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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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星屑の覚醒
  16 始まりの言葉

 
前書き
今回で第一章完結です!!
ようやくロックマンが登場という長いプロローグでしたw
ぜひ最後までお付き合いください! 

 
部屋を飛び出した彩斗は廊下を走る。
実際、この養護施設は高級ホテルさながらの構造だ。
いくつもの部屋があり、孤児たちはそれぞれの部屋を持っている。
皆、この施設で授業を受け、遊び、知らぬ間にディーラーの人間として教育されていく。
だが生まれた時からこの環境で育っている彩斗には何ら不思議なことはなかった。
下の階からはメリーの言っていた通り、いろいろとパニックを起こしているような声が聞こえる。
だが彩斗はそれを聞かないように自分に言い聞かせ、一気にエレベーターに飛び乗った。

「ハァ...ハァ...」

疲れているわけでもないのに心臓がバクバクと激しい鼓動を鳴らす。
不思議なスリルと満足感を感じていた。
それはいけないことと分かっているのにディーラーに反旗を翻したも同然の行動を取ろうしていること、そして自分の意志で行動していることから来て いる。
「いけないこと程燃える」とか前に本で主人公が言っていたことがようやく理解できたような気がした。
迷うことなく屋上のボタンを押し、なんの抵抗もなくいつものようにスムーズにドアは閉まる。
もう後戻り出来ないことは分かっていた。
今、自分が押したのは運命のボタンだった。
その重みを思い知りながらも彩斗は全く表情を変えなかった。
エレベーターは猛スピードで屋上を目指して突き進む。
そして僅か数十秒で8階から屋上まで到着した。
ドアがゆっくりと開く。

「.....」

彩斗はゆっくりと足を進めた。
屋上に来るのは初めてだった。
辺りには大量のパラボラアンテナとソーラーパネル、天窓が存在している。
まるで宇宙センターさながらの光景だった。
月は半月と言ったところで雲があるものの中々に趣深い。
だが彩斗は途中で足を止めた。

「....出てきたらどう?」
「!?.....気づいてやがったのか」
「....辺りに気を配るだけ、やましいことをしてる自覚はあるみたいね」

彩斗の両サイドからアンテナの影に隠れていた監視者が姿を現す。
ジャックとクインティアだ。
2人は彩斗が抜け出す可能性にいち早く気づいていた。
そのために他の部隊が街でValkyrieからディーラーの施設を守るために駆り出されていても残っていた。

「この緊急時に面倒な手間を増やさないで欲しいの。早く部屋に戻りなさい」
「そうだ。イテェ目にあいたくなかったらなぁ....」

2人は視線と言葉で彩斗にプレッシャーを掛ける。
しかし全く彩斗には聞く気など無かった。

「そのまま返す...クインティア、面倒な手間を増やさないで欲しい、さっさと下の階に降りろ。ジャック、痛い目にあわせたくないからさっさと部屋に戻れ」

「なんだと?」
「...言ってもダメなら体で....仕方ないわ」

クインティアとジャックはまさかの反撃に驚くも、ジャックは彩斗に殴りかかった。
しかし彩斗はそれを分かっていたかのように交わし、2人と距離を取った。

「!?....仕方ねぇ。徹底的に傷めつけてやる」

ジャックとクインティアは左腕のトランサーを構えた。
拳を握り、頭上に伸ばすとコマンドを叫んだ。

『電波変換!!クインティア!!オン・エア!!!』
『電波変換!!ジャック!!オン・エア!!!』

2人は次の瞬間、2人はそれぞれ朱色の光と黒とオレンジの光の渦に包まれ、一瞬して姿を変えた。
クインティアはFM星人『ヴァルゴ』と電波変換し、乙女座の電波人間『クイーン・ヴァルゴ』。
そしてジャックはFM星人『コーヴァス』と電波変換し、カラス座の電波人間『ジャック・コーヴァス』へと姿を変えた。
どちらもFM星では凶悪犯とも呼べるウィザードとの融合で並の電波人間を圧倒するスペックを誇る。
そんな2人を相手にすれば電波障壁とマテリアライズの力を持つ彩斗でも負けるのは明らかだ。

「これが最後の警告。部屋に戻りなさい」
「もっとオレたちと遊ぶか?悪いが電波変換には期待するなよ?あんなのただの偶然だ」

ジャック・コーヴァスは彩斗の先日の電波変換の可能性をひと蹴りした。
しかし彩斗は焦ることはなかった。
それどころか今の2人の脅しすら耳に入っていない様子だった。

「行くぞ、トラッシュ」
「あ?」
「.....」

彩斗はポケットから例のカードを取り出した。
先程、トランサーから排出された『トランスカード』。
それを迷うことなく再びトランサーのカードスロットに挿入する。

Trans Code 000...

静かな電子音がトランサーから響く。
そしてトランサーの画面上ではいくつものコンソールが見たこともないコマンドを自動実行しテクノポップ風な通知音が鳴り始めた。
彩斗は左腕を顔の高さまで上げる。
そして自分の決意を叫んだ。

『僕にはこの世界を照らすほどの光は必要無い....星屑ほどの小さな光で十分だ!!!トランスコード!!スターダスト・ロックマン!!!』

彩斗は左腕を左側に突き出し、白と青の光の渦に包まれた。
その眩さにそれを見ていた2人は目を逸らす。
それはデンサンタワーの展望室からも見ることが出来た。
そして竜巻が止む頃、そこに立っていたのは彩斗では無かった。

「...お前は....」

紺色のボディースーツに灰色のアーマー、ガントレット、ブーツ、鷹を模した灰色のヘルメットに青のバイザーという外見。
身長172cm。
そして背中にはウイング上のカッター、肩には太極図を模した紋章、肘には突起のある防具、胸にはシューティングスター・エンブレム、腹部にはシングルショットに大量の武器を装備したユーティリティ・ベルト。
まさにロックマンだ。
だがシューティングスター・ロックマンではない。
『星屑のロックマン』、『スターダスト・ロックマン』がここに誕生した。
そしてスターダストは口を開き、始まりの言葉を宣言した。

『....さぁ、始めよう』

「このやろう...」
「......アカツキ」
「え?」

ジャック・コーヴァスは生意気にも電波変換をしたスターダスト=彩斗へと怒りを募らせるが、反面クイーン・ヴァルゴは全く違う感想を抱いていた。
スターダストが似ていたのだ。
自分を裏切った人物『暁シドウ』の電波変換する『アシッド・エース』、そのウイングやマスクなど明らかに酷似している部分が見受けられる。
それによってジャック・コーヴァスを超える怒りを抱き、一気に白銀の棍棒を構えてスターダストに襲いかかった。

「ヤァァァァ!!!!」
「!?」

スターダストはとっさに右腕のガントレットのボタンを押す。
正直、どうしたらいいかは全く理解できていない。
だが直感的にそうした。
いくつかボタンが並んでいるうちの一番右端のボタンだ。
それとともに無骨な金属音がガントレットから響いた。
そしてスターダストはクイーン・ヴァルゴから振り下ろされる棍棒を肘で防ぐと右腕をクイーン・ヴァルゴの腹部に押し当てた。

「なっ!?」
「ハァァァ!!!!」

変形した右手の人差し指に感じる引き金を引いた。
凄まじい爆音が響き、閃光が弾けた。

「キャァァァ!!!」
「姉ちゃん!?」

クイーン・ヴァルゴの腹部に激しい痛みが走り、体が宙に浮いた状態で地面と並行に吹っ飛んだ。
その光景は見ていたジャック・コーヴァスの目からは何が起こったのか理解しがたいものがあった。
だが反面、反撃した当の本人であるスターダストもまた驚きを隠せずにいた。

「すごい...これが...星屑の力」

自分の右腕を見た。
右腕は全長1メートル程のバズーカ砲へと変形していた。
バトルチップ『センシャホウ』と酷似しているが、スターダストのボディーカラーに近く、小型のエネルギージェネレーターが搭載され、威力が桁外れな殺傷兵器だ。
自分は星屑ほどの小さな力しか求めていないはずだった。
だがその思いを遥かに超える力を持ってしまったことに背筋が震える。
しかしそれは恐怖ではなく興奮にも近いものがあった。
右腕は一瞬にして元の5本の指のあるグローブへと変形する。

「このヤロォォォ!!!」
「ハッ!!!ヤァァ!!!」

次の瞬間、ジャック・コーヴァスは殴り掛かってくる。
しかしスターダストは弾き、ステップを踏み込むと顔面に肘を打ち込んだ。

「!?ウゥゥ!?」
「ヤァァァ!!!」

「クッソ!!!?」
「タァァァァ!!!!」

肘打ちという多くの格闘技での禁じ手で顔面を叩かれ、ジャック・コーヴァスは怯む。
それに追い打ちを掛けるようにスターダストは動き続けた。
腕を掴み、更に肘を振り下ろして腕を砕く。
そして腹部に頭突きを食らわせた。

「このおぉ!!!」
「ハァァ!!!」

ジャック・コーヴァスは自分の攻撃が全く通用しないことに恐れを覚え始めた。
殴りかかれば交されるか肘でブロックされ、拳に逆にダメージを受ける。
そしてスターダストと同じく肘を使えば、腕ごと弾かれ、のけぞったところにハイキック。
ただでさえ1メートルの範囲内での格闘戦だというのに、こちらからの攻撃を弾き、一気にブレイクダンスのステップにも近いもので迫ってくるのだ。
だとすればジャック・コーヴァスは1つの手段を思いつく。
言うまでもなく距離を置くのだ。

「クッソ!!!」
「白兵戦....」

自身の鋭い爪を構えてジリジリとスターダストにプレッシャーを掛ける。
肉弾戦ではなく武器を使った戦闘に切り替えたのだ。
しかしスターダストも白兵戦には全く抵抗する術が無いわけではなかった。

「トラッシュ、こい!」
「...」

スターダストが左手を横に出すと、それと同時に体からトラッシュが分離し、一瞬にして形態を変化させ、スターダストの左手に収まった。
トラッシュは剣の姿『バルムレット・トラッシュ』へと変わっていた。
巨大な剣、それでこそスターダストの身長にも迫る大きさで銀色の刃先に銃口が突き出し、鍔の部分はトラッシュの顔と思しきパーツがついている。
それを左手に構え、右腕に肩の部分のウイングを取り外した『ウイング・ブレード』で二刀流の構えを取る。

「テメェ....」
「ハァァァ!!!!」

先に動いたのはスターダストだった。
大きく一歩踏み出し、右手のウイング・ブレードを下から振り上げる。
ジャック・コーヴァスはそれに対抗し、自らの爪で止める。
だがスターダストの勢いを抑えることは出来なかった。

「くっ!?」
「ヤァァ!!!」

ステップを踏み込んで攻撃してきた分、体重や慣性力がスターダストに力を与え
ていた。
ジャック・コーヴァス=ジャックは驚きを隠せなかった。
今まで自分の格下にしか思えなかったスターダスト=彩斗が自分を圧倒している。
人を殴ることも躊躇いを覚えているような相手にだ。
正直、自分に過信していた。
自分は今まで普通の人間が想像できないような地獄を生き抜きこの力を得た。
だが彩斗がその全てを超えるような力を得ていたという事実を否定することしか出来なかった。
何度も何度も剣と爪がぶつかり火花が上がる。
互いにいがみ合い、 相手へのプレッシャーを表情に込めて送る。

「テメェ...一体、どうやって...」
「地獄を味わったのは...お前だけじゃない!!!」

スターダストは一気に押し込み、バルムレット・トラッシュで右の爪を砕いた。

「グアァァァァ!!!!」
「ハァァァ!!!」

ジャック・コーヴァスが激痛のあまり一歩引く。
そしてスターダストはそこに追撃しようとした。
だがスターダストは確実に自分の力に酔っていた。
それでこそ自分に迫っている攻撃に気づかぬほどに。

「!?ハァァァ!!!」
「!?アァァァァ!!!!

ジャック・コーヴァスが何かに気づき、翼を広げて飛び上がる。
それは予測でも何でもなく直感的なものだ。
だがその感覚は間違っていなかった。
自分が飛び上がったのと同時にスターダストに青いエネルギー波のようなものが直撃した。
スターダストは一気に吹っ飛び、背後のパラボラアンテナを1つ破壊した。

「グッ....」

重装甲を身につけた体に力を入れ、ゆっくりとスターダストは起き上がった。
そして前方を睨んだ。
自分を襲った今の攻撃は頭を冷やしたクイーン・ヴァルゴの放ったものだった。
証拠としてクイーン・ヴァルゴが目の前に立ち、スターダストの体、そして辺りが水浸しだった。

「まずは....お前からだ」

スターダストは右手のウイング・ブレードを構えた。
そして自分の視界に映るコンソールを操作した。
対してクイーン・ヴァルゴも一撃で決着をつけるかのように棍棒を握りしめる。

「生意気な....」

思わずクイーン・ヴァルゴは声を漏らした。
スターダスト=彩斗の成長は信じられないものだった。
今まで震えるかのような足取りだったというのに、今はまるで違う。
まるで四方八方から迫られ、それを交わすという地獄のような特訓でも受けたかのような動きだ。
ダンスのステップのようなフットワーク。
正直、道場破り、下克上もいいところだ。
その激しい怒りを棍棒に込め、一気に振りかざした。

『ハイドロ・ドラグーン!!!』

棍棒から大量の水が発生する。
濁流の如くスターダストに襲いかかった。
そして徐々に巨大な龍を形作っていく。
だがそれに対抗するかの如く、スターダストは地面を蹴った。

『ウイング・ブレード!!!!』

龍に対し、真っ赤な鷹のオーラを身に纏って突進する。
その光景は上空から攻撃を仕掛けようとしていたジャック・コーヴァスの急停止
させた。

「クッソ!!」

旋回し再び高度を上げる。
だが一瞬目を離した隙に爆音とともに龍も鷹も消えていた。
結果は相殺。
スターダストは勢いを殺され、水龍はただの水へと返り屋上を潮が満ちかけた海岸へと変えた。
クイーン・ヴァルゴは状況を理解するのに数秒を要した。
だがスターダストはその間にも再び動き始めていた。

「ハァァァ!!!」
「!?キャァァァ!!!」

一気に攻め寄り、左手のバルムレット・トラッシュでクイーン・ヴァルゴを弾き飛ばした。
もはや人間の心を失った戦闘マシンのように止まることを知らない。
その様子を空中で見ていたジャック・コーヴァスは恐怖すら抱いた。
横腹の辺りを押さえながらクイーン・ヴァルゴは立ち上がる。

「クッ.....」

そしてスターダストは両手の武器を投げ捨て、右腕のガントレットのボタンを押す。
スターダストは完全にこの2人を上回っていた。
もはやこの2人はあまりの戦力差に恐怖を抱き、冷静な判断が下せずにますます戦力差を広げている。
その戦力差はとうとう決着へと結びついた。
視界に映るコンソールを操作して、ブラスターに変形した右腕をクイーン・ヴァルゴに向けた。

Noise Force Bigbang!!

『ノイズ・フォース・ビッグバン!!!ブルームーン・エクストリーム!!!!』

それは一瞬の出来事だった。
スターダストのブラスターの銃口から放たれた青く輝く閃光がクイーン・ヴァルゴを貫いた。

「キャァァァ!!!!」

胸部に大ダメージを受け、クイーン・ヴァルゴはその場に跪く。
そしてぐたりと倒れ込み、スーツが限界を迎えるサインのように発光するとクインティアを残して崩れ去った。
スターダストは反面、驚いていた。
最初と同じく自分の力に体の底からゾクゾクと震え上がらせるものを感じていた。
しかしそれを味わうまも無くスターダストには次なる脅威が迫っていた。

「テメッェェェ!!!!よくも姉ちゃんぉぉ!!!」

一気に怒りに任せて、空中からジャック・コーヴァスが襲い掛かった。
急降下しステルス爆撃機と判別がつかないほどのスピードでスターダストの背後を捉えた。
だがスターダストにジャック・コーヴァスの突進が直撃することはなかった。

「!?クソォォォ!!!!!!」

直撃寸前で何かに阻まれたのだ。
よりにもよって一番警戒したいたはずの『電波障壁』によって。
再び旋回して距離をとる。

「......」

スターダストは辺りを見渡した。
ジャック・コーヴァスは素早い飛行でスターダストをかく乱して強烈な一撃を与えるつもりだった。
それも『電波障壁』が回復する前にだ。
だとすれば数秒以内に再び仕掛けてくる。
自然とユーティリティ・ベルトのホルスターに収められたシングルショット『グングニル』を取り出す。
そして右腰の黒い弾丸を詰めた。
なぜここまでの行動を迷うこと無く行っているのか疑問に思わずに入られない。
まるでスターダストとして戦うのが初めてでは無い気がした。
自然とシステムの使い方を全て体が理解しているのだ。
『グングニル』という名の北欧神話に登場する戦争と死の神『オーディン』の名を冠す銃を構えて、周囲に意識を集中する。

「....何処だ?」
「覚悟しやがれぇぇぇ!!!!」

ジャック・コーヴァスの声が四方八方から響きわたる。
それだけでもどれだけの速度で動いているのか想像がついた。
だがすぐに飛び回っているコースを推測をつけることが出来た。

「そこか!!!」

スターダストはグングニルをパラボラアンテナに向けて放った。
ガス式銃独特の銃声が響き、パラボラアンテナと銃口の間がワイヤーで繋がった。
放ったのはワイヤー弾。
本来ならば何かを引っ張ったりするのに使うものだ。
だがスターダストはこれを1つのトラップにした。

「!?なっ!?うわぁぁぁ!!!!」

ジャック・コーヴァスはこのトラップに引っかかった。
翼がワイヤーに引っかかり空中で宙返りを披露して地面に叩きつけられる。
ちょうど運動会の障害物競争の縄跳びと同じだ。

「くっそがぁぁぁ.....」

ジャック・コーヴァスは痛みに堪え、歯ぎしりの音を響かせながら立ち上がる。
怒りで顔が歪んでいる。
対照的にスターダストは感情を押し殺した死人のように全く表情を変えない。
ただ睨みつけるだけだ。
だが確実に次の攻撃に備えて準備をしていた。
グングニルの銃口を折り、ワイヤー弾を引き抜くと、腰に装備された真っ赤に輝く弾丸を込める。
その色はマグマがグツグツと煮えかえるような感覚を覚える禍々しい色だった。

「くたばれぇぇぇ!!!!」

ジャック・コーヴァスは地面を蹴り、再び翼を広げるとスターダストに突進する。
もはや苦肉の策にも等しい無謀な攻撃。
だが確実にスターダストを仕留めるつもりだった。
殺意を込めたラストアタック。
それに対してスターダストは銃口を向けた。
先程のようにジャック・コーヴァスはかく乱するまでもなく、自分に向かって真っ向から向かってくるのだ。
目の前に銃口を向けて引き金を引く。
それだけで良かった。
先程と同じ銃声が響き、真っ赤なオーラを纏った弾丸が放たれ、ジャック・コーヴァスに直撃した。

「なっ....」

ジャック・コーヴァスの突進は止まった。
まるで足払いをされたかのようにその場に転んだ。
勢い自体が死んだ。

「テメェ...何をしやがった?」
「...」

銃撃によるダメージは0だ。
だが不思議と体に体が重くなり始める。

「う!?ぐぅぅぅぅぅ....!!」

弾丸の直撃した部位からは真っ赤なものが流れている。
血ではない。
しかし見覚えのあるものだ。

「まさか...クリムゾンだと?」

クリムゾンは電波人間を含む電波体にとっては猛毒以外の何者でもない。
電波変換が維持できなくなってきているのだ。
体中に重みから痛みが走るようになり、とうとう限界に達した。

「ぐぁぁぁぁぁ!!!」

悲鳴を上げながら、クインティアの時と同じようにスーツが崩壊し、ジャックがその場に倒れ込んだ。
スターダストはその様子を見ていた。

「くっそ....」

ジャックが薄れ行く意識の中で最後に見たのは雲に隠れ掛けた半月、無数に輝く星屑をバックに凛々しく立つスターダスト・ロックマン=彩斗の姿だった。























ハートレスは病室の椅子に座りながらベッドで眠っている少女の顔を見ていた。
この少女、高垣美弥は今でも死という人間の終わりという冷たく無慈悲なものと戦い続けている。
彩斗を護り抜く代償として無慈悲なステージ上に立つ羽目になった。
恐らくは心の中は後悔でいっぱいになっている。
そう思っていた。
この日記を読むまでは。

「....」

枕元に置かれた日記帳。
そこに全てが記されていた。
ミヤは彩斗が哀れだから助けたわけではなかった。
たとえ自分が死んでも助ける覚悟をもっていた。

「あなた....本当に微妙な立場にいるわね。知ってか知らずか....」

ハートレスは膝の上に乗ったMacbookProに表示されたデータを見ながら呟いた。
それはミヤの母親、高垣美緒のデータだった。
彼女は世界有数のIT企業である『I.P.Cエンタープライズ』のニホン支社である『ニホンI.P.Cエンタープライズ』の主要株主だ。
それと同時に美緒は彩斗を含めた自分たちディーラーの敵であるValkyrieの一員でもあった。
Valkyrieの資金調達のために会社の金を着服している。
つまりが大雑把に言ってミヤはディーラーとValkyrieに挟まれた立場にいる。
まるで知っていたかのように。
だがこれが明らかになっているということは大きなアドバンテージでもあった。
Valkyrieは恐らくまだこの事実に気づいていない。
だとすれば、いざという時にミヤを人質に取ったり、交渉の材料にするというカードが手札に入った。
その事実だけを理解できた段階でハートレスは立ち上がり、パソコンをバッグに仕舞うと部屋から出ようとした。
しかし自然と足が止まった。

「...誰?」

振り返り、病室の中を見渡す。
確実に人の気配を感じた。
だがかなり勘付かれないように気配を消そうとしている。
ハートレスはゆっくりとハンドバッグに手を入れ、コルト・パイソンを握った。
だがその瞬間に隠れた"招かれざる客"が話しかけてきた。

「構えなくていい」
「!?....あなたは...ロックマン...いえ、シンクロナイザー....」

窓の近くの影に紛れてスターダストが立っていた。
不気味なボイスチェンジャーを使ったような裏声で話している。

「その格好は?それにジャックとクインティアが見張ってたはずだけど?」
「君には関係ない。それよりも大問題だ。Valkyrieの倉庫がプライムタウンにある。そこにある何かを使って行動を起こすつもりだ」
「!?プライムタウン....なるほど、あの無法地帯なら武器を隠すには持って来いってことか...」
「今、デンサンシティのインターネット管理システムが攻撃を受けたことでネットが使えずにパニックが起こっている。この混乱に乗じて作戦を遂行するつもりだろう」
「どうすれば?」
「今からオレが行く。手を出すな」
「ふざけないで。1人で相手ができるわけ無いでしょう?」

スターダストはそこまで伝えると踵を返して窓を開けると体を乗り出した。
ハートレスは確実にスターダストが正体を隠すような工夫を凝らしているように感じた。
一人称を「僕」から「オレ」に変え、声も裏返し、口調も威圧的かつ一方的だ。
だが自分には正体が分かるようにしている。
それはある意味、自分を何らかの意図で頼ろうとしているように感じた。

「施設の屋上でクインティアとジャックが倒れている。早く行って助けてやれ」

思いの外簡単な頼みだった。
ハートレスは呆れながらも、あの2人を倒してしまったという事実が裏に隠れていることに気づき驚く。

「他に用事は?」

ハートレスは問いかける。
だがスターダストは一瞬だけミヤの方を見て目をそらす。

「無い」

ただそう告げてスターダストは窓から飛び降りると、夜の毒々しい明かりを放つビル群がそびえ立ったデンサンシティのウェーブロードに飛び乗った。





 
 

 
後書き
最後までお付き合いいただき有難うございました!
これから戦いが始まる...のですが、これから春までしばらく休載とします(泣)
受験で忙しくなってきたのでなかなか時間が取れなくなったからです。
でも必ず戻ってくるので、頭の片隅にでも置いておいて頂けるとありがたいです。

 
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