画面をスクロールすると、止めと言わんばかりに信じられないことがそこに記されていた。

募集企業:国家保安連盟

「おいおい…冗談だろ」

『国家保安連盟』それは、彼のすむ世界の最高権力。
到底、職業案内所などでは目にできるものではなく…。

詐欺でも何でもいい…むしろ詐欺ならそんな大それた機関の名前をだす大馬鹿野郎の顔を見てみたい、と…初めてゲーム以外で胸が高鳴る。

迷いなくそれを印刷すると、足早に受付へともっていった。

「あの、すいません…ここの面接受けてみたいんですけど…」

零司が出したそれを見て、「またか」と言わんばかりに眉を歪めると、零司に番号の書かれた紙を渡した。

「では、番号でお呼びいたしますのでそちらの席にお掛けになってお待ちください」

「あ、はい…」

言われるままに席に座ると、零司の頭に色々な疑問か浮かぶ。

(なんだ、あの受け付けの態度…それにしても、本当になんなんだあの募集?本当に遊びながら金がもらえるのか?……いやいや、そんなうまい話が…もしかして新作オンラインゲームのテストプレイヤーの募集とか?…いや、そんな美味しい話聞いたことない。…なら、やっぱり詐欺説が濃厚?…いやいやいや、まさか職案に?国家保安連盟の名前をつかって?…ありぇねぇ……なんなんだこれ)

そうこう考えている内に、アナウンスで零司の番号が読み上げられた。

《番号27番でお待ちのお客様、二階『職業適正診断室』までお越しください》

「え…適正診断室?」

予想外の場所に戸惑いながらも、指定された場所へと向かう。

「適正診断室…と、ここか」

ドアを開けるとそこには一台のパソコンと、その脇にたつ職員。

「27番のお客様ですね?募集主さまからの要望により簡単な適性検査をさせていただきます」

「あ、はい」

「では、こちらへお掛けになり画面の質問に対し『はい』か『いいえ』の欄にチェックを入れていってください」

「わかりました…」

言われるままに席に座り、画面に目を通す。

項目1:あなたは、オンラインゲーム『フロンティア』を御存じですか?

「フロンティア?…しらないな…新しいゲームなのか?」

項目2:脳又は神経器官に医師にかかった事はありますか?

「ないな。健康は唯一自慢できる取り柄だ」

連なる項目に淡々と答えていく零司。

「ん…?」

そんな中、最後の項目に手が止まる。

項目31:貴方はこの仕事に命をかけれますか?

「命って…んな大袈裟な」

苦笑いと共に『はい』を選択する。
すると、一瞬暗転し画面に文字が現れた。

『ありがとうございます。結果は後日書類にて自宅へ送らせていただきます』

その現れた文字に、不思議と零司は言い表せない不安のような、恐怖のような…そんな感覚を覚えた。






 
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