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転生とらぶる

作者:青竹
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魔法先生ネギま!
  番外編024話 その頃のホワイトスター4

(ひーん、なんで私がこんな目に!? やっぱり夏休みに魔法世界に遊びに行っておくべきだった!? でもそうすればあのテロに巻き込まれてあっちの世界に閉じ込められてたし……まさに前門の虎、後門の狼って奴!?)

 シスター服を着ている少女、3-Aの一員である春日美空は厄介事に巻き込まれた自分の不運を呪いつつも、この緊迫した場面に出て来た3人へと視線を向ける。
 まず1人目は後頭部が伸びている老人、この麻帆良学園の学園長にして関東魔法協会の理事も務める近衛近右衛門。極東でも有数の魔法使いとして知られており、間違い無くこの麻帆良最強の人物だろう。
 そして2人目は外見10歳くらいにしか見えない金髪の少女だ。一見西洋人形のように見えるこの少女こそが魔法世界でもナマハゲの如く恐れられている闇の福音で、元600万ドルの賞金首である。現在は結界や封印によりその力を著しく弱めているが、それでもその辺の魔法使い10人、20人程度なら文字通りに片手で捻る事が出来る実力を持っている。
 最後の3人目。スーツ姿をしたどこか血色の悪い不健康そうな中年の男だ。その手にはまだ抜かれてはいないが仕込み刀が握られている。その正体は美空のクラスメイトでもある近衛木乃香の父親であり、関西呪術協会の長でもあり、同時に魔法世界の英雄紅き翼の一員でもある近衛詠春だ。
 そんな3人がやってきた事でその場にいた魔法使い達としては戦力的にも責任者的にも、そして交渉する人物的にも助かったという思いが胸に広がる。

「ほう」

 そして新たにやってきた人物のうちの1人、エヴァがレモンやマリュー、そして量産型ゲシュペンストMk-Ⅱやメギロートを見てどこか納得したような含み笑いを浮かべて事態の成り行きを見守っていた。
 その横ではこの場の最高責任者として近右衛門が1歩前へと進み出て口を開く。
 尚、その近右衛門の長い後頭部を見たシャドウミラーの面々は本気でこの人物が人間かどうかを疑問に思ったのだが、幸いにもレモンやマリューはそれを表情に出さず、エキドナは多少表情を変えた程度で済んでいた。また、量産型Wはそもそも感情がない上に機械で顔を覆われている為に特に何の感情を抱く事も無かった。
 一番その姿に衝撃を受けていたのは量産型ゲシュペンストMk-Ⅱに乗っていたムウとイザークだろう。ムウはコックピットで自分の声が周囲へと聞こえないのをいい事に腹を押さえて大笑いをし、イザークはただただ唖然と近右衛門の後頭部を眺めていた。
 そんな状況の中、近右衛門の口が開かれる。

「ようこそ麻帆良へ……と言いたい所じゃが、出来ればもちっと人目に付かないように訪問して欲しかった所じゃの。そんなロボットなんぞを持ち込まれて生徒達は大騒ぎじゃぞい」

 この場のシャドウミラー側の代表者であるレモンもまた1歩前へと進み出て首を傾げる。

「生徒? 申し訳ないけど、私達はここの事情には余り詳しくないのよ。よければその辺を詳しく教えてくれないかしら」
「っ?! 麻帆良に侵入しておいてここの事情を知らない? それで通ると思ってるのか?」

 レモンの言葉を聞いたガンドルフィーニが殆ど反射的に銃へと手に掛け……次の瞬間には再度5機の量産型ゲシュペンストMk-Ⅱにメガ・ビームライフルの銃口を向けられてその動きを止める。

「ガンドルフィーニ君、悪いがこの場は儂に任せてちょっと大人しくしておいてくれんかの。……君達もじゃ。別に麻帆良と戦争をしたい訳じゃないんじゃろう?」
「しかし、学園長!」
「……ふんっ、貴様はここで一般の生徒も巻き込んで戦争を起こしたいのか? そもそも貴様がしゃしゃり出てこれるレベルの問題じゃない。力不足なんだから大人しくジジィの言う事を聞いておけ」
「エヴァンジェリン!」

 きっぱりと力不足と言い切られたガンドルフィーニが厳しい目でエヴァンジェリンを睨みつけるが、本人は何処吹く風といった雰囲気で珍しそうにメギロートや量産型ゲシュペンストMk-Ⅱを眺めている。
 そんなエヴァンジェリンの横では近右衛門がレモンに対してその長い髭を触りながら再び口を開く。

「フォフォフォ。騒がせてしまってすまんの。何しろ急な事でこちらも出迎えの準備が出来ていなくてな」
「まぁ、私達も急に来てしまったのはしょうがないけどね。色々と都合があるのよ」
「都合? もし良ければその都合というのを聞かせて貰っても構わんかね?」
「ええ。実はちょっと人を探していてね。どうやらその人がここにいるらしいんだけど……ご存じないかしら?」

 チラリと流し目を向けられた瀬流彦は、レモンのその妖艶さに侵入者と知りながらも思わず顔を真っ赤に染めて顔を逸らす。
 そしてそんなどこか緊張感に満ちた話し合いの中で近右衛門でも無ければガンドルフィーニでもなく、エヴァンジェリンが口を開く。

「アクセルなら今ここにはいないぞ」

 そう、あっさりとレモン達の探し人の名を口にしたのだ。

「……お嬢ちゃん、何で私達の探し人がアクセルだって分かったのかしら?」
「おじょ……いや、まぁ、貴様等はこの世界の事を知らないのだから無理もないが」

 レモンの口から出たお嬢ちゃんという言葉に何か言いたげに口籠もるエヴァだったが、気を取り直して改めて口を開く。

「もちろんアクセルだけじゃない。お前の名前はレモン・ブロウニング。そっちの女はマリュー・ラミアスだな。そう言えばお前達幹部連中の中にはもう1人アクセルの恋人であるコーネリア・リ・ブリタニアがいる筈だが、姿が見えないな。あのゲシュペンストとかいう機体に乗っているのか? 機体の数から考えると、キラ・ヤマトやムウ・ラ・フラガ辺りも連れてきてると思うんだが」

 エヴァンジェリンがそこまで言って口を閉じると周囲はシンと静まり返り、その代わりにシャドウミラー、麻帆良の魔法使い達の区別無くその視線がエヴァンジェリンへと集中する。

「……何故私達の名前を知っているのか聞いてもいい?」
「そうじゃな、儂もそれは是非知りたい」

 奇しくもレモンと近右衛門の方針が一致するが、エヴァンジェリンは軽く肩を竦めて口を開く。

「他の奴等はともかく、ジジィ、貴様はアクセルの事情に関して知ってた筈だな? つまりはそういう事だ」
「……なるほど。彼等がアクセル君の言っていた……」

 納得のいった様子で頷く近右衛門だったが、アクセルの事情を知っているのはここでは近右衛門とエヴァンジェリンだけだ。他に教師という意味では高畑も知っているのだが、高畑は現在魔法世界に行っていてこの場にはいない。

「アクセル? それは娘の同級生でもあるフリーの魔法生徒であるアクセル・アルマーの事でしょうか?」

 明石が近右衛門に尋ね、そして近右衛門は髭を撫でながら頷く。

「うむ。こうなった以上はもう隠してはおけんじゃろうから話させて貰うが……」
「ちょっと待ってちょうだい」

 近右衛門がそう話した時、レモンがそれに待ったを掛ける。そして明石を見つめながら口を開く。

「一応聞いておくけど、貴方の娘さんは何歳かしら?」
「は? いや、誕生日がもう過ぎたから15歳になったけど」

 明石がそう告げた時、量産型ゲシュペンストMk-Ⅱのコックピット内でその話を聞いていたムウは近右衛門を見た時よりも激しく笑い始める。

「ア、アクセルが中学生!? なんであいつ中学生なんかやってるんだ? は、腹が……くっくくく。ぶわははははは! だ、駄目だ、笑いすぎて腹が、わ、笑い死ぬ!」
「アクセルが……中学生? 奴め、俺に散々心配を……もとい、俺との模擬戦の約束を放ったらかして自分はのうのうと学生生活を謳歌していたというのか!」

 ムウとは逆に、顔を真っ赤にして怒りを押し殺すイザークだった。
 量産型ゲシュペンストMk-Ⅱの中でそんな風になっているとは思わずに、レモンの隣にいたマリューは首を傾げながら近右衛門へと尋ねる。

「何だって中学生に?」

 その質問に答えたのは近右衛門ではなく明石だった。

「いや、確かに僕も年齢的にちょっと厳しいとは思ったんだけど」

 その言葉に頷くレモンとマリュー。コーネリアもまた、量産型ゲシュペンストMk-Ⅱのコックピットの中で頷いている。

「でも、飛び級のテストケースという事で学園長が無理矢理に……」
「ちょっと待って。……飛び級? アクセルが?」
「え? あぁ、うん。それが何か不思議なのかな? あの子は十分頭がいいし飛び級するくらいの頭脳は持っているだろう?」

 そこまでの話を聞き、ようやくレモンとマリューは目の前にいる男との話がどこかずれているのに気が付く。
 自分達の知っているアクセル・アルマーという男はあくまでも20代前半の男でしかない。どう考えても中学校に入学させるというのは無理があるのだ。どうしてもその中学校に通わないとしたら、それは用務員や教師といった側に回るだろう。そして飛び級というのは文字通りに学年を飛び越すというものだ。つまり、この場合は最低でも14歳以下の存在に使われるべき制度と表現なのである。そしてあの子、という呼び方もレモン達の知っている20代のアクセルには相応しくない。

「……ねぇ、レモン。もしかして私達の知ってるアクセルとこの人達の知ってるアクセルは別人なのかしら?」

 故に、思わずマリューがレモンへとそう尋ねたのもそうおかしな話では無かった。
 だがその問いにレモンは小さく首を振る。

「そもそもマーカーの反応がある以上は、この人達の知っているアクセルは私達の知っているアクセルで間違い無いわ。……もしかしてブルーコスモスのテロでリュケイオスにトラブルでも起きた? いえ、でもそれじゃあ私達が普通にここにいる事の説明が付かないわね」

 自分の世界に入ったかのように、考えに熱中するレモン。
 その隣ではまた始まった、といった顔でマリューが苦笑を浮かべている。

「あー、すまないがこの人はどうしたんだい?」
「お気になさらず。彼女は時々自分の興味のあることに熱中してしまう癖があるので」

 マリューが明石へとそう告げた時、空間上に通信画面が表示される。そこに映っているのはコーネリアだった。
 
『話に割り込んで済まない。私は先程そこの少女が言っていたコーネリア・リ・ブリタニアという。単刀直入に聞こう。貴公等の知っているアクセル・アルマーというのは外見年齢何歳くらいに見えたのだ?』

 そう問われて戸惑う魔法使い達。それも当然だろう。何しろ魔法使い達にしてみればアクセル・アルマーという存在はすなわち10歳程度の少年でしかないのだから。
 その為に明石は当然の如く答える。

「10歳程度だけど?」
『……』

 その返答に、ホワイトスターの者達は一斉に動きを止める。それは自分の世界へと旅立っていたレモンも例外ではなく、量産型Wでさえ一瞬動きを止めたように見えたのはエキドナの気のせいだろうか。

「……今、何と?」
「だから10歳。逆に聞くけど、君達の探しているアクセルという人は何歳くらいなんですか?」

 明石の問いに、頭を覆ったままマリューが答える。

「20代前半といった所です」
「……」

 お互いがお互いの言っている内容を理解出来ない……というよりは、したくないという風に沈黙するホワイトスター勢と魔法使い達。
 そんな中、ただ1人だけが我慢出来ないといった感じに笑い始める。

「クククッ、ハハハハ、ハーハッハッハ、駄目だ。久しぶりにここまで笑わせて貰ったぞ」

 その笑い声を上げている少女、エヴァが余りの可笑しさに自然と目に浮かんできた涙を擦りながら息を整える。

「はぁ、はぁ。……くっ、駄目だ。油断するとまた笑いの発作が……」
「お嬢ちゃん、何かを知っているのなら教えてくれるかしら?」

 アクセルが10歳と聞いてようやくこちらの世界に戻ってきたレモンが笑いを堪えているエヴァへと尋ねるが、それに答えられるようになったのはさらに数分が経ってからの事だった。

「あー、すまん。ちょっと笑いすぎたな。で、お前の質問の答えだが……何が起きたのかと言えば単純な話だ。リュケイオスとか言ったか? その転移の影響か、あるいはこの世界特有の影響なのかは知らないが……いや、お前達を見る限りではこの世界特有の影響という訳では無いのか。とにかくその影響で、アクセルがこの世界に転移してきた時には先程のそいつの言葉にあったように10歳程度の子供の姿に縮んでいたんだよ。で、そのジジィがこれ幸いとばかりに女子中学校に放り込んで……」
「待ちなさい」

 その単語を口に出したその瞬間、闇の福音ともあろう吸血鬼がレモンの発する雰囲気に思わず言葉を止めさせられる。

「今、どこに放り込んでと言ったのかしら?」
「だから麻帆良女子中だ」

 レモンの、まさに凍り付くような眼差しが近右衛門を貫く。その隣ではマリューが口元に笑みを浮かべてはいるが、目は一切笑っていないままで近右衛門へと視線を向けていた。
 そして通信ウインドウ越しではコーネリアが獰猛な、それこそまるで獲物の命を刈り取る寸前の肉食獣のような笑みを浮かべて近右衛門へと視線を向けている。

「ひょっ!? じゃ、じゃがこちらにも理由があったのじゃよ。じゃから余りそういう目で見ないで欲しいん……」

 その言葉の途中だった。どこか困ったように弁明をしようとしていた近右衛門の目が鋭く光り、麻帆良の上空へと視線を向ける。
 その動きに釣られたようにその場にいた殆どの者達が麻帆良上空へと視線を向け……そこにあった光景に思わず声を失う。何しろ浮遊している城のようなものが真っ逆さまになって浮かんでいるのだから。

「……こっちの世界は私達の世界と違って随分とファンタジーなのね」

 思わず呟いたレモンの言葉に、その場にいた魔法使い達は全速力で首を振る。

「あれは……墓守人の宮殿!?」

 そんな中、唯一近衛詠春だけがその建築物の正体に気が付いていた。何故なら20年前に自分達紅き翼が完全なる世界との決着を付けた場所なのだ。忘れられる筈もない。

「ねぇ、お嬢ちゃん。色々と聞きたい事はあるけど1つだけ教えて頂戴。あの逆さまに空を飛んでいる城にアクセルは関わっているの?」
「……さて、どうだろうな。だがあれ程までにトラブルに好かれる奴だ……ほう、やはりな」

 常人では細かい所まで判別が付けられない距離だが、真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリンにとっては大した距離ではない。それ故にそこで戦っている人物が誰かはすぐに判明する。

「喜べ、お前等の探し人のご帰還だ。……随分と派手な帰還だがな」
「なるほど、あそこにアクセルがいる訳ね。マリュー、メギロートに指示を。アクセルの様子を探らせるわ」
「ええ、分かったわ。……それと、ゲートの設置が完了したらしいわ。いつでもあっちからグロウセイヴァーを転移可能になってるわよ。……あの様子を見れば、恐らく必要でしょう? アクセルの機体が」
「ええ、そうね。他にも私のヴァイスセイヴァーと……コーネリアも量産型ゲシュペンストMk-Ⅱじゃなくてラピエサージュを用意した方がいいわね。……それにしても、本当にトラブルに好かれる体質だこと」

 そう言いつつも、その口元に小さく笑みを浮かべながら上空に浮かんでいる城へとレモンは目を向ける。
 そしてそれはマリューやコーネリアも同様だった。何しろ、ようやく自分の愛しい人と再会出来るのだから。 
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