問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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短編 一輝と安倍晴明 ⑥
「とまあ、これが俺がもといた世界で体験し、驚いた怪異現象の一つだよ。」
一輝は音央と鳴央に安倍晴明との一件を話していた。
時系列的には、一巻と二巻の間くらい、場所的にはノーネームの一輝の部屋である。
「一輝のいた世界ではそんなことが起こったの?」
「ああ。つってもこれだけのことが出来る存在はかなり少ないから、貴重な体験なんだけど。」
「貴重、ですむものではないと思うのですが・・・歴史は変わらなかったのですか?」
「それは大丈夫だった。あそこで分岐点が出来て、別の未来が出来ただけみたい。」
そう、あの後一輝はもとの歴史で色々調べたが、その範囲では何一つ変わっているところはなく、少し拍子抜けしたのだ。
「ところで、聞いてて思ったんだけど、いい?」
「ああ、どうぞ。」
「その寒戸って妖怪を使えばノーネームが崩壊するよりも前の過去に行ってそれを防げるんじゃないの?」
音央の疑問はもっともである。
十六夜がいればたいていの魔王はどうにかなりそうだ、と思って当然のことを彼はしているのだから。
が、そう事は上手く運ばない。
「それが、寒戸はもう倉庫の中にいないし、俺の監視下にいないんだよね。」
「どうしてですか?」
「俺が箱庭に来る一週間前に嫁入りした。」
「「嫁入り!?」」
二人が揃って驚く。まあ、普通の人からしたら当然の反応だろう。
「うん、嫁入り。生まれてくる子供がどんな能力を持つのか、ちょっと楽しみだったんだよな~。」
「いや、そんなことより。結婚相手も妖怪なの?」
「いんや、人間。確か歳は・・・二十七だったかな?まあ俺がいた時代では妖怪と人間の結婚も許されてるし、最近では珍しくもなかったよ?」
「・・・想像できないです・・・」
一輝はその二人の反応に満足したようで、立ち上がる。
「さて、話して欲しいって言ったから話したけど、どうだった?」
「二回驚いたわよ・・・それも、予想外のところで。」
「そうですね・・・全く違う種族での結婚とかも、本当に想像がつきませんし。」
「この箱庭の世界でなら意外とあるんじゃないかな?何背こんなにいろんな種族が集まってるんだし・・・ん?なにこれ?」
一輝は話している途中で手紙を発見し、それを手に取る。
「これは、サウザンドアイズの旗印だけど・・・話を始める前からあったっけ?」
「いえ、私達が部屋にきたときにはなかったはずですが・・・」
「サウザンドアイズって事は白夜叉でしょ?あの人なら気づかれずに手紙をおいていくぐらいできるでしょ。」
「「それもそうだな。」そうですね。」
一輝を呼び出した手紙も気づかないうちに置かれていたものだ。箱庭ではよくあることなのかもしれない。
「さて内容は・・・『おぬしに客人が来ておる。時間があれば店に来い。 白夜叉』俺に客人?」
「参加したゲームで出来た知り合いとかではないですか?」
「それなら、わざわざ白夜叉を介する必要はないだろ。少なくとも、白夜叉が動くだけの相手のはずだから。」
「そんな相手に心当たりはあるの?」
「・・・ないな。こっちでの大物の知り合いとか、そんなにいないし。」
一輝はそう言いながら窓を開け、倉庫の中からペットボトルを取り出す。
「行くの?」
「ああ。重要な用件とかだったら困るしな。今日は比較的暇だし、ちょうどいいだろ。」
「では、念のために私たちもついていきます。」
「そうね。一輝に恨みを持ってる、とかだとその場でゲームを挑んでくるかもしれないし。」
「用心深いなあ。じゃ、行きますか。」
三人はそのまま水に乗り、サウザンドアイズに向かっていった。
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「やあ、久しぶりやな一輝君。」
「何でお前がここにいるんだよ、晴明・・・!」
サウザンドアイズに着いて白夜叉の部屋に案内してもらうと、そこには先ほどの話にも出てきた伝説の陰陽師、安倍晴明がいた。
「お、来たか一輝。」
「ああ、手紙で呼び出されたから来たけど・・・まさか、客人ってコイツか?」
「うむ。コミュニティ、陰陽師の集いのリーダー、安倍晴明だ。」
「そんなコミュニティやってんのか・・・陰陽師しかいないのか?」
「いや、そんなわけないやろ。最初のころはそうやったけど、今となってはいろんなギフト保有者がおるで?」
「そうか・・・どうやって俺のことを?白夜叉に聞いたのか?」
一輝はここまでの話しの中で敵意を感じなかったことと、白夜叉がいることから警戒を解いてその場に腰を下ろす。メイド二人は状況を理解できていないようでポカンとしている。
「いや、捕らわれの少女のゲームの噂を聞いたんや。形無いものを操る少年がそのゲームをクリアし、少女を解放したってな。」
「それだけで俺だって決め付けたのか?」
「いや、さすがにそのときは偶然やと思った。けど、その後にペルセウスのゲームのことを聞いて確定したんや。」
「あの時、お札を使ったな・・・」
「そ、星霊の威光をたった一枚で防ぎきれるだけの実力者なんて、そうそうおらんからな。で、白夜叉に聞いてみたらどんぴしゃだった、と言うわけや。」
「はぁ・・・まあ、見つかったもんは仕方ないか。で?何のよう?式神にしたいとかだったら、今度こそ殺すけど?」
一輝はガチな殺気を放ちながらそうたずねる。
あの時は戦闘を回避する方法があったためその道を取ったが、今はそんな選択肢はない。
ならば、戦うしかないのだ。
「いやいや、そんな話やないで。もしそうなら、白夜叉が呼んでくれるわけないやろ。」
「それもそうだな・・・じゃあ何で?まさか、懐かしいから話をしたい、なんて理由じゃないだろ?」
「うむ、そうではないな。これは、晴明から私への依頼なのだ。」
一輝の問いには、白夜叉が答えた。
「依頼?」
「うむ、依頼だ。中途半端で終わってしまった勝負の決着を付けたい、というな。」
「なるほど・・・つまり、俺と晴明でギフトゲームをしようと?」
「そうや。君かて、あんな中途半端で満足してるわけやないやろ?」
「まあ、そりゃな・・・」
一輝があの時、あの手を取ったのには理由がある。
それは、確実に依頼を完遂するためだ。
そのために、楽しそうな戦闘を放棄して逃げの一手を取った。
「なら、勝負はしてくれるんやな?」
「ああ、つっても、こっちが負けたからって言って何か差し出せるものがあるわけじゃないけど。」
「それについては気にせんでええよ。こっちから無理に誘ったゲームやし、そっちのコミュニティについてはしっとるからな。こっちはリスクがあるけど、そっちはノーリスクでええ。」
「それは断らせてくれ。さすがにこっちだけノーリスクってのは、」
「なら、そっちが負けたら、そのバタフライナイフをもらおか?」
「・・・・・・。」
「別に嫌なら他のものに変えるで?ただ、鬼の命をそんなナイフで奪ったって事に興味があるだけやし。」
「いや、これでいいよ。そんだけの理由があるなら、これでいい。」
一輝はそう言いながら立ち上がり、晴明もそれにあわせて立ち上がる。
「じゃあ、二人はそこで見ててくれ。思いっきり暴れてくるから。」
「いまだに状況は理解できてないんだけど・・・」
「とりあえず、頑張ってください。」
「おう、頑張る。」
「ではよいかの!」
三人の会話が終わると、白夜叉が二人の間に立つ。
「今回のゲームは晴明からの依頼により、できる限り単純なもの、決闘方式とする!」
白夜叉が柏手を打つと、二人の手元に契約書類が現れる。
『ギフトゲーム名“陰陽師の決闘”
・ルール説明
・相手を気絶させる、または行動不能にしとものの勝利。殺しはご法度とする。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗と主催者権限の名の下、ギフトゲームを開催します。
白夜叉 印』
「では、ゲーム開始だ!」
白夜叉の言葉と共に、二人は白夜叉のゲーム盤の一つ、水平に太陽が回る世界に跳ばされた。
「おお、寒いなあ・・・一輝君もそう思わん」
「ウォーターランス!」
一輝は晴明の言葉を遮り水の槍を飛ばす。
「ちょ、急に始めるなや!」
晴明は慌てながらも狐火を出して水を蒸発させるが、
「エアカット、水分多め!」
その水蒸気でカマイタチを作り、晴明に撃つ。
「その技は何でもありか!ありえんやろ!」
「悪いが、この戦い方が一番何も考えなくていいからな!」
晴明はその水蒸気を刀で切り、足元の雪をぶつけることで温度を下げまくり、氷にする。
「あら、そう来るか。」
「今度はこっちの番や!」
一輝に出来た隙に晴明が刀を持って突っ込んでくるが、
「いや、お前の番はやらん!」
一輝が日本刀で防ぎ、晴明の刀を絡め取る。
剣の腕は一輝のほうが上のようだ。
「え、ここまで差があるん?」
「ああ、ある!アンタみたいな神として奉られるようになった、その程度の神なら、どうにでもなるんだよ!」
一輝はそのまま刀の峰で攻撃を続け、ある場所に誘導する。
「その割には全然あたっとらんで!」
「いいんだよ、これで!」
一輝はそのまま攻撃を続け、晴明は一輝の思い通りに動いてしまう。
「さて、ここで一つ質問なんだが、」
「なんや?」
「オマエって、一応神なんだからさ・・・氷付け程度じゃ死なないよな?」
「は?そりゃそうやけど、なに言って、おわ!?」
晴明の悲鳴と同時に、バシャン!という音が鳴る。
そう、一輝は晴明を湖に誘導していたのだ。
「ちょ、冷た!水温低すぎやろ!」
「こんなところにありゃ、低くて当然だろ。さて・・・もっと低くなるから、覚悟しとけよ?」
「え、ちょ、それは出来れば止めてもらえると・・・」
「断る。」
一輝は水の表面に手を置き、湖全体の温度を一気にマイナスまで持っていく。
結果どうなるかといえば、簡単なことだ。晴明ごと、湖全体が凍るだけである。
そうして、一輝は超力技で相手を行動不能にし、勝利を収めたのだった。
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「うう、寒かった・・・風邪でもひいたらどうすんねん・・・」
「まあ、湖に落ちたおんしが悪いのう。一輝に簡単に誘導されるからだ。」
ゲームをクリアしたことで二人は白夜叉の私室に戻り、晴明はコタツに入っている。氷付けになったのが効いているようだ。
「まあ、あんな方法とはいえ負けたのは事実やしな。約束どおり渡すとしよか。」
晴明はギフトカードを取り出し、そこから大量のお金を出した。
「これが賞品や。もってき。」
「いや、さすがにこの金額は・・・」
「受け取りづらいものが・・・」
「ありがたくもらうぞ。」
「「そんなあっさり!?」」
一輝が何のためらいもなくギフトカードにしまうのを見て、メイド二人は突っ込みを入れる。
「賞品なんだから、遠慮することはないだろ。」
「一輝君の言う通りや。それに、うちのコミュニティはその辺は問題ないから、遠慮せんでええよ。」
「じゃあ、これで俺は帰るぞ。まあ、何か依頼があったら言ってくれ。内容によってはやってやるから。」
「お、それは助かるな。また何かあったらSOSを出すで。」
その会話を交わすと、一輝たち三人はノーネームへと帰って行った。
その金額を見てジンが驚いたのは、また別のお話である。
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