久遠の神話
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第五十六話 中華街その八
「そうなります」
「その辺り軍よりも大変ですね」
「いえ、軍は命を賭けますね」
「まあそれは」
「それに比べればまだ国務省はましかと」
「命があるだけですか」
「命さえあれば何度でも立ち上がれますから」
こうスペンサーに言うのだった。
「それを考えますと」
「ですか」
「まあまだ公開討論も行われていませんし」
アメリカ大統領選挙の直前に必ず行われるそれがだというのだ。
「ですから何とも言えませんが」
「それでもですか」
「共和党不利ということは間違いありません」
このことを言う彼だった。
「それが今の状況です」
「わかりました、では」
スペンサーは彼の話に頷いた、そしてだった。
己の部屋に戻ると同じ空軍の部下、空軍の軍服を来た下士官の階級の者から書類を受け取った、それは表の仕事に関するものだった。
その書類の束を見てこう言うのだった。
「今日は多いですね」
「いつもに比べてですね」
「はい、多いと思います」
席の前に立つ下士官に言う。
「どうも」
「いつもと変わらないと思いますが」
「そうでしょうか」
「確かに今回の仕事は日本辛みが多いですが」
「安保ですね」
「はい、その関係が」
多いというのだ。
「ですが全体の仕事は然程」
「普段と変わらないですが」
「私の見たところでは」
下士官は自分がスペンサーに手渡した書類の束を自分で見ながら答える。
「そう思います」
「わかりました、それでは」
「サインをお願いします」
「全て今日中にですね」
「はい、今日の五時までです」
下士官は壁にかけられている時計の時間を見てから答えた。
「それまでにお願いします」
「では今から」
「三時間ですが」
残された時間のことも話される。
「宜しくお願いします」
「三時間でこの書類を全てサインをして」
「後は私が領事のところに持って行きます」
「いえ、それは私が」
スペンサーはこう下士官に返した。
「自分で持って行きますので」
「宜しいですか?」
「自分でサインしたものですから」
だからだというのだ。
「私が」
「そうですか」
「貴方は貴方の仕事に専念して下さい」
「そう仰るのでしたら」
「そういうことで。しかし」
「しかし?」
「共和党は危ういですか」
ここでこのことがまた話の中心になった。
「そうですか」
「ここだけの話ですが」
下士官は難しい顔になって述べた。
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