戦国異伝
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第百四十三話 一乗谷攻めその一
第百四十三話 一乗谷攻め
宗滴率いる朝倉の軍勢が敗れたことは長政もすぐに知った、そのうえで苦い顔で己の家臣達に対して言った。
「宗滴殿も破るとはな」
「右大臣殿はかなりの方ですな」
「あの方までとは」
家臣達も言葉がないといった感じだ、彼等が今いる小谷城は信行と信広が率いる織田家の軍勢、そして徳川家の軍勢に囲まれて動けない状況だ。彼等にしても具足で身を固めている。
その彼等がだ、こう言うのだった。
「織田家の軍勢は越前に向かっております」
「最早朝倉家にそれを止めることは出来ません」
「おそらく一乗谷も」
「陥ちるかと」
「そうなるであろうな」
長政は苦い顔で彼等の言葉に応えた。
「そして越前が陥ちればな」
「その時はですな」
「次はいよいよ」
「既に決めておる」
これが長政の返事だった。
「わしはな」
「では殿は」
「この城において」
「市達と御主達は逃げよ」
こう前にいる彼等に告げた。
「よいな」
「この城を去りですか」
「そのうえで」
「うむ、こうなっては命運は決まった」
朝倉宗滴が敗れた、それではというのだ。
「だからな」
「いえ、我等は浅井家の家臣です」
「だからです」
「ここは何があろうとも」
「殿と」
常に共にいるというのだ、これが彼等の返事だった。
そしてだ、皆意を決した顔で長政に言った。
「ですから殿」
「その様なことはもう仰らないで下さい」
「我等は最後まで殿と共にいます」
「何処までも」
「左様か」
彼等の言葉をここまで聞いてだ、長政は一旦その目を閉じた。そのうえで己の気持ちを何とか押し殺してだ、こう彼等に言った。
「わしは果報者じゃ、ではその果報を持ってじゃ」
「はい、どうされますか」
「その果報と共に」
「最後の最後まで戦をするとしよう」
こう言ってそしてだった、彼は籠城を続けるのだった。浅井家はこの状況でも一つとなりそのうえで戦っていた。
敗れた朝倉の軍勢は足を引き摺る様にして越前まで逃れていた、その彼等に報が次々と届いていた。それはというと。
「また一つか」
「はい、当家の城が開城しました」
「織田家に降りました」
そうなったとだ、宗滴に報を述べるのだった。
「またしてもです」
「そうなりました」
「これも当然のことか」
宗滴はこのことを聞いてまた言った。
「敗れたのだからな」
「それで織田家の軍勢ですが」
「城の開城を受けながらです」
「こちらに迫っておるな」
「はい」
その通りだとだ、宗滴にこのことも述べられた。
「徐々にですか」
「左様か、ではな」
宗滴はここで己が率いる軍勢を見た、敗れほうほうのていで逃げている彼等はもう使い古した布の様だ、汚れ傷ついている。
その彼等を見てだ、彼は言った。
「これではな」
「戦になりませんな」
「とても」
「しかも足も遅い」
敗北のせいだ、皆心身共に傷ついているのだ。
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