とあるの世界で何をするのか
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第二十三話 白井さんへのプレゼント選び
銀行強盗事件があったシステムスキャンの日から一週間が過ぎた。
あの日、先生に言われたこともあってこの一週間は姫羅での登校を増やしてみたのだが、一つ大きな問題に気が付いた。姫羅の状態で登校した時、体育の授業で着替えるのはどうしたら良いのかということだ。姿が女子だからといって女子と一緒に着替えるわけにはいかないし、かといって姿が女子のまま男子と一緒に着替えるわけにもいかない。そこで先生に聞いてみたところ、生徒指導室で着替えることになったのである。今まで女性として生活してきた世界もそこそこあったが、男女の切り替えが出来るというのは初めてなので、そういう部分に関して色々と苦労した一週間だった。
銀行強盗から一週間と言えば、初春さんと佐天さんが常盤台の女子寮へお邪魔する日なので、当然俺は今日も姫羅で学校へ登校している。初春さんこそジャッジメントの仕事で抜けることが多いものの、姫羅で登校している時はほぼ一緒に下校しているので今日も一緒に帰ることになるだろう。
そう言えばあれから御坂さんと会う時はいつも姫羅なので、未だに騎龍の姿を御坂さんには見せていないのだが……まぁ、機会はいくらでもあるだろう。
「今日はどうするの?」
俺はホームルームの後、掃除を終わらせて帰る準備が整ったところで佐天さん達に声をかける。
「そうだねぇ、初春はどっか行きたい所ある?」
「えーっと、そうですねー……あ、服を見に行きたいです」
佐天さんに振られて初春さんが答える。
「あー、そう言えばウチも夏物の服はそんなに持ってないから見に行きたいかなー」
よく考えたら夏物の服はそんなに持ってなかったはずなので、この際初春さんに便乗して買い物してしまおう。確か御坂さんと会ってから、白井さんへのプレゼントであるTシャツを一緒に探していたはずだから、服を見に行くのは間違いないはずである。
「じゃー、服を見に行こうか」
「はーい」
「あーっ、ちょっと待ってくださいよー」
佐天さんと俺はすぐに教室を出ようとしたのだが、初春さんだけは帰り支度がまだ出来てなかったのか、俺達より少し遅れて教室を出て廊下を走っていた。
「いやー、暑いねー」
「本当ですねー」
「うんうん、暑いねぇ」
学校から出てしばらく歩いたところでそんな会話になる。学校内も暑かったことに違いは無いのだが、直射日光を浴びるというのは大きく違ってくるものである。
「ってか、神代さんは全然暑そうじゃないじゃないっ!」
俺の様子を見て佐天さんが叫ぶ。まぁ、俺は今クールマスターの能力で自分の服の中だけ温度を下げているので、少なくとも佐天さんや初春さんほど暑いと感じているわけではないはずである。しかし、頭や手足には能力を使っていないので暑いと言えば暑いのだ。
「えー、そんなこと無いよ。まぁ確かに、男子の制服に比べたらセーラー服とスカートって結構涼しいんだけど、やっぱり暑いのは暑いからねー」
「あ、やっぱり男子の制服のほうが暑いんだー」
「うん。っていうか、セーラー服もスカートも風が入りやすいからその分だけ涼しく感じるってだけかも。学校で授業受けてる時とかは全然変わらない気がするし」
「あー、そうなんだー」
そんな会話をしながら歩いていた時、いきなり大きな鉄板が落ちたかのような凄い音が響き渡った。
「ひゃっ!」
「っ!」
佐天さんは可愛い悲鳴を上げたが、初春さんは声すら出せないほど驚いたようだ。声こそ出さなかったものの、俺も相当驚いた。御坂さんが上条さんに電撃を喰らわせようとすることは知っていても、あれだけの音量になるとタイミングが分からなければやっぱり心臓に悪い。
「何? 今の」
「さ……さあ。何でしょう」
「何だろうね。ちょっと音のしたほうへ行ってみる?」
多分御坂さんの電撃で間違いないはずだとは思うが、顔を見合わせている佐天さんと初春さんに知らない素振りで声をかける。
「うん、そうだねー」
「そうですね。行ってみましょう」
こうして三人で音のしたほうへ行ってみると、ちょうど御坂さんが路地から出てきたところだった。
「あっ、御坂さーんっ!」
佐天さんが御坂さんに声をかけると走り出す。俺と初春さんもすぐに後を追って走って行った。
「佐天さん。それに初春さんと神代さんも」
御坂さんが俺達に気付いて声を掛けてくる。
「何かあったんですか? 物凄い音がしましたけど」
「あ……あはは……」
佐天さんがさっきの音について尋ねると笑ってごまかす御坂さん。
「いやー、あっ、そうだ。ねーねー、佐天さん達はこれからどこか行くの?」
「あ、はい。ちょっと夏物の服でも見に行こうかと」
「初春さんが見に行きたいって言ったのと、ウチは女物の夏服をそんなに持ってないから良いのがあったら買おうかと」
少し無理矢理な感じはしたものの、御坂さんが話題をそらしたので佐天さんも深くは追求しないことにしたようだ。そして、俺もその話題に乗っかっておく。
「それなら私も一緒に良いかな?」
さっきの凄い音についてごまかせたと思ったのか、ほっとしたような表情で御坂さんが聞いてくる。
「ええ、もちろん!」
元気よく答えたのは初春さんだ。まぁ、初春さんにとっては常盤台の生徒と一緒に行動するというだけで価値があることなのだろう。それが学園都市の第三位ともなればなおさらのはずだ。
「じゃー、行きましょうか」
俺がそう声をかけて、セブンスミストへ向かって四人で歩き出す。
「御坂さんは何か買いたいものとかあるんですか?」
「うーん、あると言えばあるっていうか……」
歩きながら初春さんが尋ねると、御坂さんから歯切れの悪い答えが返ってくる。
「何かあるんですか?」
「いやー、黒子に何かプレゼントを考えてるんだけど、どんなのが良いか分からなくてねー。あっ、黒子とは同室で普段から色々と世話になってるし、そのお礼って言うか感謝の気持ちって言うか……まあその……」
佐天さんが尋ねると御坂さんは答えてくれたが、途中から照れてしまっていた。
「それじゃー皆で白井さんへのプレゼントを考えましょう!」
「おー!」
なぜか元気一杯の初春さんに、ノリノリで答える佐天さん。多分この二人はノリノリで白井さんへのプレゼントを選ぶことだろう。
「あ……ありがとう」
御坂さんも二人のノリにはついて行けなかったのか、若干引いている感じだった。
「いざとなったら神代さんも居ますから大丈夫です!」
「はぁっ!? ウチ?」
御坂さんの様子をどういう風に捉えたのか、初春さんが俺まで引っ張り出してきたので、俺は驚いて声が裏返ってしまった。
「神代さん、御坂さんの力になるのが不満なんですか?」
どうやら初春さんは御坂さんに頼られることが嬉しいらしく、かなりテンションが上がっている状態で俺に詰め寄ってくる。
「いや、そうじゃなくて、ウチはあんまりセンス良くないと思うけど……いいの?」
「あ……」
俺が答えると、そこで俺が本来男子であるということを思い出したのか、初春さんは言葉を詰まらせた。
「ま……まあ、男性目線で見てもらうと、また違った選び方が出来るかもしれないし……ね?」
「そ……そうですよ! 違った目線が欲しかったんです! ですから神代さんは神代さんらしく選んでくれればいいんです」
佐天さんの絶妙なフォローで初春さんのテンションも復活する。俺もこの佐天さんのフォローに助けられたと言っていいのかもしれない。
「まぁ、そういうことなら」
「はぁー。そういう話を聞いてるとコイツは男なんだって思い出すんだけど、私の前では男になったことないし全然実感湧かないのよねー」
俺が答えた後、御坂さんの呟きが聞こえた。確かに姫羅としか会ってない御坂さんは、俺に男のイメージを持ちにくいというか持てないのだろう。現に騎龍を見てる時間のほうが長いはずの初春さんですら、俺が男であることを忘れていたぐらいなのだ。
「そう言えば最近の神代さんって、女性になってることが多いですよね」
「うん。まぁね」
御坂さんの言葉で気付いたのか、初春さんが確認してくる。システムスキャンの日以降、騎龍で登校したのは一度しかないのである。
「あーっ、そうだっ! 最近暑いからだよ初春。さっきセーラー服のほうが涼しいって言ってたじゃない」
「あっ、そうですねー」
「いや、それは姫羅で来るようになってから気付いたことだから」
なぜか間違った結論に到達した佐天さんと納得の様子でうなずいている初春さんに、ツッコミと言っていいのかどうか分からないツッコミを入れる。
「えっ、何? 涼しいから女性になってるだけって事?」
「だから違うって!」
御坂さんまで佐天さんの結論を信用しそうになっていたので慌てて否定する。
「いや……違わないか……」
「どっちよっ!」
否定した後で経緯を考え直してみると、実はあながち間違ってないという結論に達したのだが、それに対して今度は御坂さんのほうからツッコミが入る。
「まぁ、説明するとね……」
どっちにしても説明しないことには分からないだろうと思ったので、俺は説明を始めた。元々学校側からあまり女性にならないように言われていたと思っていたのだが、実は式典関係以外は女性になっても問題なかったということをシステムスキャンの日に知ったという事。それ以降女性になる日を増やしてみたのだが、昨日男性のほうで学校に行ったら男子制服のほうが女子制服より暑かったので、今日からまた女子で登校している。と、そんな感じで話しておいた。
「やっぱり私、間違ってないじゃないですかっ!」
「いや、きっかけのほうは違うから」
「でも、今は涼しいからって理由で女性になってるんでしょ?」
詰め寄ってくる佐天さんに答えると、次は御坂さんからも言われる。
「今って言うか今日はね。でも、初春さんに聞かれた『最近女性になってることが多い』の理由としては違うって言ってるの」
「そんな些細なことでグチグチ言うなんて男らしくないわよ?」
御坂さんに答えると言い返されてしまったが……やっぱりこれはツッコミ待ちということでいいのだろうか? というわけで、俺からの一言。
「いや、今は女だってば!」
「御坂さん、白井さんってどんなのが好みか知ってます?」
「うーん、あんまり良くは知らないのよねぇ」
「初春は知ってる?」
「私も白井さんの好みとかは聞いたことがないですねー」
セブンスミストに到着すると佐天さんが御坂さんに白井さんの好みを確認するが、御坂さんは知らないらしく初春さんに聞いてみても分からないようだ。
「まず、その前にどんなものをプレゼントするの? 予算は?」
白井さんの好みも大事だが、その前に確認しておかなければならない事がある。
「そうねぇ。ちょっとした感謝の気持ちだし値段的にはそれほど高くないもので、ちゃんと普段使えるものがいいかなーって思ってるんだけど……」
「なるほどねー。だったら、普段使いを考えると髪留めのリボンとかスポーツタオルやハンカチ辺りが無難かなーって思うけど、リボンのほうは白井さんに何かしらのこだわりとかがあったら使ってもらえないかもしれないしねぇ。そういうのって知ってる?」
御坂さんの考えている内容から、ある程度無難と思われる選択肢を挙げてみる。
「さすがにリボンのこだわりまでは知らないわね。初春さんは知ってる?」
「いえ、聞いたことないですねー」
御坂さんが初春さんにも聞いてみるが初春さんも知らないらしい。
「それならやっぱりスポーツタオルかハンカチ辺りでいくか、服関係で余り高くないTシャツ辺りとかになるんじゃない?」
最終的にアニメと違うプレゼントを選んだとしても、展開自体がそれほど変わることはないと思うのだが、ここで一応『Tシャツ』と言う単語も出しておく。
「まーそうね。でもタオルってあんまりプレゼントって感じがしないし、それならハンカチかTシャツよね」
「さすが神代さん。アドバイスが的確です」
何となく御坂さんも方向性が決まってきたようだ。そして初春さんからなぜか褒められたのだが、的確とか以前にまだプレゼント選びに入ってないわけで……。
「ここからならハンカチ売り場のほうが近いみたいですよ。行きましょう、御坂さん」
「うん」
佐天さんが売り場を確認して御坂さんを案内するために歩き出す。初春さんが佐天さんと並ぶように歩き、その後ろを御坂さんがついていく感じで、俺は更に後ろを歩いている。
「ここですねー」
ハンカチ売り場に到着してみると売り場面積は意外に広かった。俺も何度か来てハンカチ売り場があることは知っていたが、ハンカチ自体を見に来たことがなかったのである。
「こんなにあると逆に迷うわね」
御坂さんが色々眺めながらつぶやく。当然、売り場面積の広さもあって品揃えは豊富だ。
「御坂さん、こんなのはどうですか?」
「ねーねー、こっちなんてどう?」
ここぞとばかりに初春さんと佐天さんがハンカチを薦めているが、初春さんが持ってきたのは花柄のハンカチで、佐天さんが持ってきたのはどこぞのマジシャンが横縞から縦縞に変えるマジックをしていたようなハンカチである。
「うーん、二人とも良いんだけどねー。何かこう、もうちょっとインパクトが欲しいかなーって思ったり。神代さんはどう思う?」
「インパクトねぇ。それならちょっと高めだけど総レースのやつとかもあるみたいだけどねー。ってか、実用性がなさ過ぎて普段使いできないけどね」
御坂さんにいきなり聞かれて考えては見たものの、佐天さんと同じようにネタ的な物しか見つけられなかった。まぁ、佐天さんがあのハンカチをネタとして選んだかどうかは知らないけど……。
「それなら、こんなのはどうですか?」
「こういうのもあるよー」
また初春さんと佐天さんが別のハンカチを持ってきた。初春さんはカナミンのキャラクタープリントで、佐天さんは大きくトラの顔が描かれたハンカチで、今回は二人ともネタに走ったようだ。
「黒子はカナミン好きだったかなぁ。それから、佐天さん……大阪のオバチャンかっ!!」
初春さんのはまだ良かったのか普通の対応だったが、佐天さんには俺も言おうかと思っていたツッコミが御坂さんから入れられる。
「えー? でも、インパクトって言ったら……ねぇ」
「確かにインパクトはあるかもしれないけど、それはネタに走りすぎ」
なぜか佐天さんから同意を求めるような視線を貰ったので、やっぱり俺からもツッコミを入れておく。
「まー、そうなんだけどねー」
「でもさぁ、初春さんがさっき持ってきたのはアニメキャラだったから好き嫌いあるんだろうけど、アニメやマンガじゃないキャラクタープリントならそんなに好き嫌いないんじゃないかな?」
佐天さんもネタに走った自覚はあったようだ。しかし、このままでは変にネタの混じったプレゼントになりかねないので、少々軌道修正するためのアドバイスを入れてみる。
「確かにその辺が当たり障りなくて良いのかもね」
御坂さんが納得してくれたようなので、柄に関しては軌道修正できたようだ。
「まぁ、それなら、Tシャツのほうも見に行ってみる?」
「そうね。そうしましょうか」
「そうですねー」
「じゃー、Tシャツの売り場はこっちです」
俺がもう一段階軌道修正のための提案をしてみると、御坂さんたちもそれに乗ってくれた。超電磁砲アニメではどんなキャラクタープリントのTシャツだったのか、すでに全然覚えていないのだが、まぁ、ここまでしておけば多分アニメ通りのプレゼントが選ばれることだろう。
「さすがにTシャツは多いわね」
「ハンカチよりもたくさんありますねー」
「ここ以外にもTシャツを扱ってるフロアがありますしね」
さすがにTシャツの売り場はハンカチと比べ物にならないほど広く、御坂さんと初春さんが感嘆の声を上げる中、佐天さんはセブンスミストを熟知しているようで更に追加情報を披露していた。
「さて、白井さんにはどんなのが似合うかなー」
「いやー、腕が鳴るねぇ」
初春さんと佐天さんがTシャツ選びに取り掛かる。
「そうねぇ、黒子に似合いそうな……かぁ」
初春さんと佐天さんがTシャツを物色している後ろから、御坂さんはため息をつきながらついていき、俺もその後ろから左右のTシャツを眺めながら歩く。
「デザイナーズブランドとかも良さそうですねー」
初春さんが奥にデザイナーズブランドのコーナーを見つけて振り返る。
「そうねー、そういうのも悪くないわね」
「だったら、こんなのはどうですか?」
御坂さんが頷くと佐天さんがいち早くTシャツを手にとって持ってきた。
「さ……さすがに、それはどうかと……」
俺は御坂さんの後ろに居るのだが、なぜか御坂さんの顔が引きつっているのが分かってしまう。佐天さんの持ってきた物が、大きな髑髏の描かれた黒のTシャツだったからである。
「インパクトはあると思うけどなぁ」
「インパクトの方向性が違うってば」
呟く佐天さんに御坂さんがツッコミを入れる。どうも佐天さんは間違った方向性に走る傾向があるようだ……というか、もう一つ持っているTシャツも明らかにインパクトの方向性が違っていると思う。
「だったら、こんなのもありますよ? ほら、百貨店の伊勢湾の紙袋みたいなチェック柄です!」
「どこのお笑い芸人だっ!」
佐天さんが持っていたもう一つのTシャツを披露したとたん、セブンスミストのTシャツ売り場に御坂さんのツッコミの声が響き渡っていた。
後書き
お読みいただいている皆様、ありがとうございます。
今回はちょっと早めに書きあがりました。
2017/02/16 姫羅の制服バージョンの絵を追加します
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